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旧コラム

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相続不動産を独占されている場合 [相続問題]

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。

 
今回の相続問題コラムは、相続財産を一人の共同相続人に独占して使用されているケースの解説です。

 

相続が発生し遺産分割協議は終わっていない状態で、1人の相続人により相続不動産を勝手に使われているという相談をよく承ります。

 

相続が発生すると、遺産に属する不動産は、相続人間の遺産共有状態になります。遺産分割協議、遺産分割調停、遺産分割審判で確定的に遺産分割が決まるまでその状態が続きます。

遺言がある場合は別ですが、それでも遺留分減殺請求を行った場合にも共有状態が作出されることがありますね。

他の相続人からしてみると、単独で遺産である不動産を使用収益していることが納得できないことになります。

 

典型的な事例は、

賃貸不動産の管理を相続人の1人が独占し賃料も受け取って独占している場合、

あるいは

被相続人の相続不動産に1人の相続人が住み続けている場合、

ですね

 

この2点についてお話ししようと思います。

 

【賃貸不動産の管理を相続人の1人が独占し賃料も受け取って独占している場合】

 

遺産から生じる賃料は、法律上、遺産の果実との扱いを受けます。遺産の管理や利用等によって生じる収益ですね。

 

遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得することになっています(最判H17.9.8)。

 

確定的に取得するのですから、後に遺産分割がなされても影響がありません。相続分というのは遺言がない限りは法定相続分と思っていただいて構わないでしょう。

 

賃料を独占している相続人に対しては、(賃料額-経費)×相続分を請求できることになります。経費は遺産管理費用と呼ばれますが、どこまでが算入されるか自体争いになることが多いでしょう(経験上、その相続人が払った所得税が難しいですね。他の所得もあるわけですから)。

 

遺産の果実の分配は、理屈上、遺産分割ではありません。

相手方が請求に応じなければ訴訟で解決することになるのが基本です(ただし、調停を先に起こすという調停前置主義の対象にはなります)。訴訟する理屈は、不当利得返還請求あるいは不法行為に基づく損害賠償請求になります。

 

ただし、それでは面倒ですね。遺産分割協議においては勿論、相続人全員の同意があれば調停等の遺産分割手続で解決することもできます。

 

遺産分割の段階では、預かり敷金・保証金の扱いも忘れてはいけません。物件を引き継ぐ=賃貸借契約を引き継ぐ=敷金返還債務を引き継ぐ、相続人との調整が必要ですね。

 

【被相続人の相続不動産に1人の相続人が住み続けている場合】

 

明渡請求ができるかどうかが気になるでしょう。

 

まず、使用貸借(無償での貸借)契約の成立が問題となります。成立したと認められるケースであれば、当然、使用貸借の期間満了まで明け渡しを請求することはできません。

 

判例(最判H8.12.17で、相続前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と同居の相続人間で、被相続人が死亡した後も遺産分割により上記建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き同居相続人に無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるとされています。

 

判例のようなケースだと原則遺産分割までには明渡請求が認められないことになります。
使用貸借が認められるかどうかはケースバイケースの判断なのでしょう。当然認められるわけではありません。

 

使用貸借契約の成立が認められない場合でも、理屈上、無条件に明渡請求は認められません。

 

居住している相続人にも共有持分がありますね。民法上、共有者はその持ち分に応じて共有物の全部を使用することができます。
共有物の管理行為は持ち分の過半数で決定されるので、過半数持分の相続人による明渡請求は認められそうだとは思いますが、裁判例では認められていません。
共同相続人の間の占有の変更は管理行為ではなく給油者全員の同意が必要な変更行為(民法251条)と考えられているようです。

 

そうであれば、明渡請求ができないので(勿論遺産分割等で所有関係が確定する前のことです)、他の相続人ができることは金銭請求の途しかないということになります。

 

使用貸借が認められるケースでなければ居住相続人は他の相続人の持ち分について無権原占有者です。
共有不動産を使用=居住することはできるが、無権原で使用する部分についてはその利益を賠償・返還するべきとういうことになります。


具体的には、不動産を単独で占有する共有者に対しては、不当利得返還請求権あるいは不法行為に基づく損害賠償請求権として、賃料相当額×相続分を請求することができます。
勿論、賃料相当額がいくらかということはなかなか難しいのですが・・・。


