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旧コラム 仲田 誠一 3ページ目

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民法改正講座9【身近な法律知識】

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
改正民法(債権法改正)の施行が近づいて来ました。2020年4月1日です。
大事な法律なので、改正点をかいつまんでですが(実務上あまり変更がない点は極力飛ばして)説明させていただいております。
 
今回は、債権譲渡と債務引受のお話です。
 
債権は、原則、譲渡することができます。
債権譲渡の対抗要件(効力を主張する要件)は、譲渡人から債務者に対する通知か債務者の承諾です。
従来、「指名債権」の譲渡という言葉が使われていましたが改正法では「債権」譲渡に変更になりました(改正民法467条)。
 
【譲渡制限に関するもの(民法466条~466条の6)】
譲渡禁止特約に反する債権譲渡の効力も有効であると定められました。
ただし、債務者は、債権譲渡特約について悪意または重過失の譲受人等に対しては、債務の履行を拒み、譲渡人に対する債権消滅事由を対抗できる規律です。
この場合、譲受人は、債務者に対して、譲渡人への履行の催告ができ、相当期間内に履行しない債務者に対しては譲受人も直接請求することができます(以上民法466条)。

それらの規律に合わせて、
譲渡制限特約に反する債権譲渡があった場合の債務者の供託(民法466条の2)
譲渡制限特約に反する債権譲渡の譲渡人に破産開始決定があったときの譲受人の債務者に対する供託請求権(民法466条の3)
譲渡制限禁止特約が強制執行には対抗できないことの明文化(民法466条の4)
が整備されています。

将来債権(これから発生する債権)の譲渡も従来から認められていますが(債権譲渡担保によく利用されます。)、そのことも明文化されました(民法466条の6)。

なお、預貯金債権(約款で譲渡禁止特約が付されています)は、その特殊性から、譲渡禁止特約について譲受人が悪意・重過失の場合の債権譲渡の効力は無効とされています。
ただし、従来どおり、強制執行の差押債権者に対しては対抗できません(民法466条の5)。
預貯金債権の譲渡については、譲渡禁止特約が例外なしに付いており、かつ譲受人の悪意または重過失が容易に認められますので、無効と考えてけっこうです。
 
【債権の譲渡における債務者の抗弁(民法468条)】
異議をとどめない承諾による抗弁の切断制度が廃止されました。
債務者が異議をとどめない承諾をした場合に、譲渡人に対抗することができた事由(抗弁)が主張できなくなるという制度が、債務者にとって酷だからという理由で廃止されたわけです。
債務者は、債権譲渡の対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲渡人に対抗することができます。
 
【債権の譲渡における相殺権(民法469条)】
債権譲渡がなされた場合に債務者が譲受人に対して相殺の抗弁を主張することができる範囲が拡張されました。
反対債権の取得が債権譲渡の対抗要件具備時(譲渡人からの通知または債務者の承諾)より前であれば、反対債権をもって相殺することができます。これは当然ですね。
対抗要件具備時より後に取得した債権であっても、
1対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権
2債権譲渡の対象となった債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権
の場合は相殺に使えます。
前者の例として、委託を受けた保証人が対抗要件具備後に保証債務を履行した場、後者の例として、売買契約の目的物の契約不適合を理由とする買主の損害賠償請求権が、各挙げられています。
 
次は債務引受関係です。

債務引受という言葉をご存知でしょうか。
債務者の交代(免責的債務引受)あるいは追加(併存的債務引受)のことです。
免責的債務引受は、会社の代表者の連帯保証債務の相続処理の際、後継者が他の相続にから引き受ける形で連帯保証債務を引き継ぐケースでよく見ますね。
元々認められていたものですが、条文が追加され整備されました。
 
【債務引受に関する規定の整備(民法470条から472条の3)】
併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、同一の内容の債務を負担します。
引受人は、債務者が引受けの効力が発生した時点で有する抗弁権を主張することができ、債務者が取消権・解除権を有するときは履行拒絶権も有します。
 
免責的債務引受の引受人は、債務者と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れることになります。
債務者が代わるわけですから、勿論、債権者の同意が必要です。
引受人の抗弁権・履行拒絶権に関しては、併存的債務引受と同様です。
引受人は、別途合意がなければ、債務者に対して求償権を取得しません。自分の債務として引き受けるわけですからね。
債権者は、それまで債務者が負担していた債務のために設定されていた担保権または保証を、担保設定者あるいは保証人の承諾を得ることにより、引受人が負担する債務に移転することができます。
 
お悩み事がございましたらなかた法律事務所にご相談を。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602
https://www.nakata-law.com/
 
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自己破産、個人再生における所有権留保自動車名義 [借金問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
所有権留保という担保をご存知でしょうか。
クレジットやローンで物品を購入した際、債務を弁済するまで所有権が債権者に留保されるというものです。
今回は自動車の所有権留保に関するお話をします。債務整理のうち、自己破産および個人再生に絡む問題です。
 
所有権留保物件である自動車(車検証を見ると、本来は所有者がファイナンス会社、使用者が債務者になります。)は、法的整理を行うと、債権者によって引き揚げがなされます。
車は返却しないといけないということですね。
ただし、価値が全くなく引き揚げ費用を支弁できないといったケースでは、債権者から所有権を放棄されることもあり得ます。
そのほかは、適正価格以上で親族に購入してもらう(実際にはローンの返却をしてもらう)方法しか、所有権留保車両を手元に残す方法が考え難いところです。
 
自動車の所有権名義が、債権者であるファイナンス会社ではなく、実際に車を販売した販売店である場合があります。
コスト面の理由から販売店名義にされるケースが多いようです。
その場合、自己破産、個人再生が絡むと、面倒な話になります。
 
所有権留保は、破産、民事再生上、債権者が破産手続・再生手続外で行使できる担保(別除権)として扱われます。
別除権と認められるには、第三者対抗要件を備えていなければなりません。
対抗要件は自動車の場合は登録です。なお、不動産の抵当権は登記ですね。
 
債権者の所有者名義がなく、第三者たる販売店の所有者名義であるならば、債権者名義の登録がないので、債権者が所有権留保特約による留保所有権の第三者対抗要件を備えていないこととなりそうです。
そうなれば、債権者は担保を主張できず留保所有権は別除権としては扱われない、すなわち車のローンは無担保債権として扱われ、自動車は債務者の財産として扱われることになります。
 
