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旧コラム 不動産問題: 2019年8月

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登記に協力してもらえない場合 [相続問題、不動産問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
不動産登記、特に相続のお話です。
 
合意ができているのに不動産登記に協力してもらえないという例が稀にあります。
通常は、合意までしたのであれば登記協力はしてくれますし、実務上は、合意書面と同時に登記書類の作成や印鑑証明書の用意をしてもらいます。
 
ただ、書類のやりとりを郵送で行わなければならないこともあり、そのような場合には合意書面のみもらえて登記用の書類がもらえないという事態も発生し得るのです。
 
【代物弁済契約書などの契約書面を作成したにもかかわらず登記書類がもらえない場合】
 
契約が成立した時点で、条件や代金等支払の同時履行の抗弁など不動産の所有権移転が妨げられる理由がない限り、契約に基づいて不動産の所有権は移転します。
なお、理論上、契約は極一部の例外を除いて口頭でも成立しますから、契約書がない場合も契約の成立が認められるのであれば同じです(ただ、きちんとした証拠がなければ事実上裁判では認めてもらえません)。
 
契約が成立しているのであれば、契約の相手方は登記申請義務者になります。
○○契約に基づく所有権移転登記手続請求訴訟を提起して確定判決により相手方の登記申請意思を擬制してもらえれば、所有権移転登記をすることができます。
 
なお、契約書があるのであれば、割合容易に契約の成立が認められます。
書類作成の真正(名義人が自分の意思で作成したこと)が認められれば、特段の事情がない限り、書類の記載どおりの法的効果が認められるからです。
 
【遺産分割協議が成立したにもかかわらず印鑑証明書がもらえない場合】
共同相続人間の協議により遺産分割が成立した場合には、相続開始の時に遡ってその効力を生じます。
そのため、遺産分割協議が成立し、単独で相続することとなった相続人は、不動産を被相続人から直接承継取得したものとして、単独申請により相続登記をすることができます。
ただし、戸籍や遺産分割協議書は勿論、書面作成の真正を担保するために他の相続人の印鑑証明書を添付する必要があります。
 
そこで、他の相続人が印鑑証明書の提出に応じない場合には、相続登記ができなくなります。
 
契約に基づく移転登記請求は前述のとおり相手方に対する所有権移転登記手続請求訴訟の勝訴確定判決により相手方の登記申請の意思を犠牲し、登記をすることができます。
これに対し、被相続人名義のままの不動産の相続登記は、遺産分割により不動産を単独取得した相続人の単独申請の構造をとりますから、他の相続人は登記の申請義務者ではありません。
そのため、他の相続人に相続を原因とする所有権移転登記手続を求める判決を得ても意味がないとされています。
 
遺産分割協議に基づく登記ができない場合の解決方法としては、3つ挙げられています。
 
まず、遺産分割協議書の真否確認の訴え(遺産分割協議書が相続人全員の意思に基づいて作成されたことの確認を求める訴え)を提起して勝訴の確定判決を得る方法です。
民事訴訟法134条ですね。
確定判決を、印鑑証明書の代わりに相続を証する書面の一部として提出することができます。
その上で、登記に協力する相続人の印鑑証明書、遺産分割協議書等を提出し、相続登記を単独申請できます。
勿論、遺産分割協議書を作成していなければいけませんね。
 
次に、協力しない相続人に対し、遺産分割協議の結果としての所有権の確認訴訟を提起し、勝訴の確定判決を得る方法です。
遺産分割協議の成立により不動産の所有権は既に移転しています。
だから所有権を確認するということですね。
確定判決とともに、登記に協力する相続人の印鑑証明書、その者の署名・捺印ある遺産分割協議書を提出して、相続登記を申請することになります。
理屈上、遺産分割協議書が作成されていなくても提起できます。
しかし、口頭の協議成立を証する証拠がなければいけません。
 
最後に、法定相続分割合による共同相続登記をまず行い(これは単独申請できます)、協力をしない相続人に対し、遺産分割を原因としてその共有持分の全部移転登記手続請求訴訟を提起する方法です。
一旦共同相続登記が入れば、遺産分割協議による移転登記は共同申請となるため、判決による登記申請意思の擬制の意味が出てきます。
協力しない相続人との関係では確定判決をもって意思を犠牲してもらい登記申請する、協力が得られる相続人との関係では共同申請を行うということになります。
登記を2回する必要がありますね。
 
どの方法がいいかはケースバイケースの判断ですね。
遺産分割協議書があるのであればどれでもいいでしょう。
証書の真否確認訴訟の方が直截的でしょうか。
ただし、肝心の遺産分割協議書に少しでも不備があれば、真否確認の訴えも使いづらいですね。
 
遺産分割協議書がなければ真否確認の訴え以外の方法しかとれません。
一旦法定相続分による共同相続登記を行う方法がは、数次相続が起きているケースでは使いづらいですね。
 
私が扱った案件では、
相続人の1人が既に亡くなり、その相続人との間で遺産分割協議書が作成していた事例では、真否確認の訴えを
遺産分割協議書が作成されていましたが、少し不備があり、かつ相続人のうち2人が亡くなっていた事例では、所有権確認訴訟を、
代物弁済合意書がある事例では、勿論、所有権移転登記手続請求訴訟を、
各選択しました。
 
