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コラム

< 臨時休業のお知らせ【令和2年4月19日(日)】  |  一覧へ戻る  |  個人破産の徹底解説 >

会社、法人自己破産の徹底解説

広島市の弁護士仲田誠一です。

当事務所では、破産、民事再生などの倒産事件を業務の柱の1つとしております。

会社、法人破産は、業種、業態、現在の業況あるいは資金繰りなど、個々のケースに応じたオーダーメイド的な対応が必要となります。段取りが大事なのですね。

会社、法人の自己破産をご検討されている方へ、できるだけ共通項を探った解説をさせていただきます。

目次

会社、法人の破産とは
会社、法人の破産は最後の手段か
会社、法人の破産の選択
弁護士に相談するタイミングなど
会社、法人の破産の流れ
破産に必要な費用の目安・費用の捻出
取引先との関係は
従業員との関係は
準備にあたっての留意点
弁護士に依頼する意味(倒産弁護士)
まとめ

会社、法人の自己破産とは

1.自己破産とは

簡単に申し上げると、破産手続は、資産・債務の清算手続です。破産開始決定時の資産を現金化し開始決定時の債権を弁済(配当)していくイメージです。実際には配当ができずに破産が終了する事件も多いです(「異時廃止事件」と呼ばれます)。
 
自己破産とは、破産手続開始の申立てを自分(法人・個人)が行う場合です。自己が破産の申立てをするから自己破産なのですね。破産というと僅かな例外を除いてほぼ自己破産に当たります。
 
他に、数は少ないですが、取締役、理事、業務執行社員あるいは清算人が申立てる「準自己破産」や、債権者が申し立てる「債権者申立て」の破産もあります。債権者申立ての破産については破産管財人として携わったことがありますが、広島本庁でも年数件あるかないかでしょうか。

2.法人と個人の自己破産との違い

◆法人破産には免責手続がありません◆
法人破産の場合には、手続完了により法人格が消滅します。そのため、破産手続が完了すれば債務を負う状態はなくなります。
これに対し、個人(自然人)の破産の場合には、破産をしても人格は残りますから、破産手続を経ても清算後残った債務を負った状態になります。そのため、別途借金支払義務を免れるための「免責」手続が用意されています。
 
◆法人破産では必ず破産管財人選任されます◆
法人破産では、必ず破産管財人が選任されます。破産管財人が財産の換価、配当等を行っていきます。いわゆる「管財事件」です。破産手続開始決定により会社、法人の財産管理処分権は破産管財人に移行します。
これに対し、個人破産の場合には、破産管財人が選任されない事件(「同時廃止事件」といいます)の方が多いです。広島地方裁判所本庁では、個人破産のうち70パーセント前後が同時廃止事件でしょうか。同裁判所では、免責不許可事由の程度が大きいケース、過去5年以内に経営あるいは事業を行っているケース、明らかにオーバーローンと認められない不動産を所有しているケース、一定額の財産があるケース(預貯金50万円、その他の財産は項目毎に20万円)などに限り破産管財人が選任されます。
なお、法人破産と同時に代表者さんの個人破産を申し立てることが多いですが、上述の基準によって管財事件になります。
 
◆自由財産の有無◆
法人破産の場合には、法人の財産は原則すべからく換価されて残りません。一方、個人破産の場合には、自由財産拡張手続を経て裁判所の許可を得れば、一定の財産に限りますが手元に残すことができます。


会社、法人の自己破産は最後の手段か

1.事業継続の可能性の見極め

会社・法人の営む事業はそれ自体に社会的価値が存在します。かつ、従業員さん、取引先など多様な利害関係者も存在します。その事業をなくしてしまうのは偲びないことですし、社会的な損失です。
そのため、事業継続に悩まれる経営者の方は、まず金融機関のリスケジュール(条件変更)あるいはM&Aでの事業継続の可能性を見極めるべきでしょう。
 
例えば、金融債務の返済をストップすれば資金繰りが回るのであれば、リスケ中に経営改善を図ればいいわけです。勿論、安易な資産の切り売り、事業縮小は、多くは企業価値を毀損するだけで傷を深くするだけに終わるので慎重にするべきです。
また、企業価値あるいは事業価値がある事業のM&Aによる承継も考えられます(破産とM&Aを組み合せて事業だけは残していくこともあります)。
 
当職は、認定経営革新等支援機関でもありますので、事業計画策定のお手伝い、リスケジュールのお手伝いなども対応しております。かう、M&Aのサポートも主業務の1つとしております。事業継続、M&Aも含めてご相談ください。

2.会社・法人の自己破産は最後の手段か

会社、法人の自己破産は、上述のような意味では、最終手段と言えるでしょう。
しかし、余力を全く残さない状態での破産は困難です。破産はぎりぎりまで引き延ばすべき手段でもありません。自己破産は、他の選択肢と並行して検討し、早期に決断しなければならない事柄といえます。早期に事業を整理する決断も大切な経営判断です。
 
