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旧コラム 企業法務: 2019年5月

現在のコラムはこちらから

同族中小企業の特殊性 [税法のお話15]

広島市の弁護士仲田誠一です。

法人税法のお話の最後です。

 

同族中小企業は、私法上、会社法等が想定する本来の法人の姿とは異なった実態であるという特殊性があります。
事業承継問題、オーナーの相続、オーナーの離婚が経営継続に影響を及ぼします。会社法ではなく民法の世界ですね。

 

同族中小企業は税法上も特殊な扱いを受けております。
個人事業とあまり異ならない実態から来る扱いです。

 

今回は、そのような同族中小企業の特殊性についてお話ししようと思います。

 

【私法上の特殊性】

まず、前提として私法上の同族中小企業の特殊性です。

 

会社法の建前は、株式会社は大規模公開会社を想定しています。

所有と経営の分離された会社です。株主がプロの経営者を雇う形ですね。

株主の有限責任(直接金融)が定められています。

また、株主保護の規定、厳格なルールを定めた規定が用意されています。

 

同族中小企業の実態は、所有と経営の一致です。

経営者である社長が会社の所有者である株主ですね。

有限責任は形骸化されています。社長が連帯保証人となっていますよね。

組織の形骸化し、会社法所定の手続の不履行も多いところです。

同族中小企業は、個人(民法)と会社(会社法)が未分離の状態なので、会社法だけではなく民法でも規律されます。

株主の相続が事業承継問題に直結しますし、離婚も関係してきます。持ち株、事業用財産は、相続の対象ですし、場合によっては財産分与の対象となります。

社長の責任は民法の連帯保証債務で無限化されていますしね。

 

【税法上の特殊性】

次に、同族中小企業は、税法においても、特殊な扱いがなされています。

税法は、同族中小企業に、

① 家族構成員(役員あるいは従業員として)に所得を分割する傾向

② 利益を内部に留保して法人税より高い所得税率の適用を回避する傾向

③ 所有と経営が結合しているためお手盛りによる取引や経理がされる傾向

があるとみているのです。

経営者が株主のチェックなしに何でも決められますからね。

 

そのため、租税負担の減少を図る行為に対応するための創設規定が用意されています。

 

ちなみに、
同族会社には、
同族会社(法人税法2条10号等)と特定同族会社(法人税法67条)の2種類があります。

簡単に説明しますと、前者は株主3人及び同族関係者で過半数以上の株式を保有、後者は1人の株主及び同族関係者で過半数を保有とイメージしておいてください。

 

典型的な同族中小企業は、たいてい両者に当てはまります。逆に、それに当てはまらなければ経営権が盤石ではなく、事業承継にも支障を来すなど、問題が大きいです。

同族中小企業である以上、株式の集中は経営のスピード維持、事業承継対策に必須です。

 

□ 留保金課税

特定同族会社には、特別税率(留保金課税)があります。利益を会社に貯めると税金がかかるのですね。

どうしてこんな税金がかかるのか不思議な方もいらっしゃるかと思います。

同族会社は利益を内部に留保して株主の所得税を回避する傾向があるため、個人企業と同族会社との間の負担の公平を図るべく、利益の内部留保に対して特別の法人税を課す趣旨です。

 

□ 同族会社等の行為・計算否認規定

包括的な否認規定があります。
法人税(所得税、相続税、地方税)の負担を「不当に減少させる」結果になると認められる場合に、税負担の公平を維持するため、正常な行為や計算に引き直して更正または決定を行う権限を税務署長に認めるものです。

これが怖いですね。

 

その適用は、当該行為計算が、純経済人の行為として不合理・不自然な行為・計算と認められるか否を基準として判定されます(経済合理性説)。

・ 当該行為・計算が異常ないし変則的であるか否か

・ その行為・計算を行ったことにつき正当な理由ないし事業目的があったか(租税回避の意図)