なお、居住相続人が遺産の管理費用(固定資産税等)を支払っている場合には、賃料料相当額からそれを控除して請求する、あるいは控除するよう反論されることになります。

 

先にも書きましたが、遺産収益に関する訴訟は、調停前置です。まずは家事調停を申し立てることが原則です。
ただ、既に揉めているケースがほとんどでしょうから(遺産分割の話がまとまらないから単独占有の問題が顕在化します)、話し合いの余地がないとしていきなり訴訟をすることも認められるケースもありますし、実際に裁判所から何も言われなかったこともあります。

 

遺産分割協議、調停・審判は出来るだけ早く進めるべきです。それと並行して、遺産の果実の問題等が出てくるというお話でした。

 

遺言、相続、遺留分減殺、相続放棄等、相続問題のご相談はなかた法律事務所へ。

 

広島の弁護士 仲田 誠一

なかた法律事務所

広島市中区上八丁堀5-27-602

 

https://www.nakata-law.com/

 

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相続放棄の際は固定資産税に注意を【相続問題】

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
相続問題のうち相続放棄のお話です。
相続放棄の際に気を付けないといけないことの1つに固定資産税があります。
なぜ気を付けないといけないかというと、他の税金と違った特殊な扱いがなされるからです。
 
相続放棄をすれば放棄者は相続人でなくなります。
その効果は被相続人の死亡時から、すなわち初めから相続人でなかったことになります。
相続放棄は、相続債務の負担を免れる目的でされることがほとんどですね。
相続債務はもちろん、滞納税金があっても、相続放棄申述受理証明書を提出すれば納税義務を承継していないとして、放棄した人に督促がなされることはありません。
 
これに対し、固定資産税は、その特殊な扱いにより、相続放棄をしても固定資産税を納めないといけないケースもあるのです。
 
固定資産税は何が特殊なのでしょうか。
 
固定資産税の納税義務者は、原則として賦課期日における固定資産の所有者に課税します。
固定資産税は所有者課税の原則ととっています。
賦課期日は、1月1日です。
所有者とは、土地又は家屋については土地登記簿(もしくは補充課税台帳)に登記・登録されている者をいいます。
その原則の例外として、賦課期日前に登記名義人が死亡した場合は、同日において不動産を現に所有している者に課税されます。
相続人が数人いて遺産分割協議がなされるまでは相続人の共有となります。その場合には、賦課期日現在共有の土地家屋として、数人の相続人が連帯納税義務を負うことになります。
共有名義不動産の固定資産税は、共有者全員に連帯納付義務があります。12月31日以前に亡くなった場合には、遺産分割・相続登記が終わっていない限り、その相続人が納税義務者になります。
 
そうであれば、相続放棄をすれば相続発生時から相続人でなかったことになるので、理屈上、相続放棄をした人には課税されないとなりそうですね。
 
しかし、固定資産税は、台帳課税主義の原則もとられています。
固定資産課税台帳に登録されたところに基づいて固定資産税を課税する原則です。
固定資産税台帳に放棄した相続人が登録されてしまう場合があるのですね。
相続放棄申述書を提出しても受理されるのには一定の期間がかかります。
12月31日までに相続放棄申述受理がなされないことは珍しくありません。
 
恐ろしいことに、固定資産税台帳に登録されていれば、相続放棄をしたとしても、納税通知書が届いた人に納税義務があります。台帳課税主義ですね。
台帳課税主義については判例もその有効性を認めています。
課税上の技術的考慮からという理由です。
しかし、課税をする場面では納得できますが、真実の所有者ではない者に課税した場合の事後救済処置を講じていないことには疑問があります。
 
判例が認めている以上、固定資産税台帳に登録されて納税通知書が来ると、結局は、一旦支払ってから、本来の所有者に対して支払いを求めるほかないです。
求償をするということですね。
 
しかし、相続放棄をする場合には他の相続人も順次相続放棄をして誰も相続人がいなくなるのが通常ですね。その場合は、相続財産法人(相続財産のことです。)に請求をすることになります。
 
