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旧コラム

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差押えの取下げと消滅時効 [借金問題]

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。

 

放っておいた借金の債権者から突然督促状が来て、驚いてご相談に来られる方も多いです。

 

はじめから消滅時効援用のご相談に来られる方だけではなく、債務整理をしたいというご相談の中で消滅時効援用により解決できるのではないかとアドバイスをする方もいらっしゃいます。

 

消滅時効はご存知でしょうか。
債権は一定の時効期間を経過し、かつ時効中断事由がなければ、消滅時効にかかります。
債務者が消滅時効を援用(具体的には消滅時効の援用通知を送ります。)すれば、支払義務から免れることになります。

 

一定の期間というのは、商人である銀行や貸金業者から借りている場合は5年間です。商人以外から借りている場合は10年です。
改正民法が施行されると期間は変わりますが。


しかし、時効中断事由があれば、それまで進行した時効期間がリセットされ、時効中断事由が終わってから再度時効期間が経過します。
判決等の場合は時効期間が10年に延びるということにもなります。

 

時効中断事由は、改正前の現行民法では、請求、差押え・仮差押え・仮処分、承認です(民法147条)。
請求には裁判上の請求と裁判外の請求(催告)があり、裁判外の請求については特殊で時効完成の猶予というイメージで捉えた方がよろしいです。
一番多いのは承認です。少額でも返済したら時効は中断します。

 

時効中断事由には様々な議論があるのですが、今回は差押えについてお話しします。

 

差押えがなされる場合には、判決あるいは支払督促等の債務名義によりなされますが(基本的には時効が判決等から10年に伸びている)、判決から10年経っており、その間に預貯金等の差押えがなされたが結局取下げられている、差押えからは時効期間が経過していないが、判決から10年経過していることをもって消滅時効の援用が認められるか、という事例に接したことがあります。

 

民法154条は、差押えが取下げらたら時効中断の効力は始めからなかったことになると読めます。

 

では、取り下げられた場合必ず時効中断の効力が及ばないのでしょうか。

 

ここは実は争いがあるのです。100%の確度をもって法律的な判断をくだせません。

 

所謂空振り、預金の差押えでは差し押さえる預金がなかった場合ですね。そのような場合には、時効中断の効力がなくならないと言うような古い裁判所の判断もあります。
債権者は権利の上に眠っていないということで、その判断を支持する見解もあります。

 

一方で、動産執行のケースですが、売却しても費用が支弁できない状態で執行官から取下げを勧められて取下げをした場合であっても、取り下げた以上は時効中断の効力は失うとした割合新しい裁判所の判断もあります。
最終的には債権者が自らの意思で取り下げたという事実を重視したものでしょう。

 

具体的な事例判断が集積されておらず、かつ明確な最高裁判例もないため、なかなか判断が難しい問題です。

 

調べても、この問題は本にもほとんど書いていないのですね。書きずらいのでしょう。

 

民法の条文からすれば、後者が正しいような気もします。
事例によって違うと法的安定性も損ないますね。

 

ということで、差押えの取下げがあった場合には、債務者からすれば時効中断の効力がなくなったとの主張をすることになります。
しかし、債権者からは時効中断があるという主張がなされてしまいます。
このような状況であると、裁判でないと決着が付かないですね。困ります。

 

なお、私が接した事例では預金に数十円は口座にありました。空振りの場合に時効中断の効力がなくならないという見解を前提としたとしても、全くの空振りではなく取り下げているはずですですから、時効中断の効力がなくなったと言うことも十分理由があります。
相手は強硬な態度を示すことで有名な業者でしたが、法的に争いがあるということで、和解で解決することになりました。

 

債務整理(任意整理、民事再生、自己破産等)のサポートはなかた法律事務所にご用命を。

 

広島の弁護士 仲田 誠一

なかた法律事務所

広島市中区上八丁堀5-27-602

https://www.nakata-law.com/

 

https://www.nakata-law.com/smart/


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法人の自己破産に取締役全員の同意が必要なのか?

広島市所在なかた法律事務所の弁護士仲田誠一です。
今回は、法人が自己破産を申し立てる際にどのような意思決定が必要なのかというお話をさせていただきます。
個人の自己破産は関係のない、法人の自己破産特有の問題です。

目次

Ⅰ自己破産と準自己破産との違い
Ⅱ法人の自己破産には取締役全員の同意が必要か?
Ⅲ法人の意思決定の方法とは
Ⅳ意思決定の具体例
Ⅴ意思決定にあたっての注意点
Ⅵまとめ

Ⅰ 自己破産と準自己破産の違い

1.自己破産と準自己破産

破産法18条1項では破産手続開始申立権を「債務者」に認めています。「債務者」の申立てによって開始される破産手続を自己破産と呼びます。
現在、ほとんどの破産手続が自己破産となっています。

これに対して、法人破産では、破産法19条が、理事、取締役および業務を執行する社員など役員がその地位に基づいて法人の破産手続開始申立てをすることも認めます。これら役員の申立てによる破産手続を準自己破産を呼びます。

2.自己破産と準自己破産の違い

① 破産手続開始原因の疎明責任の有無
準自己破産の場合(破産法19条に基づいて役員が申立てをするとき)は、役員全員が申立人となる場合を除き、破産手続開始原因事実が存在することの疎明を要求されます(破産法19条3項)。役員の一部による申立てでは、内紛を原因として破産手続が濫用されるおそれがあるからです。
破産手続開始原因とは、支払不能または債務超過です(破産法16条1項)。支払不能とは、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態です(破産法2条11号)。債務超過は、債務につきその財産をもって完済することができない状態です(破産法16条1項括弧書)。

② 予納金額の多寡と負担
準自己破産の場合には、自己破産と比べて、裁判所に要求される予納金が額が高額になる可能性があります。かつ、準自己破産では、原則として、申し立てる役員が予納金を負担します。

③ 弁護士費用
準自己破産の場合には、原則として、会社財産から弁護士費用等を支出することはできません。
申し立てる役員が負担する必要があります。

Ⅱ 法人の自己破産には取締役全員の同意が必要か?

1.自己破産ができる「債務者」とは

自己破産ができる「債務者」(破産法18条1項)には、自然人だけではなく、法人も含まれます。法人組織として法的に要求される手続を経て有効な意思決定がなされ、同決定に基づき代表機関が申し立てた破産手続は、すべて自己破産になります。

かつては、法人が「債務者」として自己破産を申立てられるのは、役員全員が申し立てるか、代表者が役員全員の同意を得て申し立てる場合に限られるという見解が一般的だったようです。一部の役員による申立ての場合にのみ破産開始原因の疎明義務が課されている(さきほどの破産法19条3項)という理由のようです。今でも、コンメンタール等では両論が併記され、役員全員の同意が必要と解説するインターネット記事も存在します。

法律が要求する機関決定に従った申立てであれば、法人の意思に基づく自己破産申立てだと考える方が自然ですね。自己破産をするために、わざわざ反対する取締役を解任して全員一致の形を作らなければならないと考えるのはとても迂遠ですし、非現実的ですよね。現在は、機関決定があればよいとする考えが一般的だと思います。少なくとも、広島地方裁判所本庁ではこの考え方で通用しております。

2.取締役全員の同意が必要なのか

法人が自己破産をするためには、取締役全員の同意を取り付ける必要はありません。

裁判所は、法人の自己破産申立てにかかる添付書類として、取締役会議事録とともに、取締役全員の同意書面も指定していると思います。
一見、取締役全員の同意を取り付けなければ準自己破産になるとも思えますね。

しかし、法的に要求される手続を経て有効に意思決定がなされていれば自己破産でした。
裁判所には、機関決定(取締役会決議など)を証する書面(取締役会議事録など)を提出すれば足り、全員一致である必要はありません。
では、法的に要求される機関決定とはどのようなものなのでしょうか。次に見ていきます。

Ⅲ 法人の意思決定の方法とは

1.株式会社の場合

取締役会設置会社で業務の決定を行うのは、あくまでも取締役会です(会社法362条2項1号)。取締役でも株主総会でもありません。
取締役会決議は、定款で条件を加重していない限り、議決に加わることのできる取締役の過半数が出席し、出席した取締役の過半数をもって行います(会社法369条1項)。
取締役会議事録を作成します。

これに対し、非取締役会設置会社では、業務の決定を行うのは、取締役です。
取締役が1人の場合には、単独で業務の決定をします(会社法348条1項)。取締役が2人以上いるときは、定款で別の定めをしない限り、取締役の過半数をもって業務を決定します(会社法348条2項)。
取締役決定書あるいは同意書を作成します。

ただし、非取締役会設置会社では、株主総会も業務の決定をする包括的権限を有します(会社法295条1項)。取締役はその決定に従わなければなりません。
株主総会決議で意思決定をする場合には、株主総会議事録を作成します。

2.有限会社その他の法人

その他の法人も株式会社と同じです。法律で要求される機関決定で足ります。

特例有限会社は、基本的に非取締役会設置会社と同じと考えてください。取締役単独あるいは取締役の過半数、および株主総会です。

その他の法人も、理事会決議等、法的に要求される手続による機関決定を経ていればかまいません。理事会議事録などを作成します。

Ⅳ 意思決定の具体例

1.取締役会設置会社のケース

代表者が95パーセントの株式を保有する取締役会設置会社です。取締役は3人ですが、名前だけ借りていて疎遠な取締役が1名いる例を想定しましょう。

取締役会設置会社では、業務の決定を行うのは、取締役会でしたね。反対する取締役がいても決議さえ成立すればいいです。上記会社では、取締役会を開催して破産手続開始申立てを決議します。裁判所には取締役会議事録を提出すればいいです。

2.非取締役会設置会社のケース

代表者が100パーセントの株式を保有している非取締役会設置会社です。取締役は5人ですが、同意を得られない取締役が1名いる例を想定します。

非取締役会設置会社かつ取締役が2人以上の会社は、取締役の過半数をもって業務の決定しました。これに従えば、裁判所には、過半数の取締役による取締役決定書、あるいは過半数の取締役の同意書を提出することになるでしょう。

ただし、非取締役会設置会社では、株主総会も業務の決定をする包括的権限を有しました。このケースでは、代表者1人で容易に全員出席株主総会が開催できますね。臨時株主総会にて破産手続開始の申立てを決議した方が簡便です。裁判所には、臨時株主総会議事録を提出します。

Ⅴ 意思決定にあたっての注意点

1.意思決定の手続を踏む

意思決定をする際には、法定の手続をきちんと踏むことを意識してください。
取締役会議事録等の機関決定を証する書面は裁判所に提出する書類であり、債権者等が閲覧することができます。また、破産に反対する役員がいれば、法定手続を経ていないとトラブルになるかもしれません。

法定手続を遵守している会社は少ないでしょう。しかし、自己破産の決定に際しては、招集通知などの手続をきちんと踏む方がよろしいでしょう。

2.意思決定の記録を残す

上述のように、法人の意思に基づく申立てであること(自己破産の申立てであること)を証する書面を裁判所に提出しなければなりません。議事録や同意書を裁判所に提出できるよう、あらかじめ弁護士等に準備をしてもらい、確実に作成してください。

後で作成すればいいと放っておくと、営業停止などによる混乱が生じた結果、後から作成できないという事態も生じることがあります。

Ⅵ まとめ

1.法人自己破産には取締役全員の同意が要求されない

法人が自己破産するために、取締役などの役員全員の同意は要求されません。法人組織として法的に要求される手続を経た有効な意思決定に基づき、代表機関が自己破産を申し立てればいいだけです。

法的に有効な意思決定があるのであれば、法人の意思による自己破産であり、役員がその資格で申し立てる準自己破産ではありません。

2.法人自己破産の意思決定方法

株式会社の場合、取締役会設置会社では取締役会で、非取締役会設置会社では取締役(1人の場合)、取締役の過半数(2人以上の場合)あるいは株主総会で、自己破産申立てを決定しました。その他の法人も、法定された機関決定を経れば自己破産と認められます。

法人の意思決定を証する議事録等は裁判所に提出しなけばなりません。機関決定にあたっては、法的手続をきちんと踏む、きちんと記録を残すことを心がけてください。

終わりに
今回は、法人の自己破産申立てにあたって取締役など役員全員の同意が要求されるかどうかについて説明をしました。法人破産は、事前準備と段取りでその成否が決まります。法人破産に詳しい弁護士に早めにご相談ください。なかた法律事務所は、法人破産について豊富な知識、経験を有します。

この記事を書いた人

弁護士 仲田 誠一(広島弁護士会所属)
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◆経歴
1996年4月~ あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~ 東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~ 広島大学大学院法務研究科
2008年12月 弁護士登録
2017年~各前期 広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格等
弁護士、公認内部監査人試験合格
著作「自転車利活用のトラブル相談Q&A」(民事法研究会,2022)

非免責債権の徹底解説【借金問題】

広島市の弁護士による借金問題コラムです。

今回は自己破産です。テーマは「非免責債権の徹底解説」です。

非免責債権があるとないとでは経済的更生への段取りが変わります。
非免責債権はどういうものなのか、非免責債権があればどのような手続になるのかなどを解説いたします。

目次

破産における非免責債権とは
租税等の請求権
悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権
故意または重大な過失による生命・身体を侵害する不法行為に基づく損害賠償請求権
親族関係に係る請求権
雇用関係に基づく使用人の請求権等
知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権
罰金等の請求権
まとめ

破産における非免責債権とは

1.破産における非免責債権とは

破産手続において、免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権についてその責任を免れます(破産法253Ⅰ柱書本文)。これが破産における免責です。