◆破産費用を捻出する必要があります◆
破産費用を用意できなくなれば破産もできません。事業継続を引き延ばした結果として費用が用意できずに破産を断念された経営者さんもいらっしゃいます。
 
◆早期の決断も大事な経営判断です◆
早期の決断が結果的に迷惑をかける範囲を拡げないことにもなります。破産手続は利害関係者に対する最後のけじめとも言い得ます(所謂夜逃げや休眠状態で放っておかれるよりは破産手続を望まれるのが通常です)。理想形としては、給与の未払いが残らない形での事業廃止も望ましいですね(なかなか難しいですが)。
 
◆経済的再建も図らなければいけません◆
さらに、経営者様とそのご家族の早期の生活再建を図るべきと考えます。
経営者家族の生活を極限まで切り詰め、働き通しで体調を崩すなど苦労を重ねてきた末に弁護士に相談される方も多いです。その責任感には頭の下がる想いですが、「もう少し早くご相談に来ていただければ。」「そこまで思い詰める必要はなかったのではないか。」と思われる事例も多く目にします。

会社、法人の自己破産の選択

1.自己破産を選択するべきケース

前述のとおり、金融機関のリスケで対処できるケースであれば自己破産を選択する必要はありません。あるいは、M&Aで事業自体は残す途も検討してよいでしょう。
 
◆リスケで対応できるケース◆
資金繰りを改善するだけで経営が持ち直す余地がある、あるいは金融機関の支援を受ける間に経営改善策の実施により経営が持ち直す余地があるというケースでは、金融機関のリスケジュール(条件変更)で対応できます。

例えば、設備投資等による債務過多が業績不振の主な原因であり事業の収益力自体は相応に残っているのであれば、金融機関のリスケ対応により資金繰りを改善し計画的に債務を削減することで難局を乗り切れるでしょう。
また、利払いのみのリスケをすれば資金繰りがある程度余裕をもって回る、かつリスケ期間中に金融機関への弁済計画が立つまでの経営改善を図る見込みが立ちそうだというケースでは、経営改善策を試すべきとも言えます。
 
しかしながら、業績不振には様々な要因が絡みます。多種多様な要素が絡みますし、企業努力では如何ともしがたい外在的な要因も大きいです。単純明快かつ解決可能な原因による業績不振で簡単に改善できる、あるいは一時的に資金繰り手当てをすれば簡単に業績が持ち直すと計画が立案できるケースは残念ながら少ないです。
 
自己破産を選択すべきケース◆
慢性的な赤字体質であり事業継続により今後も状況を悪化させるケース、具体的には金融債務の返済を一時ストップしても資金繰りが余裕をもって回すことができる見込みが立たないケースでは、できるだけ早い自己破産の決断が必要でしょう。
企業再生あるいは事業再生は、事業自体の収益力がある、あるいは収益力が改善する見込みがある、ということが前提となります。
 
また、経営者に事業継続への気力・体力が残っているかも重要です。当職に相談に来られる経営者の方は既に疲弊されて余力も残っていないという方が多いです。その責任感は尊敬されるべきで、結果として自己破産を選択しても非難されるものでは決してありません。

2.民事再生との違い

会社、法人がとる法的債務整理手段としては自己破産のほかに民事再生もあります(なお、大企業向けの会社更生という手続もあります)。
民事再生は、債務を大幅に減額した上で、経営者の交替もなく事業を継続できるという大きなメリットがあります。
しかし、仕入先・外注先の協力が必要なこと(あるいは現金決済に耐えうるスポンサーが必要なこと)、事業用資産の担保権者の協力がいること、債務免除益の課税がなされること、及び申立てに多額の費用がかかるという条件が揃わないと選択できません(事実上必要となる条件も含んでいます)。
実際には、民事再生に適合するケースはなかなかお目にかかれません。

弁護士に相談するタイミングなど

1.弁護士に相談、依頼するタイミング

◆早期の相談が肝要◆
弁護士への相談は、できるだけ早めになさってください。
残された時間や、相談時の状況によって、できる準備や選択肢が異なります。
自己破産を選択する場合にも、費用の捻出の問題を始め、破産を前提とした事業廃止に向けて準備するべきことは多々あります。
早めに弁護士に相談をし、金融機関へのリスケ要請、自己破産申立て、民事再生申立てなどの手続選択の方針を決定し、それに応じた準備をしていかなければなりません。
 