ですね。
 

所得税法157条の例としては、

     会社への無利息融資に利息相当額を所得加算

     同族会社への不動産管理料過大部分の必要経費否認

     同族会社への過少賃貸料部分の差額加算

があります。

例えば、同族会社に対する又貸し方式で過少な賃借料を設定した例で、同族関係ではない不動産管理会社に託した場合の管理料の賃料収入の金額に対する割合と比準する方法によって適正賃貸得額に引き直して課税することが許容されました(最高裁H6.6.21判決)。

 

法人税法132条の例としては、

     役員報酬・退職給与の過大な部分の損金算入を否認

     役員出張に同行した家族に支給した旅費を役員賞与

     役員への無利息融資につき利息を認定

     債務の無償引受けを寄付金ではなく利益処分

     資産の高価買入につき時価超部分を贈与

があります。

 

相続税法64条の例としては、
駐車場経営を目的として法人を設立し、被相続人との間で存続期間60年の地上権を設定したような例で、通常の経済人であれば到底採らない不自然、不合理な取引であるとして、地上権前提の90%控除の評価を認めなかった課税庁の行為が是認された例があります(大阪地裁H
12.5.12判決)。

 

その他同族会社に限られないものとして、法人税法22条、法人税法34条から36条等の規定も同族会社にありがちな行為の実質的な否認規定として利用されます。

 

このように、同族中小企業は、私法上特殊な存在であるだけではなく(勿論そのため生じる同族中小企業特有のリスクはケアしなければなりません)、税法上も特殊な存在になります。
特に、身内間で取引をする場合には、よくよく税務リスクを考えないといけません。

 

今回で法人税法のお話を終わりにさせていただきます。

 

お悩み事がございましたらなかた法律事務所にご相談を。

 

広島の弁護士 仲田 誠一

なかた法律事務所

広島市中区上八丁堀5-27-602

https://www.nakata-law.com/

 

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法人税法その4 [税法のお話14]

広島市の弁護士仲田誠一です。

 

同族中小企業にとって、役員報酬は、それを抑えて法人で利益を出して法人税を支払うのか、相応の支払いをして個人の所得を上げて所得税を支払うのか、ということが大事な経営戦略になります。

所謂、報酬戦略ですね。

 

法人で利益をたくさん出してたくさん法人税を支払う方針も否定はしません。また、所得税は超過累進課税ですので、所得税の方が法人税よりも税率が高くなるということもあるでしょう。

 

しかし、法人の自己資本をどんどん積み上げる結果何が起きるでしょうか。自社株の価値が上がり、事業承継の問題を複雑化させてしまいます。株式の価値だけ上がって、オーナー家族の資産があまりないというケースでは、相続等に苦労をすることになりかねません。その点で、必ずしも正しいとは思えません。

勿論、留保金課税もありますね。単純に税率で見てはいけません。

 

また、所得税を多く払ってでも、役員報酬額を戦略的に定めるべき場合も多いです。

事業承継対策として、あるいは連帯保証制度の下での信用力の問題として、オーナーあるいは後継者の個人資産の形成は重要です。

 

それでは、法人税法の「損金」のお話の続きをお話します。

 

法人税法上の「損金」に関する別段の定め(例外的な扱い)のお話の途中でした。

 

□ 寄附金(法人税法37条)の損金不算入

少しわかりづらい制度です。

寄付金とは、その名義の如何を問わず、金銭その他の資産または経済的利益の贈与または無償の供与をいいます。贈与よりも広い概念です。

寄付金は、直接対応した反対給付がないため、法人の事業活動に必要な費用であるかどうか(費用性の有無)を判断することが困難です(ない場合には利益処分の性質になります)。

そのため、行政的便宜と公平性の維持を目的に、統一的な損金算入限度額が定められ、超過部分を損金不算入としています(法人税法37条)。

 