しかし、上記条文には続きがあります。「ただし、次に掲げる請求権については、この限りではない。」として1号から7号までの請求権が定められています(破産法253Ⅰ柱書ただし書)。この1号から7号に定められている請求権を、非免責債権といいます。「この限りではない」という意味は、破産免責の効果が及ばない、すなわち破産者が支払義務を免れることができないことを意味します。

結局、破産における免責は、非免責債権を除いて、弁済義務を免れるということになります。

勿論、これは個人破産のお話です。法人の破産は法人格自体が消滅しますので、免責手続自体が存在しません。

2.非免責債権の破産における扱い

非免責債権も破産債権です。配当を受けることができます。配当されない部分について免責の効果が及ばない点が異なります。

免責許可決定が確定すると非免責債権は破産債権者表に記載され、債務名義となります。強制執行をするには執行文を得ます。

なお、裁判所書記官において当該破産債権が非免責債権に該当するか否かの判断が容易でない場合があることに照らして、破産後に債権者が非免責債権についての給付訴訟を提起したとしても訴えの利益に欠けないとした判例があります。

非免責債権か、一般の破産債権なのか争いがある場合でも、破産手続では判断がなされません。非免責債権かどうかは、債権者から提起した給付訴訟、あるいは債権者からなされた強制執行に対して破産者が提起した請求異議の訴えという訴訟手続の中で判断されます。免責許可決定が確定しているのであれば、非免責債権と認められない限り、給付判決では棄却判決が出て、請求異議の訴えは認容されて強制執行が失効します。

以下、非免責債権にどのようなものがあるか具体的に見ていきましょう。

租税等の請求権(1項1号)

1.租税等の請求権

租税等の請求権とは、「国税徴収法又は国税徴収法の例によって徴収することのできる請求権」です(破産法97④)。国税徴収法によって徴収することができる請求権は国税ですね。国税徴収法の例による請求権は、地方税やその他の公租公課(例えば国民健康保険料、国民年金保険料)などで、地方税法、行政代執行法、厚生年金保険法、地方自治法などの各法律において「国税徴収法に規定する滞納処分の例による」などと定められている請求権です。

結局、国税徴収法または国税徴収法の例によって徴収することのできる請求権とは、法律で自力執行力を認められた請求権(債務名義を取得し裁判所を通じて強制執行を申し立てる一般の債権と異なり、自らの滞納処分等を執行できる請求権)ということになります。

1号は国庫等の収入を図るとの趣旨から設けられた規定と言われています。

2.租税公課の滞納がある場合

租税公課は自己破産をしても免れることはできないと考えておいてください。

自己破産をしただけでは租税公課の支払義務は残ります。支払いに困ったら税務所、区役所の課税課などの相談窓口に相談しなければいけません。各租税公課について、滞納処分の停止およびそれが3年間継続したときの支払義務の消滅、納付猶予・免除、保険料免除・保険料納付猶予等の救済措置が定められています。もちろん、容易に免除はされないことになっています。

自己破産は経済的更生を図る手段です。依頼者さんには、破産とは別途、滞納租税公課やこれからかかる租税公課について担当窓口と相談をしておくようお願いしています。

悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権(1項2号)

1.悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権

加害者に対する制裁、被害者救済、加害者の人格的・道徳的責任などの観点から定められた規定と言われています。

不法行為の被害者は加害者に対し損害賠償請求権を取得します(民法709)。不法行為の主観的な成立要件は、加害者の故意または過失です。

これに対し、本号の免責不許可事由の主観的成立要件は「悪意」です。
「悪意」は単なる故意では足りません。一般に、他人を害する積極的な意欲(「害意」)が要求されるとされます。すなわち、不法行為のうち、特に「害意」があるケースだけ、本号の非免責債権になるということです。

例えば、預託金の横領、債務超過を認識した上でのクレジットカードによる商品購入や飲食、虚偽の説明をした上での金融業者からの借入れ、売買代金の詐取などのケースで本号の適用を認めた裁判例があるようです。

2.債務不履行、不貞行為

本号の適用は、あくまでも「害意」のある不法行為による損害賠償請求権です。

個人の債権者の中には、破産者に「騙された。」と感じて本号の非免責債権であると主張される方もいらっしゃいます。しかし、借入時に多少の虚偽説明があったとしても、詐取といえるケースは限定されます。債権者に対して「害意」があると認められるケースは少ないでしょう。
仮に、破産者に当初は弁済する気があり、実際に弁済をしていたようねケースでは、不法行為ではなく、単なる債務不履行(約束違反)とみられるケースが多いでしょう。

不貞行為の慰謝料請求権の非免責債権該当性も問題となります。不貞行為の場合、通常は故意による不法行為ですね。問題は「害意」があるかどうかです。
実は、非免責債権に該当しないとされる傾向にあります。恋愛感情からなされる不貞行為は、原則として、配偶者に向けた積極的な害意を目的とするものではないという考え方です。
不貞行為の悪質性や、配偶者の多大な精神的苦痛といった事情は、破産者に「害意」があったかどうかのに判断とは直結しません。

故意・重過失による生命・身体を侵害する不法行為に基づく賠償請求権(1項3号)

1.故意または重大な過失による生命・身体を侵害する不法行為に基づく損害賠償請求権

被害者の保護が特に必要なために本号が設けられています。

本号は故意または重過失による不法行為に適用されます。重過失とは、僅かな注意をすれば容易に結果を予見し、回避することができたのに、漫然と看過したような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態です。
一方、軽過失による不法行為に基づく損害賠償請求権には本号の適用がありません。破産免責の対象となります。

また、本号は、生命・身体を侵害する不法行為に適用されます。
財産を侵害する不法行為については、故意・重過失による不法行為であっても、本号の対象ではありません。
財産的損害に対する損害賠償請求権については、2号に該当しない限りは、破産免責の対象になります。

2.交通事故の損害賠償請求権

加害車両が無保険であった場合など、交通事故の加害者が自己破産をすることもあります。

その場合、赤信号無視、飲酒・酒気帯び、無免許運転など、無謀運転による交通事故被害者の損害賠償請求権は、本号により非免責債権となります。加害者に重過失があればいいので、必ずしも危険運転致死傷罪が成立するようなケースに限られません。

ただし、非免責債権となるのは、生命・身体を被侵害法益とする損害賠償請求権のみです。これに対し、物損部分など財産の侵害に基づく損害賠償請求部分は、本号が適用されない結果、免責対象となります。

親族関係に係る請求権(1項4号)

1.親族関係に係る請求権

親族関係にかかる請求権は要保護性が高いこと、およびモラルハザードを防ぐ必要があること等から、本号が設けられています。

夫婦間の協力・扶助義務(民法752)
婚姻費用分担義務(民法760)
子の監護義務(民法766)
扶養義務(民法877~880)に基づく請求権
並びにそれらに類する契約上の請求権が対象となります。

2.離婚時給付は免責の対象か

離婚時に合意であるいは判決で決められる給付は、婚姻費用分担、養育費、財産分与、慰謝料ですね。

婚姻費用分担請求権、養育費支払請求権は、請求権の成立が認められる限りで、過去の分も含めて本号の非免責債権です。

離婚に伴う財産分与請求権は、夫婦共有財産の清算として基本的に財産請求権とみられます。したがって、本号の非免責債権に該当しません。
ただし、財産分与には、清算的要素のほか、慰謝料的要素、扶養的要素を含みます。扶養的財産分与の部分を明確に区別できるようにしてあるのであれば、本号の非免責債権となる余地があるでしょう。

離婚に伴う慰謝料請求権については、2号の「害意」のある不法行為による損害賠償請求権、あるいは3号の故意または重過失による生命・身体を侵害する不法行為に基づく損害賠償請求権と認められない限り、免責対象となります。不貞行為は2号に該当しない傾向にあることは上述のとおりです。

雇用関係に基づく使用人の請求権等(1項5号)

1.雇用関係に基づく使用人の請求権等

雇用関係に基づく使用人の請求権と使用人の預り金返還請求権です。
雇用関係に基づく請求権一般が対象となります。

2.雇い主が法人の場合

本号の適用があるのは、雇い主が個人事業主の場合です。
雇い主が法人である通常のケースでは関係がありません。法人破産の場合には、破産により法人格が消滅する結果、免責手続は存在しません、非免責債権もありません。従業員の給与請求権と退職金請求権が、財団債権あるいは優先的破産債権として保護されるだけとなります。

知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(1項6号)

1.知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権

債権者名簿(代用される債権者一覧表)に記載されない債権者に対しては、裁判所から意見申述期間の通知(破産法251②)がなされません。そのような債権者がいれば、意見申述の機会を奪われることになります。したがって、本号が設けられています。債権者一覧表に記載のない債権者には免責の効果が及びません。ただし、破産債権者が破産開始決定の事実を知っている場合には除きます。この場合は債権者が意見申述の機会を奪われないという理由です。

2.過失により債権者一覧表に記載しなかった請求権

条文には「債権者名簿に記載しなかった請求権」と表現されているのですが、故意にではなく、過失によってうっかり債権者名簿に記載しなかった請求権も含まれます。
債権者の記載漏れ等に破産者の過失がないケースは少ないかもしれません。債権者一覧表に記載漏れがあった場合は、当該債権者の請求権は非免責債権になり、破産免責の効果が及ばない可能性が高いことに注意してください。もちろん、破産手続中に債権者の漏れが判明した場合には、債権者を追加するだけで対応できます。気付かずに手続が終わった場合に本号が問題となります。

なお、仮に記載漏れのまま破産手続が終わってしまっても、当該金融機関が免責されたものとして処理してくれるケースがあります。

罰金等の請求権(1項7号)

1.罰金等の請求権

罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金、過料です。本人に負担させるべきとして非免責債権となっています。

2.破産手続での扱い

罰金等の請求権は、劣後的破産債権とされます。通常は配当対象とはならないが、非免責債権であるということになります。

まとめ

1.非免責債権とは

非免責債権は破産免責の効力が及ばない請求権です。
破産法253条1項1号から7号に定められています。各号の内容を説明してまいりました。どんなものが非免責債権に当たるかどうかのイメージを持っていただければ幸いです。

2.非免責債権があるケース

非免責債権があるケースでは、自己破産手続だけでは経済的更生を図ることができない可能性があります。準備段階で非免責債権があるかどうかを確認し、トータルでの経済的更生を検討しなければいけません。

また、債権者から非免責債権であると主張されるケースもあります。免責に反対するであろう債権者が想定できる場合には、それを前提とした手続の見通しを立てておくことが大事です。

以上、非免責債権の徹底解説と題して、破産免責の効果が及ばない非免責債権について解説しました。

信頼できる弁護士選びが経済的更生の第一歩です。
ぜひ、当事務所にご相談してみてください。

この記事を書いた人

弁護士 仲田 誠一(広島弁護士会所属)
◆経歴
1996年4月~
あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~
東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~
広島大学大学院法務研究科
2008年12月
弁護士登録
2017年~各前期
広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格等
弁護士
公認内部監査人試験合格
著作「自転車利活用のトラブル相談Q&A」(民事法研究会,2022)

破産免責の徹底解説【借金問題】

広島県広島市の弁護士仲田誠一による借金問題コラムです。

今回は、自己破産の話、テーマは「破産免責の徹底解説」です。
個人が自己破産をする目的は免責を受けることです。そこで、破産免責とは何か、免責不許可事由とは何か、免責手続ってどう進んでいくのかなど、堀り下げた解説をさせていただきます。


目次

破産免責とは何か
権利免責と裁量免責の違い
免責不許可事由の種類
免責手続とは
免責を得られる可能性
免責に反する債権者が要いるケース
まとめ

破産免責とは何か

1. 免責の申立て

破産手続自体は、破産者資産負債の清算をするだけです。資産負債を清算して残った債務の支払義務は残ります。個人の債務者が債務の責任を免れるためには、免責許可の申立てをし、免責許可決定をもらわなければなりません。

これに対して、法人の破産では、破産手続終了により法人格自体が消滅すれば、債務も消滅します。債務が残るということはありませんから、免責手続はありません。免責は個人破産特有の制度です。

免責許可申立てを忘れることは基本的にありません。債務者が破産手続開始の申立てをした場合(自己破産の場合)は、反対の意思を表示していない限り、同時に免責許可の申立てをしたものとみなされます(破産法248Ⅳ)。裁判所が用意している申立書書式も、破産手続開始と免責許可をセットで申し立てる形式になっています。

なお、自己破産ではなく、債権者申立ての破産手続では、免責許可の申立てをしたものとみなされません。したがって、破産者が免責を得るためには、破産開始決定が確定した日から1月以内に免責許可申立てをしなければいけません(破産法248Ⅰ)。


2. 破産免責の意味

破産法253条1項柱書本文は、「免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。」と定めます。これが破産免責です。破産債権について支払義務を免れるという意味ですね。

 

破産法253条1項柱書のただし書きでは、「ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。」と、1号から7号までの請求権が掲げられています。それら1号から7号の請求権を「非免責債権」といいます。破産免責によっても責任を免れることができない債権です。非免責債権の詳細は後述いたします。

 

結局、破産免責は、非免責債権を除いて、破産債権について弁済義務を免れるということになります。

 

なお、復権と免責は少し意味が違います。
復権とは、自然人に対する破産手続開始決定に伴い、同人に対して課せられていた行使の資格制限を消滅させ、破産者に本来の法的地位を回復させることです。免責許可決定の確定は基本的な復権事由となっています(破産法255)