◆相談時の注意点◆
弁護士への相談時には、少なくとも直近の決算申告書類一式をお持ちください(勿論、3期分程度を拝見した方が検討はしやすいです)。
資金繰表を作成されているのであればそれもお持ちいただいた方がありがたいです(資金繰り予想ができる入出金のメモ程度でもかまいません)。
連帯保証人の方の資産・負債状況もわかればありがたいです。会社、法人と連帯保証人である経営者の方などを一体として債務整理の方策を考えるべきですので。
 
◆弁護士への依頼もできるだけ早い方がよい◆
弁護士への依頼も、早期になされることが肝要です。
会社・法人の自己破産では、弁護士と事業整理に向けた段取りを計画的に組む必要があります。段取りが悪いと混乱をいたしますし、破産法上問題となる行為がなされることがあります。準備段階での出来不出来が、後の手続に響きます。できるだけ早くから弁護士関与の下で準備をすることをお薦めします。

勿論、できるだけ早くから弁護士の指示を受けながら、あるいは弁護士のナビゲーションによりご準備をされた方が、効率的ですし、ご負担も小さくなります。

2.事業廃止のタイミング

破産手続をスムーズに進めるには事業廃止のタイミングも重要です。事業廃止のタイミングを間違えば、要らぬ混乱を招く、破産手続に移行することができないという事態を招きかねません。事業廃止のタイミングも、弁護士とよく相談の上で決めてください。
 
事業廃止のタイミングは、買掛金等の支払いをストップすればお金が一番残る時点がベストになることが通常です。
会社、法人の破産には、裁判所への予納金だけでも多額の資金が必要になります。
 
勿論、事業廃止のタイミングの決定には、銀行取引停止処分の時期、従業員解雇あるいは退職のタイミング(解雇予告手当の問題もあります)、あるいは資産処分の状況(弁護士関与の下で資産を処分して破産費用を用意することもあります)も絡んでくる問題です。事業形態によっては、新規の仕事を取らずに時間をかけて既存の仕事を順次止めていく方法を選択することもあります。

ご事情に応じてケースバイケースにベストなタイミングを図っていきます。

会社、法人の自己破産の流れ

1.申立て準備段階の流れ

◆方針・スケジュールの決定◆
まずは、方針と段取りを話し合い、事業廃止のターゲットを決めた上で、準備のスケジュールを立てていきます。
様々な準備の段取りを組んでいきますが、悩まなくていいです、弁護士と話し合って決めてください。
 
◆受任通知の発送◆
弁護士との契約後、弁護士から債権者に対して受任通知を発送します。受任通知が債権者に届いてからは、債権者対応はすべて弁護士が窓口になりますので安心です。
事業廃止のタイミングで受任通知を発送することがスタンダードでしょうか。勿論、既に取立てが厳しい、あるいは銀行取引停止処分が予定されているなど急を要する場合は別です。
委任関係が前提となりますが、受任通知は、会社分だけではなく、代表者など連帯保証人についても同時に発送します。
 
◆申立ての準備の特徴◆
会社、法人破産の申立て準備は、必要書類を揃えればいいだけで準備が済むことが多い個人(自然人)のケースと異なり、程度の差こそあれ会社・事業の清算も進めなければならないことが特徴です。
事業廃止の前後にわたり、従業員退職・解雇、賃借物件の明渡し、売掛金の入金先口座変更、事業廃止時点の売掛金リスト・在庫リストの作成、債権者リスト作成、在庫や新規仕事の圧縮、資産保全、資産譲渡、契約関係解消(水道・電気を除く)、リース物件・所有権留保物件の返還、等々の準備をしていただくことになります。
段取り、整理の程度、あるいは整理の方法など、すべて弁護士の指示を受けてください、その方が後々問題になりませんので弁護士としても楽です。
 
◆資産処分等◆
準備と並行して資産のうち簡単に現金化できるものは現金化をします(それにより費用を捻出することもあります)。
これに対し、簡単に現金化できない不動産や大型あるいは大量の機械については、管財人にその処分を委ねるために保全管理のみします。
資産や在庫の処分は必ず弁護士の関与の下で行ってください。処分の内容や処分代金の費消方法によって、後の破産手続に問題が生じることがあります。
 
◆お金の管理◆
事業廃止時には、現預金を弁護士に預けていただき、弁護士管理の下でどうしても必要なもののみに支出していきます。
ある程度お手元に管理していただいて出納を記録してもらいながら整理にかかる費用を支出していただくこともあります。
売掛金や貸付金の回収も弁護士が代理人として進めていきます。
処分代金も弁護士が管理します。
破産を見据えて、弁護士がお金を管理することが大事なのです。
 
◆申立て◆
通常は、2か月程度の準備期間を経て(予定した資産の整理及び売掛金の回収が終わるタイミングが多いです)、自己破産申立てを行います。
申立て先は、原則として、本店所在地を管轄する地方裁判所です。広島地方裁判所本庁ですと、民事第4部になります。