再生手続でのそのような問題について、平成22年最高裁判決がそのような判断をしました。
勿論、判決の理由は単純なものではありません。
 
その後、同判例に基づいて、自動車販売契約書等の改訂がなされていくことになります。
 
簡単に説明すると、所有者名義が販売店であっても別除権として認められて引き揚げがでできるようにするため、法定代位構成をとったものに改訂されていきました。
 
法定代位を簡単に説明すると、弁済をする正当な利益をもつ第三者が弁済をした場合に債権と担保権が当然に第三者に移ることです。
その場合、所有者名義が販売店であっても、販売店の留保所有権を代位するわけですから債権者は法律上当然に代位した担保権を行使することができるというわけです。
 
そして、平成29年の最高裁判決では、保証委託方式(ファイナンス会社が購入者の売買代金債務について保証するもの。集金保証方式ともいう。)のケースで、新しい約款の下での販売店所有名義の自動車についての留保所有権を別除権と認めました。
 
立替払方式(ファイナンス会社が販売会社に立替払いして購入者が分割弁済するもの。)の場合はどうであるか等、その判例の射程範囲ははっきりとはしませんが、一定の方向性が出たということです。
 
債権者が自己の所有者名義登録がなくても留保所有権を主張できる可能性が高まりました。
販売店名義の登録がある以上は他の債権者が期待する財産ではないでしょうから、担保権を認める方向に進むこと自体はおかしいことではないと考えます。
 
自己破産、個人再生を申し立てる立場から見ると、自動車の所有権留保が別除権として扱われないということはどういうことを意味するのでしょうか。
 
自己破産、個人再生を申し立てる準備をする際には、車検証にて自動車の所有者名義を確認しなければなりませんね。
そして所有者名義と債権者名が異なっていたら、債権者から引き揚げ要請が来ても、漫然と返却をしてはいけません。
返却していいのは別除権として認められるケースだと判断できる場合だけです。
 
仮に、返却してしまった後で、別除権として扱われないケースだと判明した場合はどうなるでしょう。
車の返却行為が、自己破産においては否認対象行為として、個人再生においても同様の理由で清算価値に計上されるものとして、扱われかねません。
個人的にはその理屈には疑問もあるのですが、実務上はそのような流れですね。
 
その結果、自己破産では管財事件になる可能性が高いですし、個人再生でも個人再生委員が選任させる可能性があります。
 
一方、返却すべきではない場合、返さないで自己破産あるいは個人再生を申し立てたとしましょう。
自動車は、当然、債務者の財産として見られますね。
自己破産では、車の価値によっては(同時廃止基準との兼ね合いになります。広島地裁本庁では20万円が基準です。)それだけで管財事件になってしまいます。
個人再生では、車の価値によって、最低弁済額を画する清算価値が跳ね上がることもあり得ます。
 
所有権留保付き自動車の所有者名義が販売店になっているケースは面倒なことはご理解いただけますでしょうか。
車のローンがある場合、弁護士に相談される際には、早めに車検証の写しを持って行って弁護士に見てもらった方がいいですね。
 
なお、軽自動車ではそのような問題は起こりません。
留保所有権の対抗要件は、登録である普通自動車と異なり、引き渡しであり、かつそれは通常備わっています。
専門用語ですが占有改定(債務者が債権者に代わって占有すること)という方法による引き渡しがあると認められるのですね。
他の動産類と同様の扱いです。
                   
債務整理(任意整理、個人再生、自己破産等)のサポートはなかた法律事務所にご用命を。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
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民法改正講座8-2【身近な法律知識】

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
改正民法(債権法改正)の施行が近づいて来ました。2020年4月1日です。
大事な法律なので、改正点をかいつまんでですが(実務上あまり変更がない点は極力飛ばして)説明させていただいております。
 
多数当事者の債権債務関係の続きです。
多数当事者というのは債権者あるいは債務者が複数いる場合ですね。
 
【委託を受けた保証人の求償権関係(民法459条から460条)】
委託を受けた保証人(普通は委託を受けています。勝手に保証人になることはあまりないですね)の求償権関係の条文が整理されました。
委託を受けた保証人は、弁済等債務消滅行為をした場合に主債務者に求償できます、主債務の期限前の行為と期限後の行為とで求償権の効果が異なります。
一定の場合には事前求償権も認められます(あまり利用するケースはないでしょうが)。
併せて改正民法462条では、委託を受けない保証人の求償権の規定が整備されています。
 
【通知を怠った保証人の求償の制限等(民法463条)】
保証人がいる場合に弁済等債務消滅行為をする場合には、主債務者あるいは保証人に対し通知をしないと一定の法律効果が付されます。事前の通知義務ですね。
正直言ってそのような通知をするということはあまり目にしないのですが、気を付けないといけないですね。
 
保証人が債務消滅行為を行う際の主債務者に対する事前の通知義務が委託を受けた保証人に限定されました。
委託を受けていない保証人の求償権はそもそも主債務者の利益を受けたあるいは受ける限度に限定されているから必要ないというテクニカルな理由です。
委託を受けた保証人が事前通知を怠って債務消滅行為をすると、主債務者が債権者に対抗することができた事由(相殺権など)を保証人の求償権に対し行使できます。
 
逆に、主たる債務者が委託を受けた保証人に対して債務消滅行為をしたことの通知(事後の通知)を怠った場合には、善意の保証人がさらに債務消滅行為をしてしまうと、保証人が自己の債務消滅行為が有効であるとみなすことができます。
 
また、保証人が事後の通知を主債務者に対して怠った場合には、善意の主たる債務者がさらに債務消滅行為をすると、主債務者は自己の債務消滅行為が有効であるとみなすことができます。
 
【根保証の規律の整備(民法465条の2~465条の5)】
根保証とは、被担保債務の限定のない保証ですね。
 
一部規律の対象が、「貸金等根保証契約」から「個人根保証契約」に変更になりました。
貸金等債務が含まれない根保証一般を意味します。
賃貸借契約における根保証契約も対象となることになります。