権利免責と裁量免責の違い

1. 権利免責

裁判所は、破産者に破産法第252条第1項各号に掲げる免責不許可事由がいずれも該当しない場合、免責許可の決定をします(破産法252Ⅰ柱書)。
この場合には必ず免責決定を得られますから、権利免責といいます。権利として免責を受けられることができるという意味合いです。

破産者について、免責不許可事由(破産法252Ⅰ各号)が該当する場合は、権利免責を得ることができません。裁量免責が認められるかという話にはります。

 

2. 裁量免責

破産法第252条第2項は、「前項の規定(注:権利免責)にかかわらず、同項各号に掲げる事由(注:免責不許可事由)のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。」と定めます。これが、裁量免責です。

免責不許可事由があれば権利免責はありません。しかしながら、免責を許可することが相当である事情があれば、例外として、裁量によって免責許可を与えてもいいという建前です。

破産制度は破産者の経済的更生を図るための制度です。そのため、実際の運用では、上記原則と例外が逆転しています。免責不許可事由があって権利免責を得られなくても、ほとんどケースでは裁量免責を得られます。免責不許可となるケースは稀です。免責不許可事由の程度が大で、救済する事情もないような事例に限られます。

なお、免責不許可事由の程度が大きい場合には、同時廃止手続にはよらず、破産管財人を選任して一定期間破産者の調査や指導を行わせ、破産管財人から出された免責意見を踏まえた免責判断がなされることがあります。この場合の手続を、免責調査型管財事件といいます。予納金は20万から25万円程度です。

 

免責不許可事由の種類

1. 法252条1項1号から6号

債権者を害する目的で行う財産の価値を不当に減少させる行為(1号)

破産財団に属する、あるいは属すべき財産は、総債権者の配当原資となります。そのため、同財産の価値を減少する行為は、総債権者を害する行為として免責不許可事由となっています。財産には、不動産、動産、債権、知的財産権など財産的価値を有するもの一切を含みます。ただし、破産財団を構成しない差押禁止財産などは含みません。価値を不当に減少させる行為は、隠匿(秘匿)、損壊その他の価値減少行為の一切を含みます。

なお、生活資金捻出のための売買など、その行為に不当性がなければ本号の免責不許可事由に該当しません。弁護士管理の下で、財産を有用の資(生活費、弁護士費用、破産費用、引越し費用その他どうしても必要な支出)に供することはよくあることであり、問題視されません。

破産手続開始を遅延させる目的で行う不利益処分行為等(2号)

破産手続を遅延させる目的で行われる(破産者が支払不能状態にあって、同事実を認識していることが必要です)、著しく不利益な条件での債務負担行為、信用取引により買い入れた商品を著しく不利益に処分する行為などです。
著しく不利益な条件は、取引社会の実情からみて不合理な程度に債権者にとって不利益なものをいいます。不利益な処分とは、著しく低廉な価格で処分すること(廉価売買)、権利放棄などの行為を指します。要するに、経済的合理性を欠く行為ですね。破産手続開始を遅延させる目的には、破産手続開始自体を免れる目的を含むとされています。

なお、クレジットで購入した商品を低廉で売却することはよく見られる行為ですが、破産手続を遅延させる目的でなされた行為とまで言えるケースは少ないでしょう。きちんと説明をしていれば過度には問題視されない傾向です(勿論5号に該当するかが吟味されます)。

不当な偏頗行為(3号)

一部の債権者に対し、特別の利益を与える目的または他の債権者を害する目的で、義務に属さない担保提供または債務消滅行為をすることです。担保提供は、抵当権、質権、譲渡担保など、債務消滅行為は、弁済、代物弁済などです。配当原資となるべき責任財産を毀損させて総債権者の利益を害する行為ですね。

偏頗的な(不公平な)弁済を、特に偏頗弁済(へんぱべんさい)と呼びます。親類や知人など金融会社以外に偏頗弁済をしてしまうことが多いでしょうか、よく見る免責不許可事由の1つです。否認対象としても典型的な例です。当職が受任する際には、個人間のものを含めて、一切の弁済行為を止めるようお願いしています。

浪費又は賭博その他射幸行為による著しい財産減少等(4号)

頻繁に目にする免責不許可事由です。
浪費または賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、または過大な債務を負担したことです。浪費とは、必要かつ通常の程度を超えた不相応な支出です。社会的地位、境遇、財産など諸般の事情を考慮して判断されます。賭博にはギャンブル一般を含み、射幸行為は投機目的の証券取引、商品先物取引、FX取引、先物オプション取引などが該当します。射幸行為かどうかも、資力、職業、知識などから判断されます。著しく財産を減少させたかどうか、または過大な債務を負担したかどうかは、債務者の財産状況との関係において社会通念によって判断されますので、その判断は人により異なります。要するに、分相応か分不相応かということでしょうか。

浪費や射幸行為と、著しい財産減少や過大な債務負担との間には、相当因果関係が必要です。ギャンブル等が遠因となっているにすぎない、一因となっているが他に主要な原因があるといった場合には、本号の免責不許可事由に該当しません。


詐術を用いた信用取引による財産取得(5号)

破産手続開始の申立日から1年以内にされた、破産手続開始の原因(支払不能)となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得する行為です。

詐術には、消極的態度によって相手を誤信させる場合も含まれます。ただし、ほとんどの破産者は支払不能になっても引き続き信用取引を続けるのが通例です。支払不能状態であることの単なる不告知という消極的態度によっては詐術に該当しないと考えられています。そのためか、本号の免責不許可事由はあまり見かけません。


帳簿等の隠滅、偽造等(6号)

破産者の業務および財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件一般について、隠滅、偽造(名義の冒用)、または変造(内容を改変する行為)する行為を対象とします。それらの行為は破産財団の管理を困難とし、破産債権者の利益を害するため、免責不許可事由になっています。
あまり見かけない免責不許可事由になります。

 

2. 法252条1項7号から11号

虚偽の債権者名簿の提出(7号)

債権者名簿あるいは債権者名簿とみなされる債権者一覧表に事実に反する内容を記載し、記載すべき債権者名等を記載しない行為が対象となります。免責手続の適正な遂行を妨害する行為として、免責不許可事由となっています。
通常の自己破産手続では債権者一覧表が債権者名簿とみなされています。免責不許可事由に該当するのは、破産者が手続の遂行を妨害し、または債権者を害する目的がある場合に限られるべきといわれています。免責不許可事由という制裁に相応しい行為に限るべきということです。

なお、債権者一覧表に誤りがある、抜けていた債権者が破産手続中に判明する、といったようなことは多々あります。途中で訂正・追加すれば問題はありません。過失により債権者名簿に債権者名等を漏らし手続を終えた場合には、非免責債権(破産法253Ⅰ⑥)となる可能性はありますが、免責不許可事由には該当しません。

調査協力義務違反(8号)

裁判所は、破産手続の全般について調査をすることができます(破産法8Ⅱ)。裁判所は、書記官に調査させ、破産管財人を通じた調査も行います。これら裁判所の調査に対し、説明を拒み、または虚偽の説明をする行為は、免責不許可事由に該当します。説明の拒絶には正当な理由のない審尋期日の欠席を含みます。虚偽の説明には当然に説明すべき事項について消極的に説明しないことも含みます。退職金や所有不動産を報告しないケースが典型的ですね。ただし、うっかりした報告漏れは補正をすればいいだけです。実務上、申立書の記載に誤りや漏れがあることは珍しくありませんが、本号の免責不許可事由を問題とすることはあまりありません。

このように、申立書類に嘘を書くと免責不許可事由のペナルティがありますから、申立てにあたっては、あくまでも嘘はつかない範囲内で、できるだけ有利に説明することが大事です。

不正な手段による破産管財人等の職務の妨害(9号)

破産管財人等とは、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理または保全管理人代理です。別途、破産管財人等に対する職務妨害罪(破産法272)も定められています。職務妨害罪に該当する行為のほか、財産持ち出し、引渡しや明渡しの拒絶、脅迫、郵便物の発送回避等が免責不許可事由に該当します。

過去に受けた免責(10号)

次の①から③に掲げる日(債権者の同意を問題としない免責あるいは一部免責の確定日になります。)から7年以内に申立てがあった場合には、免責不許可事由に該当します。モラルハザードを防ぐ趣旨です。
他の免責不許可事由と比べても厳しく運用され、裁量免責が容易には認められない印象があります。7年間は原則として再度の自己破産はできないと考えていた方がいいでしょう。
①破産の免責許可決定の確定日
②給与所得者等再生における再生計画認可決定の確定日
③ハードシップ免責にかかる再生計画認可決定の確定日
各決定から確定日までは、ざっくり1か月ぐらいだと思ってください。

①~③から7年を経過すれば、自己破産を申し立てて免責を求めても問題ないこととなります。複数回の破産免責を法も許容しているのですね。2回目の破産でも、それだけでは免責不許可事由に該当しません。かつ、2回目というだけで管財事件になるわけでもありません。勿論、反省文などで反省を示す必要があるなど、初めての破産に比べてより厳しく見られるのは仕方がありません。また、管財事件になる可能性は初回に比べると高いのも確かです。

破産法上の義務違反(11号)

破産手続中の説明義務(破産法40Ⅰ①)、重要財産開示義務(同41)、免責手続における調査協力義務(同250Ⅱ)、「その他のこの法律に定める義務」への違反があった場合には、免責不許可事由となります。「その他のこの法律に定める義務」違反は、保全処分(同28)、居住等の制限義務(同37Ⅰ)、債権調査期日への出頭義務(同121Ⅲ)などへの違反です。

 

免責手続とは

1. 免責についての意見申述

破産法では免責についての意見申述制度を設けています(破産法251)。免責手続における破産債権者に対する手続保障ですが、破産管財人も意見申述をすることができます(破産管財人は必ず免責意見を提出する運用です)。免責決定の影響を受けない非免責債権者(破産法253Ⅰ)には、意見申述権が認められていません(破産法251Ⅰかっこ書)。

意見申述は、原則として、裁判所から指定された意見申述期間に、書面を提出して行います。意見申述期間は、破産手続開始時から3カ月程度先というイメージです。

破産債権者の免責についての意見は、裁判所を拘束するものではなく、裁判所が判断する際の参考資料にすぎません。裁判所は意見申述に対する応答をする必要もありません。個人の債権者からは意見申述がなされることがときどきありますが、それにより免責不許可となる例は見たことがありません(なお、金融業者は基本的に意見申述をしません)。


2. 免責の効力発生(許可の確定)

免責許可決定が確定すると、破産者は、破産債権についてその責任を免れます(破産法(253Ⅰ本文)。

利害関係人は、免責責許可申立ての裁判に対し、即時抗告をすることができます(同252Ⅵ)。利害関係人とは、免責許可決定では破産管財人および破産債権者(非免責債権者も含みます)、免責不許可決定では破産者です。
即時抗告期間は、決定を受けた日から1週間です(破産法13、民訴法13)。破産債権者に対して送達代用公告がなされた場合は公告の効力が生じた日から起算して2週間です(破産法9)。破産債権者については通常後者ですね。

即時抗告期間が終了すれば免責許可が確定します。即時抗告がなさない通常のスケジュールでは、免責許可決定日から約1か月後が確定日となります。2週間前後に官報公告され、それから2週間で確定ですから。

一方、即時抗告がなされれば確定はしません。抗告審によって免責許可申立ての裁判の当否が判断されます。勿論、一度出た免責決定が覆されるのは稀なケースといえるでしょう。

 

免責を得られる可能性

1. 裁量免責にあたって考慮される主な事項

裁量免責の判断にあたっては、主に次のような事情を考慮するとされています。

破産手続開始の決定までの事情

①破産者の年齢、職業、収入、家族構成など、②債務を負担するに至った経緯、③支払不能に至った事情、④破産手続開始の申立てに至った事情です。
どれも申立書に記載する事項ですね。この説明内容が一番大事になります。

免責不許可事由に関する事情

①免責不許可事由の種類、内容、程度、②免責不許可事由の行われた時期、③同行われた経緯、④破産者の主観的状況、⑤破産手続に与えた影響
要するに免責不許可事由の悪質性の程度です。
免責不許可事由があると想定されるケースでは、管財事件になるリスクを下げるため、免責不許可にならないため、これらの事情をきちんと整理・説明します。

債権者側の事情

①債権者の属性、②破産者との関係、③与信内容、現在額、④与信の経緯、⑤債権者の審査能力の有無、⑥調査内容、⑦債権管理状況、⑧債権回収状況です。
破産はあくまでも破産者の経済的更生を図る制度です。そのため、債権者側の事情は一般的には重視されない傾向にあります。

破産手続開始後の事情

①配当状況、②破産者の協力状況、③破産者の反省の有無程度、④破産者の生活状況、⑤再生への意欲、⑥再生の見込み、⑦関係者の評価です。
主に破産管財人が免責意見を出すときに破産者を救う方向の事情として挙げるものです。プラスの事情があまりないケースでは、②の破産者の協力と、⑤⑥の経済的更生の可能性が、免責意見のメインになります。
なお、③については、手書きの反省文を初めから提出しておくといいでしょう。スムーズに同時廃止手続に進む傾向にあります。

免責許可決定のもたらす影響

①破産者の再生に及ぼす影響、②債権者に及ぼす影響、③免責許可についての債権者の意見です
破産はあくまでも破産者の経済的更生を図る制度です。そのため、免責許可についての債権者の意見は、あくまでも参考資料として取り扱われるべきといわれています。