2.申立て後の流れ

◆破産開始決定まで◆
自己破産を申し立てると、裁判所から追加資料の提出や質問事項の回答を求められることがほとんどです。それを補正連絡と呼びます。それらに対応しつつ、裁判所から指示がある予納金を納めると、破産手続開始決定が出ます。

法人破産には必ず破産管財人が就任いたしますので、破産管財人候補者と面談をする債務者審尋の日に破産開始決定が出ることが多いです。
急を要する場合や債務者審尋が開かれない場合(最近増えています)には、予納金を納めるとすぐに破産開始決定が出ます。
 
◆破産開始決定後◆
破産開始決定が出ると、2~3か月に1度のペースで債権者集会などの期日が開かれます。代表者の方には、申立代理人弁護士と共に同期日に出席していただきます。

また、第1回の債権者集会までの間には、破産管財人弁護士の事務所に赴いて面談をする機会が数度設けられます(その後は、あまり破産管財人に呼ばれることはありませんが、在庫や資産の処分などに破産管財人から協力を求められることはあります)。

◆破産手続にかかる時間◆ 
破産手続にどれくらいの期間がかかるかとは一概には申し上げられません。不動産の処分や債権回収などを破産管財人が行う業務量にも依りますし、一般の債権者に配当がなされる案件かどうかによっても所要期間が異なります。

資産の処分もない、配当もないケースでは3か月から6か月程度、それらがある場合には1年前後がスタンダードでしょうか。1年を超えるケースも珍しくはありません。

ただ、第1回債権者集会が終わると、破産管財人からの聞き取り調査等はほとんどなくなりますので、期日に出頭するだけという負担になることが多いです。期間が長くなっても、それほど負担は大きくありません。

破産に必要な費用の目安、費用の捻出

1.破産に必要な費用の目安

◆裁判所へ納める予納金◆
裁判所に破産開始決定を出してもらうためには予納金を納めなければいけません。
法人破産の場合の裁判所へ納める予納金は原則100万円からです。
大型管財と呼ばれる大規模な破産の場合にはより多額の予納金を要求されます。一方、休眠会社や複数の会社の申立て等、破産管財人の労力が少ない場合には減額も交渉次第で可能です。なお、2社申し立てると単純に倍となるわけではありません。
 
◆弁護士費用◆
弁護士を申立て代理人とする場合には、勿論弁護士費用の手当が必要です。
費用額は弁護士との相対で事情によってケースバイケースで決まりますので、一概に相場がいくらということはできません。
弁護士費用の目安として110万円(税込み)を確保できればありがたいですが、勿論、目安にすぎず必須というわけではありません。
費用も含めて弁護士への相談事項です。
 
◆諸費用◆
多額ではないですが数万程度の諸費用もかかります。
 
◆余裕のある準備のためには◆
以上を踏まえて、当職は、法人1社の場合、トータル(弁護士と裁判所にかかる費用)で250万円を「目標」に準備していただくようお願いしています。
250万円用意できればある程度余裕をもって準備ができるという意味の目標であり、必須という意味ではありません。
また、後述のとおり、ご依頼時に全額揃っていなければいけないということではありません。

費用の面の相談も弁護士相談の大きな目的の1つですので、お気軽にご相談ください(費用の面がご相談の大きな部分を占めているのが実情です)。
 
◆代表者個人破産との関係◆
代表者の自己破産も同時に受任するケースがほとんどです。
個人の破産での予納金は30万円前後がスタンダードですが、減額交渉が効くケースもあります。
弁護士費用はトータルで調整しております(例えば、個人で多くいただける場合は法人の分を減らす、あるいは法人で多くいただける場合には個人はいただかないというようなこともしております)。

2.破産費用の捻出をどうするか

破産費用の捻出はほぼ例外なく頭を悩ませる事項です。

◆口座のお金◆
まずは、会社、法人の口座にあるお金です。
入金がありかつ支払いをストップして一時的に資金が多く残るタイミング(事業廃止のタイミング)で、残った資金を弁護士に預けていただくことが多いです。

その準備として、借入銀行口座から順次資金を移す、あるいは入金先口座を借り入れのない銀行に変更することもあります。取引先は勿論、租税公課や銀行も資金を確保しようとしますので、段取りが大切になります。
破産法は、債権者平等原則が理念となっております。支払いをストップさせて資金を保全することが悪いわけではありません。債権者の平等を期するため資産を保全することは何ら問題がない行為なのです。
 
◆弁護士に依頼した後に資金を捻出するケース◆
弁護士への依頼時に資金が揃っていなければならないわけではありません。

事業廃止後に、順次、弁護士が売掛金を回収し、あるいは回収していただいたお金を弁護士に預けていただきます。依頼時には売掛金リストを作成していただき管理をしていきます。なお、滞納処分により売掛債権、資産が差し押さえられると現金化ができなくなることには注意を要します。

