旧コラム

現在のコラムはこちらから

「親子じゃないのに子が相続?」【相続家庭問題12】

弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。

 

昨晩の食事は,もやし鍋でした。市販される鍋のつゆの種類が最近増えてきましたね,昔はキムチとちゃんこぐらいしかなかったように思います。カレー 鍋が出てきたあたりから急に増えてきたような気がします。鍋は野菜をたくさん食べることができるので,週に1度は食べています。

 

 

今回は,最近,法律雑誌に載っていたおもしろい裁判例を題材にお話をさせていただこうと思います。


◆ 親子関係が存在しない戸籍上の子には相続権がない

親子関係が存在しない戸籍上の子とは,どのようなケースでしょうか?

親族などから子を譲り受ける形で,虚偽の出生届を出し,実子として育てる例があります。これは,「藁(わら)の上からの養子」と呼ばれる慣行です。その出生届は虚偽のため無効であり,また出生届は縁組届の形式をとっていないため養子縁組としての効果も生じません。

珍しい例としては,産院で乳児が取り違えられた例もあります。

もちろん,戸籍上「子」と記載されていても,事実の方が優先します。

「子」は,第一順位の相続人ですが,親子関係がない以上は,戸籍の記載があっても,相続人の資格はありません。

他の相続人などの利害関係人から,親子関係不存在確認訴訟によって親子関係が否定されると,相続を受けられないことになります。


◆ 最近の裁判例

最近出た控訴審判決の中に,このような事例がありました。まだ,結論が出ていない事案のようなので,事例自体はデフォルメさせていただいております。

産院で取り違えられて長男として戸籍上の記載があるYさんは,戸籍上の父母と実親子同様の関係で生活していました。ところが,戸籍上の父母の死後, 戸籍上の弟Xさんらと相続をめぐって対立しました。そして,その遺産争いを直接のきっかけにして,XさんらがYと戸籍上の父母の親子関係不存在確認訴訟を 提起しました。

Xさんらの請求は認められるでしょうか?

DNA鑑定でYさんが戸籍上の父母の子ではない事実は確認されています。事実である以上,親子関係がないことの確認が認められるべきだと思われるで しょうか?実の子であるXさんらからすれば,実子ではないYさんが,相続において,自分たちと同じ「子」として平等に扱われるのは許せないかもしれませ ん。

もちろん,理屈はそうです。真実の親子関係と戸籍の記載が異なる場合には,親子関係が存在しないことの確認を求められることが原則です。
第一審はその原則どおりに考えたようです。

一方で,実の親子と同様に育った事実は無視していいのでしょうか?Yさんには落ち度はありません。遺産相続争いという財産争いのために,これまで築いてきたYさんの人生を否定してもいいのでしょうか?血縁関係がないといっても,日本では養子も認められていますよね?

例外的に,Yさんを保護してあげないといけないケースがあるような気がしますよね。


◆ 裁判所の判断

上のように,第三者(Yさんと戸籍上の父母との親子関係については実の子は第三者です)から,戸籍上の子と親の間の親子関係不存在確認訴訟が提起されたケースについては,5年ほど前の最高裁の判例がありました。

最高裁判例の事例は,「藁の上からの養子」のケースだったようです。

最高裁は,具体的な事情を考慮して,実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な場合には,その確認請求は権利の濫用として許されないと判断しました。

そして,考慮される事情としては,
①実の親子と同様の生活実体の長さ
②不存在確認を認めることによって戸籍上の子が被る精神的・経済的不利益
③改めて養子縁組の届けをして嫡出子の身分を得ることができる状況か(父母が死んでいたらもう養子縁組ができない)
④第三者が不存在確認を請求する経緯,動機・目的
⑤不存在を確認できないことによって第三者以外に不利益が及ぶか
等の諸般の事情を挙げています。

実の親子として何十年も暮らしてきた,そのため本人のショックが大きいし遺産をもらえないのも酷だ,戸籍上の父母が亡くなっているから改めて養子縁 組できない,第三者が訴訟を提起したのは遺産目的・財産目的だ,戸籍を直さなくても他に支障はない,といった事情があれば,実親子関係の不存在確認は許さ れない可能性が高くなります。

不存在確認が許されないということは,結局,戸籍上の子はそのまま相続できるという結果になります。

そのため,「親子関係のない戸籍上の子が相続する」ことが実質的に認められることになります。

最近の控訴審の裁判例でも,上の最高裁判例と同様な判断枠組みで判断しました。最高裁の「藁の上からの養子」(戸籍上の父母は知っていた)事例ではなく,産院での取り違え(戸籍上の父母も知らなかった)の例でも,同じ枠組みで判断したところが新しいところです。

同裁判例は,①Yさんは戸籍上の父母と46,7年間という長きにわたり実親子関係同様の生活実体を形成してきた,②戸籍上の父母が亡くなっており新 たにYさんが養子縁組をすることができない,③不存在確認を認めるとYさんに重大な精神的損害・少なからぬ経済的損害を与えること,④Xさんらの訴訟提起 は遺産争いを直接の契機としている,⑤不存在を確認できなくてもXさんら以外に不利益を受ける人はいない,などの事情を考慮して,Xさんらの親子関係不存 在確認訴訟は権利濫用として許されないとしました。


◆ 最後に

親子関係がないのに実質的に相続を受けられるという例を紹介しました。意外だったのではないでしょうか。

法律は,法的安定性(継続している事実状態を尊重するという姿勢)を重視します。継続する事実状態が容易に覆されると,それを前提に形成されてきた社会関係が混乱してしまうからです。前々回お話した時効制度も事実状態の尊重がその根本にあります。

上のような親子関係不存在確認訴訟も,形成されてきた生活実体を重視し,血縁主義や戸籍は正確でなければならないという要請の例外を認めたものだと思います。

 


アーカイブ 全て見る
HOMEへ
082-223-2900

PCサイト