これは現実的ではありませんね。
 
このような事態を防ぐ方法があるかというと難しいです。
相続放棄申述受理が1月1日を超える場合には相続放棄の手続中である旨を役所に連絡をすればいいのでしょうか?
しかし、理屈上、相続放棄申述受理がなされていなければまだ相続人であり、やはり台帳に登録されるかもしれません。
 
今のところ明快な解決策はないようです。
ただ、こういう事態が発生することがあるということを事前にわかっておくことは必要ですね。
 
なお、相続放棄申述受理証明書を役所に送付し、課税台帳の記載を変更してもらい、翌年度以降の固定資産税については課税されないようにしてもらった経験があります。
 
相続放棄をなされる際、被相続人所有不動産がある場合には、こういう問題もあることにご注意ください。
 
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登記に協力してもらえない場合 [相続問題、不動産問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
不動産登記、特に相続のお話です。
 
合意ができているのに不動産登記に協力してもらえないという例が稀にあります。
通常は、合意までしたのであれば登記協力はしてくれますし、実務上は、合意書面と同時に登記書類の作成や印鑑証明書の用意をしてもらいます。
 
ただ、書類のやりとりを郵送で行わなければならないこともあり、そのような場合には合意書面のみもらえて登記用の書類がもらえないという事態も発生し得るのです。
 
【代物弁済契約書などの契約書面を作成したにもかかわらず登記書類がもらえない場合】
 
契約が成立した時点で、条件や代金等支払の同時履行の抗弁など不動産の所有権移転が妨げられる理由がない限り、契約に基づいて不動産の所有権は移転します。
なお、理論上、契約は極一部の例外を除いて口頭でも成立しますから、契約書がない場合も契約の成立が認められるのであれば同じです(ただ、きちんとした証拠がなければ事実上裁判では認めてもらえません)。
 
契約が成立しているのであれば、契約の相手方は登記申請義務者になります。
○○契約に基づく所有権移転登記手続請求訴訟を提起して確定判決により相手方の登記申請意思を擬制してもらえれば、所有権移転登記をすることができます。
 
なお、契約書があるのであれば、割合容易に契約の成立が認められます。
書類作成の真正(名義人が自分の意思で作成したこと)が認められれば、特段の事情がない限り、書類の記載どおりの法的効果が認められるからです。
 
【遺産分割協議が成立したにもかかわらず印鑑証明書がもらえない場合】
共同相続人間の協議により遺産分割が成立した場合には、相続開始の時に遡ってその効力を生じます。
そのため、遺産分割協議が成立し、単独で相続することとなった相続人は、不動産を被相続人から直接承継取得したものとして、単独申請により相続登記をすることができます。
ただし、戸籍や遺産分割協議書は勿論、書面作成の真正を担保するために他の相続人の印鑑証明書を添付する必要があります。
 
そこで、他の相続人が印鑑証明書の提出に応じない場合には、相続登記ができなくなります。
 
契約に基づく移転登記請求は前述のとおり相手方に対する所有権移転登記手続請求訴訟の勝訴確定判決により相手方の登記申請の意思を犠牲し、登記をすることができます。
これに対し、被相続人名義のままの不動産の相続登記は、遺産分割により不動産を単独取得した相続人の単独申請の構造をとりますから、他の相続人は登記の申請義務者ではありません。
そのため、他の相続人に相続を原因とする所有権移転登記手続を求める判決を得ても意味がないとされています。
 
遺産分割協議に基づく登記ができない場合の解決方法としては、3つ挙げられています。
 
まず、遺産分割協議書の真否確認の訴え(遺産分割協議書が相続人全員の意思に基づいて作成されたことの確認を求める訴え)を提起して勝訴の確定判決を得る方法です。
民事訴訟法134条ですね。
確定判決を、印鑑証明書の代わりに相続を証する書面の一部として提出することができます。
その上で、登記に協力する相続人の印鑑証明書、遺産分割協議書等を提出し、相続登記を単独申請できます。
勿論、遺産分割協議書を作成していなければいけませんね。
 
次に、協力しない相続人に対し、遺産分割協議の結果としての所有権の確認訴訟を提起し、勝訴の確定判決を得る方法です。
遺産分割協議の成立により不動産の所有権は既に移転しています。
だから所有権を確認するということですね。
確定判決とともに、登記に協力する相続人の印鑑証明書、その者の署名・捺印ある遺産分割協議書を提出して、相続登記を申請することになります。
理屈上、遺産分割協議書が作成されていなくても提起できます。
しかし、口頭の協議成立を証する証拠がなければいけません。
 