「無償」とは対価またはそれに相当する金銭等の流入を伴わないことであり、その例としては、

子会社に対する内実を伴わない業務委託費名目の支出

売主に正常な対価を超過する支払をなした超過額

債務の免除をした債務相当額

使用権付建物譲渡の使用権の時価相当額 

などがあります。

 

名義を問わず、贈与等時点の時価で評価され益金に算入されます(法人税法37条7項)

ただし、広告宣伝費・接待費等の場合には寄付金になりません(同項括弧内)。

 

資産の譲渡または経済的利益の供与が時価相当額より低い対価を行われた場合の実質的な贈与または無償供与部分も寄付金とされます(37条8項)。低額譲渡の場面ですね。

 

□ 交際費

企業会計は交際費を費用計上することを認めています。損益計算書の販管費に計上されていると思います。

しかし、税法上は、特措法(同61の4、68の88)により交際費課税制度が定められています。基本的に資本金一定額以下の中小会社のみ一定額が損金算入可能ですが、その内容は特措法の度重なる改正で紆余曲折があります。

 

個人事業では交際費は悪とされていませんが、法人では悪者扱いだと言っていいのでしょう。個人事業は営業上交際費が必要である、法人は純経済的に合理的な営業しかしないから交際費は必要ない、と思われているのでしょうか。

 

企業の規模によっては、交際費にあたるのか(損金算入されない)、寄付金にあたるのか(限度額内の損金算入がなされる)、広告宣伝費・販売促進費にあたるのか(全額損金に算入される)が問題となります。

 

なお、東京高裁H15.9.9判決(萬有製薬事件)では、

交際費を定める特措法61の4Ⅰ③「接待、供応・・その他これに類する行為」に当たるためには、

① 支出の相手方が事業関係者等である

② 支出目的が取引関係の円滑化を図るものである

③ 行為の形態が「接待・・・類する行為」である

と3要件が必要とされています。

 

□ 使途不明金

使途不明金は、目的や内容、特に相手方が明らかではない支出です。通達では費途不明金」を損金不算入とされています(対役員の支出は役員報酬ないし役員賞与)。

法人税法上明文の規定はありませんが、当然のこととして判例も肯定しています。

 

※ 使途秘匿金課税(特措62)

ゼネコン汚職が契機となって制定された懲罰的規定です。

通常の法人税+40%課税されます。相当の理由がなく、かつ帳簿に相手方の記載なしという場合に使途秘匿金として課税されます。

 

□ その他損金不算入等

法人税額等の損金不算入(法人税法38条)。当然ですね。

 

課税繰り延べのための圧縮記帳(42、45、46、47、50)もあります。補助金等の額の範囲内で損金処理し取得価額を圧縮して課税繰り延べをする制度です。

 

引当金(法人税法52条)は、改正により法人税法上は貸倒引当金だけになったようです。所得税法では退職給与引当金もありますね。一定の要件の下で他にも認められるのではないかという見解もあります。

 

不正行為等に係る費用等の損金不算入(55条)。

 

等々、様々な損金不算入制度があります。損金不算入は税金を取る方向ですので・・・

 

今回は損金に関するお話の残りをお話いたしました。

 

次回は同族中小企業の税法上の特殊な扱いについてお話をします。

 

お悩み事がございましたらなかた法律事務所にご相談を。

 

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法人税法その3 [税法のお話13]

広島市の弁護士仲田誠一です。

 

法人税法のお話の続きです。

 

私は個人事業主ですが法人税の税務申告をしたこともあります。
法人の破産管財人として申告をするケースがあるのですね。

ちなみに、他人の所得税申告も、成年後見人としてしたことがあります。

 

元銀行員なので会計の知識はあり、決算書も読めます。簡単な決算書であれば作成も可能です。

ただ、税務申告は難しいですね。付表等とにらめっこしながら申告を行いました。

 

前回は、法人税法上の「損金」のことをお話しましたが途中で終わっていました。

今回はその続きです。

 

損金の通則を定める法人税法22条3項の特則(別段の定め)の続きをお話します。

 