 

2. 免責を得られる可能性

免責不許可決定がでるのは非常に稀なケースです。免責不許可事由の程度が重大であり、かつ救う材料がまったくないようなケースでした。

広島地方裁判所本庁で免責不許可の決定がでるのは、年間数件程度にすぎません。もっとも、明らかに免責不許可となるような事案では、別途、裁判所から申立てを取下げるよう勧奨を受けることがあります。それを含めるともう少し多いのかもしれません。いずれにせよ、全体の申立件数からはごく少数です。ほとんどの案件では、最終的には免責決定を得られています。

当職の経験でも免責不許可決定を得たことはありません(勿論、免責を得られることが明らかに難しいと判断したケースでは個人再生手続を勧めています)。破産管財人として免責不許可相当の意見を提出したことも、1度しかありません。そのほかは全件について免責相当の意見を申述しています。

一方、免責を得るための努力が必要なケースは多々あります。浪費やギャンブルの案件では説明を尽くした上で反省文を書く、
家計の収支状況を報告する、否認が疑われるような案件では財団に金銭を拠出して和解的解決をする、などの努力が典型的でしょうか。
個別の事情に応じて努力の仕方は変わります。肝心なのは、資料をできるだけ集めて事情をわかりやすく説明することです。当職もその一人ですが、破産管財人の経験が豊富な弁護士は、説明するツボや説明を要求される程度を肌感覚で理解しています。
なお、広島地裁では、一定期間金銭を積み立てて任意弁済をするという方法は採られなくなりました。

 

免責に反対する債権者がいるケース

1. 免責に対する意見申述、即時抗告

破産法では免責についての意見申述制度を設けていますから(破産法251)、免責に反対する債権者が免責不許可の意見を申述する可能性があります。
裁判所は債権者の意見に拘束されるわけではありません。債権者の意見は参考資料にすぎません。

仮に、裁判所、破産管財人が免責許可を相当と考えていた場合、結論が覆ることはなかなかありません。同時廃止事件は裁判所が免責を許可する方向で選択した手続です。管財事件での破産管財人も免責不許可相当の意見を出すのは免責不許可事由が重大で救う方法もないような稀なケースです。あまり効果がないことを知っていてか、
金融会社が反対意見を提出してくることはまずありません。

なお、結論は変わらなくとも、場合によっては、集団免責審尋から個別免責審尋に切り替えられる、免責決定が一定期間留保されるなど対応が必要となることがあります。裁判所あるいは破産管財人から意見書の提出を求められることもあります。

免責許可申立ての裁判に対しては、利害関係人が即時抗告をすることができますから(破産法252Ⅴ)、免責許可決定に対して債権者が即時抗告を申し立てる可能性があります。即時抗告がなされると、免責許可決定は確定せず、抗告審により当否が判断されることになります。破産者の意見を抗告審に提出する必要もあるでしょう。
勿論、一度出た免責決定が覆されるのは稀なケースです。だからでしょうか、あまり利用されない印象です。

 

2. 給付訴訟、強制執行

免責許可決定が確定すると、破産者は、非免責債権を除き、破産債権についてその責任を免れます(破産法253Ⅰ本文)。ただし、非免責債権には免責の効力が及びません(破産法253Ⅰただし書)。

貸金返還請求訴訟、損害賠償請求訴訟などの給付訴訟が提起された場合、免責決定が確定していれば、請求債権が非免責債権に該当しない限り、請求が棄却される形で訴訟が終わります。
既に訴訟が提起されていたときも同様です。免責許可決定が確定し次第棄却されます。

また、強制執行がなされた場合には、破産者は、責任の消滅を理由として、請求異議の訴え(民事執行法36)を提起することになります。

非免責債権であると主張している債権者がいれば、破産手続および免責手続の終了後、貸金返還請求訴訟、損害賠償請求訴訟などの給付訴訟を提起する、あるいは既に債務名義を取得していればそれに基づいて強制執行をしてくる可能性があるでしょう。
非免責債権かどうかに争いがある場合でも、破産手続では判断してくれません。債権者から提起された給付訴訟の中で、あるいは破産者から提起された請求異議の訴えの中で、非免責債権に該当するかどうかが判断されます。

 

まとめ

1. まとめ

免責とは非免責債権を除き破産債権についてその責任を免れることです。その免責には、権利免責と裁量免責の2つがありました。
免責決定をするためには、意見申述期間が設けられます。
免責決定後、即時抗告がなされなければ確定し、免責の効力が発生します。決定から約1カ月後です。

実務上は、免責が原則、免責不許可が例外として運用されています。

債権者の意見は参考資料にすぎません。
給付訴訟、あるいは強制執行では、債権者免責許可決定が確定していれば、非免責債権でない限り、訴訟は棄却され、請求異議が認容されます。非免責債権かどうかは破産手続の中で判断してくれません。

 

2. 最後に

弁護士による破産免責の徹底解説と題して、破産免責について詳しく解説してまいりました。免責を得られない自己破産は意味がありませんね。破産の準備にあたっては、免責を得られるかどうか、何を準備すればいいのか、見通しをもって段取りを考えます。

スムーズに免責を得る第一歩は、破産手続に詳しい、経験が豊かな弁護士のサポートを得ることです。ぜひ、広島の破産弁護士である当職までご相談ください。

 

この記事を書いた人

弁護士 仲田 誠一(広島弁護士会所属) 

◆経歴
1996年4月~
あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~
東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~
広島大学大学院法務研究科
2008年12月
弁護士登録
2017年~各前期
広島大学大学院法務研究科客員准教授(税法担当)
◆資格等
弁護士
公認内部監査人試験合格
広島市消費生活紛争調停委員会委員
経営革新等支援機関(中小企業庁)
M&A支援機関(中小企業庁)
著作「自転車利活用のトラブル相談Q&A」(民事法研究会,2022)

売れない不動産の破産や再生での扱い【借金問題】

広島の弁護士による自己破産・個人再生解説です。
今回は、一般に売却することが困難な不動産が、自己破産や個人再生などでどのような扱いを受けるのか説明します。なお、自己破産、個人再生などの倒産手続は、各裁判所により扱いが多少異なります。私は広島の「倒産弁護士」(破産など倒産手続に精通し業務の柱とする弁護士)です。そのため、裁判所によって異なる点は広島地方裁判所の扱いを前提に説明しております。

目次

不動産の扱い(自己破産)
不動産の扱い(個人再生)
売れない不動産とは
売れない不動産はどうなるか(自己破産)
売れない不動産はどうなるか(個人再生)
まとめ

自己破産における不動産の扱いの基本

1.不動産がある場合は同時廃止か管財事件か

不動産があれば原則として管財事件となります。共有不動産の持分権しかない場合も同じです。
不動産がある場合の予納金は30万円が標準となります。

不動産があっても例外として同時廃止事件となるケースもあります。
同時廃止基準(同時廃止と管財事件を振り分ける基準で各裁判所が定めています。)によれば次のとおりです。

①被担保債権の残債が固定資産税評価額の概ね1.5倍以上又は業者査定価格の概ね1.3倍以上であるとき。

②不動産の性状及び立地条件に照らして明らかに売却可能性が乏しいと認められるとき。

①は、いわゆる「オーバーローン」の場合です。不動産の価値が残っていないことが明らかなケースでは同時廃止になるということです。

②が、売れない不動産ということになります。管財人に売却を試みてもらう必要はないということですね。
ただし、②は簡単には認めらません。田舎の不動産でも、共有持分権だけでも、破産管財人に売却可能性を検討してもらうため管財事件になる傾向があります。
地目では、山林や農地であれば可能性があります。宅地であればハードルは高いです。
価値が小さいと客観的に認められる、正確な位置すらわからない、売買されるような地域ではない、共有持分しかない等の事情もありますね。
裁判所は総合的に判断をします。当職の経験に基づくと、固定資産税評価が僅少で、路線価がついておらず倍率地域であるなど、価値がほとんどないことが客観的に明らかであることが疎明されているかを重視するようです。

なお、不動産を直前に売却して不動産を持っていない状態にすれば必ず同時廃止になるのかというと、そうではありません。確かに不動産があるという理由では管財事件とはなりません。しかし、売買の妥当性を検証させるために管財事件となることは珍しくありません(不動産の売買は弁護士の下で行ってください)。

2.管財事件での不動産の扱いの基本

管財事件では、破産開始決定と同時に破産管財人が選任されます。
開始決定以後は、財団(開始決定時にある自由財産以外の財産と思ってください。)の管理処分権は破産管財人に移行します。

不動産は自由財産ではありません。そのため、破産管財人は、不動産を処分しようとします。不動産が担保に入っている場合でも、担保権者が敢えて競売による処分を希望しない限り、管財人が処分をすることが基本です。

破産管財人が最終的に処分ができなかった不動産は、破産管財人が財団から放棄します。放棄された不動産は破産者の手元に戻ることになります(担保がついていれば競売あるいは任意売却により処理されます)。

個人再生における不動産の扱いの基本

1.個人再生における不動産の扱いの基本

個人再生における不動産の扱いは破産と全く異なります。個人再生では財産が処分されることはありません。
不動産は、財産のひとつとして、清算価値保障原則(破産をした場合の財産=清算価値以上の額を弁済するというルール。)とのかかわりで問題となります。

個人再生での清算価値の計算において、破産における自由財産拡張対象財産は、99万円まで控除できます。破産と平仄を合わせるためです。
不動産は自由財産拡張対象財産ではありません。不動産の価値がそのまま清算価値に加算されます。
最低弁済額が大きくなる可能性があります。弁済可能な再生計画案を作成する見込みがなくなり、個人再生を断念するケースもあります。

なお、住宅ローン付の自宅不動産がある場合、自宅を維持するために住宅資金特別条項を利用した個人再生が選択されることが多いです。その場合も、不動産価値が住宅ローンよりも大きければ、価値が超過する分(余剰価値)が清算価値に加算されます。

2.個人再生委員が選任されるか

個人再生において個人再生委員が選任されることがあります。

具体的な選任基準はありません。当職が経験した中では、破産でいう否認対象行為が目立つケース、住宅資金特別条項適用の判断が難しいケース、履行可能性その他要件を満たすか判断が難しいケース、債務が多いケース、弁護士が代理しておらず本人の手続理解が乏しいケースなどで個人再生委員が選任されます。
個人再生委員が選任された場合の追加予納金は20万円が標準です。

清算価値保障原則との関係で申立人側は不動産価値を小さく主張する傾向があります。
不動産価値の評価が難しいケースや微妙なケースでは、個人再生委員が選任される可能性が高いでしょう。

売れない不動産とは

1.売却できる不動産

不動産(特に宅地)は基本的に売却が可能と見られます。

共有不動産はどうでしょうか。他の共有者が購入するかもしれませんし、共有持分だけでも購入する業者は存在します。共有であることだけで売却ができないとは見られません。
市街化調整区域の不動産でも売却は可能です。
特殊な不動産(農地、元旅館など)でも売れないとは限りません。

なお、売却できる不動産であれば、任意売却を試みてから破産を申し立てる選択肢も出てきますね。売却代金を有用の資(破産費用、どうしても必要な生活費、引越代等)に充てることは許されます。親族に買い取ってもらうこともできますね。勿論、直前の不動産売買は弁護士の関与の下で問題なく進めなければなりません。

2.売れない不動産

上述のとおり不動産は基本的には売却可能と見られます。客観的・抽象的に不動産の売却可能性がないと説明することは意外に難しいです。

ただ、実際に売れない不動産は珍しくありません。
共有持分権は、他の共有者か特別な不動産業者しか購入しません。
農地は親族、小作人、農業委員会からの紹介者でないと売れないですね。元旅館な元ガソリンスタンドなど特殊な物件はタイミングよくニーズが存在しないと売買が長期化します。
特殊な事情がなくても、買取りニーズがない地域で値段を下げても買い手が付かないということも珍しくありません。
具体的に動いてみて売れないという不動産はけっこうあります。

売れない不動産も倒産手続では財産として見られます。どのように取り扱われるかを見ていきましょう。

破産手続で売れない不動産はどうなるか

1.同時廃止事件での扱い

売れない不動産であると申立時に認められるケースでは、同時廃止基準により、同時廃止事件になります。
もちろん、ほかに管財事件になる理由があれば別ですが。

同時廃止とは、簡単にいうと管財人報酬等手続費用を賄える財産がないから破産手続開始決定と破産手続の廃止決定を同時にする手続です。免責手続のみ残り、財産整理手続(破産管財人により管理処分手続)は省略されるわけです。
そのため、同時廃止手続では、不動産は処分されず、申立人所有のまま変わりません。

もちろん、不動産に担保がついている場合には、破産手続外で処理がなされます。担保権者による不動産担保の実行(競売です。)がなされることになります。担保権者から競売の前に任意売却の協力を乞われることもあります。

2.破産管財人の処理の目安

管財事件では、破産管財人が不動産を不動者業者を通じて売り出すのが基本です。
勿論、物件に合わせて売り方も変えます。賃借人、隣地所有者などと直接交渉することもありますし、入札により売買することもありました。

共有物件の場合は、ほぼ例外なく他の共有者(主に親族でしょう。)に買取りを打診します。
予め他の共有者に話をしておいた方がいいと思われます。
勿論、共有持分権なので売買価格は融通がききます。

破産管財人が、様々な方法で売却を試みて、それでも売却が見込めないときは、財団からの放棄を検討します。不動産が財団から放棄されれば破産者の手元に残ります。
放棄の際には、破産者から任意でいくらかの金銭を財団に組み入れてもらうこともあります。