最後に、法定相続分割合による共同相続登記をまず行い(これは単独申請できます)、協力をしない相続人に対し、遺産分割を原因としてその共有持分の全部移転登記手続請求訴訟を提起する方法です。
一旦共同相続登記が入れば、遺産分割協議による移転登記は共同申請となるため、判決による登記申請意思の擬制の意味が出てきます。
協力しない相続人との関係では確定判決をもって意思を犠牲してもらい登記申請する、協力が得られる相続人との関係では共同申請を行うということになります。
登記を2回する必要がありますね。
 
どの方法がいいかはケースバイケースの判断ですね。
遺産分割協議書があるのであればどれでもいいでしょう。
証書の真否確認訴訟の方が直截的でしょうか。
ただし、肝心の遺産分割協議書に少しでも不備があれば、真否確認の訴えも使いづらいですね。
 
遺産分割協議書がなければ真否確認の訴え以外の方法しかとれません。
一旦法定相続分による共同相続登記を行う方法がは、数次相続が起きているケースでは使いづらいですね。
 
私が扱った案件では、
相続人の1人が既に亡くなり、その相続人との間で遺産分割協議書が作成していた事例では、真否確認の訴えを
遺産分割協議書が作成されていましたが、少し不備があり、かつ相続人のうち2人が亡くなっていた事例では、所有権確認訴訟を、
代物弁済合意書がある事例では、勿論、所有権移転登記手続請求訴訟を、
各選択しました。
 
登記の問題が絡む訴訟は、勝訴判決が出た際に本当に判決に基づいて登記ができるのか、司法書士や法務局に確認をしないと進められません。
訴訟においても、裁判官から本当にこの形で登記ができるのか確認をされることも多いです。
 
不動産問題、遺言、相続、遺留分、相続放棄等、相続問題のご相談はなかた法律事務所へ。
 
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公正証書遺言の無効 [相続問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
今回は相続問題のうち、相談が多い遺言公正証書の無効についてお話します。
当職も、つい最近、遺言無効確認等請求訴訟の最終準備書面を作成したところです。
 
遺言の効力を争うには、基本的に遺言無効確認訴訟等訴訟によらなければなりません。
遺産分割調停を申し立てても、家庭裁判所は遺言の有効性を判断してくれません。地方裁判所に訴訟を提起して決着をつけないといけないのですね。
勿論、相続人間で遺言の無効を確認し、遺言はないものとして遺産分割協議が成立すればそのようなことはしなくていいです。
 
公正証書遺言無効は自筆証書遺言と比べて無効と判断されるにはハードルが高いです。
公証人が本人の意思を確認して作成される建前だからです。
また、遺言者の最期の意思を尊重するという観点から、遺言の有効性をかなり緩く認める傾向も否定できません。
 
勿論、簡単ではないですが、遺言公正証書の無効が認められるケースはあります。
 
公正証書遺言の無効の原因は、大きく分けて、遺言能力の欠如あるいは要式違反の2つです。
遺言能力とは、遺言事項を具体的に決定しその法律効果を弁識するのに必要な判断能力たる意思能力ですね。
要式違反というのは、公正証書遺言作成手続に瑕疵があるということですね。
口授手続(遺言者が公証人に遺言内容を伝えること)の違反が多いです。
要式違反も、結局は、遺言者の能力の減退を前提とすることがほとんどです。
被相続人は○○の状態であったから口授ができるはずがないといった論法になってしまいますからね。
要式違反の主張も、結局は遺言者の遺言作成時における能力が争点になります。
 
必然的に、公正証書遺言の無効を裁判で争うには、遺言者が遺言時に遺言能力を失っていたと認められるような客観的資料が必要です。
それが発見できなければ戦いようがないため、受任をすることはしません
 
一番重視されるのは、当然ながら医療記録ですね。
医療記録の中に、CT、MRI、長谷川式簡易知能評価スケール、Mini-Mental State(MMS)などがあるとその結果も重視されます。
介護記録も重要な資料の1つです。
それらを基に医師の意見書などを原告被告双方が出し、場合によって鑑定に付されるなどして、遺言能力の有無が争われます。
 