□ 減価償却費(法人税法31条)

固定資産の取得費用を当期の損金として計上することは特例を除いて許されません。

減価償却資産は長期間にわたって収益に貢献します。

費用収益対応の原則からは、固定資産の取得費を使用または時の経過によって減価するのに応じて各事業年度の必要経費に配分することになっています。

減価償却費は、経済的には、投下資本の回収、更新資金準備の機能、要するにCFを生む機能を有する制度です。

キャッシュフロー表を見ると、減価償却費はプラスされる項目になっています。会計上は費用なのですが、実際にお金が出ていかないので、キャッシュフローにはプラスして戻すのです。

 

固定資産であっても、事業の用に供していない資産は減価償却資産から除外されます(施行令13条)。

節税スキームの金融取引で問題となる点です。フィルムリース事件とう有名な判例がありました。

 

減価償却資産には、有形固定資産だけではなく無形の償却資産(営業権等)もありますね。営業権というとMAで見るものです。赤字会社の事業譲受から営業権は把握できないとする裁判例もあり注意です。

 

耐用年数は、耐用年数省令(法定耐用年数)で定められています。

 

※ 少額減価償却資産

取得費の損金算入(施行令133等)等の特例があります。政策的に特措法で度々改正されるところです。

 

※ 償却の方法

棚卸資産の評価方法と同様、減価償却の方法の税務署長への届出、変更の際の税務署長の承認が必要となっています(施行令)。

耐用期間内に毎期均等額で償却する定額法と

耐用期間内の毎期期首未償却残高に耐用年数に応じた一定の償却率を乗じて償却する定率法がメインですね。

ほかに、生産高比例法、リース期間定額法もあります。

減価償却はCF政策にも関わりますので、資金計画に沿ってその方法を採用するのでしょう。

なお、建物付属設備及び構築物は定額法のみ採用可能です(施行令)。

 

□ 役員給与等(法人税法34)の損金不算入

使用人に対して支給する給与は原則としてすべて損金に算入されます(ただし、特殊関係使用人に対する過大な給与の損金不算入、法人税法36条)。

ところが、役員給与については、法人税法は、以下の3種類の役員給与について損金算入を認めます。

利益の処分にあたるものを損金不算入にする趣旨です。

・ 定期同額給与

・ 事前確定届出給与(役員賞与)

・ 利益連動給与 ×同族会社

 

※ 勿論、役員給与等には、債務の免除益その他の経済的利益も含まれます(法人税法34条4項)。

 

※ 不当に高額な部分は損金に算入されません(法人税法34条2項)

不当に高額かの判断基準は次のとおりです。

職務の内容、法人の収益および使用人に対する給与の支給状況、同種事業・類似規模(「倍半基準」-売上高が0.5~2倍の範囲内の同業者)の法人の役員給与の支給の状況等に照らし相当であると認められる金額を超える部分(実質基準)、または定款の規定、株主総会の決議等により定められている役員給与の限度額等を超える部分の金額(形式基準)、のいずれか多い金額(施行令70条1号)。

ただし、裁判例で、当該役員のその法人に対する貢献度等も合わせて考慮しなければならないとされています。ここが問題ですね。

 

※ 役員退職給与

役員退職給与についても、不相当に高額な部分の金額は損金に算入されません(法人税法34条2項)。

その判断基準は次のとおりです。

法人の業務に従事した期間、退職の事情、同種事業・類似規模の法人の役員退職給与の支給の状況等を総合的に勘案して判断する(施行令70条2号)。

ただし、こちらも、当該役員のその法人に対する貢献度等も合わせて考慮しなければならないとされています(裁判例)。

弁護士の立場からすれば、中小企業のオーナー社長については、貢献度が非常に高いのであり、かつ、役員報酬等を決める権限は法律上株主総会にあるはずです。

株主総会がきちんと決定した退職金は損金と認められるべきものだと考えますが。

 