なお、破産管財人は、年末に向けて放棄を検討する傾向にあります。固定資産税・都市計画税は1月1日の所有者名義人に賦課されるため、翌年度の税金を財団で税金を負担しないよう12月31日までの放棄を考えます。ちなみに、放棄対象が自動車であれば4月1日になります。

個人再生で売れない不動産はどうなるか

1.清算価値の算出

個人再生手続では、不動産の価値が清算価値算出の過程で問題となります(清算価値によって最低弁済額が変わりえます)。
客観的な資料を基に不動産価値を裁判所に説明します。基本的には査定書を要求されます(書面で査定をくれない業者さんも多くて査定書の取得はなかなか面倒なのですが)。

裁判所は、不動産の価値がゼロとはなかなか認めてくれません。価値がない、あるいは小さいと主張する申立人側は、それなりの資料を提出して裁判所を説得しなければいけません。価値評価に問題があるとされれば個人再生委員が選任される可能性があることは上述しました。

2.個人再生委員の意見

個人再生委員は、清算価値の算出が適切になされているかもチェックをします。
売れない不動産として価値がない、あるいは小さいと主張されているケースでは、その評価の妥当性をチェックし、追加の資料提出を求めるなどします。個人再生委員をやっていると、表紙だけの査定書、あるいは1社だけの査定書では、その評価額に納得感がないケースもあります。
個人再生委員は、場合によって、個人再生委員から清算価値算出シートの訂正や弁済計画の変更を指導します。

まとめ

1.自己破産を検討する場合

自己破産では不動産があれば管財事件になるのが基本です。
不動産があっても同時廃止事件になるケースが同時廃止基準に定められていました。ただし、「明らかに売却可能性が乏しい」と認められるのは大変です。

管財事件では原則として破産管財人が不動産の売却を試みます。共有物件の場合は他の共有者に打診がなされます。どうしても売却が見込まれないケースでは、財団から放棄され、破産者の手元に残ることになります(担保が付いている場合には担保権者との関係で処理されます)。

あなたのケースでは同時廃止事件なのか管財事件なのか、管財事件であれば破産管財人がどう不動産の売却に動いてどういう落としどころになると見込まれるか、倒産事件に詳しい弁護士と十分に打ち合わせをして準備してください。

2.個人再生を検討する場合

個人再生では不動産が処分されることはありません。不動産の価値は清算価値に計上され、最低弁済額を画することになります。不動産は破産における自由財産ではないのでその価値は清算価値に直接加算されます。

清算価値を算出する過程で、価値をゼロとする、ないし価値を小さく評価する場合では、裁判所を納得させる資料の提出を要します。不動産の評価が問題となるケースでは個人再生委員が選任される可能性があります。

あなたのケースでは、不動産の評価がどのようになされ、その結果として個人再生手続の選択が可能なのかどうか、倒産事件に詳しい弁護士と十分に打ち合わせをして準備してください。

この記事を書いた人

弁護士 仲田 誠一(広島弁護士会所属)

https://www.nakata-law.com/

https://www.nakata-law.com/smart/

◆経歴
1996年4月~ あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~ 東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~ 広島大学大学院法務研究科
2008年12月 弁護士登録
2017年~各前期 広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格
弁護士
認定経営革新等支援機関(中小企業庁)
公認内部監査人試験合格

個人再生の徹底解説

個人再生の徹底解説
広島市の弁護士仲田誠一です。今回は個人再生を徹底解説します。個人再生は自己破産と比べて技術的な要素が高いためわかりにくい制度かもしれません。
しかし、選択肢の1つとしてぜひ検討していただきたい手続です。徹底的にかつわかりやすく説明させていただきます。
ぜひ、ご参考にしてください。

目次

個人再生
選択する基準
住宅資金特別条項
小規模個人再生
給与所得者等再生
最低弁済額
清算価値
再生委員
費用
準備に関する注意点
まとめ

個人再生とは

1.個人再生手続とは

個人再生とは、裁判所から認可された再生計画に基づいて、原則3年(最長5年)の弁済期間で一定の債務(計画弁済額)を弁済し、計画弁済額を弁済し終わったところでその余の債務の免責を受けられる法的債務整理手続です。
民事再生の個人版です。
 
非免責債権を除いてすべての債務の支払義務を免れる自己破産と、元金カットがない任意整理との中間的な手段として位置づけられるでしょうか。
 
個人再生と破産の違いとしては、①個人再生には免責不許可事由がない、②資格制限がない、③財産が処分されることはない、④住宅ローンを支払い続けることができる、といったものがあります。
これらの違いにより、個人再生を選択肢に入れることによってスムーズな経済的更生に向けた解決策が生まれることがあります。
  
◆個人再生での弁済期間◆
個人再生は債務の一部(計画弁済額)を弁済していきますが、その期間は原則3年です。「特別の事情」がある場合には5年まで定めることができます。
小規模個人再生のケースでは5年間の弁済期間を定めることは比較的容易です。
これに対し、要件判断が厳しい給与所得者等再生では、ハードルが高いです。3年では弁済できない理由やそれでも履行可能性があることなどを裁判所に理解してもらわなければなりません。
 
◆弁済方法◆
再生計画に基づく弁済方法は分割です。3か月に1回以上の弁済をすることが法律上要求されます。ボーナス併用も許容されます。
当職は、例外なく、3か月に1度の均等弁済の計画案を作成しています。毎月ですと面倒ですし振込手数料もかさばります。また、変動する賞与をあてにすると怖いですからね。
 
例外として、不利益を受ける債権者の同意がある場合、少額債権、非減免債権等の支払方法を別に定めることができます。分割するまでもない少額の債権者について一括で弁済するケースが多いです。
 
なお、再生計画に基づく弁済中の繰り上げ返済ができるかという相談を受けることもあります。理屈上は、全債権者に対して一括弁済をする限りで許されます。

2.個人再生手続の種類

個人再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生という2種類の手続があります。
 
両者の大きな相違点は、最低弁済額、要件、再生計画案の決議の有無です。
 
両手続のイメージは次のとおりです。
小規模個人再生は =弁済額が小さく抑えられるが、債権者の反対があれば認可されない。
給与所得者等再生 =債権者の同意は必要ないが、要件が厳しいし弁済額が大きくなる傾向にある。

◆小規模個人再生か給与所得者等再生か◆
小規模個人再生を優先して検討するのが基本でしょう。
最低弁済額の計算方法の違いから、給与所得者等再生では、特に収入が高い、あるいは被扶養家族が少ないケースで最低弁済額がかなり大きくなります。場合によっては、個人再生を選択できない、あるいはできても意味がなくなることもあります。また、給与所得者等生死吾は小規模個人再生に比べて要件が厳しく、裁判所も厳しく見てきます(個人再生委員選任の可能性も高まります)。
ただし、小規模個人再生の選択には、債権者の構成を気にしないといけません。給与所得者等再生と違って、債権者の半数あるいは債権額の過半数を占める債権者の反対があれば再生計画が認可されません。
債権者が2社以内、あるいは飛びぬけて債権額の大きい債権者がいるなどのケースでは、債権者反対のリスクが高くなりますので、給与所得者等再生を選択することもあります。

個人再生を選択するケース

1.任意整理と法的債務整理の選択

まずは、任意整理と法的債務整理(自己破産、個人再生)のどちらを選ぶか考えないといけません。
 
任意整理は、債権者との交渉により通常3年から5年の分割弁済契約を結ぶことです。将来の利息をカットしてくれる債権者がほとんどですが、元金カットは望めません。裁判所の調停手続を利用する場合を特定調停といいます。
 
自己破産が「支払不能」、個人再生が「支払不能のおそれ」を要件としています。「支払不能」とは、期限の到来した債務を一般的・継続的に弁済できない状態をいいます。
理屈上は、「支払不能のおそれ」もないケースでは任意整理を選択することになります。ただ「支払不能のおそれ」といっても明確ではありませんね。
 
実際には、任意整理が可能かどうか検討して、可能であれば任意整理、そうでなければ個人再生か自己破産を選択する流れでしょう。
 
当職は、総債務の元金合計額を3年で弁済できるのかどうかを基準にしています。月々の平均収支を考えて、3年で支払えない、あるいは支払い続けられるか不安であるケースでは、個人再生か自己破産を選択します。
個人再生の弁済期間は原則3年であり、任意整理の支払期間も3年が標準です。そのため、3年を基準として考えるのです。
このような考え方で個人再生を申し立てて、裁判所から自己破産や個人再生を否定された経験はありません。

ぎりぎりの収支を考えてはいけません。ある程度余裕をもった数字で考えます。ボーダーラインでは、元金カットができない任意整理よりも、個人再生や自己破産を選択する方がいいケースが多いです。
債務整理をするのであれば、経済的更生を確実に図るべきです。ぎりぎりの計画では、途中で支払えなくなり失敗をするとそれまでの苦労が無駄になります。法的整理で元金をカットして生活を安定し不測の事態に備えて少しでも貯蓄ができるようにした方が適切です。

◆法的債務整理を躊躇しうるケース◆
基本は上述の基準で考えていきますが、なお法的債務整理を躊躇するケースについて何点かコメントします。
 
家族に内緒にしているというケース
法的債務整理でも家族に連絡が届くことはありませんが、同居の家族の収入証明資料(源泉徴収票、給与明細)など同居の家族の協力がなければ必要書類が用意ができないかもしれません。
それらを集めることができないという理由で任意整理を選択するケースもあります(なお、個別の事情を説明して取得できない資料の提出を免除してもらったケースも例外的にあります)。
 
保証人がいるケース
法的債務整理を行うと保証人に請求がいってしまいます。任意整理では、債権者を選ぶことができ、保証人がいる債務の整理を外すこともできます。

勤務先に対して債務がある、あるいは家賃滞納をしているケース
任意整理と異なり、法的債務整理ではすべての債権者を破産債権者あるいは再生債権者として扱わないといけません。
勤務先に対する債務がある、家賃滞納をしているケースでは、勤務先や家主を債権者として扱えないということで、任意整理を選択するケースも考えられます。
もっとも、それらを優先して弁済して完済した時点で法的整理を行う方策が可能ですので(手続上問題視されるのですが)、諦める必要はありません。

車のローンの担保になっている車(所有権留保物件)を維持したいケース
車が所有権留保物件であれば返却の必要があります(銀行ローンでは担保になっていないことが通常です)。任意整理であれば車のローンを整理の対象としなければいいだけです。
任意整理では経済的更生が難しいようなケースでは、本当に車が必要なのか考えなければなりません。経済的立ち直りと車のどちらが優先順位が高いかです。
法的整理がやはり必要でかつ車がどうしても必要なであれば、新たな車の準備の可否、親族等の援助を得て手元に残す(問題視され得る行為なので弁護士の指示にしたがって進めてもらいます)等、法的債務整理でも車が残る方策を考えます。

2.自己破産と個人再生の選択基準

法的整理手続を選択するとして、自己破産と個人再生のどちらを選ぶのかという問題が残ります。
経済的合理性の観点だけで考えると、全ての債務の支払義務を免れるメリットがある自己破産を優先するのが基本となるでしょうか。
次のような基準で決断していただければいいと考えています。
 
◆支払不能か支払不能のおそれか◆
破産の要件は「支払不能」であるのに対し、個人再生の要件は「支払不能のおそれ」です。しかし、基準としてはあまり使いませんね。程度問題ですし、多くの場合は双方に当てはまります。
 
◆住宅ローン付の自宅を維持したいか◆
住宅ローン付の自宅を維持したいケースでは、個人再生を選択し、後述の住宅資金特別条項を利用します。個人再生事件の多くは住宅資金特別条項を利用した自宅の維持を目的とするものです。
自己破産では自宅は維持できません(適正価格での親族への売却により残せるケースもなくはないですが)。
 
◆破産における免責不許可事由の程度が重いケース◆
浪費やギャンブルなど破産法で定める免責不許可事由の程度が大きいケースでは、破産を避けて、免責不許可事由がない個人再生を選択する場合があります。
破産でも免責不許可になるのはレアケースですが、リスクはあります。また、管財事件になる可能性も高まります。
なお、個人再生手続においても、免責不許可事由が偏頗弁済や贈与等無償行為などの否認相当行為にも該当するケースでは、清算価値に影響します(それでも破産手続で否認されるよりは影響を自分だけに留めるメリットがあります)。
 
◆免責決定が確定してから7年未満のケース◆
前回自己破産の免責確定から7年未満のケースでは、自己破産をすることができません。厳密にいえば免責不許可事由の1つになるのですが、このケースでは裁判所が容易に裁量免責をしてくれません。
そのため、小規模個人再生を選択します(個人再生でも給与所得者等再生は使えません)。
 
◆破産における資格制限を回避するケース◆
破産手続には、数は少ないですが、手続中に就けない職業があります(「資格制限」といいます)。警備員、保険外交員、証券外務員、宅建主任者、旅行業務取扱主任者、マンションの管理業務主任者などです。
これに対し、個人再生は資格制限がありません。資格制限を避けるために個人再生を選択するケースがあります。
 
◆処分されたくない財産があるケース◆
個人再生では、財産は処分されません。財産額(清算価値)が最低弁済額に影響を与えるにとどまります。車、保険、不動産を残したいという目的で個人再生を選択することもあります。もっとも、清算価値が大きいケースでは、最低弁済額が大きくなり、個人再生の選択ができない可能性もあります。
もっとも、破産においても、本来的自由財産及び自由財産拡張対象財産は手元に残ります。
 
