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「債務はどう相続されるの?」【相続・家庭問題10】

弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。

水槽がいよいよ凄いことになって来ました。白コリドラスが増え続けていますし,オトシンクルスネグロの赤ちゃんまで登場してきました。
みんなが大きくなったら水槽を増やさないといけないなと頭が痛いです。


さて,相続のご相談を受ける中で,個人の借金がある場合の相続のされ方や遺産分割協議での扱いについて,ご存じない方や誤解されている方が多くいらっしゃると感じています。

そこで,今回は,故人(「被相続人」といいます)に債務がある場合の,債務相続のルール,それを踏まえて遺産分割ではどう扱ったらいいのか,についてお話しようと思います。

 

◆ 債務の相続についてのルール

相続人Aさんが亡くなり,その相続人が妻のBさんと子のC,Dさんだったとしましょう。AさんにはE銀行から借りた1000万円の借金を残しました。これだけなら相続放棄をすればいいのですが,そこそこの財産があったため,皆が単純承認しました。

債務はどのように相続されるのでしょうか。

借金は「可分債務」です。
例えば,「車一台」を引き渡す義務など分割できない(分割して車の一部を引き渡されても意味がないですね)債務を「不可分債務」,借金のように金額・数量などで分割できる債務を「可分債務」と言います。

相続が発生すると,「可分債務」は,各相続人に,法定相続分に従って,当然に分割して承継されます。上の例では,Aの相続に関し,相続人の各法定相 続分は,Bが1/2,C,Dが各1/4です。したがって,可分債務であるAの1000万円の借金は,Bが500万円,CとDが各250万円とに分割して受 け継がれることになります。

E銀行の方から見ると,遺産分割を待たずに相続人に対して請求することができる一方,Bに対して500万円,C・Dに対して各250万円しか請求することができないことになります。

もちろん,BがAの借金の保証人であった場合には,Bは保証人として1000万全額の債務を負いますが,それは相続とは別の話です。

 

◆ 遺産分割協議での取り扱い

借金は各相続人にその法定相続分に応じて「当然に」承継されます。

そのため,遺産分割が終了していなくてもE銀行は各相続人に返済を請求することができます。

では,相続人BCDの話し合いで,債務はすべてCだけが引き受けるという遺産分割協議を成立させることはできるでしょうか。

実は,そのような遺産分割協議は相続人BCD間だけで有効になるだけで,債権者E銀行には主張できません。「可分債務」である借金は,法定相続分に したがって「当然に」分割承継されますし,もし債権者にも対抗できるとすると財産・収入がない相続人に債務を集められて債権者が損失を被ってしまいかねな いからです。

財産を多く受け継ぐ相続人が債務も引き継ぐという遺産分割協議を行うことは稀ではないと思います。商売をされている方の相続は特にそうでしょう。

そのような内容の遺産分割協議が債権者に対抗できないということは,次のように困った事態が生じえます。
Cが財産を多く引き継ぐ代わりにE 銀行の借金も承継する内容で遺産分割を行って,E銀王に対して事実上返済を続けていたとしましょう。その後,Cがなんらかの事情で返済をできなくなりまし た。E銀行から,B・Dに対して,その法定相続分に応じて,返済要求をされました。B・Dは遺産分割の結果をE銀行に主張することはできませんから,返済 要求を拒めません。という事態です。

B・Dからすれば,遺産は多くCに取られにもかかわらず,借金は法定相続分に応じて支払わされるという,矛盾した結果を受け入れることになるかもしれません。

 

◆ どうすればいいか?

債務はCが引き継ぐ遺産分割協議の結果を借金にも及ぼそうとすれば,債権者との合意がどうしても必要です。そのような協議は,債権者の合意が得られてから成立させる必要があるでしょう。

具体的には,BCDが,E銀行との間で,Aの債務はCだけが引き受けるという契約(免責的債務引受契約)を締結すればいいのです。免責的債務引受契 約とは,引き受ける人が債務を負い,引き受けてもらう人は債務を免れるという契約です。そうすれば,Cがもし借金を支払えなくなっても,BDがCに代わっ て支払う必要がなくなります。

その際,BDが,保証人になったり,「重畳的債務引受契約」(引き受けてもらう人と引き受ける人が重ねて債務を負う契約)を締結したら,あまり意味がありません。


◆ 最後に

以上のように,遺産分割協議を行う際には,財産だけではなく,被相続人の債務の取り扱いが今後どうなるのかも考慮に入れて行う必要があります。

なお,保証債務の相続のご相談もよくあります。

保証債務も,法定相続分に応じて分割承継されます(なお,故人が代表者包括根保証を入れている場合には,保証人の地位は相続されませんが,すでに発生している債務については分割承継します)。

保証債務の場合は,その存在がわかりにくいこともあって,知らずに相続を受けたり,それを考慮せずに遺産分割をするケースもあります。気をつけて下さい。


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