思ったよりも長くなってしまいました。次回に、法人税法上の「損金」のお話をもう1回だけさせていただきます。

 

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法人税法その2 [税法のお話12]

広島市の弁護士仲田誠一です。

 

法人税法の続きです。

 

法人税と所得税の大きな違いをまずお話します。
 

まず、所得税は所得の種類によって税金のかけ方が違います。

所得税法は、担税力に応じて所得を10種類に分け、異なる税金のかけ方をしています。

これに対し、法人の所得は1つです。
一律課税ですね。

個人の場合は、所得の分類によって税金が変わりますので、どの所得で申告するべきかが問題となりますが、法人はそのようなことは考える必要はありません。
 

また、所得税は超過累進課税ですね。
これに対して法人は基本的に一律税率です。

個人の場合は所得の分散ができればそれだけ節税になります。法人の場合はそうではないですね。
個人の節税のために法人と個人との所得分散を図ることはよく考えられることになります。

 

ちなみに、事業承継対策のスキームを考える際には、上述のような法人と個人とでの税金の違いを意識してスキームを組み立てる必要があります。
事業承継対策は、オーナー・会社・後継者の間のスムーズな資産移転を考えることになるからです。

  

さて、前回は、法人税法の所得計算の柱の1つである「益金」について簡単にお話ししました。
今回は、もう1つの柱である「損金」について簡単にお話しします。
簡単と言っても2回に分けざるを得ません。

 

まず、「損金」を定める法人税法22条3項では、

1 売上原価、完成工事原価その他の原価

2 販売費、一般管理費その他の費用

3 損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの

を損金に計上すると定められています。

 

【売上原価について】 

□ 費用収益対応の原則       

法人税法は「当該事業年度の収益に係る・・・原価の額」と定めています。

個別に収益と対応する費用ですね。

収益をある事業年度に計上する場合には、当該収益に係る売上原価も当該事業年度に計上し、適正な期間損益計算を確保する原則です。

 

□ 棚卸資産の評価方法(法人税法29条、同施行令28)

売上原価計算の基本は、期首棚卸資産+当期仕入額‐期末棚卸資産ですね。

期首棚卸資産と登記仕入額の2つは確定しているはずですから、決算内容そして所得内容は、期末棚卸資産の評価により左右されるわけです。

棚卸資産の評価方法として、法人税法は例外規定(63条、64条)のみおき、明文規定がありません。
そこで、基本的には企業会計原則(法人税法22条4項)に従います。

自由に評価していいわけではありません。
棚卸資産の評価は粉飾・脱税の方法によく使われるため、施行令により、棚卸資産の評価方法の税務署長への届出、変更する場合の税務署長の承認が必要となっています。
注意してください。

認められている評価方法はいくつもあります。

個別法、先入先出法、平均原価法、売価還元原価法、総平均法、最終仕入原価法(これが一応の法定評価方法です)、売価還元法ですね。

業種・業態によって向き不向きがあります。

 

【販管費、営業外費用について】

□ 債務確定主義
債務が確定したもののみ損金に計上できます。条文で「債務の確定しないもの」を費用から除外しています(法人税法22条3項2号)。
期間対応費用ですので、計上の恣意性を排除し会計報告の客観性確保する趣旨です。債務確定基準といいます。
したがって、資産の評価損(法人税法33条)は、例外を除いて、原則として損金計上できません。
また、費用見越・引当金の損金算入も原則として禁止されます。


なお、最高裁H16.10.29判決では、売上原価の例ですが、費用の見積り計上が、支出の相当程度の確実性、金額の適正な見積りの可能性が認められる事実関係の下では、当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が確定していないときであっても売上原価として損金の額に算入することができると、認められています。

 

【損失の額で資本等取引以外の取引に係るものについて】

□ 貸倒損失
例として貸倒損失をお話しします。
金銭債権の評価減は原則認められません(法人税法33条)。
したがって、金銭債権の貸倒損失を損金の額に算入するには、その全額が回収不能であることが必要です(一部貸倒処理は認められていないのです)。

