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法人の自己破産に取締役全員の同意が必要なのか?

広島市所在なかた法律事務所の弁護士仲田誠一です。
今回は、法人が自己破産を申し立てる際にどのような意思決定が必要なのかというお話をさせていただきます。
個人の自己破産は関係のない、法人の自己破産特有の問題です。

目次

Ⅰ自己破産と準自己破産との違い
Ⅱ法人の自己破産には取締役全員の同意が必要か?
Ⅲ法人の意思決定の方法とは
Ⅳ意思決定の具体例
Ⅴ意思決定にあたっての注意点
Ⅵまとめ

Ⅰ 自己破産と準自己破産の違い

1.自己破産と準自己破産

破産法18条1項では破産手続開始申立権を「債務者」に認めています。「債務者」の申立てによって開始される破産手続を自己破産と呼びます。
現在、ほとんどの破産手続が自己破産となっています。

これに対して、法人破産では、破産法19条が、理事、取締役および業務を執行する社員など役員がその地位に基づいて法人の破産手続開始申立てをすることも認めます。これら役員の申立てによる破産手続を準自己破産を呼びます。

2.自己破産と準自己破産の違い

① 破産手続開始原因の疎明責任の有無
準自己破産の場合(破産法19条に基づいて役員が申立てをするとき)は、役員全員が申立人となる場合を除き、破産手続開始原因事実が存在することの疎明を要求されます(破産法19条3項)。役員の一部による申立てでは、内紛を原因として破産手続が濫用されるおそれがあるからです。
破産手続開始原因とは、支払不能または債務超過です(破産法16条1項)。支払不能とは、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態です(破産法2条11号)。債務超過は、債務につきその財産をもって完済することができない状態です(破産法16条1項括弧書)。

② 予納金額の多寡と負担
準自己破産の場合には、自己破産と比べて、裁判所に要求される予納金が額が高額になる可能性があります。かつ、準自己破産では、原則として、申し立てる役員が予納金を負担します。

③ 弁護士費用
準自己破産の場合には、原則として、会社財産から弁護士費用等を支出することはできません。
申し立てる役員が負担する必要があります。

Ⅱ 法人の自己破産には取締役全員の同意が必要か?

1.自己破産ができる「債務者」とは

自己破産ができる「債務者」(破産法18条1項)には、自然人だけではなく、法人も含まれます。法人組織として法的に要求される手続を経て有効な意思決定がなされ、同決定に基づき代表機関が申し立てた破産手続は、すべて自己破産になります。

かつては、法人が「債務者」として自己破産を申立てられるのは、役員全員が申し立てるか、代表者が役員全員の同意を得て申し立てる場合に限られるという見解が一般的だったようです。一部の役員による申立ての場合にのみ破産開始原因の疎明義務が課されている(さきほどの破産法19条3項)という理由のようです。今でも、コンメンタール等では両論が併記され、役員全員の同意が必要と解説するインターネット記事も存在します。

法律が要求する機関決定に従った申立てであれば、法人の意思に基づく自己破産申立てだと考える方が自然ですね。自己破産をするために、わざわざ反対する取締役を解任して全員一致の形を作らなければならないと考えるのはとても迂遠ですし、非現実的ですよね。現在は、機関決定があればよいとする考えが一般的だと思います。少なくとも、広島地方裁判所本庁ではこの考え方で通用しております。

2.取締役全員の同意が必要なのか

法人が自己破産をするためには、取締役全員の同意を取り付ける必要はありません。

裁判所は、法人の自己破産申立てにかかる添付書類として、取締役会議事録とともに、取締役全員の同意書面も指定していると思います。
一見、取締役全員の同意を取り付けなければ準自己破産になるとも思えますね。

しかし、法的に要求される手続を経て有効に意思決定がなされていれば自己破産でした。
裁判所には、機関決定(取締役会決議など)を証する書面(取締役会議事録など)を提出すれば足り、全員一致である必要はありません。
では、法的に要求される機関決定とはどのようなものなのでしょうか。次に見ていきます。

Ⅲ 法人の意思決定の方法とは

1.株式会社の場合

取締役会設置会社で業務の決定を行うのは、あくまでも取締役会です(会社法362条2項1号)。取締役でも株主総会でもありません。
取締役会決議は、定款で条件を加重していない限り、議決に加わることのできる取締役の過半数が出席し、出席した取締役の過半数をもって行います(会社法369条1項)。
取締役会議事録を作成します。

