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「入学辞退による授業料返還の話」  【消費者問題】

弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一ですhappy01
 
 
1月に入って,いよいよ受験シーズンがスタートしますね。
受験生がいらっしゃるご家庭は,いろいろご苦労が多いと思います。
ただ,往々にして,受験生本人だけは,そんな苦労は知らずのんびり構えているものです。
 
ちなみに,私が大学受験した年は大雪の年でした。ずいぶん寒い冬だったと記憶しています。今年も寒いので,もしかしたら雪の中での受験になるかもしれませんねsnow
 
 
さて,今回は,受験に絡むお話として,授業料返還問題のお話をしようと思いますpencil

 
◆ 入学時納付金の返還問題とは?
大学受験をする場合,1校に絞って受験するのはまれなケースでしょう。いくつかの学校を併願するのが通例だと思います。
 
そのような場合に入学時納付金の返還問題が出てきます。
 
日程の早い大学(専門学校でも同様です)に合格し て,その大学の入学金や授業料など初年度納入金を支払ったとします。その後,日程の遅い本命の大学から合格通知が来ました。もちろん本命の大学に入学した いのですが,日程の早い大学に納めたお金の返還も要求したい。ところが,日程の早い学校の入試要項には,「納入された入学時納付金の返還は一切しません」 という「不返還特約」が存在する。それでも返還を要求できるか?
 
 
それが入学時納付金の返還問題です。
 
ちなみに,私の受験のときも日程の早い大学に入学時納付金を納めた記憶があります。
 
 
◆ 最高裁判例のルール
現在この問題については,最高裁の判例で一定のルールが示されています。
 
そのルールとは,
 
まず,在学契約は消費者契約にあたり消費者契約法 の適用がある。そのため要綱の不返還特約は,消費者契約法9条1項1号の損害賠償の予定または違約金の定めにあたる(同条項には,契約解除に伴う損害賠償 額の予定または違約金の定めは,解除の理由や時期等に応じて生じるべき平均的な損害額を超える部分が無効となると定めています)。
したがって,不返還特約のうち,入学辞退によって生じるべき「平均的損害」(客観的に通常生じると認められるであろう損害です)を超える部分は無効になる。
 
 
そして,入学時納付金のうち,授業料・施設利用料・自治会費などは,大学の学生に対するサービスの対価であるから,現実に授業などのサービスを受けていない以上は,返還するべきである。
 
 
一方,入学金は,大学に入学しうる地位を取得するための対価であり,学生がその地位を取得した以上は返還する必要がない。ただし,その額が不相当に高額であるなどの特段の事情があれば別である。
 
というものです。
 
したがって,入学金以外は返還してもらえる可能性が高いことになります。
 
 
◆ 入学辞退の申し出の時期に注意!
入学辞退の意思表示の時期は,原則として,3月31日までです。
4月1日には学生が進路をほぼ決めており,大学側が学業のレベルを落とさずに新たな入学者を確保することが難しくなるから,授業料等も入学辞退による「平均的損害」を超えないと判断されるのです。
 
 
もっとも,要項などに「入学式の無断欠席をもって入学辞退とみなす」旨の定めがあれば,その定めに従った入学辞退をしても返還を受けられるという判断がされています。
 
 
したがって,そのような定めもなく,4月1日以降に入学辞退をした場合には,授業料等の返還も請求できないことになります。
 
 
◆ 入学辞退の方法は?
法律的には,要項などの定めにかかわらず,口頭での申し出であっても,有効な入学辞退の意思表示になります。
 
 
もっとも,上に書いたとおり,入学辞退の時期が重要です。実際の裁判でもその点が争われたケースがあります。そのため,書面で,日付が証拠に残る形で,入学辞退の申し出をする必要があります。

◆ 推薦入試の場合は?
日程の早い学校が,一般入試ではなく,特殊な入試形態の場合には注意が必要です。
 
契約の時点でその学生が入学することが客観的に高い蓋然性をもって予測される場合は,大学が代わりの入学者を容易に確保することができる時期を経過していないなどの特別の事情がない限り,授業料等も入学辞退によって生じた「平均的損害」を超えないとされているからです。
 
 
契約の時点でその学生が入学することが客観的に高 い蓋然性をもって予測される場合というのは,例えば,専願あるいは第一志望とする推薦入試,入学を確約する推薦入試です。その場合には,特別な事情がない 限り,入学時納付金全額が大学側に発生すべき「平均的損害」と見られ,返還が請求できません。
 
 
◆ 最近の判例
専願などを条件としない推薦入試で合格して納付した初年度納付金の返還を求めた裁判の最高裁判決が昨年ありました。
 
 
まず,入学辞退時期が争われ,原告は3月中に電話連絡をしたと主張しましたが,大学側の記録などにより4月5日に入学辞退があったと認定されました。
 
先に書いたとおり,4月1日以降の辞退申し出によっては,原則として授業料等の返還を求められません。
 
ところが,争われたケースでは,要項に「補欠者に ついては4月7日までに通知がなければ不合格になる」旨の定めがありました。そこで,原告は,4月1日以降に入学辞退があっても補欠者を入学させることを 織り込んでいるから大学側に授業料等を含む「平均的損害」は発生しないと争いました。
 
その点について,最高裁は,上記のような定めは大学が最終的な入学意思の確認を4月7日まで留保する趣旨の定めだとはいえず,学生の多くの進路を決定している4月1日以降は学力を維持しつつ入学定員を確保することは容易でない等の理由で,原告の主張を認めませんでした。
 
◆ 最後に
法律的には少し難しいお話ですが,皆さんの身近で起きうる問題なので,今回のテーマにさせていただきました。
 
先ほど触れました消費者契約法の詳しいお話しは,また別の機会にさせていただきたいと思います。
受験生の皆さん,体に気をつけて最後まで頑張って下さいねconfident ファイトup

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