かつ、回収不能であることが客観的かつ確実であることが必要とされています

この点で、有名な興銀事件最高裁H16.12.24判決では、住専処理計画に沿った母体行による債権放棄の例で、「当該事業年度の損失の額」として損金に計上できる基準について「債権者側の事情」「経済的環境」等も考慮するべきとしています。

 

長くなりましたので、今回はここで終わりとさせていただきます。

次回に損金の続きをお話します。

 

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法人税法その1 [税法のお話11]

広島市の弁護士仲田誠一です。

 

法人税法のお話をしていこうと思います。
法人税法は所得税法より捉えどころのない法律です。技術的な規定が多いのです。基本的には企業会計原則に則っているからでしょう(法人税法22条4項)。

 

所得計算の基礎を中心にお話をしていこうと思います。

 

【法人税法の所得計算】

 

法人税計算の作業の過程は、

① 生の資料の整理

② 仕訳伝票の作成

③ 元帳の記入

④ 試算表の作成

⑤ 確定決算書の作成(決算調整)→ 株主総会の承認

⑥ 申告調整(別表、特に別表四、内訳書)

⑦ 確定申告

の流れです。

 

大事なのは会計上の損益(確定決算書の数字)がそのまま法人税法の所得計算にならないところですね。

企業会計上は、「収益」=「収入」-「費用」で損益を出します。損益法といいます。

これに対して、法人税法22条は、課税標準である法人の各事情年度の所得の金額計算の通則を定めており、その計算は、「所得」=「益金」‐「損金」なのです。

収益=収入―費用

所得=益金‐損金

は似て非なるものです。

確定決算に基づく損益計算結果に、法人税法上の、益金(不)算入項目、損金(不)参入項目を減加算し、法人税法上の所得金額を算出しなければなりません。

それを申告調整といいます。企業会計を基礎として修正する形です。申告書の書式もそのような流れに沿って作成されています。

 

企業会計が、利害関係者に対する適切な表示を目的とするのに対して、法人税法は、担税力を適正に測定し課税公平をはかることを目的とします。目的が違うためのズレですね。

 

法人税法の解釈としては、「益金」と「損金」を明らかにすることがメインテーマとなります。

 

まず、「益金」のことを簡単にお話します。

 

【益金(法人税法22条2項)】

 

□「取引」に係る収益であること

条文上、「取引」に係る収益のみ益金に計上されます。

※ まず、条文上、資本等取引を除きます(法人税法22条4項)。資本維持の要請から資本取引と損益取引とが峻別されており、資本等取引(出資の受け入れ払出し等)からは益金は発生しないとなっております。企業会計と同じですね。デット・エクイティ・スワップ(DES)など資本等取引と他の取引との混合取引については、資本等取引以外の収益取引部分(DESなら債務免除)には課税があります。

※「取引」に係る収益が把握されるため、対外的取引によって生じた収益(実現主義)のみが益金です。そのため、未実現利益は課税の対象から除外されます。資産の評価益(法人税法25条)は益金に算入されません。企業利益は対外的取引によって生じた損益をもって計上する建前ですから、原則的に資産の評価替えによる増加益は益金に含まないのです。例外は一部で認められている時価主義です。

※「取引」すべてが益金発生原因となります。そのため、益金は合法・非合法・金銭・非金銭問わないという包括的所得概念が採用されているとされます。法律上取り戻されかねない違法な収益も益金になり得ます。

※「取引」は法的取引に限られません。有名なオウブンシャホールディング事件(最高裁H18.1.24判決)では、直接取引がなくても、資産価値の移転につき両当事者の合意ないし意図・了解が存在する場合には「取引」とされました。子会社を利用した資産価値移転の例です。

 