資産を売却・換価することにより、費用の捻出をすることもあります。
そのため、弁護士との相談時には、早期に換価できる財産がどれくらいあるのかも検討します。

弁護士関与の下で資産を現金化して破産費用に充てることは許されております。資金を弁護士が管理しつつ、その経過を裁判所にきちんと報告します。逆に、弁護士の関与なく資産を現金化して費消することは後に問題を生じさせる恐れがあります。

取引先との関係は

1.買掛先への対応

仕入先、買掛先も、借入をされている金融機関と同様に、債権者です。弁護士が受任通知を発送した上で対応しますのでご安心ください。

返品の要請には応じられないのが基本です。後の破産手続で問題視される可能性もあるためです。在庫の所有権が仕入先にあることが契約書上明確である場合は返還することもあります。
 
買掛先からの取り付け騒ぎの危険もなくはありません。無断で商品等を引き上げることは厳密に言えば犯罪ですが、そのようなことが起きないよう、事業廃止時には事務所・倉庫や車などのセキュリティーにも気を付けていただきます。また、場合によっては弁護士名の張り紙をして牽制をすることもあります。混乱を避けるために弁護士名の受任通知を事業廃止の当日か翌日に取引先に届くように手配することも心掛けています。

2.売掛先への対応

販売先、売掛先は債務者の立場になりますので、事業廃止後も売掛金の回収を行わなければいけません。事業廃止時の売掛金リストを作成していただき、弁護士名で回収を図ることが多いです(事業廃止したことを知ると支払いを渋る先も見受けられますので)。
借入のない銀行へ振り込んでもらうよう依頼して回収をするケースや(借入のある金融機関口座は弁護士の受任通知が届くと口座を凍結してしまい、基本的にその後の入金の引き出しには応じません)、小口集金形態のご商売の場合には集金を引き続きお願いして回収するケースもあります。
 
破産開始決定までに回収できていない売掛金は、破産管財人が回収を図ることになります。

なお、売掛金債権の滞納処分により、予定していた売掛金の回収ができなくなるケースもございます。

従業員との関係は

1.従業員の解雇・退職

◆解雇・退職◆
残念ながら、事業廃止日が決まれば、従業員の方々を解雇する、あるいは従業員の方々に退職してもらうことになります。
解雇をする場合には解雇予告手当を支払う余裕はないことが多いので30日間の解雇予告手続をとることが多いでしょうが、ケースバイケースです。

社会保険、特別徴収住民税の異動手続、ハローワークの手続、源泉徴収票の発行等の退職に伴う手続は忘れないでください。

破産申立て準備にどうしても必要となる従業員がいらっしゃる場合(多くは経理担当でしょうか)、給料あるいは相応の費用をお支払いすることで引き続き残っていただくこともございます。

◆事業廃止をいつ従業員に伝えるか◆
事業廃止をいつ従業員さんにお伝えするかは悩ましい問題です。
従業員さんの生活等のことを考えると、できるだけ早くお伝えした方がいいとは思います(小規模会社であれば自主的に退職してもらえるケースも多いです)。一方、あまりにも早く事業廃止を伝えると業務に支障を来すこともございます。
 
 ◆税理士・社会保険労務士
少し話はズレますが、税理士さんの協力が必要な場合もあります。費用との兼ね合いもありますが、事業廃止時点までは数字を作成してもらった方がありがたいです。また、破産管財人が就任後に税理士に申告を依頼することもあります。
社会保険労務士さんがいらっしゃる場合には、退職手続等でご協力をいただくこともありますね。

2.未払給与等の扱い

賃金の未払いはないようにしたいと思われるのが経営者の常です。労働基準法上罰則も定められています。
未払給与がない形で事業廃止できることが理想形ですが、支払えないケースがあるのも当然です。
 
◆破産手続における労働債権の扱い◆
破産手続において、労働債権は、破産手続開始決定前3か月間の未払給与と退職金の一部は財団債権として一般の債権者よりは優先して支払いを得ることができます。
ただ、時間がかかりますし、支払えるだけの財産が破産手続の中で残るかどうかわかりません。
勿論、事業廃止後できるだけ早く破産申立てをしなければいけませんね。
 
◆労働福祉事業団立替制度◆
そのため、労働福祉事業団立替制度の利用も考えないといけません。廃業時には従業員さんへの同制度の説明も必要です。
賃金台帳、タイムカード、就業規則等、未払給与を確認できる資料を破産管財人に引継ぐことになります。
破産管財人の証明書の発行により未払い給与の8割が立替払いされますが、大まかに申し上げると、退職、解雇から6か月以内に破産申立てをしなければ対象になりませんので早期の破産申立てが必要になります(なお、破産手続外の認定制度もあります)。
 