従来の貸金等の根保証に限定された規律も残っており(元本確定等)、その場合は従来の貸金等根保証契約が「個人貸金等根保証契約」と呼ばれています。
 
個人根保証契約は、極度額を定めなければ無効となることにご注意ください。
所謂、金額の限定がない包括根保証の禁止ですね。
 
【公正証書の作成と保証の効力(民法465条の6)】
これは大きな改正ですね。
会社や個人が融資を受ける際の第三者の保証契約について(事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約または主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約について)、公証人による保証人(個人に限る)の意思確認手続が新設されました。
保証意思宣明公正証書を作成しなければ保証契約が無効となります。
 
ただし、主債務者の事業と関係の深い方が保証人となる多くの保証契約にはルールが適用されないことになります。
主たる債務者が法人である場合の、
理事・取締役・執行役またはこれらに準ずる者、議決権の過半数を有する株主等、
主たる債務者が個人である場合の、
共同事業者、事業に従事している配偶者、
にはこのルールは適用ありません(民法465条の9)。
 
公正証書を作成するというのはけっこう手間ですよね。
第三者個人保証はなくした方がいいというのが世の中の流れなので、その方向に進んでいくことが前提なのかもしれません。
 
また、会社の借入れはわかりやすいですが、個人事業の借入れは「事業のため」と言えるか問題となります。賃貸マンション・アパートの建設資金借入の場合などですね。
金融機関としては広めに解釈するのでしょうね。
 
なお、主たる債務者が、事業のために負担する債務について保証を委託するとき、または主債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証を委託する時は、保証を委託する個人に対し、①財産及び収支の状況、②主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況、③主たる債務の担保に関する情報、を提供するというルール(情報提供義務)も新設されています(民法465条の10)。

仮に主債務者が情報提供義務を懈怠した場合には、保証人が①から③について誤認し保証を契約し、かつ債権者が主債務者の情報提供義務懈怠について知っていたまたは知ることができたなら(知らないことに過失がある場合ですね)、保証人が保証契約を取り消すことができます。
 
保証契約は非常に危険です。
借りたわけでもないのに主債務者と同じ責任を負います。
自分が借りる感覚でないといけません。
主債務者と利害関係が一致していない場合はできないですね。
第三者の保証を要求されるケースでは、主債務者の信用があまりないということを意味します。危険ですね。
 
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固定残業代・定額残業代 [企業法務]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
企業法務のうち労務管理のお話です。
 
時間外労働等の割増賃金を固定・定額で支払うことは直ちに違法ではありません。
固定残業代あるいは定額残業代と呼ばれます。
 
既に最高裁の判例もあるところです。
固定残業代あるいは定額残業代の有効性判断の枠組みを見ていきましょう。
 
まず、時間外労働等に対する対価としての性質を有するものであるか否かが問題となります。
対価性の要件などと呼ばれます。
業務手当等残業代と違う名目で支払われている場合などに問題になります。
時間外労働等に対する対価として支払われていたかどうかは、雇用契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の説明内容や就労実態等の事情を総合的に勘案して判断されます。
合意内容の認定として一般的に採られる方法ですね。
 
次に、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とに判別できるかという問題があります。
判別要件あるいは明確区分性などと呼ばれます。
そして、判別ができる場合に、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを踏まえて判断されることとなっています。
 
これら基準自体が総合的判断を前提とするものですので、基準を基にして具体的事情に応じて総合的に有効性が判断されます。
 
固定残業制・定額残業制を導入・維持するのであれば、有効だと認められるような仕組みを用意しておかなければリスクがありますね。
 
仮に固定残業代・定額残業代の支払いが有効ではないとされると、時間外等割増賃金が未払いとされ(一種のペナルティーである付加金も請求されるでしょう)、しかも割増賃金の計算の基礎に定額支給された手当も入ってしまうということになりますね。
 
そうすると、次のようなことに気を付けないといけません。
 
雇用契約書、労働条件通知書、賃金規程等就業規則にて、定額支給手当が時間外等手当として支払われている旨が明記されていた方がいいでしょう。
明記されていなければ、運用上しっかり時間外等手当として支払われていることが明確になっていないと厳しい判断が予想されます。
また、募集要項も含めて、曖昧な記載も避けなければなりません。
 
勿論、賃金体系上、所定内労働の対価の部分と時間外等割増賃金の部分を明確に区分できるものであることも必要です。
精勤手当の性質等の他要素を組み合せた形の定額支給手当は避けた方が無難です。
労働者が判別できるような計算指標、計算根拠となる時間数を超えた場合の精算方法も明示されることが望ましいです。
 
定額手当の金額は、法令上許される時間外手当等の範囲内の金額であること(法令の趣旨に反する金額であると有効性が否定されかねません)、時間外労働等の対価としての合理的な支給根拠が説明できる金額であること(それ以外に合理的な支給根拠がないこと、実際の勤務実態とほぼ合致していること等)も必要でしょう。
全従業員一律の額であると合理的な説明ができないかもしれませんね。
 
運用上も、支給時に支給対象の時間労働等の時間数と残業手当の額が明示されていること、
固定残業代によってまかなわれる時間数を超えた場合の精算をする取り扱いが確立していることも要請されます。
 
残業代等の固定支払いは、支払方法について法定されていないため、一概に無効とはされない傾向ですが、事案によっては無効と判断されかねません。
リスクを排除するためには、上述のような手当をしなければなりません。
 
固定残業制のメリットの1つは労務管理の簡便化でしょうか。
上述のように見ていくと、リスクを排除するには結局手間がかかるような気がします。
一定の無駄なコストも生じるわけですし、その分を賞与あるいは成果的報酬に反映する方が労働者のモチベーションの向上につながる経営戦略上のメリットがあるような気がしています。
 
顧問契約、契約トラブル、企業法務サポートのご用命は是非なかた法律事務所に。
 
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個人再生における住宅資金特別条項 [借金問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
債務整理のうち法的整理をしないといけない、しかし住宅ローンは支払い続けて自宅を維持したいという方は、基本的に個人再生を選択して住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用することになります。
 