□ 収益計上基準について
権利確定主義が採用されているとされています。判例も、「ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般的に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきもの」としています。
売買なら引渡しのとき、請負なら仕事完成あるいは引渡しが必要な仕事なら引渡し時、不動産仲介手数料なら販売時点といった感じです。実際にお金を払ってもらった時点で益金に計上する現金主義は原則採用できないことになっています。
勿論、権利が確定した時といっても具体的な判定は難しいですね。具体的に判断されます。少なくとも、法的に把握された収入実現の蓋然性に着目する考え方で、債権の現実的な回収可能性に関わるものではありません。債権の発生が確定したらその回収可能性は別問題となります(貸倒損失の話)。

※ この点で、法人税法22の2が創設されました。企業会計基準委員会「収益認識に関する会計基準」に沿った改正です。次のような規定になっています。

1項・・・ 引渡基準または役務提供基準

2項・・・ 契約効力発生日基準または検収日基準の例外

3項・・・ 確定決算と確定申告の不一致の解消

4項、5項・・・益金に算入する金額(通常得べき対価-時価)

6項・・・資本等取引と損益取引の混合取引(損益取引の要素から損益が生ずる)


※ いろいろな判例があるのですが、1つだけ紹介しましょう。
詐欺・横領被害による損害賠償請求権の計上時期という問題です。不法行為の被害者は損害賠償請求権を取得します。損失の損金計上と同時にそれを益金計上すると税額には影響しませんね(損益が相殺される)。勿論、損害賠償請求権が全額回収不能であることが客観的に明らかになった時点では損害賠償請求権は当該事業年度の貸倒損失(法人税法22条3項)として損金に算入できます。
裁判所は、そのような場合、不法行為による損失は法人税法22条3項3号にいう損失の額に該当し、その額を損失が発生した年度の損金に計上する。一方、損害が発生した時に不法行為による損害賠償請求権も発生し、確定するから同時に損金と益金に計上するのが原則(同時両建説)としました。
例外として、加害者を知ることが困難なため権利行使を期待できない場合には、損害賠償請求権は益金に計上しないことが許されます(客観的状況から判断されますので簡単に認められない傾向です)。


※ 権利確定主義の例外もあります。
リース取引、長期大規模工事、一事業年度を超える工事、などですね。工事完成基準等の採用が義務付けあるいは選択できることになっています。
また、一部、時価主義も採用されています。未実現利益の益金算入です。短期売買商品、売買目的有価証券その他デリバティブ、外貨取引等です。

 

□ 「無償」行為からも益金が発生すること
これが非常にわかりにくい話です。法人税法22条2項は、資産の無償譲渡・役務の無償提供その他無償取引に係る収益も益金に算入すると定めています。資産の無償譲渡は時価相当額が、無利息融資の場合は通常の利息相当額が、債務免除益は経済的利益相当額が、個人からの遺贈は時価相当額が、それぞれ益金に算入されます。気を付けないといけないところです。

※ 適正所得算出説
収益は外部からの経済的価値の流入です。無償取引の場合には経済的価値の流入が存在しないはずです。しかし、正常な対価で取引を行った者との負担の公平、競争中立性の観点から無償取引からも収益が発生することを擬制している創設規定とされています。


※「無償」には、低額譲渡等の場合も含まれます。
南西通商事件、最高裁H7.12.19判決です。時価との差額も益金として把握される(結局時価で売却したのと同じになる)ことになります。
なお、実質的に贈与・無償の供与をしたと認められる部分は譲渡の相手方に対する関係では寄付金に算入されます(法人税法37条8号)。
新株の有利発行も時価と払込価額の差額は低額による資産の譲受けによるものとして益金が発生する可能性があります。

 

以上、所得計算の柱の1つである「益金」について簡単にお話ししました。

次回はもう1つの柱である「損金」についてお話しします。

 

お悩み事がございましたらなかた法律事務所にご相談を。

 