◆車を残したい◆
ローンの付いていないあるいは完済した車は、個人再生では確実に残せます。価値が最低弁済額に影響を与えるだけです。
破産でも初年度登録から6年経過している車は原則残せます。
クレジット会社の所有権留保物件になっている車はどちらの手続でもクレジット会社へ返却が必要です。普通自動車は、所有者名義の登録状況や契約形態によって返却すべきでないケースもありますので、車検証の写しと契約書を弁護士に提出して確認してもらった方がいいです。
なお、銀行のマイカーローンは所有権留保物件になっていないのが通常です。
 
◆勤務先に対する債務があるとき◆
債権者はすべて破産債権者あるいは再生債権者として扱わなければなりません。勤務先に借金(名目は借金ではなくても債務があれば同じです。給与明細を確認してもらってください。)があるときは、申立て前に優先弁済する決断をするケースもあります。破産でいう免責不許可事由と否認対象行為に該当します。そのようなケースでは、個人再生の方が無難かもしれません(破産を利用できないというわけではありません)。免責不許可事由がないですし、否認対象行為も清算価値に計上するだけで済みます。
 
◆家賃滞納があるとき◆
家賃滞納があるケースでは、免責不許可事由と否認対象行為に該当することを覚悟して優先して滞納を解消してから自己破産を申し立てるケースもありますが、個人再生の方が無難な方法かもしれません。免責不許可事由がないですし、否認対象行為と見られても清算価値に計上するだけで済みます(破産を利用できないというわけではありません)。
 
◆自己破産を望まれるケース◆
個人再生を選択して少しでも債権者に弁済したいというご意向を尊重するケースも多くあります。自己破産を潔しとはしない方です。
ただし、職業が不安定なケースや、弁済期間が5年にしなければならないケースでは、お勧めしません。途中で弁済できなくなると水の泡になりますし、5年後に全く貯蓄がないという状況は好ましくないです。

住宅資金特別条項

1.住宅資金特別条項とは

住宅資金特別条項は、個人債務者が住宅を手放すことなく経済的更生を図ることを可能とするため、住宅ローンの返済を継続しながら住宅を維持しつつ、他の債務を圧縮して原則3年で弁済できるようにする制度です。住宅ローン特則とも呼ばれます。
 
住宅資金特別条項の利用には、担保が付いているのが「住宅」であり、対象のローンが「住宅資金貸付債権」でなければなりません。
 
「住宅」と認められる条件は、
①所有する建物であること
②自己の居住の用に供する建物であること
③床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されること
です(複数建物がそれらを満たす場合には主として居住の用に供する建物でなければいけません)。
 
この3つの要件を充たす限り、店舗兼居宅、二世帯住宅でもかまいません。
必ずしも単独で所有している必要はなく、共有の不動産でも対象になります。
 
「住宅資金貸付債権」と認められる条件は、
①住宅の建設・購入あるいは住宅の改良に必要な資金の貸し付けであること
②分割払いの定めがあること
③債権または保証人(保証会社)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されていること
です。
この3つの要件を充たす限り、借り換えローンやリフォームローンでもかまいません。抵当権ではなく根抵当権でもかまいません。
 
通常の住宅ローンですと、「住宅」、「住宅資金貸付債権」とも上述の条件を満たしますね。
 
住宅資金特別条項には、①期限の利益回復型、②リスケジュール型、③元本猶予期間併用型、④同意型・合意型の4つの種類がありますが、そこまで気にしなくてもけっこうです。
住宅ローンの期限の利益を喪失していなくて、そのまま約定の弁済を続ける最も多いケースを「約定型」あるいは「そのまま型」と呼んでいます。

保証会社が既に代位弁済をしていても利用できます(「巻戻し」)。ただし、保証会社による代位弁済から6か月以内でなければならない等条件があります。利息損害金等の費用負担も問題となります。
抵当権が実行され競売を申し立てられているケースでは、競落されてしまうと住宅資金特別条項が利用できなくなりますので、中止命令申立てが必要です。
 
借入が住宅ローンだけのケースでも住宅資金特別条項を利用した個人再生が可能です。
 
仮に住宅資金特別条項が利用できないときは、別除権協定を債権者と結んで住宅を残す方法も理屈上は考えられますが、実際上はなかなか難しいです。

2.住宅資金貸付特別条項が利用できるか問題となるケース

住宅資金特別条項が利用できるかどうかの判断は技術的で難しい場合がありますので、弁護士に確認してもらってください。
弁護士に相談される際には、①住宅ローンの契約書、②不動産の登記簿謄本、③固定資産課税明細書、④返済予定表をお持ちください。
 
住宅資金特別条項が利用できるか問題となる具体的な例についていくつかコメントをいたします。
 
◆オーバーローンではないケース◆
住宅資金特別条項は、自宅不動産がオーバーローン状態(不動産価値よりも抵当権の被担保債権の方が大きい状態)でなくとも利用できます。
ただし、余剰価値(不動産価値マイナス抵当権の被担保債権)は、清算価値に計上しなければいけません。余剰価値が大きいと、最低弁済額が大きくなりすぎます。
 
◆賃貸に出しているケース◆
賃貸している不動産については、自己の用に供する建物ではないとして住宅資金条項が使えないのが原則です。
しかし、転勤の期間を利用するなどして一時的な賃貸借をしており、将来的に居住の用に供すると客観的に認められるケースでは、住宅資金特別条項の利用が可能です。
 
◆他の担保が付いているケース◆
自宅不動産に住宅ローン以外の担保権が付いていたら住宅資金特別条項が利用できません。債権者間で不公平が生じるからです。
同じ理由で、滞納処分による差し押さえがなされている場合も利用できません。完済する、課税庁と協議が成立しているケースでは例外が認められ得ます。
 
◆諸費用ローンがあるケース◆
住宅ローンと同時に諸費用ローンを組み、自宅不動産に抵当権を付けているケースでは、理論上は住宅資金特別条項が利用できないのが原則です。
しかし、諦める必要はありません。
運用上は、
①住宅の建設もしくは購入に密接に関わる資金の借入れであること
②諸費用ローンの額が住宅資金に比べて僅少であること
をきちんと説明できるケースでは、諸費用ローンを住宅資金貸付と扱ってくれる傾向にあります。
②は通常満たしますね。住宅ローンの1割程度が諸費用ローンの金額のはずです。①は、諸費用ローン契約書の資金使途欄の記載や領収書にて、登記費用、仲介手数料、税金、火災保険料等住宅の建設もしくは購入に密接に関わる資金であったことを説明すれば大丈夫です。
ただし、諸費用ローンを住宅資金貸付と認めるのは例外的取り扱いなので、個人再生委員が選任される可能性が高いと思われます。
 
◆夫婦ABが同時に債務整理しなければならないケース◆
夫婦ABが同時に債務整理をしつつ自宅を維持したい場合には気を付けないといけません。場合によっては自宅の維持に支障があります。
不動産所有者名義(単独所有か共有か)と住宅ローンへの関わり合い(連帯債務者、連帯保証人か)でパターンを分けて説明します。
 
①Aが所有者兼債務者でBが住宅ローンに関与していない
通常のケースです。BがAの住宅ローンの連帯保証人や連帯債務者ではない、かつ不動産の所有権持分ももっていないケースです。
Bの債務整理がAの住宅ローンに影響を与えることはありません。単純に住宅ローン債務者であるAが住宅資金特別条項を利用して個人再生を進めます。
Bは自己破産でも個人再生でもかまいません。
②Aが所有者兼債務者でBが連帯保証人
住宅ローン債務者であるAは住宅資金特別条項を利用して個人再生ができますが、所有者ではない保証人のBは住宅資金特別条項を利用できません。
ここで困ることがあります。保証人の自己破産、個人再生申立ては住宅ローンの期限の利益喪失事由に挙げられています。
Bが個人再生あるいは自己破産をすることによりAの住宅ローンの期限の利益が喪失されないように、住宅ローン債権者との交渉が必要になります。多くの債権者は期限の利益を喪失しない扱いにしてくれるとは思います。
③Aが所有者兼債務者でBが住宅ローンの連帯債務者
所有者であるAしか住宅資金特別条項が利用できません。
Bが自己破産なり個人再生なりを選択するのであれば、上述の連帯保証人のケースと同じような交渉が必要です。
④不動産はAB共有、Aが債務者、Bが連帯保証人
このケースでは、ABが同時に個人再生を申し立てる場合に限って、夫婦ともに住宅資金特別条項が利用できるとされています。Bは所有者でありますが、保証債務履行請求権は住宅貸付金に該当しません。同時に申し立てる場合に限って利用が許される所以です。
⑤不動産はAB共有、ABが連帯債務者
登記簿の乙区を確認してください。住宅ローンの抵当権の債務者の記載として夫婦AB両名が記載されていれば問題なく住宅資金特別条項の利用ができます。不動産が夫婦共有の場合はこのケースが多いと思います。抵当権の債務者の記載がズレているケースは債務者としての記載のない配偶者は利用できないことになります。
⑥不動産はAB共有、ABが個別に住宅ローンを負担
夫婦がそれぞれ個別の住宅ローンを組んでいるケース(ペアローン)は、ABのそれぞれの住宅ローンについて各ABを債務者とする抵当権が設定されていれば、住宅資金特別条項が利用できます。ただし、このケースでもABが同時に個人再生を申し立てる必要があります。
 
◆住宅ローン債権者に他の借入れもあるケース◆
住宅ローンを借りている銀行に、銀行カードローンなどの他の借金もあることは多いです。
このようなケースでも住宅資金特別条項を利用して、住宅ローンのみ支払いを継続することはできます(他のローンは再生計画に基づいてその一部を支払うことになります)。
もっとも、受任通知が届くと引落口座を凍結されると思いますので、返済方法を銀行と協議する必要が出てきます。

小規模個人再生

1.小規模個人再生の要件

小規模個人再生を利用する要件は次のとおりです。
勿論。個人再生ですから、個人であることが条件となっています。
 
◆手続開始要件◆
①支払不能のおそれがあること
②申立てが適法であること
③民事再生法25条所定の棄却事由がないこと
④将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあること(収入要件)
⑤負債総額が5000万円を超えていないこと
 
③は、主に再生計画の立案あるいは可決の見込みがあることが要求されます。特に履行可能性が問題になると思ってください。きちんと計画どおり弁済していける見込みがあるのかということです。
⑤では、住宅資金特別条項の住宅資金貸付(住宅ローン)の金額は外して計算します。
 
◆認可要件◆
再生計画が認可されるための認可要件として、債権者の消極的同意が必要です。そのため、書面決議手続があります。
具体的には、書面決議により、再生債権者の頭数の半数以上の不同意、あるいは基準債権額(議決権の額)の過半数となる債権者の不同意があると、再生計画案が否決されます。手続もそのまま廃止されることになります。
債権者が2社以内のケース、過半数の債権額を占める債権者がいるケースでは、1社でも反対をすれば再生計画が認可されませんので小規模個人再生の選択も慎重になり、給与所得者等再生の選択も検討します。
 
◆派遣社員、契約社員、アルバイト、年金生活者◆
継続的な就労実態がある限り、たとえ勤務先が変わっていたとしても、「将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込み」(収入要件)を満たすと認められます。年金生活者もまた利用可能です。
給与所得者等再生と違って、小規模個人再生では緩く認めてくれる傾向にあります。
 
◆家族の収入や親族からの援助◆
本人について将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあることの要件を満たせば、履行可能性については配偶者などの収入を入れた家計収支で判断します。
親族の援助も確実に見込まれることが疎明できれば加味してもらうことは可能です。
 
◆専業主婦・専業主夫◆
継続収入の要件を充たさないために個人再生を利用することはできません。
 
◆再生中に退職予定の場合◆
転職先が確実に見込まれているときは可能です。
なお、退職金が出る場合には最低弁済額が大きくなってしまいます(手続中に支給されるケースで4分の1評価が可能であったケースがあります)。
 
◆債権者の反対◆
債権者の反対の可能性は高くはありません。従前は、公的金融機関以外はよほどのことがない限り反対をしてきませんでした。反対しても自己破産を選択されてしまうと経済的合理性がありません。
しかし、最近は、ケースバイケースの判断で、あるいは会社の方針として、反対する債権者が増えてきているような気がします。勿論、反対をしてこない債権者が大多数であることは変わりありません。
 
◆不認可となったら◆
債権者の反対により再生計画が不認可となっても失敗だと諦めてはいけません。手続廃止を待って、すぐに自己破産あるいは給与所得者等再生を申立てます。
弁済率を上げれば債権者が賛成するという見込みがあれば、交渉の上、小規模個人再生の形で再度申立てをすることもあり得ます。

2.小規模個人再生の流れ

広島地方裁判所本庁における小規模個人再生の流れは次のとおりです。わかりやすくするために細かい手続は捨象しております。
 
なお、個人再生委員が選任されない多くのケースでは、弁護士が代理する限り、ご本人が裁判所に行くことは原則ありません。例外的に事情を確認のために呼び出されることがあるだけです。
 
①受任通知の発送
契約後、債権者に受任通知を発生します。弁済はストップいたしますが、住宅資金特別条項を利用するケースでの住宅ローンは引き続き弁済してもらいます。
受任通知の発送により、借入れをしている銀行の口座が凍結されることにご注意ください(保証人の口座も凍結されます)。
 