住宅ローンを支払いながら他の債務を圧縮して原則3年、最長5年間で弁済していくものです。
個人再生手続自体は、小規模個人再生でも給与所得者等再生でもかまいません。
 
住宅資金特別条項は使える要件等いろいろややこしい話があります。
そこで、今回は、住宅資金特別条項についてお話いたします。
 
【相談時】
住宅資金特別条項の利用には要件があります。
ご相談される際には、不動産登記簿謄本と金銭消費貸借契約証書等借入時書類をお持ちください。借入形態と担保の状況を確認しないといけないからです。
金銭消費貸借契約証書は提出書類にもなっています。なくされた場合には、申立て前に債権者に写しの送付をお願いしています。
 
【住宅であること】
担保がついているのが「住宅」でなければなりません。
「住宅」と認められるには、再生債務者が所有し、自己の居住の用に供する建物であって、建物の床面積の2分の1以上に相当する部分が、専ら居住用に供されていることが必要です。
 
「所有」していればいいので、共有物件でもかまいません。
ただし、共有物件の場合、例えば夫婦のペアローンである場合、夫婦双方が連帯債務者の場合、夫婦の一方が連帯保証人の場合、ケースバイケースに要件に該当するか吟味しないといけません。夫婦の同時申立てが必要となる場合も多いです。
なお、共有ではないが夫婦の一方が連帯保証人あるいは連帯債務者のケースもありますね。
ここら辺の問題自体が非常にややこしいので立ち入りませんが、過去のコラムで説明をさせていただいておりますのでご参照ください。
 
単身赴任中など現在居住の用に供していない場合でも、一時的であり将来的に居住の用に供する場合は、「住宅」と認めてくれます。
客観的に説明をしなければなりません。
 
二世帯住宅の場合は、再生債務者の居住部分が床面積の2分の1以上でなければなりません。
 
【住宅資金貸付債権であること】
担保が付いている債権が、住宅資金貸付債権でなければなりません。
住宅資金貸付債権とは、住宅の建設もしくは購入に必要な資金、住宅の改良に必要な資金で分割払いの定めのある債権を意味します。
 
リフォームローンも含まれるのですね。
借り換えローンでもかまいません。
 
諸費用ローンの担保が付いている場合には原則住宅資金特別条項が利用できません。
しかし、その使途が住宅の建設もしくは購入に密接に関わるものである、かつ総額が住宅資金貸付に比して僅少であるという場合には、運用上利用が認められています。
通常諸費用ローンは当てはまりますね。使途などを契約書類や領収書等で説明することになります。また、通常諸費用ローンは住宅ローンの1割程度ですからね。
 
借入が住宅資金貸付債権だけの場合でも利用が可能です。
夫婦が同時申立てしないといけないときなどに必要になるケースがあります。
 
住宅資金貸付債権(住宅ローン)の残債務が物件の価値を上回っていること(いわゆるオーバーローンの状態であること)は要件ではありません。
ただし、物件の価値に余剰がある場合には、清算価値に計上されて、最低弁済額を画することになります。
余剰価値が大きい場合には事実上弁済可能な再生計画案が作成できません。
それとの関係で、通常(固定資産評価額から明らかにオーバーローンと認められる場合のほかは)、査定書の提出を求められます。
 
【他の担保が付いていないこと】
住宅資金貸付債権を担保する抵当権以外に担保権が設定されている場合には原則として住宅資金特別条項が利用できません。
その担保権が実行されると意味がなくなるからです。
一部例外を認める余地もあるのですが。
 
同じ理由で、滞納処分による差押えがされている場合も原則利用できません。
完済する、課税庁と協議が成立している場合には例外が認められ得ます。
 
さらに、マンションの管理費、修繕積立金の滞納のある場合も同じです。
滞納を解消しておく必要があります。
 
【類型】
① 期限の利益回復型・正常返済型
② リスケジュール型
③ 元本猶予期間併用型
④ 合意型
の4類型があります。
圧倒的に正常返済型が多いですね。住宅を維持しようとする方なので、弁済に遅れがないことが通常です。
その他にもいろいろなケースで利用できる可能性があるということです。弁護士とよくご相談ください。
 
代位弁済がなされた後でも理屈上利用できます(「巻戻し」)。
ただし、競売されている場合には競落前でなければなりません。
 
勿論、債権者との事前協議はかかせません。
 
【個人再生委員】
住宅資金特別条項を利用するケースでは広島でも個人再生委員が選任される可能性が相対的に大きいでしょうか。
要件該当性を吟味しないといけないですからね。
特に、例外的な扱いをする場合や物件の価値の評価額が問題となる場合は、個人再生委員が選任されているでしょうか。
個人再生委員が選任された場合には、予納金(20万円程度から)を追加する必要があります。
 
債務整理(任意整理、個人再生、自己破産等)のサポートはなかた法律事務所にご用命を。
 
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登記に協力してもらえない場合 [相続問題、不動産問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
不動産登記、特に相続のお話です。
 
合意ができているのに不動産登記に協力してもらえないという例が稀にあります。
通常は、合意までしたのであれば登記協力はしてくれますし、実務上は、合意書面と同時に登記書類の作成や印鑑証明書の用意をしてもらいます。
 
ただ、書類のやりとりを郵送で行わなければならないこともあり、そのような場合には合意書面のみもらえて登記用の書類がもらえないという事態も発生し得るのです。
 
【代物弁済契約書などの契約書面を作成したにもかかわらず登記書類がもらえない場合】
 
契約が成立した時点で、条件や代金等支払の同時履行の抗弁など不動産の所有権移転が妨げられる理由がない限り、契約に基づいて不動産の所有権は移転します。
なお、理論上、契約は極一部の例外を除いて口頭でも成立しますから、契約書がない場合も契約の成立が認められるのであれば同じです(ただ、きちんとした証拠がなければ事実上裁判では認めてもらえません)。
 
契約が成立しているのであれば、契約の相手方は登記申請義務者になります。
○○契約に基づく所有権移転登記手続請求訴訟を提起して確定判決により相手方の登記申請意思を擬制してもらえれば、所有権移転登記をすることができます。
 
なお、契約書があるのであれば、割合容易に契約の成立が認められます。
書類作成の真正(名義人が自分の意思で作成したこと)が認められれば、特段の事情がない限り、書類の記載どおりの法的効果が認められるからです。
 
