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所得の種類その2 [税法のお話6]

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。

 

所得税の所得の種類の続きです。事業所得のお話です。

 

【事業所得】

事業所得は、所得税第27条に定められています。各種事業から生じる所得です。

個人事業主の方のメインの所得ですね。

事業所得の計算は、収入-必要経費です。

 

事業とは、自己の危険と計算において営利を目的とし対価を得て継続的に行う経済活動をいいます。定義だけ見てもよくわかりません。

判断のメルクマールを見ていただいた方がわかりやすいです。

事業かどうかは、次のメルクマールで判断されます。
 

①規模・設備、組織性

不動産所得、雑所得との区分ですね。事業規模なのかそうでないのかの判断です。

 

②自己の計算と危険、独立性

給与所得との区分ですね。支配従属関係で労務を提供しているのか、自身の計算と責任で事業を営んでいるのかの判断です。基本的には、雇用関係と見られれば給与所得、請負関係、委任関係と見られれば事業所得です。ちなみに、弁護士と顧客の関係は委任契約です、委任契約の場合は受任者に裁量があり顧客から独立しています。

 

③営利性、有償性

一時所得、雑所得との区分ですね。営利性、有償性あるものが事業です。

 

④継続性、反復性

一時所得、雑所得との区分ですね。継続性、反復性があるものが事業です。

 

②に関連して、弁護士の顧問契約に基づく報酬が給与所得か事業所得か争われた事件もあります。

事業所得とされました。弁護士は顧客に従属しているわけではなく独立していますからね。
当然なのでしょう。

 

弁護士繋がりですが、必要経費(所得税法第37条)の範囲が争われた事例もありました。

必要経費が収入から控除されるのは、投下資本の回収部分に課税が及ぶのを避ける趣旨(拡大再生産)です。

法律の建前は、所得税法第37条第1項に必要経費である直接対応費用(売上原価に対応します)と一般(期間)対応費用(販売管理費に対応します)を定めています。
一方、所得税法第45条には、必要経費に不算入となる家事費及び家事関連費が定められています。
事業所得は、収入金額から、個人の支出額を事業関連費と家事費及び家事関連費に分類し、後者を支出額から除いたものを必要経費として控除して算定すると判断されました。課税庁は、必要経費にするには事業との直接関連性が必要と主張していましたが、業務遂行上の必要性の要件でいいと判断されたと解釈されています。

この事件は、弁護士会役員の様々な会務に関係する懇親会等の出費が問題となりました。
会務の懇親会費は家事費や家事関連費ではないことは明白です。弁護士会は強制加入団体で、様々な活動を行っていますから(それ自体は個人の事業ではなくても事業を継続させる基盤です)。個人的な懇親会と言われても困りますね。

 

事業所得に関しては、所得税法第56条の解釈でも面白い裁判例があります。

同条は、事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例です。居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が居住者の営む事業に従事したこと等により事業から対価の支払いを受ける場合にはその対価に相当する金額はその居住者の必要経費に算入しないこと等を定めています。

必要経費と認められる専従者給与とは別の話です。
生計を一にする親族に報酬を払った場合の規定です。

 

所得税は個人単位課税の制度です。超過累進課税の下では1人の所得として申告するよりも複数人の所得に分散した方が全体の所得税が小さくなるというというお話をしました。
上記条文は、その個人単位課税の弊害防止を目的とする規定なのです(家族構成員の間に所得を分割して税負担の軽減を図ることを防止する趣旨)。

 

そこで、同条が、租税回避のおそれがある場合に限って適用されるべきか、支払先の家族が独立した事業者であっても適用されるかが争われました。独立した事業者間の支払いであれば、故意の所得分散を図ったとは言えなさそうです。
 

しかし、最高裁は、弁護士・弁護士事件にて(夫婦がともに弁護士であった例ですね、弁護士夫が弁護士妻に報酬を払いました)、趣旨・文言に照らせば居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が居住者と別に事業を営む場合であっても適用を否定できないとして、必要経費への参入を認めませんでした。

護士・税理士事件もありました。弁護士配偶者が税理士配偶者に仕事を頼んで報酬を支払った例ですね。弁護士・弁護士事件よりも、より所得分散による課税逃れの色彩は薄まると思います。仕事内容が違いますからね。
しかし、この事件でも最高裁は同様に必要経費への参入を認めませんでした。

 

租税法律主義の下、租税法は文言に忠実に解釈されます。具体的妥当性は別として、条文に限定がない以上、独立した事業者間でも所得税法56条の適用なされても仕方がないのかもしれません。

 

お悩み事がございましたらなかた法律事務所にご相談を。

 

広島の弁護士 仲田 誠一

なかた法律事務所

広島市中区上八丁堀5-27-602

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