広島の弁護士 仲田 誠一

なかた法律事務所

広島市中区上八丁堀5-27-602

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低額譲渡・無償譲渡 [企業法務]

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。

 

今回の企業法務コラムでは、法人が絡むことの多い低額譲渡・無償譲渡についてお話ししようと思います。

個人・法人間の低額譲渡・無償譲渡は事業承継対策や相続紛争の処理などで見受けられますね。
節税対策としても行われるのでしょう。法人と法人間のものも、グループ戦略の変更や節税対策などで行われることがあるでしょう。

 

法律的にきちんと契約あるいは遺言をして譲渡を成立させることは当然の前提です。

今回は、そのような行為に伴うリスクについてお話しましょう。

 

【個人→個人の場合】

(無償譲渡)

個人間の贈与ですからこちらは単純です。
贈与者には課税はありません。

受贈者には贈与税課税がなされます(相続税評価ベース)。

暦年贈与は別として、大きな資産の贈与は、相続時精算課税制度あるいは事業承継対策税制等の特例の利用を検討することになるでしょう。

 

(低額譲渡)

売主は当事者間で決めた代金額を収入として譲渡所得課税の問題となります。

低額譲渡とされると、買主には贈与税課税があります(相続税法7条)。相続税評価額と代金額の差額が贈与とみなされます(みなし贈与)。

低額譲渡(「著しく低い価額」による取引)かどうかについては、所得税法と異なり、基準がありません。
時価の2分の1以上での取引でも否認される可能性があります。

事業承継対策として株式を買い取る際の価格設定には注意ですね。

 

なお、みなし贈与については、同族会社における増資による出資持分の価値の変動や同族会社の資産の低額譲受のケースでも問題になり得る怖い制度です。

 

【個人→法人の場合】

(無償譲渡)

個人には譲渡所得税です。所得税法59条11号のみなし譲渡です。

時価(相続税評価ではありません)で売却したものとみなされる点に注意が必要です。かなりの税金を覚悟しないといけないケースがあります。

法人は、時価で益金計上され、法人税課税されることになります。

事業承継対策で事業用不動産を法人に遺贈する場合など気を付けてください!

 

(低額譲渡)

個人は、みなし譲渡です(所得税法59条1項2号)。

低額譲渡に当たるかは、時価の2分の1を下回るかどうかが基準になります。
低額譲渡となると、代金ベースではなく時価ベースで譲渡所得税が課されます。

法人は時価と実際の代金の差額について、法人税課税されることになりますね。

 

【法人→個人の場合】

(無償譲渡)

法人は時価での譲渡があったものとして法人税課税されます(法人税法22条2項)。

個人は役員等であれば給与所得、その他では一時所得での所得税課税です。

ベースはやはり時価です。

 

(低額譲渡)

無償譲渡と同じ考え方です。
法人は時価での譲渡があったものとして法人税課税です。

時価と代金の差額について、個人の給与所得あるいは一時所得での所得税課税ですね。

 

【法人→法人の場合】

(無償譲渡)

譲渡法人は時価での取引をしたとみなされ、譲受法人も時価で取得したものとして法人税課税があります。

(低額譲渡)

譲渡法人は時価での取引をしたとみなされ、譲受法人も時価で取得したものとして(時価と代金の差額)に法人税課税があります。

 

なお、同族会社の行為・計算否認という怖い否認規定(所得税法157条、法人税法132条の2、相続税法64条、地法税法72条の43)があります。

税負担を不当に減少させる結果となる行為は(当該行為又は計算が通常の経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるかが基準です)、正常な行為や計算に引き直して更正または決定を行う権限が税務署長に認められています。
同族中小企業が絡む行為は常にこの危険があります。

 

イレギュラーな資産譲渡をする場合には、法律面だけではなく税務面からも慎重に検討して進めなければいけません。

 

顧問契約、契約トラブル、企業法務サポートのご用命は是非なかた法律事務所に。

 

広島の弁護士 仲田 誠一

なかた法律事務所

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