【遺産分割協議が成立したにもかかわらず印鑑証明書がもらえない場合】
共同相続人間の協議により遺産分割が成立した場合には、相続開始の時に遡ってその効力を生じます。
そのため、遺産分割協議が成立し、単独で相続することとなった相続人は、不動産を被相続人から直接承継取得したものとして、単独申請により相続登記をすることができます。
ただし、戸籍や遺産分割協議書は勿論、書面作成の真正を担保するために他の相続人の印鑑証明書を添付する必要があります。
 
そこで、他の相続人が印鑑証明書の提出に応じない場合には、相続登記ができなくなります。
 
契約に基づく移転登記請求は前述のとおり相手方に対する所有権移転登記手続請求訴訟の勝訴確定判決により相手方の登記申請の意思を犠牲し、登記をすることができます。
これに対し、被相続人名義のままの不動産の相続登記は、遺産分割により不動産を単独取得した相続人の単独申請の構造をとりますから、他の相続人は登記の申請義務者ではありません。
そのため、他の相続人に相続を原因とする所有権移転登記手続を求める判決を得ても意味がないとされています。
 
遺産分割協議に基づく登記ができない場合の解決方法としては、3つ挙げられています。
 
まず、遺産分割協議書の真否確認の訴え(遺産分割協議書が相続人全員の意思に基づいて作成されたことの確認を求める訴え)を提起して勝訴の確定判決を得る方法です。
民事訴訟法134条ですね。
確定判決を、印鑑証明書の代わりに相続を証する書面の一部として提出することができます。
その上で、登記に協力する相続人の印鑑証明書、遺産分割協議書等を提出し、相続登記を単独申請できます。
勿論、遺産分割協議書を作成していなければいけませんね。
 
次に、協力しない相続人に対し、遺産分割協議の結果としての所有権の確認訴訟を提起し、勝訴の確定判決を得る方法です。
遺産分割協議の成立により不動産の所有権は既に移転しています。
だから所有権を確認するということですね。
確定判決とともに、登記に協力する相続人の印鑑証明書、その者の署名・捺印ある遺産分割協議書を提出して、相続登記を申請することになります。
理屈上、遺産分割協議書が作成されていなくても提起できます。
しかし、口頭の協議成立を証する証拠がなければいけません。
 
最後に、法定相続分割合による共同相続登記をまず行い(これは単独申請できます)、協力をしない相続人に対し、遺産分割を原因としてその共有持分の全部移転登記手続請求訴訟を提起する方法です。
一旦共同相続登記が入れば、遺産分割協議による移転登記は共同申請となるため、判決による登記申請意思の擬制の意味が出てきます。
協力しない相続人との関係では確定判決をもって意思を犠牲してもらい登記申請する、協力が得られる相続人との関係では共同申請を行うということになります。
登記を2回する必要がありますね。
 
どの方法がいいかはケースバイケースの判断ですね。
遺産分割協議書があるのであればどれでもいいでしょう。
証書の真否確認訴訟の方が直截的でしょうか。
ただし、肝心の遺産分割協議書に少しでも不備があれば、真否確認の訴えも使いづらいですね。
 
遺産分割協議書がなければ真否確認の訴え以外の方法しかとれません。
一旦法定相続分による共同相続登記を行う方法がは、数次相続が起きているケースでは使いづらいですね。
 
私が扱った案件では、
相続人の1人が既に亡くなり、その相続人との間で遺産分割協議書が作成していた事例では、真否確認の訴えを
遺産分割協議書が作成されていましたが、少し不備があり、かつ相続人のうち2人が亡くなっていた事例では、所有権確認訴訟を、
代物弁済合意書がある事例では、勿論、所有権移転登記手続請求訴訟を、
各選択しました。
 
登記の問題が絡む訴訟は、勝訴判決が出た際に本当に判決に基づいて登記ができるのか、司法書士や法務局に確認をしないと進められません。
訴訟においても、裁判官から本当にこの形で登記ができるのか確認をされることも多いです。
 
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広島の弁護士 仲田 誠一
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民法改正講座8【身近な法律知識】

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
改正民法(債権法改正)の施行が近づいて来ました。2020年4月1日です。
大事な法律なので、改正点をかいつまんでですが(実務上あまり変更がない点は極力飛ばして)説明させていただいております。
 
多数当事者の債権債務関係の話です。
多数当事者とは、債権者あるいは債務者が複数いる場合です。
不可分債権、連帯債権、不可分債務、連帯債務、保証債務ですね。
不可分債権、不可分債務はイメージ的には債権債務の目的が数量的に分割できないもの、
連帯債権、連来債務は、同じ内容の債権・債務を持っている・負っているもの、
保証債務は主債務者と同じ債務を負っているもの、
と考えてください。
実務上は、連帯債務と保証債務が圧倒的に多いですね。
 
【不可分債権(民法428条)】
結果はそこまで変わらないのですが、従来まとめて不可分債権とされていたものを、性質上不可分な債権と、性質上は可分であるが当事者の意思表示によって不可分にした債権とに分け、前者を不可分債権、後者を連帯債権の扱いとしています。
不可分債権についても、連帯債権に関する規律が、更改(新債務を成立させて旧債務を消滅させること)・免除の絶対効、混合(債権者と債務者が同一人に帰して債権が消滅すること)の絶対効を除く多くの規定が準用されています。
絶対効というのは他の債権者あるいは債務者にも効力が及ぶということで、その逆が相対効といいます。
なお、不可分債権は、例えば特定の車の引渡請求権を複数の人が共同で持っている場合です。車を分割することはできませんからね。
 
本条の整理に伴い、他の条文も整備されています。
連帯債権者による履行請求・履行の絶対効(民法432条)
連帯債権者の一人との間の更改又は免除の絶対効(民法433条)
連帯債権者の一人との間の相殺の絶対効(民法434条)
連帯債権者の一人との間の混合の絶対効(民法435条)
これら以外の連帯債権者の一人との間で生じた事由の相対効の原則(民法435条の2)
 
【不可分債務(民法430条)】
428条の不可分債権の反対の不可分債務についても、性質上不可分な債務の不可分債務、当事者の意思表示によるものは連帯債務と整理しています。
不可分債務には、混合以外、連帯債務の規定が多く準用されます。
 