遺言能力の有無の判断にあたっては
①遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度、
②遺言内容それ自体の複雑性、
③遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等、
といった諸事情が考慮されます。
 
①が勿論メインです。

例えば、一般に、アルツハイマー型認知症が中等度ないし高度であれば、記憶障害もまた中等度ないし高度であるため、遺言能力は欠如しているとされます。
ただ、遺言能力は抽象的にではなく、具体的に判断されます。遺言者の遺言時の精神状況が様々な資料により分析されるということです。
 
長谷川式簡易知能評価スケール、Mini-Mental State(MMS)も抽象的な点数よりも回答状況を具体的に分析しなければなりません。
介護記録は医療記録よりも証拠価値は低いとされますが、介護認定調査票などは遺言者の具体的な状況が明らかになる重要な資料ですね。
 
遺言作成時の医療記録等が揃っていたら割合単純な話なのですが、都合よく揃っているわけではありません。
遺言前後の医療記録等により遺言時の遺言者の状況を推認していかなければならないケースも多いです。
 
②は、遺言者の精神状態との関係で、その遺言内容を理解して決定できたかの問題です。

全ての遺産を特定の相続人に相続させる遺言であっても、一概に簡単な内容とはいえません。
そのような遺言の場合であっても、「本件公正証書遺言の内容自体は全財産を相続させるという単純なものであるが、そのような内容の遺言をする意思を形成する過程では、遺産を構成する個々の財産やその財産的価値を認識し、受遺者だけではなくその他の身近な人たちとの従前の関係を理解し、財産を遺贈するということの意味を理解する必要があるのであって、その思考過程は決して単純なものとはいえない。」とした裁判例もあります。
遺産の承継に関する遺言をする者は、一般に、各推定相続人との関係においては、その者と各法定相続人との身分関係及び生活関係、各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力、特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わり合いの有無、程度等諸般の事情を考慮して遺言をする(最判平成23年2月22日)のですからね。
 
③のメインは、遺言の動機・理由です。

遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等から、合理的な遺言の動機、理由があるのかがメルクマールの1つになります。
 
公正証書遺言の効力が争われるケースでは、遺言の書き替えがなされていることが多いです。遺言能力に疑義があるような被相続人が従前の遺言を書き替えるケースでは、遺言の合理的理由の有無が重視されます。
合理的な理由がなければ、遺言者の強い働きかけにより、遺言が作成されたと疑われるのですね。
 
なお、公正証書遺言といえば、公証人が証人として出てくることが多々あります。
公証人が具体的な遺言作成の状況は覚えていないと証言することが多いのではないでしょうか。
多ければ年間何百件も作成しますからね。
しかし、私の担当した訴訟でも公証人が出てきましたが、十数年前の遺言の具体的な状況を覚えていると証言をしました。
しかし、俄かに信じることができませんよね。証言の信用性をかなり争いました。
 
遺言の効力の争いは、医学的見地から分析・検討が必須であり、また論点も多岐にわたり、大変労力のかかる訴訟の1つです。
最近書いた最終準備書面も80数頁にわたる大部なものになってしまいました。
 
一方、後日の紛争を防ぐためには、遺言作成時にきちんと診断書(知能テストをしてもらった方がベターです。)を取得しておくことをお薦めします。
遺言能力が否定し難いそのような資料が残っていれば、争いが顕在化することを防ぐことができます。
 
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遺産分割と否認 [借金問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
法的債務整理(自己破産、個人再生)の際、遺産分割未了の財産がある場合には、基本的に法定相続分に応じた財産額が破産者の財産として把握されます。
通常は共同相続人に相続分の買取りが打診されるでしょう。
 
個人再生の場合は、清算価値の問題となります。清算価値が大きくなり、それが最低弁済額を押し上げ、個人再生ができない、あるいはやっても意味がないということにもなりかねません。
 