②申立準備
個人再生では家計収支表を3か月分提出しないといけません。自己破産よりも1か月分多く、準備期間を3か月から4カ月とることが多いです。
また、個人再生を選択するケースでは収入が相応にあり法テラスを利用できないケースも多いです。弁護士費用の分割払いをしている期間が長くなれば準備期間も長くなります。

③申立て
住所地(住民登録地と居所が別の場合には居所が優先)を管轄する地方裁判所に個人再生手続開始を申し立てます。
申立て後、1~2週間で、裁判所から補正連絡(宿題のようなもの)が来ることが多いです。
なお、履行可能性を確認するために必要とされる「試験積立」を開始するタイミングも申立て時が多いです。
 
④手続開始決定
補正連絡(裁判所からの宿題)に対応し予納金を納めれば開始決定が出ます。裁判所から債権者に対して債権届の提出を求めます。
個人再生委員が選任されるケースでは、予納金を納付したタイミングで個人再生委員が選任され、選任後3週間を目途として開始要件に関する意見書が出された後に開始決定が出ます。
 
⑤報告書、計画案の提出
財産状況報告書、再生計画案、返済計画表の提出期限が開始決定の2か月後程度に設定されます。
試験積立通帳の写しは必ず、裁判所の指示があれば家計収支表も一緒に提出します。
 
⑥書面決議
報告書等提出後1週間程度で書面による決議に付する決定が出ます。回答書提出期限は1月弱でしょうか。
個人再生委員が選任されているケースでは、意見書の提出に2週間ほどかかります。
 
⑦再生計画の認可・不認可
回答書の提出があり、再生債権者の頭数の半数以上の不同意、あるいは基準債権額(議決権の額)の過半数となる債権者の不同意がない限り、裁判所が再生計画の認可決定を1週間以内に出してくれます。
 
⑧弁済開始
再生計画の認可決定が確定したら、再生計画に基づいた弁済の開始です。再生計画認可の翌月末から弁済が開始するイメージでいいと思います。
 
◆申立て~認可決定の期間◆
スタンダードでなケースで5カ月程度だと思ってください。弁済開始までは6か月前後ですね。個人再生委員が選任されるケースでは1か月程度長くなります。
広島地方裁判所本庁では、開始決定が出ると今後の手続の予定を書いたスケジュールをもらうことができます。

◆弁済ができなくなったとき◆
再生計画の履行の見込みがないと再生計画は認可されませんが、その後の失業などで再生計画案に基づく弁済ができなくなるケースもあります。債権者が再生計画取消を裁判所に申立て、取消し決定が出てしまうと、失敗に終わります。
これまでの苦労も水の泡になってしまい、改めて自己破産を申し立てざるを得ないことが多いでしょう。数日の遅れなら何とかなりますが、遅れが続くようでしたら、早めに相談してください。

給与所得者等再生

1.給与所得者等再生の要件

給与所得者等再生は、小規模個人再生の特則と位置付けられています。小規模個人再生の特則ですので、前述の小規模個人再生の手続開始要件を満たしていることが前提です。
 
小規模個人再生と違い、再生債権者による書面決議が必要ありません。債権者の意見は聞かれずに、裁判所がOKを出したら再生計画が認可されます。
再生債権者の書面決議を不要とする代わりに、要件が加重され、最低弁済額の計算も異なるという仕組みです。
それらを要件を充足するかの意見をもらうため個人再生委員が選任される可能性が高まります。
 
◆加重される要件◆
「給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり、収入の変動の額が小さいと見込まれること」が必要です。
将来において継続的・反復的に収入を得る見込みがあることが小規模個人再生よりもかなり厳しく吟味されることになります。
原則として過去2年間で給与収入の額に5分の1以上の変動がないことが要求され、もし変動があれば今後の変動が小さいと見込まれる事情の説明が必要です。
 
また、破産免責決定の確定、給与所得者等再生計画認可決定の確定、あるいはハードシップ免責再生計画認可決定の確定から7年を経ていることが必要です。
それらから7年未満のケースは、小規模個人再生を選択します。
 
さらに、個人再生では再生計画が遂行される見込みがないときは再生計画が認可されません。この再生計画の履行可能性をかなり厳しく吟味されます。給与所得者等再生では債権者の意見を聴かずに認可の決定をするためです。
小規模個人再生では書面決議の結果認可できるときは例外なく認可されます。
 
◆最低弁済額の計算方法◆
給与所得者等再生では、再生計画において計画弁済額を定める際の最低弁済額が小規模個人再生と比べて厳しくなっております。
生活保護基準に従って計算した可処分所得の2年分以上であることが要求されます。収入と被扶養者の数によっては、可処分所得が大きくなりますので、独身者や収入が多い方は選択ができないケースもあります。
詳細は後述いたします。
 
◆個人事業主◆
給与所得者等再生といっても、給与に準じる定期的な収入があればいいわけです。個人事業者であっても、安定的な収入が見込まれる限りで給与所得者等再生の利用も可能です。
 
◆派遣社員、契約社員、アルバイト、年金生活者◆
将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあること(収入要件)を満たし、かつ収入の変動幅が小さいと見込まれる場合には、給与所得者等再生も選択可能です。
裁判所からは厳しく吟味されますが。年金生活者もまた利用可能なケースがあります。

2.給与所得者等再生の流れ

基本的には小規模個人再生の流れと同じ流れですのでそちらをご参照ください。

ただし、給与所得者等再生では、書面決議が必要ありません。
また、個人再生委員が選任される可能性が相対的に高いと思ってください。

再生弁済額

1.最低弁済額とは

個人再生は、計画弁済額を原則3年、最長5年で、弁済する再生計画を策定しますが、計画弁済額を定める際の下限が最低弁済額です。再生計画には、最低弁済額以上の計画弁済額を定めます。
 
最低弁済額をそのまま計画弁済額とすることが多いです。もちろん、それを上回る計画弁済額を定めることもあります。一部の債権者の中には弁済率の大小を反対するかしないかの判断にするところもあります。
 
小規模個人再生と給与所得者等再生では最低弁済額の計算方法が違います。再生債権者の書面決議が必要にもかかわらず小規模個人再生の利用が圧倒的に多いのはこの理由によります。

2.最低弁済額の計算

最低弁済額の計算方法はややこしいです。

財産があまりなく、住宅ローン以外の借金も1500万円以下という最も多いケースでは、小規模個人再生では100万円と債務の5分の1(80%カット)の大きい方の額、給与所得者等再生では可処分所得によりそれが大きくなりうる、とイメージしてください。
詳しくは次のとおりです。

◆小規模個人再生の最低弁済額◆
小規模個人再生の最低弁済額は、
①財産評価額(清算価値)
②基準債権から計算される最低弁済額(総債務の一定割合)
の大きい方の金額になります。
 
①まず、清算価値保障原則があります。財産財産(清算価値)以上の計画弁済額を定めないといけません。自己破産をする場合よりも多く弁済しなさいということです。
そのため、清算価値の考え方は破産手続とほぼ同様になります。詳しくは後述します。
 
②次に、基準債権から計算される最低弁済額は、次のとおりです。
基準債権額100万円以下・・・・その額
基準債権額の500万円以下・・・100万円
基準債権額1500万円以下・・・基準債権の5分の1
基準債権額3000万円以下・・・300万円
基準債権額5000蔓延以下・・・基準債権の10分の1
 
基準債権額には、未払利息・遅延損害金も入ります。手続が遅れるとだんだん大きくなっていきますので、気を付けてください。
基準債権には、住宅資金特別条項を利用する場合の住宅ローン債務額は入りません。
 
例えば、基準債権が600万円、清算価値が110万円であれば、基準債権から計算される最低弁済額120万円の方が清算価値より大きいですから120万円が最低弁済額です。
基準債権が500万円、清算価値が150万円ですと、基準債権から計算される最低弁済額100万円よりも清算価値の方が大きいですから、最低弁済額は150万円になります。
 
◆給与所得者等再生の最低弁済額◆
給与所得者等再生の場合には、
小規模個人再生における
①財産(清算価値)、
②基準債権から計算される最低弁済額
のいずれか大きい金額という計算に加えて、
③最低弁済額が可処分所得の2年分以上であること、
も要求されます。
可処分所得は裁判所の書式である可処分所得算出シートに基づいて計算します。

可処分所得は、【手取り収入額-費用額】です。
「手取収入額」は、総収入から所得税額・住民税額・社会保険料額を控除して算出します。それだけしか控除できません。計算には過去2年分の源泉徴収票(あるいは確定申告書)、市県民税課税台帳記載事項証明書が必要になります。
「費用額」は実額ではありません。個別の事情にかかわらず、再生債務者の収入と年齢、被扶養者の数と年齢から、機械的に算出されます。生活保護基準がベースになっております。通常は、実際にかかっている費用よりも小さい数字になります。
 
実際に計算してみると、可処分所得の2年分がかなり大きくなることも多いです。収入が相応にあり、被扶養家族が少ないあるいは独身者のケースですね。

清算価値

1.清算価値とは

小規模個人再生でも給与所得者等再生でも、計画弁済額を定める際は、清算価値を上回るように定めなければいけません。清算価値保障原則です。
 
清算価値保障原則は、自己破産との均衡を図るためのものです。
そのため、清算価値の計算においては、
・基本的に破産の場合の財産評価方法によります。
・破産における自由財産拡張相当の財産99万円までを控除することができます。
・破産における否認相当行為がある場合には清算価値に計上します。
 
手続的には、裁判所の書式である財産目録兼清算価値算出シートに従い清算価値を算出するようになっています。

2.清算価値の注意点

清算価値の計算は、基本的には破産の場合の財産評価方法に従いますので、ここではいくつかコメントするに留めます。
評価方法や計算方法は専門的なため、弁護士の指示にしたがって資料を提出していただき、弁護士が計算することになります。
 
◆破産における自由財産◆
個人再生では破産における自由財産は清算価値に計上しません。自由財産には、本来的自由財産と拡張手続を経たそれ以外の自由財産があります。
 
本来的自由財産である現金と自由財産拡張の対象となる財産のうち全体で99万円までが清算価値から控除できるとイメージしてください(例えば300万円の財産価値があっても清算価値は201万円になりうる)。
 
本来的自由財産は、破産法で定められた自由財産で、99万円以下の現金及び差押え禁止財産が本来的自由財産だと考えてください。
差押え禁止財産の主なものは次のとおりです。差押え禁止財産はそもそも清算価値に計上しません。
・生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用品等(通常の家財一式)
・退職金の4分の3
・小規模企業共済
・中小企業退職金共済、建設業退職金共済
・確定拠出年金
 
自由財産拡張は自由財産の範囲を本来的自由財産以外の財産まで拡げる手続ですが、その自由財産拡張対象となる財産について、現金を含めての99万円の範囲で清算価値から控除することができます。
経済的更生に必要・相当と認めてくれない財産は自由財産拡張の対象となりません。不動産、株式、債権、投資信託などが典型です。車については、実用車は対象ですが、趣味のための車は対象外です。それらの判断をしないと清算価値は計算できないことになります。
 
◆退職金の評価◆
退職が差し迫っている例外的なケースを除き、自己都合退職した場合の支給見込額の8分の1が財産額として評価されます。仮に退職が決まっているが受取前という段階まででしたら、差押え財産との関係で4分の1の評価まで抑えることができます。
これに対し、中小企業退職金共済(中退共)、小規模企業共済は、退職金と類似のものですが、法律上差押え禁止財産ですので財産とはみなされません
 
◆保険の評価◆
解約返戻金額が評価額となります。契約者貸付を受けている場合には同貸付金を控除した金額になります。解約をしたら現金預金での評価です。
確定拠出年金は本来的自由財産でありカウントされませんが、年金保険は評価の対象です。
 
◆破産における否認対象行為があるとき◆
破産における否認対象行為(一定の時期における贈与等無償行為や偏頗弁済など)があるときは個人再生手続においても清算価値に影響します。
破産において破産管財人が否認権を行使して財団に取り戻すべき財産の評価額を、清算価値に計上する扱いになります。例えば、申立て直前に100万円贈与したのであればその100万円が現在のこっているものとして清算価値に加えるのです。これも破産との均衡を図るためです(清算価値保障原則)。
免責不許可事由の程度が大きいため個人再生を選択しても、それが否認対象行為にもあたる場合にはその分清算価値が大きくなります。
 
◆共済借入があるとき◆
共済借入は個人再生開始決定が出るまでは給与天引きを止めないことがほとんどです。偏頗弁済としての否認相当行為として、受任通知後の弁済額を清算価値に計上するのが通常です。早めの申立てが必要なケースがあります。
 
◆交通事故の被害者◆
損害賠償金が入金されていれば、現金あるいは預貯金として財産評価されます。
そうでない場合には、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料という一身専属性が認められる慰謝料請求権とそれ以外の財産的損害を填補する損害賠償請求権に分けて考えます。
前者は金額が確定しない限りは財団債権に属さないとされているので確定しない限り清算価値に計上しません。
後者の財産的損害に基づく損害賠償請求権は、財産として評価されます。治療費、介護費用、入院雑費については自由財産拡張対象財産としてその範囲で清算価値から控除することができます。
 
◆試験積立金◆
個人再生では履行可能性を判断するために、弁済計画に基づいて想定できる月額弁済金相当を通帳に積立ていただき、裁判所に再生計画等と一緒にその通帳写しを提出します。それを試験積立てと呼びます。履行テストですね。
試験積立金は再生計画認可決定が確定次第、引き出す等して再生計画に基づく弁済に使ってもらいます。
再生開始決定までの試験積立金は清算価値に計上することになっていますので、当職は申立て後に試験積立てを開始してもらうことが多いです。