登記の問題が絡む訴訟は、勝訴判決が出た際に本当に判決に基づいて登記ができるのか、司法書士や法務局に確認をしないと進められません。
訴訟においても、裁判官から本当にこの形で登記ができるのか確認をされることも多いです。
 
不動産問題、遺言、相続、遺留分相続放棄等、相続問題のご相談はなかた法律事務所へ。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602
 
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譲受人による使用貸借人の退去請求 [不動産]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
久しぶりに不動産問題について投稿します。
 
法律家でない限り、使用貸借契約という言葉は馴染みがないかもしれません。
意味は、無償の貸借契約のことです。
不動産を賃料を取らずに人に貸したら使用貸借です。
これに対して、有償だと(賃料を支払合意があると)、賃貸借契約ですね。

なお、不動産を借りるにあたって固定資産税の負担等金銭の授受があったとしても賃料支払の実質がなければ使用貸借契約と解釈されます。
 
不動産の賃貸借であれば、借地なら建物登記、借家なら引渡しで第三者に対する対抗要件を具備することができます。
借地借家法の規律です。
第三者対抗要件を具備するというのは、第三者に権利を主張できるようになるということを意味します。
そのため、物件が第三者に対して譲渡されても、賃借人が対抗要件を具備しているのであれば、譲受人の第三者に対して賃借権を主張できますから、結局、物権の譲受人は賃貸人の地位を引き継ぐことになります。
 
これに対し、無償行為である使用貸借は、借地借家法の適用外であり、そのような効力はありません。
無償であるから借地借家法によって保護されていないのですね。効力が弱いのです。
そのため、物件が第三者に譲渡されてしまうと、第三者たる譲受人に対抗できず、譲受人に使用貸借関係を主張できませんから、結局、譲受人からの建物収去請求、明渡請求が認められます。
これが原則です。
 
ところが、土地の使用貸借をして建物を所有する者に対して行われた土地の譲受人からの建物収去土地明渡請求について、権利濫用を理由に排斥した高裁の裁判例を見ました。東京高裁平成30年5月23日判決。
 
同判決は、土地の借主兼建物所有者の土地の占有権原は使用貸借であって土地譲受人に対抗し得る占有権原を有していないから、権利の濫用に当たるとの特段の事情が認められない限り、土地譲受人は土地所有権に基づいて建物収去・土地明渡を求めることを確認しています。
その前提の下、本事例ではその権利濫用に当たる特段の事情が認められるとしたわけです。
 
同事例は、低廉な売買価格(更地価格の3割にも満たない額)で売買・同日転売されたいかにも怪しい事例だったようです。
譲渡人も合理的に価格を検討していないでいいなりで安く売却したようです。
また、建物所有者・居住者に権利関係を尋ねることなく秘して取引が行われた異常性も指摘されています。
勿論、建物所有者も高齢で体調も悪いという気の毒な事情もあったようです。

上記裁判例は、土地譲受人は、権利関係を十分に把握していると思われない譲渡人から極めて低廉な底地価格で購入して巨額な経済的利益を得た上、借主の生活等に及ぼす影響を考慮していない、などと断罪し、権利濫用にあたる特段の事情を認めました。
 
明渡請求が信義誠実の原則に反して権利濫用に当たるかどうかは、使用貸借関係の当事者間で検討されるべきで、第三者たる譲受人は本来関係のないことです。
債権関係は当事者間の関係で第三者は関係ありません。
第三者にも主張できる所有権など物権と異なり(対抗要件は必要ですが)、債権は債権者が債務者に要求するだけの権利であり、第三者に何ら要求できないのが原則なのですね(土地建物賃貸借は借地借家法により対抗力を認められて第三者にも主張ができるという意味で、物権化されています)。
 
当事例では、売買の異常性を認め、土地譲受人側そのものの暴利性を認定したのでしょう。
 
一方で、上記裁判例は、明渡しが1億円の立退料を支払えば、権利濫用に当たらないとします。
そして、1億円の支払いとの引き換えに建物収去・土地明渡を認めました。
支払いと引き換えに請求を認める形の判決を引換給付判決といいます。
 
立退料は、賃貸借の更新拒絶における正当事由の存否の判断の場面において典型的に出てくるものですね。
〇〇円の支払いとの引き換えに更新拒絶の正当事由を認めて明渡しを認めるわけです。
前記裁判例では、使用貸借を前提とする権利濫用の判断においても、同じような考え方をしたということですね。
 
なお、更地価格は2億6000万円超だとのことです、使用貸借で立退料1億円というのはかなり高いですね。
対抗力ある賃借権であれば相応の借地権価格が認められますが、使用貸借は違います。
建物収去費用(土地上の建物を壊して撤去する費用)が2000万円ほどと認定されているようで、それも加味されているのでしょうが。
 
勿論、使用貸借は効力が弱いのは確かです。
権利濫用が認められるのは、特別なケースだけだと思います。
今回は、その特別なケースをご紹介しました。
 
不動産に関するご相談はなかた法律事務所にご用命を。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
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