◆役員報酬の扱い◆
未払いの役員報酬は(従業員兼務役員のケースでは従業員分給料と認められ得る限りで別ですが)、一般の破産債権となります。経営者家族でも従業員の場合には一般の従業員と同じ扱いです。
 
◆中退金がある場合◆
従業員さんの退職金制度が中退共の場合は、請求手続をしていただければ、従業員さんが受け取ることができます。

準備にあったっての留意点

1.やるべきことの整理をするべき

破産を準備するといっても、経験がある方ではない限り、何にどの順番で手を付けていいかわからず途方にくれるものと思います。
破産をするためには事業の清算が必要ですが、申し立てる前にどこまで清算するかは事情により異なります。場当たり的な準備は、疲弊しますし、効率も悪く、中には後で問題となる行為をしてしまうこともあります。

◆やるべきことの整理◆
準備の仕方や優先順位には勘所があります。様々な問題点や課題を整理してシンプルにプランニングすることが弁護士の腕の見せ所です。
弁護士と相談して、最低限必要なこと、できればやっておきたいこと、放っておいても仕方がないこと等々、やるべきことの整理をしてください。そうすれば全体像がつかめますし、優先順位も決めることができ、悩まずに準備ができると思います。
 当職は、リストを作成し、優先順位をつけ、それらを潰していただきながら、打ち合わせを重ねていくことをしています。

◆要望や問題点は早めに弁護士に伝える◆
なお、準備にあたって、様々なご要望もあることと思います。
また、説明が難しい、準備が難しい等の問題点もあることが多いです。
弁護士への相談の際には、早めにそれら要望や問題点を伝えてください。遅くなるとそれだけ手当ができなくなる可能性が高くなります。

当職は、破産法上問題がない形で可能な限りご要望を形にするお手伝いをさせていただいておりますし、問題点を法的にどのように処理をしていくか早期に方針を立てて準備をしてもらいます。

2.やってはいけないこともある

破産手続をスムーズに進行させるため、あるいは問題視されないために、準備にあたってやってはいけないこともあります。弁護士のナビゲーションに従って、相談しながら準備を進めてください。
 
◆書類の廃棄は慎重に◆
事業を廃止したからといっても、すべての書類の廃棄をするのは止めてください。破産手続の中で提出しなければならない書類も多々あります。
弁護士と相談してから廃棄をするべきです。
 
否認対象行為◆
否認対象行為を行ってはいけません。
否認とは、破産管財人がその行為の効力を否定し財産等を取り戻す制度ですが、破産管財人否認できる行為、その要件は破産法で定められています。当職も破産管財人の立場で否認権を行使することがあります。
主要なものだけ簡単に説明させていただきます。
 
偏頗弁済は否認の対象です。偏頗弁済とは支払停止状態等の経済的危機状態での不公平な債務の弁済です。問題となるのは、経営者家族、親族に対する弁済が多いです。弁済の相手、時期、債務の内容等によって判断が異なります。事業廃止のタイミングも含め、支払っていいもの、いけないもの振り分けを弁護士と相談してください。
 
財産の散逸行為も否認の対象です。会社の資産の廉価売買、放棄など、財産を減少させる行為にお気を付けください。中には合理的な説明が可能なものもありますので、実行に移す前に弁護士に判断をしてもらってください。
 
◆法人と個人の財産の混同◆
破産手続は法人格毎の手続です。法人と個人とは明確に区別されます。
会社、法人の資産と個人との間の混同を避けてください。特に会社、法人から個人への財産移転は慎重にしなければなりません。
この点で、経営者家族の役員報酬、給与も問題になり得ます。事業廃止までの役員報酬、給与は、支払う原資があるのであれば支払って問題はないでしょうが、その他は弁護士と相談してください。

弁護士に依頼する意味(倒産弁護士)

1.破産申立代理を弁護士に依頼する意味

会社、法人の破産の申立てには、代理人弁護士を依頼することが通常です。会社、法人の破産は複雑であり、弁護士の助けがなければ難しいからです。
 
◆地図を作りナビゲーションを行う◆
自己破産を申し立てると言っても、何をどのようにすればいいかわかりませんね。弁護士が地図を作り、ナビゲーションしてくれれば、安心して、効率よく準備ができます。暗中模索の中で今後のことを悩まれるのは大変な心労です、「何もわからなかった頃が一番辛かった。依頼してよかった。」とおっしゃる方が多いです。
弁護士に複雑な状況を法的かつシンプルに整理してもらい(地図を作ってもらい)、弁護士の助言(ナビゲーション)に従って、効率的なご準備をしてください。
 