本条の整理に伴い、他の条文も整備されています。
連帯債務者の一人との間の更改の絶対効(民法438条)
連帯債務者の一人による相殺等の絶対効(民法439条)
連帯債務者の一人との間の混同の絶対効(民法440条)
これら以外の連帯債務者の一人に生じた事由の相対効の原則(民法441条)
なお、連帯債務者の一人に対する履行請求、免除及び時効の絶対効の規定が削除され、相対効の範囲が拡がりました。
ただし、当事者間の合意により絶対効を定めることは許されています。
 
連帯債務における免除、時効の完成が相対効とされたことに伴い、免除を受けあるいは時効が完成した連帯債務者に対しても弁済等を行った連帯債務者が求償できる旨の規定が新設されています(民法445条)。
免除、時効完成により利益を得たとしても、他の連帯債務者が弁済等をすれば一定の負担を強いられることになります。
 
【連帯債務者間の求償権(民法442条)】
連帯債務者が共同の免責を得た場合には、他の連帯債務者に対して求償できます。
求償権の発生要件及び内容について改正がなされました。
自己の負担部分を超えない額の弁済をした場合、不真正連帯債務(合意による連帯債務ではなく共同不法行為の場合の共同不法行為者のように法律上同じ給付義務を負う場合)にも、一部求償が認められるようになりました。判例の規律とは異なる改正です。
また、求償権の内容として、代物弁済等で連帯債務の額を超えて財産を支出した場合には、実際に免責を得た額を限度として求償をなしうるに留まることが明記されました。
 
【連帯保証人について生じた事由の効力(民法458条)】
連帯債務者の一人との間の更改の絶対効(民法438条)
連帯債務者の一人による相殺等の絶対効(民法439条)
連帯債務者の一人との間の混同の絶対効(民法440条)
これら以外の連帯債務者の一人に生じた事由の相対効の原則(民法441条)
の各規定が主たる債務者と連帯保証人との関係で準用されます。
連帯保証人に対する履行請求、免除及び時効の完成が、特約がない限り、相対効になるということです。
連帯保証人に対して訴訟を提起しても、主債務者の時効の完成猶予事由にはなりません。これに対して、主たる債務者に対する請求等の時効の完成猶予及び更新事由は、保証人に対しても効力を生じることは変わりありません(民法457条)。
 
【主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務(民法458条の2)】
新設規定です。
主たる債務者の委託を受けて保証をした保証人は、債権者に対し、主たる債務及びその債務に従たる全てのものについて、①不履行の有無、②残額、③そのうち弁済期が到来しているものの額の情報提供を請求することができます。
請求を受けた債権者は、遅滞なく、情報を提供しなければなりません。
 
保証人には主たる債務者の状況がわからない場合が多いです。そのため、情報提供の権利が認められました。これまで保証人が要求をしても銀行等が個人情報保護を理由に断るケースも多かったです。大きな改正ですね。
 
【主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務(民法458条の3)】
新設規定です。
こちらも保証人の保護ですね。
保証人は、遅延損害金についてもその責任を負います。
期限の利益が喪失されていつから遅延損害金が発生するのか知らないと保証人は困りますね。
そのため、期限の利益を喪失したことを知った債権者は保証人に対し2か月以内に通知をしないといけなくなりました。
債権者がその通知を怠った場合には、期限の利益喪失時から通知をするまでに生じた遅延損害金の支払いを請求することができないという効果が付されています。
ただし、これは保証人が個人の場合です。法人の場合は適用を排除されています。
 
多数当事者のお話はもう少し続きます。
 
お悩み事がございましたらなかた法律事務所にご相談を。
 
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交通事故被害者の自己破産 [借金問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
債務整理のうち自己破産において交通事故の被害者の損害賠償請求権がどのような扱いになるのかをお話したいと思います。
 
自己破産申立てを考えている方が交通事故に遭ってまだ治療中(示談ができていない状態)である、あるいは自己破産準備中に交通事故に遭ってしまうという例もあります。
 
その場合には、交通事故の示談と自己破産手続のタイミングを考えないといけなくなります。
 
理屈上、交通事故の損害賠償請求権が自己破産においてどのように扱われるのかを説明します。
破産財団に属するか(その場合には自由財産拡張の対象と認めてもらえない限りは手元に残りません)、破産財団には属さないか(その場合は破産手続の影響を受けずに受け取ることができます。)の問題です。
 
交通事故の損害賠償請求権は、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料という一身専属性の認められる慰謝料とそれ以外の財産的損害を填補する損害賠償請求権とに分けられます。
 
財産的損害に関する損害賠償請求権は、通常の金銭債権として破産財団に属するとされています。
休業補償や金額が大きくなる逸失利益についても、金銭債権として破産財団に属するとされています(ただし、自由財産の拡張を柔軟に考えるべきともいわれます)。
なお、治療費、介護費用、入院雑費については、通常、自由財産あるいは自由財産拡張対象財産になるとされています。
 
慰謝料については、金額が確定していなければ、行使上の一身専属性(請求権を行使するかしないかは本人の自由という意味です。)が認められ、破産財団に属しません。
しかし、合意または判決により慰謝料金額が確定した場合には(なお、相続が発生した場合も同じ)、既に行使上の一身専属性を失い、金銭請求権として破産財団に属すると考えられています(ただし、自由財産の拡張や破産財団からの放棄などを柔軟に考えるべきだともされています)。
 
なお、破産開始決定前に既に入金された損害賠償金は、破産開始決定時に存在する評価額及び存在する形(現金、預金などの形)で財産として扱われます。
 
以上が、自己破産手続における交通事故による損害賠償請求権のi扱いについての理屈のお話です。
交通事故の損害賠償請求権も、無条件に、あるいは一定の条件の下で、財産として扱われるのですね。
 
このような理屈を踏まえてどう動くべきか考えないといけません。
 
入通院が長引いて示談の見込みが破産申立てよりも大分後になる見込みであるケースでは、早々に自己破産を申し立てるでしょう。
自己破産開始決定時には損害賠償請求権が確定していませんからあまり問題にはならないと思います。治療費、交通費等、厳密に考えれば財産的請求権が既に発生・確定しているような気もしますが、そこまで突っ込まれることはないでしょう。
 