なお、未分割遺産が本当に田舎の物件で換価が困難で価値が見いだせないような場合には、未分割遺産を無視してくれます。
自己破産手続との関係では、同時廃止も可能です。
 
今回は、自己破産前に遺産分割協議を行った場合のことをお話します。
 
勿論、ずいぶん前に、破産者が経済的危機状態に陥る前の遺産分割協議は問題視されません。
もっとも、その場合も相続の状況は裁判所から報告を求められます。
 
遺産分割協議が破産者の経済的危機状態以後になされた場合が問題視されるのですね。
破産管財人による否認の問題です。
破産者に不利な遺産分割協議は詐害行為と見られかねないということです。
なお、個人再生においても否認相当行為については清算価値に計上することになっております。
 
趨勢は、自己破産手続における遺産分割協議に対する介入は謙抑的に考えられていると思います。
明確にそのことを示した東京高裁平成27年11月9日判決があります。
同判決の判断をかいつまんで要約すると、
・ 民法906条によれば遺産の分割は一切の事情を考慮してなされる。
・ 『遺産分割自由の原則』があり、遺産分割協議による分割は、基本的にはこれを尊重すべきある。
・ 相続人である破産者が遺産分割によって法定相続分ないし具体的相続分を下回る遺産しか取得しなかったとしても、民法906条に則り一切の事情を考慮した結果であることもあり得るから、その詐害性を直ちに認めることはできない。
・ 遺産分割協議は、元々破産者の財産でなかったものが、遺産分割の結果によって相続時にさかのぼってその効力を生じ、破産者の財産とならなかったことに帰着するものであるから(民法909条)、破産法160条3項所定の無償行為として、類型的に対価関係なしに財産を減少させる行為と解するのは相当ではない。
・ 債務者たる相続人が将来遺産を相続するか否かは、相続開始時の遺産の有無や相続の放棄によって左右される極めて不確実な事柄であり、相続人の債権者は、直ちにこれを共同担保として期待すべきではない。
・ 遺産分割協議は、原則として破産法160条3項の無償行為には当たらない。ただし、当該遺産分割に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情があるときは、破産法160条3項の無償行為否認の対象に当たり得る。
というような判断です。
 
遺産分割協議が無償行為等詐害行為として否認の対象となるのは例外的なものと位置付けですね。
勿論、全ての裁判所が上記のような判断をしてくれるかどうかはわかりません。
 
また、上記裁判例も、具体的な事情を詳細に検討して、否認対象となる特段の事情が存在しないという判断をしています。
結局は、事案によってケースバイケースの判断になるということです。

自己破産申立ての際には、特段の事情がないこと、すなわち遺産分割合意に至る合理的な事情の説明が必要になるでしょう。
理屈だけで戦っても仕方ありません。
否認対象となるのは例外的であるという理屈を前面に出しながらも、合理的な理由を具体的に説明していくということでしょうか。
 
なお、遺産分割協議が否認対象とならなくとも、相続登記が破産法164条により独立に否認の対象となり得ます。
支払停止後等の対抗要件具備行為が否認対象となっているのです。
遺産分割の合意はずいぶん前にあったが、相続登記をしていなかった事例(好ましくない事態ですが珍しくはないですね)で問題になり得るでしょう。
実際にこのような案件を扱っています。
 
当職の私見ですが、遺産分割合意自体が否認の対象とならないのに、相続登記が遅れただけで登記が否認対象となることは疑問があります。
 
相続登記は、債権者を害するものではなく、有害性がないのではないでしょうか。
 
また、従前の遺産分割合意を正しく登記に表す行為には、所謂執行逃れのような不当な目的は存在せず、不当性がないものと考えられるのではないでしょうか。
 
さらに、相続登記を否認しても遺産共有状態となるだけです。
破産管財人が遺産分割審判をとろうとしても、従前の遺産分割合意を無視した審判が出るのか疑問が生じます。
 
本来、否認の対象とならない遺産分割合意について、それを反映する相続登記だけを取り上げて否認することには、違和感を禁じ得ません。
 
この点は、なかなか難しい問題で、的確な裁判例等も見当たりませんでした。
 
相続登記は面倒くさがらずに、忘れないうちに、しておいた方が無難ですね。
                   
債務整理(任意整理、個人再生、自己破産等)のサポートはなかた法律事務所にご用命を。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
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死亡保険金の指定受取人が先に死亡した場合の受取人 [相続問題]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
お盆前は例年忙しい気がしています。
今年も訴訟や調停の期日がお盆前に集中してしまい、忙しさに負けてコラムの投稿を怠りがちになってしまっております。
8月いっぱいはこのような状態が続いてしまいます。
 