◆債権者対応を弁護士に任せる◆
取引先や金融機関への支払を停止すると、程度の差はあれ混乱が生じます。
債権者の対応を弁護士に任せられることは安心です。
 
◆申立後のサポート◆
破産手続が開始されてからは破産管財人が破産手続を主宰しますが、申立代理人弁護士も破産手続の最後までサポートをします。ご安心ください。

2.倒産弁護士

◆申立代理人の腕が手続の帰趨を決める◆
申立代理人弁護士の腕が、破産申立ての準備のご苦労の程度や申立て後の手続のスムーズな進行度合いに直結すると言っても過言ではありません。
申立準備に不備があると、申立て後に苦労を強いられかねませんし、破産法上問題となる行為が問題視されることもあります。当職が破産管財人に就任した案件でも「準備をもう少しきちんとしていただければ苦労されなかったのに。」と感じることがあります。
 
◆倒産案件の弁護士業務は職人芸◆
破産手続は、破産法に則って進められます。当然、破産手続開始の申立ての準備には、破産法の知識・倒産事件の経験が必要です。破産手続には、独特のルールや考え方があり、それに携わる弁護士も職人的な能力が必要とされます。その時々の破産裁判所の傾向・考え方も事件処理の方向に影響しますので、それらもキャッチアップしなければなりません。破産等倒産手続に精通した弁護士でなければなりませんし、破産申立てを裏から見る破産管財人の経験も必須です。法人破産の破産管財人の経験が豊富であれば、手続の勘所がわかるのですね。
 
◆企業会計の知識◆
会社・法人破産の申立ては、資金繰り、事業廃止・受任通知のタイミング、資産・契約関係の整理など様々な段取りを考えないといけませんね。そのため、企業会計に関する諸知識も必要です。
まずは決算申告書類等の会計書類を拝見して事案の見立てを行い、個々の問題を紐解いていきます。
 
◆倒産弁護士、破産弁護士◆
倒産法制に精通し、申立て代理人経験も破産管財人等の経験も豊富で、破産等倒産事件を業務の柱の1つにしている弁護士を「倒産弁護士」、「破産弁護士」と呼ぶことがあります。「離婚弁護士」なんてドラマもありましたね。
会社、法人の破産の申立てを依頼するのであれば、当然、そのような弁護士に依頼した方がいいでしょう。
弁護士の質を確かめるには、相談する弁護士に細かいことでもたくさん具体的な質問を投げかけてください。あなたの望む弁護士であれば、抽象的な回答にとどまらず、具体的なアドバイスをしてくれるでしょう。
 
なお、当職も、申立て代理は勿論、破産管財人経験も豊富で、裁判所との破産等に関する協議会のメンバーにもなっております。また、銀行出身であり、企業会計の諸知識も豊富です。安心してご相談いただけるものと自負しております。

まとめ

1.会社、法人の自己破産の決断にあたって

社会的価値のある事業はできるだけ継続するべきです。しかし、会社、法人の自己破産は最後の手段ではありません。事業継続の可能性を見極め、自己破産の決断を早期に行うことも大事な経営判断です。できるだけ早く弁護士に相談し、事業継続の可能性を見極め、事業継続の可能性に沿った適切な選択をしてください。費用面も弁護士と相談すればいいことです。経営者に必要なのは、適切な助言を得ることと決断することです。

2.会社、法人の自己破産の準備にあたって

自己破産を選択されたのであれば、できるだけ早く破産手続や企業会計に詳しい弁護士に依頼するべきです。海図と羅針盤なくして進んではいけません。弁護士とともに、事業廃止のタイミングを見極め、やるべきことを整理した上で、ナビゲーションに沿った準備を進めてください。効率的な、かつ適切な準備が後の破産手続のスムーズな進行に直結します。

この記事を書いた人

firsttime_lawyer.jpg弁護士仲田誠一(広島弁護士会所属)
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27
アーバンビュー上八丁堀602
TEL:082-223-2900
https://www.nakata-law.com/
https://www.nakata-law.com/smart/
◆経歴
1996年4月
あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月
東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月
広島大学大学院法務研究科
2008年12月
弁護士登録
2017年~各前期
広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格
弁護士
公認内部監査人試験合格

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中小企業のM&A価格の考え方 [企業法務]

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。
 
今回の企業法務コラムでは、中小企業のM&Aの代金額の決定方法のお話しです。
 
当職は、M&Aに関わることが割合多く、最近は常に案件に携わっている状態が続いています。
すべて中小企業のM&Aです。
 
M&Aといっても、その形態はほぼ株式譲渡事業譲渡です。
合併や会社分割を絡めたM&Aのニーズやメリットは中小企業にはあまりありませんので。
 
関わり方はケースバイケースです。
交渉から関わるケース、買い手売り手双方のコーディネーターとしてかかわるケース、契約関係や法定手続だけサポートするケースなど、依頼者のニーズに合わせた関わり合いをします。
 