もうそろそろ示談をする、あるいは既に示談をしていて入金待ちというタイミングであれば、自己破産申立ては通常のタイミングで行えばいいですね。
後は、入金になった損害賠償金の使い途を考えることになります。
入金された損害賠償金については、有用の資(どうしても必要な生活費、弁護士費用、申立て費用等)に費消してよいということになります。
残金の金額により、管財事件となる可能性があり、また管財事件になった場合には自由財産拡張対象範囲を超えるものは財産に組み入れる必要があります。
 
これらと異なり、示談すべきタイミングと自己破産申立てのタイミングの先後が微妙な場合には、段取りが悩ましいです。
 
示談を遅らせるということも考えられます。
示談を遅らせてその間に自己破産手続を進めてしまおうということですね。
しかし、財産上の損害賠償請求権の問題(一身専属性がそもそも認められていない)が問題となります。
治療が終わっている段階であると慰謝料も突っ込まれる可能性もあるかもしれません。
 
自己破産申立てを遅らせることも考えられます。
申立て前に示談を終わらして入金を待ち、入金後に賠償金を有用の資に費消した上で申立てをすることになります。
しかし、自己破産申立てを過度に先送りしてしまうと、債権者からの訴訟提起、判決後の給与等の強制執行などのリスクもあります。
 
結局は、交通事故での争点の有無と程度、損害賠償金の見込額や内訳、あるいは賠償金を有用の資として費消する必要性など、諸般の事情に応じてケースバイケースに考えていかないといけないことになります。
 
高額の損害賠償金が見込まれる場合には、そもそも自己破産ができなくなる可能性もあります。
その場合には、とりあえず任意整理の方針とすることが多いと思います。示談等までの時間稼ぎですね。
 
債務整理(任意整理、個人再生、自己破産等)のサポートはなかた法律事務所にご用命を。
 
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給与所得者等再生のお話 [借金問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
債務整理のうち、個人再生、それも給与所得者等再生のお話をします。
 
債務整理の手続選択として、自己破産ではなく個人再生を選択したとして、個人再生のうち給与所得者等再生を利用するケースはどのような場合でしょうか。
 
どちらでも利用できるケースであれば(給与所得者等再生の要件を充たすのであれば)、小規模個人再生と給与所得者等再生はどちらを選択してもいいです。
 
選択にあたって、特に考慮する両者の大きな違いが3つあります。
 
1つ目の大きな違いは、再生計画認可に債権者の消極的同意が必要かどうかです。
 
小規模個人再生では債権者(再生債権者といいます。)による再生計画案の決議が必要です。
再生債権者の頭数の半数以上の不同意、債権額(正確には議決権の額)の過半数となる債権者の不同意があると、再生計画案が否決されたものとして扱われます。
再生債権者が2社以内、再生債権者のうち過半数の債権を占める再生債権者が存在するような場合には、否決のリスクが高まります。
中には、過半数の債権を保有していたら再生計画案に同意をしないと、何を目的としているのかよくわからないような方針をとっていると説明をしてきた金融機関もいます。
仮に再生計画案が否決されると再生計画案が認可されないため、自己破産あるいは給与所得者等再生を申し立てることになります。
認可されなかったために自己破産を申立てし直したという例は経験しています。
 
これに対し、給与所得者等再生では、再生債権者による決議は必要ありません。
裁判所がOKすればいいだけです。
 
そうなると、再生債権者が2社以内、あるいは再生債権者のうち過半数の債権を占める再生債権者が存在するような場合には、給与所得者等再生の選択が視野に入りますね。
再生計画に不同意をされて申立てをし直さないといけないリスクを考えて、最初から給与所得者等再生を申立てるということですね。
 
2つ目の大きな違いは、給与所得者等再生の方が小規模個人再生よりも要件が厳しいということです。
給与所得者朗再生では、小規模個人再生よりも要件が加重されていることは勿論、裁判所の見方自体も厳しくなります。
給与所得者等再生は、小規模個人再生と違って、債権者の消極的同意を必要としないため、要件が厳しくなり、裁判所も厳しく見るのです。
 
これと付随する問題として、給与所得者等再生は、その要件該当性の判断のため、個人再生委員が選任される可能性が相対的に高くなるということがあります。
当職も、給与所得者等再生の要件該当性の判断のため、個人再生委員を拝命したことがあります。
 
給与所得者等再生に加重される要件として、例えば、給与所得者等再生計画認可確定、破産免責許可確定から7年を超えていることという要件があります。
破産後間もない場合は給与所得者等再生が利用できないわけです。
 
また、給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり、収入額の変動の幅が小さいと見込まれることという要件があります。
過去2年間で給与収入の額に5分の1以上の変動があれば、収入額の変動の幅が大きいとみられてしまい、簡単には手続が進みません。
 
これは小規模個人再生と同様の要件ですが、厳しく見られるものとして、債務者が将来において継続的・反復的に収入を得る見込みがあることという要件もあります。
小規模個人再生であれば、契約社員でもアルバイトでも裁判所からあまりとやかく言われません。
これに対し、給与所得者等再生では、職業の安定性がよく吟味されます。
 
3つ目の大きな違いは、最低弁済額の違いです。
 
小規模個人再生では、
・清算価値(財産として把握される価値です。自己破産の自由財産拡張対象相当額は控除できます。)
・再生債権額の5分の1
・100万円
のいずれか大きい金額が最低弁済額となります。
 
これに対し、給与所得者等再生では、可処分所得の2年分の額以上に返済額を設定する必要性が加わります。
可処分所得の計算は、手取収入額-費用額で算出します。
手取収入額の算出の際に収入から控除できるのは、所得税額、住民税額、社会保険料額に限られます。
かつ、費用額は、実費ではなく、再生債務者の収入と年齢、あるいは被扶養者の数と年齢から、政令等により機械的に定まっており、通常は実費よりも低くなります。
その結果、収入が一定額以上ある、あるいは被扶養者が少ない場合には、可処分所得が大きくなり、小規模個人再生よりも弁済額が大きくなってしまうことが多いです。
 
そのため、実務感覚では、小規模個人再生を優先して考えることが多く、給与所得者等再生の申立件数は圧倒的に少ないと思います。
勿論、収入が低い、あるいは被扶養者が多いなどのケースでは、給与所得者等再生を利用しても弁済額は変わりません。
 