ということで、久しぶりの投稿になります。相続関係のお話をさせていただきます。

死亡保険金の扱いです。
厳密に言えば相続手続ではないのですが。
 
まず、生命保険の死亡保険金が相続財産として扱われるかどうかの話からです。
 
死亡保険金に受取人指定がある場合(通常ありますね)、生命保険金は指定受取人がその固有の権利として原始取得すると最高裁が結論を出しています。
したがって、死亡保険金は被相続人の相続財産になりません。遺産分割の対象とはならないです。

ただし、死亡保険金が相続財産に属さないことの結果として不公平が著しい例外的な場合に(遺産と保険金の金額の比較や被相続人と受取人との関係等諸事情が勘案されます。)、特別受益に準じて持ち戻しの対象となることが判例で認められております。
その限りで遺産分割に影響があります。
ただし、特段の事情がないといけませんので、実務上簡単に認められるわけではありません。
 
税法上は、異なりますね。相続財産として扱われ、相続税の課税対象となっています。
 
ただし、被相続人が保険契約者かつ保険金の受取人になっている場合は、死亡保険金は相続財産となります。
また、受取人を相続人と指定している場合には、法定相続人が法定相続分に従って死亡保険金を受け取ることになります。
 
死亡保険金の保険金受取人として特定の者が指定されていても、その指定受取人が被相続人よりも先に死亡しており、その後に受取人の変更がなされていないケースもありますね。
 
次に、その場合には誰が死亡保険金を受け取るのかのお話です。
 
実は、死亡保険金の受取人の相続人(故人の相続人ではありません)が受取人になります。
 
保険法の定めによります。相続法の規律を定める民法によるわけではありません。
そのため、指定受取人の相続人が複数いる場合には、相続人全員が等しい割合で取得するとされています。
均等割合ですね。民法427条の規律によります。相続ではないから法定相続分ではないのです。ややこしいです。
 
ただ、遺産分割に盛り込むことには親和性があります。
たいていの場合は受取人が配偶者で受取人の相続人と被相続人の相続人が一致しますから、数次相続の扱いで協議をすることができますね。
 
勿論、以上の規律よりも保険会社との約款等の合意が優先されますので、保険会社の約款を確認しないといけません。
 
しかし、簡易生命保険、かんぽ生命保険の取り扱いは特殊です。注意が必要ですね。
 
受取人が先に死亡している場合には、死亡保険金を、指定受取人の相続人ではなく、「遺族」が受け取るのです。
相続法の規律とは異なる旧簡易生命保険法、約款にて遺族制度が定められているのですね。
 
遺族とは、①被保険者の配偶者、②被保険者の子、③被保険者の父母、④被保険者の孫、⑤被保険者の祖父母、⑥被保険者の兄弟姉妹、⑦被保険者の扶助によって生計を維持していた者、⑧被保険者の生計を維持していた者、です。
 
遺族制度にはさらに注意点があります。
 
①~⑧の順により遺族が定まり、先順位の遺族がいる場合には、後順位の者は遺族ではありません。
配偶者と子がいる場合には、民法で定める相続法の規律では配偶者と子が共同相続人です。
しかし、遺族制度では、遺族は第1順位の配偶者のみです。第2順位の子は遺族にはなりません。
なお、同順位の遺族が複数いる場合には、均等割合で取得します。
 
相続法と異なり、代襲相続の仕組みがありません。
被相続人に子が3名いるが1人は子を残して既に亡くなっている場合(配偶者が既にいない場合)、民法で定めている相続法の規律では、法定相続人は生存している子2人と亡くなった子の子(すなわち被相続人の孫)ですね。孫は亡くなった子に代わって相続人となります。これを代襲相続といいます。
しかし、遺族制度では、代襲相続を定めていませんので、被保険者の子は生存していた子2人だけになります。孫は受取人になりません。
これが公平なのかどうかは疑問ですが。
 
このように、死亡保険金の受取人が先に亡くなっている場合には注意が必要ですね。
特にかんぽ生命は気を付けないといけません。
 
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広島の弁護士 仲田 誠一
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