個人再生委員

1.個人再生委員とは

裁判所が必要と判断するケースで個人再生委員が選任されます(全件について選任する運用をしている裁判所もあります)。個人再生委員には弁護士が選任されます。
 
個人再生委員の仕事は、
①再生債務者の財産及び収入状況の調査
②再生債権につき適法な評価申立てがあった際の裁判所の補助
③再生債務者が適正な再生計画案を作成するために必要な勧告の実施
のうち裁判所が指定する職務を行うとされています。
といっても、手続全般に関してサポート、監督をするイメージです。
 
主に、
将来おいて継続的または反復して収入を得る見込み
破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれ
再生計画案の作成若しくは可決の見込みまたは認可の見込みがないことが明らかではないか(財産状況、清算価値保障原則、履行可能性)
をチェックすることになります。
 
個人再生委員は、破産手続の破産管財人と違って財産の管理処分権を有しませんし、調査権限も再生債務者を通じた間接的なものです。
個人再生委員が再生開始の適否等を判断するのに必要な資料が提出されないことによる不利益は再生債務者が負担しますので、個人再生委員から求められた報告や書類はきちんと提出するようにしなければいけません。
 
個人再生委員が選任されることになると、裁判所への予納金が20万円程度高くなります。
 
個人再生委員の意見書(開始要件)の提出スケジュールが選任後3週間と、上述のような点を全て調査しなければならないことを考えると非常にタイトです。個人再生委員選任前に資料の提出などをお願いされることが多いでしょう。
 
開始決定後では、家計収支表の継続提出と試験積立口座の継続的な提出をお願いされるでしょう。個人再生委員は、その上で、再生計画案及び弁済計画表の作成指導をします。

2.個人再生委員が選任されるケース

広島地方裁判所本庁では必要があると裁判所が判断するケースのみ個人再生委員が選任されます。個人再生委員が選任される可能性があるケースでは追加予納金20万円程度の用意も考えておかなければいけません。
 
当職は個人再生委員を拝命することも多いですが、その経験から言えば、次のようなケースで選任される傾向です。
 
◆本人が再生手続をよく理解していないと判断されるケース◆
本人申立てや司法書士が書面作成代理をする案件で、本人が再生手続をよく理解していないと裁判所が判断したケースです。弁護士代理案件では弁護士が代理人として裁判所に対応しますのでこのようなことは起きません。
 
◆裁判所からの補正要請に十分に対応していないケース◆
申立てをすると、裁判所から必要書類の不備の追完を指示されたり、問題点を指摘されて報告を求められたりします。そのことを補正連絡といいます。補正連絡にきちんと対応しなければ、個人再生委員が選任される傾向にあります。
 
◆住宅資金特別条項の適用要件を充たすか検討が必要なとき◆
住宅資金特別条項を利用する場合、不動産の価値の算定や諸費用ローンがある場合などの要件を充たすのか問題が生じることがあります。その判断のために個人再生委員が選任されることがあります。
 
◆開始要件や清算価値に疑義が生じ得る案件◆
収入要件を充たすかどうかや清算価値の計算方法などに疑義が生じるケースでは個人再生委員が選任されます。
 
◆破産における否認対象行為があるケース◆
破産における否認対象行為がある場合には清算価値に計上しなければならないのですが、その評価のために個人再生委員が選任される可能性があります。
 
◆別除権協定を締結する場合ケース◆
別除権協定を締結する場合には個人再生委員が選任されます。別除権協定を締結するケースはレアですので、あまり気にしなくてもいいです。

個人再生の費用

1.個人再生の費用

個人再生に必要な費用としては、弁護士費用と裁判所への予納金、予納郵券が挙げられます。

◆相談料◆
当事務所では借金問題の初回相談料は無料とさせていただいております。お気軽にご相談ください。
 
◆弁護士費用◆
着手金が必要です(成功報酬金をとる事務所はあまりないと思います)。少額の実費を請求されることもあります。
着手金の相場は広島では33万円から38万5000円(消費税込)前後でしょうか。
当事務所では、原則として27万5000円(消費税込)で対応させていただいておりますが、ご事情により増減させていただくこともあります。
当事務所は比較的安い設定と言われることがありますが、弁護士は金額だけで選んではいけません。
 
◆法テラス◆
弁護士費用は法テラスの民事法律扶助制度を利用してご準備いただくことも多いです。弁護士費用を立て替えてくれ、毎月5000円からの分割で償還していきます。債権者の数にもよりますが20万円からの安価な設定となっております。自己破産よりも設定金額が高めとなっている理由は、手続が煩雑なためでしょうか。
法テラスへの利用は家計収入が一定未満であること、財産が一定額未満であることが必要です(資力要件)。申請は弁護士事務所を通じて行いますので、要件に該当するかどうかどうかや必要書類の用意は弁護士にお尋ねください。
なお、法テラスの無料法律相談も同一案件3回まで利用できます。
 
◆予納金等◆
個人再生委員が選任されないケースでは、債権者の数にもよりますが、予納金及び予納郵券で30,000円ほどお預かりしております。余った分はご返却しています。
個人再生委員が選任されるケースでは、予納金が20万円程度余分にかかると思ってください。個人再生委員の報酬分予納金が高くなります。

2.費用の準備

費用の準備の方法も弁護士とよく相談しないといけないことです。
 
法テラスの民事法律扶助を利用しないケースでは、分割払いにも応じております。個人再生のケースでは、借金の弁済をストップしている間に、個人再生をしたと仮定して想定される月当たりの弁済額を毎月お支払いいただいて、試験積立ての代わりにすることが多いです。約束どおりお支払いできないかったケース、あるいは支払いが厳しかったケースでは、自己破産へ方針を変更することも検討します。
 
また、資産処分により弁護士費用、申立て費用を用意することも自己破産と同様に許容されています。
 
個人再生委員が選任される可能性があるケースでは、予納金の準備も考えなければなりません。準備中に用意してもらいますが、用意できる目途がたつまで申立てを遅らせるケースもあります。
 
費用の準備の方法や時期は、個々の事情に応じて申立てのタイミングを図りながら考えないといけません。弁護士によくご相談ください。

準備の注意点

1.弁護士のサポートが必要

個人再生の申立ては技術的な面が多いため、専門家のサポートが必要になります。
 
個人再生のサポートには、個人再生手続は勿論、清算価値等で考え方の重なる破産手続にも精通してなければいけません。個人再生や破産を表からも裏からも見ることができる破産管財人や個人再生委員の経験も重要です。
破産管財人、個人再生委員は弁護士が担っています。弁護士のサポートを受けるべきでしょう。
 
また、自己破産と同様、個人再生申立代理人となれるのは弁護士だけです。諸手続について代理しあるいは同席できるのは弁護士ですので、やはり弁護士のサポートを受けるべきでしょう。
 
破産、個人再生に精通し経験豊富な弁護士であれば、ご相談内容に応じて、任意整理、個人再生、自己破産等のどの債務整理手続が適切なアドバイスができますし、問題となり得る点を想定して法的な対応を検討・整理できます。
弁護士ならだれでもいいというわけではありません。準備や組立ての巧拙が、後の個人再生手続での手続進行や解決に直結します。個人再生委員の選任の有無にも関係してきます。
 
弁護士に相談される際には、細かいことでもどんどん質問してください。役に立つ弁護士であれば、具体的な回答やアドバイスがもらえるはずです。
 
当職は、破産や再生事件を業務の柱の1つとして倒産法制に精通し破産管財人等の経験も豊富な「倒産弁護士」の一人であると自負しております。
個人再生についても広島において最も多くの申立代理人や個人再生委員をしている弁護士の1人だと思います。
ぜひ、当事務所にご相談ください。一緒に解決策を探していきましょう。

2.準備の注意点

個人再生の準備における注意点は必要書類を含めて自己破産の準備の注意点と重なります。ここでは、個人再生特有の注意点を中心にいくつかコメントいたします。
 
◆受任通知◆
個人再生においても受任通知を借り入れのある銀行に発送すると銀行口座が凍結されます。残高がある場合には相殺もされてしまいます。保証人の口座も同様ですのでご注意を。
借入のある銀行に給与口座、年金口座がある場合、変更できたことを確認できてから受任通知を発送します。
住宅ローン債権者である銀行に他の借入れがあるケースでは、住宅ローンの返済方法を銀行と協議をして住宅ローンのみ返済を継続します。
 
◆自己破産か個人再生の選択は申し立て直前まで変更できる◆
方針は申立て直前まで変更可能です。個人再生の申立準備期間は、本当に個人再生が可能か見極める期間でもあります。家計収支表の作成をしながら、あるいは費用を分割でご準備されながら家計をチェックした結果、個人再生に必要な弁済原資が確保できそうもなく自己破産に変更するということがあります。
 
◆試験積立◆
当職は試験積立を申立て後にしていただいております。開始決定前の試験積立金額は清算価値に計上されるからです。また、再計計画に載せる計画弁済額は準備が進まないと正確に把握できないという理由もあります(弁済のテストですので再生計画認可後に想定される金額を積み立ててもらいます)。
 
◆住宅資金特別条項の利用を考えている場合◆
相談時には、住宅ローン契約書、不動産登記簿謄本、固定資産課税明細、住宅ローンの残高が分かる資料をお持ちください。事前に近くの不動産業者にだいたいの相場を聞いてみることもできれば有用です。
申立て時には、原則として不動産業者の査定書が要求されます。取得できなければ弁護士に相談してください。銀行発行の住宅ローンの残高証明書も必要になります。
 
◆租税公課の滞納◆
租税公課の滞納がある場合には、弁済方法を課税庁と協議をしてもらわないといけません。協議結果およびその履行状況が申立書の報告事項になっております。
 
◆債権者に漏れがないように◆
個人再生はすべての債権者を計上しなければなりせん。手続中に債権者に漏れが判明した場合には、債権者に届出をしてもらわなければならないのですぐに弁護士に伝えてください。
手続後に債権者の漏れが判明した場合には、再生計画の再生債権の弁済率に応じて債務を弁済します。再生計画で既に期限が到来している分は一括弁済です。免責の効果が及ばない破産よりは傷が浅いですが、気を付けてください。
 
◆給与天引きの返済◆
給与天引きで救済借入等が控除される形で弁済しているケースがあります、受任通知を出しても通常止まりません。理屈上は受任通知後の天引き分は偏頗弁済となり、清算価値に計上する必要が出てきます。
そのためできるだけ早く申し立てなければならないケースもあります。
 
◆家計収支表◆
家計収支表3か月分が必要書類ですが、申立て後も履行可能性のチェックのために再生計画案提出までの家計収支表の作成を指示されることがあります。家計収支表は申立後も引き続き作成してもらうようにしております。
 
◆相続関係◆
相続関係は報告しないといけません。ケースによっては遺産分割協議書、不動産登記簿謄本、戸籍等の提出が必要となります。
未分割遺産があると法定相続分が財産となり清算価値に計上しなければいけません。清算価値が大きくなりすぎ個人再生の利用を諦める可能性も少なくありません。
また、直前の遺産分割は否認対象行為かどうか吟味されます。否認対象行為であると、取り戻されるべき財産評価額を清算価値に計上することとなります。

まとめ

1.個人再生の徹底解説

個人再生の徹底解説と題して説明をさせていただきました。
個人再生は、最低弁済額(多くのケースでは総債務の5分の1になる。)を原則3年(最長5年)で分割弁済をし、その余の債務の免責を受ける手続でした。まずは任意整理か法的整理手続か検討し、次に自己破産と個人再生の手続選択をします。個人再生でも、最低弁済額の計算方法の違い等から、まずは小規模個人再生の利用を考えますが、給与所得者等再生を選ぶべきケースもありました。住宅資金特別条項の利用は個人再生選択の目的の1つですが利用できる条件がありますので注意が必要です。最低弁済額のルールは複雑で清算価値は破産と同じ考え方で計算をする必要がありました。個人再生委員は聞きなれない制度だったと思います。
わかりやすく説明をしたつもりですが、かえって個人再生はややこしい手続だと思われたかもしれません。難しいことは専門家に任せればいいのでご心配なさらないでください。費用の面もご説明いたしましたが、通常無理なくご用意いただけていますのでご相談ください。
個人再生は経済的更生の手段として有効なものの1つです。ぜひ選択肢に加えてご検討ください。

2.専門的な弁護士のサポート

個人再生の制度は技術的で理解が難しいです。専門家のサポートが必要です。
破産手続、個人再生手続に精通し、破産管財人や個人再生委員の経験が豊富な弁護士のサポートを得ることが、スムーズに手続を進行するため、かつ問題が発生することを防止するための第一歩です。
まずは、そのような弁護士に早めにご相談ください。具体的な解決方法を説明してもらえますし、先の見通しを把握でき安心できると思います。費用面も大事な相談内容ですので、ご遠慮なく相談されてください。
当職もそのような弁護士であると自負しております。
当事務所にご相談いただければ幸いです。一緒に解決策を考えましょう。

この記事を書いた人

firsttime_lawyer.jpg弁護士仲田誠一(広島弁護士会所属)
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27アーバンビュー上八丁堀602
TEL082-223-2900
https://www.nakata-law.com/
https://www.nakata-law.com/smart/
◆経歴
1996年4月~
あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~
東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~
広島大学大学院法務研究科
2008年12月
弁護士登録
2017年~各前期
広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格等
弁護士
公認内部監査人試験合格

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