小規模個人再生と給与所得者等再生の大きな3つの違いをお話ししました。
結局は、ケースバイケースでどちらかを選ぶということになります。

なお、小規模個人再生における再生債権者の不同意が増えてきたようにも思えます(増えたといってもあまり反対をされることはないのは確かですが)。
今後、債権者の消極的同意が必要のない給与所得者等再生の活用の場面も増えてくるかもしれません。
                   
債務整理(任意整理、個人再生、自己破産等)のサポートはなかた法律事務所にご用命を。
 
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公正証書遺言の無効 [相続問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
今回は相続問題のうち、相談が多い遺言公正証書の無効についてお話します。
当職も、つい最近、遺言無効確認等請求訴訟の最終準備書面を作成したところです。
 
遺言の効力を争うには、基本的に遺言無効確認訴訟等訴訟によらなければなりません。
遺産分割調停を申し立てても、家庭裁判所は遺言の有効性を判断してくれません。地方裁判所に訴訟を提起して決着をつけないといけないのですね。
勿論、相続人間で遺言の無効を確認し、遺言はないものとして遺産分割協議が成立すればそのようなことはしなくていいです。
 
公正証書遺言無効は自筆証書遺言と比べて無効と判断されるにはハードルが高いです。
公証人が本人の意思を確認して作成される建前だからです。
また、遺言者の最期の意思を尊重するという観点から、遺言の有効性をかなり緩く認める傾向も否定できません。
 
勿論、簡単ではないですが、遺言公正証書の無効が認められるケースはあります。
 
公正証書遺言の無効の原因は、大きく分けて、遺言能力の欠如あるいは要式違反の2つです。
遺言能力とは、遺言事項を具体的に決定しその法律効果を弁識するのに必要な判断能力たる意思能力ですね。
要式違反というのは、公正証書遺言作成手続に瑕疵があるということですね。
口授手続(遺言者が公証人に遺言内容を伝えること)の違反が多いです。
要式違反も、結局は、遺言者の能力の減退を前提とすることがほとんどです。
被相続人は○○の状態であったから口授ができるはずがないといった論法になってしまいますからね。
要式違反の主張も、結局は遺言者の遺言作成時における能力が争点になります。
 
必然的に、公正証書遺言の無効を裁判で争うには、遺言者が遺言時に遺言能力を失っていたと認められるような客観的資料が必要です。
それが発見できなければ戦いようがないため、受任をすることはしません
 
一番重視されるのは、当然ながら医療記録ですね。
医療記録の中に、CT、MRI、長谷川式簡易知能評価スケール、Mini-Mental State(MMS)などがあるとその結果も重視されます。
介護記録も重要な資料の1つです。
それらを基に医師の意見書などを原告被告双方が出し、場合によって鑑定に付されるなどして、遺言能力の有無が争われます。
 
遺言能力の有無の判断にあたっては
①遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度、
②遺言内容それ自体の複雑性、
③遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等、
といった諸事情が考慮されます。
 
①が勿論メインです。

例えば、一般に、アルツハイマー型認知症が中等度ないし高度であれば、記憶障害もまた中等度ないし高度であるため、遺言能力は欠如しているとされます。
ただ、遺言能力は抽象的にではなく、具体的に判断されます。遺言者の遺言時の精神状況が様々な資料により分析されるということです。
 
長谷川式簡易知能評価スケール、Mini-Mental State(MMS)も抽象的な点数よりも回答状況を具体的に分析しなければなりません。
介護記録は医療記録よりも証拠価値は低いとされますが、介護認定調査票などは遺言者の具体的な状況が明らかになる重要な資料ですね。
 
遺言作成時の医療記録等が揃っていたら割合単純な話なのですが、都合よく揃っているわけではありません。
遺言前後の医療記録等により遺言時の遺言者の状況を推認していかなければならないケースも多いです。
 
②は、遺言者の精神状態との関係で、その遺言内容を理解して決定できたかの問題です。

全ての遺産を特定の相続人に相続させる遺言であっても、一概に簡単な内容とはいえません。
そのような遺言の場合であっても、「本件公正証書遺言の内容自体は全財産を相続させるという単純なものであるが、そのような内容の遺言をする意思を形成する過程では、遺産を構成する個々の財産やその財産的価値を認識し、受遺者だけではなくその他の身近な人たちとの従前の関係を理解し、財産を遺贈するということの意味を理解する必要があるのであって、その思考過程は決して単純なものとはいえない。」とした裁判例もあります。
遺産の承継に関する遺言をする者は、一般に、各推定相続人との関係においては、その者と各法定相続人との身分関係及び生活関係、各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力、特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わり合いの有無、程度等諸般の事情を考慮して遺言をする(最判平成23年2月22日)のですからね。
 
③のメインは、遺言の動機・理由です。

遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等から、合理的な遺言の動機、理由があるのかがメルクマールの1つになります。
 
公正証書遺言の効力が争われるケースでは、遺言の書き替えがなされていることが多いです。遺言能力に疑義があるような被相続人が従前の遺言を書き替えるケースでは、遺言の合理的理由の有無が重視されます。
合理的な理由がなければ、遺言者の強い働きかけにより、遺言が作成されたと疑われるのですね。
 
なお、公正証書遺言といえば、公証人が証人として出てくることが多々あります。
公証人が具体的な遺言作成の状況は覚えていないと証言することが多いのではないでしょうか。
多ければ年間何百件も作成しますからね。
しかし、私の担当した訴訟でも公証人が出てきましたが、十数年前の遺言の具体的な状況を覚えていると証言をしました。
しかし、俄かに信じることができませんよね。証言の信用性をかなり争いました。
 
遺言の効力の争いは、医学的見地から分析・検討が必須であり、また論点も多岐にわたり、大変労力のかかる訴訟の1つです。
最近書いた最終準備書面も80数頁にわたる大部なものになってしまいました。
 
一方、後日の紛争を防ぐためには、遺言作成時にきちんと診断書(知能テストをしてもらった方がベターです。)を取得しておくことをお薦めします。
遺言能力が否定し難いそのような資料が残っていれば、争いが顕在化することを防ぐことができます。
 
遺言、相続、遺留分相続放棄等、相続問題のご相談はなかた法律事務所へ。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
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