これに対し、非取締役会設置会社では、業務の決定を行うのは、取締役です。
取締役が1人の場合には、単独で業務の決定をします(会社法348条1項)。取締役が2人以上いるときは、定款で別の定めをしない限り、取締役の過半数をもって業務を決定します(会社法348条2項)。
取締役決定書あるいは同意書を作成します。

ただし、非取締役会設置会社では、株主総会も業務の決定をする包括的権限を有します(会社法295条1項)。取締役はその決定に従わなければなりません。
株主総会決議で意思決定をする場合には、株主総会議事録を作成します。

2.有限会社その他の法人

その他の法人も株式会社と同じです。法律で要求される機関決定で足ります。

特例有限会社は、基本的に非取締役会設置会社と同じと考えてください。取締役単独あるいは取締役の過半数、および株主総会です。

その他の法人も、理事会決議等、法的に要求される手続による機関決定を経ていればかまいません。理事会議事録などを作成します。

Ⅳ 意思決定の具体例

1.取締役会設置会社のケース

代表者が95パーセントの株式を保有する取締役会設置会社です。取締役は3人ですが、名前だけ借りていて疎遠な取締役が1名いる例を想定しましょう。

取締役会設置会社では、業務の決定を行うのは、取締役会でしたね。反対する取締役がいても決議さえ成立すればいいです。上記会社では、取締役会を開催して破産手続開始申立てを決議します。裁判所には取締役会議事録を提出すればいいです。

2.非取締役会設置会社のケース

代表者が100パーセントの株式を保有している非取締役会設置会社です。取締役は5人ですが、同意を得られない取締役が1名いる例を想定します。

非取締役会設置会社かつ取締役が2人以上の会社は、取締役の過半数をもって業務の決定しました。これに従えば、裁判所には、過半数の取締役による取締役決定書、あるいは過半数の取締役の同意書を提出することになるでしょう。

ただし、非取締役会設置会社では、株主総会も業務の決定をする包括的権限を有しました。このケースでは、代表者1人で容易に全員出席株主総会が開催できますね。臨時株主総会にて破産手続開始の申立てを決議した方が簡便です。裁判所には、臨時株主総会議事録を提出します。

Ⅴ 意思決定にあたっての注意点

1.意思決定の手続を踏む

意思決定をする際には、法定の手続をきちんと踏むことを意識してください。
取締役会議事録等の機関決定を証する書面は裁判所に提出する書類であり、債権者等が閲覧することができます。また、破産に反対する役員がいれば、法定手続を経ていないとトラブルになるかもしれません。

法定手続を遵守している会社は少ないでしょう。しかし、自己破産の決定に際しては、招集通知などの手続をきちんと踏む方がよろしいでしょう。

2.意思決定の記録を残す

上述のように、法人の意思に基づく申立てであること(自己破産の申立てであること)を証する書面を裁判所に提出しなければなりません。議事録や同意書を裁判所に提出できるよう、あらかじめ弁護士等に準備をしてもらい、確実に作成してください。

後で作成すればいいと放っておくと、営業停止などによる混乱が生じた結果、後から作成できないという事態も生じることがあります。

Ⅵ まとめ

1.法人自己破産には取締役全員の同意が要求されない

法人が自己破産するために、取締役などの役員全員の同意は要求されません。法人組織として法的に要求される手続を経た有効な意思決定に基づき、代表機関が自己破産を申し立てればいいだけです。

法的に有効な意思決定があるのであれば、法人の意思による自己破産であり、役員がその資格で申し立てる準自己破産ではありません。

2.法人自己破産の意思決定方法

株式会社の場合、取締役会設置会社では取締役会で、非取締役会設置会社では取締役(1人の場合)、取締役の過半数(2人以上の場合)あるいは株主総会で、自己破産申立てを決定しました。その他の法人も、法定された機関決定を経れば自己破産と認められます。

法人の意思決定を証する議事録等は裁判所に提出しなけばなりません。機関決定にあたっては、法的手続をきちんと踏む、きちんと記録を残すことを心がけてください。

終わりに
今回は、法人の自己破産申立てにあたって取締役など役員全員の同意が要求されるかどうかについて説明をしました。法人破産は、事前準備と段取りでその成否が決まります。法人破産に詳しい弁護士に早めにご相談ください。なかた法律事務所は、法人破産について豊富な知識、経験を有します。

この記事を書いた人

弁護士 仲田 誠一(広島弁護士会所属)
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◆経歴
1996年4月~ あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~ 東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~ 広島大学大学院法務研究科
2008年12月 弁護士登録
2017年~各前期 広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格等
弁護士、公認内部監査人試験合格
著作「自転車利活用のトラブル相談Q&A」(民事法研究会,2022)

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