いただく費用も関わり合いに応じて千差万別です。
しっかり財務デューデリジェンスをする案件では、税理士と弁護士がセットでお手伝いします。
 
今回は買収価格の決定方法の話です。
 
勿論、買収価格の決め方には決まりはありません。
当事者が自由に決められます。
不当に安いあるいは不当に高い価格での売買には税務上のリスクがあるだけです。
 
もっとも、決めるのには目安がないといけませんね。
 
株式譲渡であれば、株式の価格です。
事業譲渡では対象事業(物も含めて)の価格です。

税務上の株式評価(相続税評価)は使いません。税金のための評価ですからね。
 
評価方法はいくらかありますが、経験上、中小企業の株式譲渡は、
 
時価純資産価格+営業権価格
あるいは
そのどちらか一方、

を目安に決めることが多いです。
 
時価純資産は、決算書あるいは試算表の純資産をベースに、含み益をプラスし、含み損をマイナスして算出された、所謂、清算価値・純資産価格ですね。
要するに、株式が表章する会社のモノ・カネの価格です。
 
この純資産価格ベースでの価格決定も多いです。
利益があまり出ていない会社はこれだけで十分だからです。
 
営業権価格は、会社が将来生む利益あるいはキャッシュフローを価格に反映させるものです。
 
営業権価格の計算は、
利益(キャッシュフロー)×1~5年
で行いますが、それぞれどの数字を持ってくるかが重要になります。
それにより数字はかなり変わりますから。
 
利益には、基本的に営業利益を持ってくるでしょうか。
 
減価償却費をプラス、時にはオーナー役員報酬の全部または一部をプラスするなどして、キャッシュフロー的な数字を持ってくることも多いです。

経常利益を使うこともあるでしょう。こちらの方が収益力が正しく反映されていることがあります。

ケースバイケースですね。
 
期間は、3年がスタンダードでしょうか。
業種や業態により、短ければ1年、長ければ5年でしょうか。
 
価格の目安が決まったとして、実際の契約価格を決めるには別の考慮をします。
 
売主が個人の株式譲渡のほとんどでは、前オーナーは会社を退きます。
 
株式譲渡による譲渡所得税よりも退職所得の方が一般的に有利です。
そこで、売り手には株式譲渡代金と退職金とを分けて受け取ってもらうことが多いです。
 
買い手にも損はありませんし。
 
総額を決めて、役員退職金をいくら受け取れるか検討し、残額を代金額にするというイメージです。
退職金支給により株式の価値は下がりますから当然といえば当然です。
 
次は事業譲渡の価格ですが、基本点には株式譲渡の価格の考え方に準じます。
 
全ての資産を含めた全事業を譲渡する場合には、株式譲渡と変わりませんね。
ただ、看板名を変えることのリスク、従業員を引き継げるかのリスク、取引口座を引き継げるかのリスクなど、価格マイナス要因はあるでしょう。
 
全ての事情譲渡であれば株式譲渡でもいいのですが、売り手の債務・リスクを遮断したいときには、債務を引き継がない形の事業譲渡にすることがありますね。

逆に、免許や取引先の関係で株式譲渡の方法しかとれないケースもあります。
 
一部の事業譲渡、あるいは資産を引き継がない事業譲渡では、引き継ぐ資産の時価に引き継ぐ事業の営業権価格を加えた金額が一応の価額の目安になります。
 
最初にお話ししたように、M&Aの価格は自由に決められます。
実際に、売り手・買い手のパワーバランスによって価格は大きく左右されます。
 
また、業種によっても様相が変わります。
いろんな業種のM&Aに携わると、様々なことに気付きます。
 
事業承継の一環として、後継者のいない会社のM&Aが増えているようです。
事業承継は後継者に引き継ぐか売却するかの2者択一ですからね。

逆に言えば、現在では、会社を買うチャンス、顧客・市場を獲得するチャンスも増えているということです。
 
事業承継の一環として、あるいは経営戦略の1つとしてM&Aをお考えになることもいいと思います。
 
顧問契約、契約トラブル、企業法務サポートのご用命は是非なかた法律事務所に。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602
https://www.nakata-law.com/
 
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労働契約法20条 [企業法務]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
最近、労働契約法20条絡みの裁判例をよく目にします。
企業法務のうち労務管理に関する問題ですね。
 
労働契約法第20条をご存知でしょうか。
次のような条文です。
第20条
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
 
分かりにくいですが、有期雇用契約労働者と無期雇用契約労働者(正社員)との間で職務内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定です。
 
「労働条件」には、労働者に対する一切の待遇が含まれます。
賃金、手当に限りません。
「期間の定めがあることにより・・・相違」とは、有期契約労働者と無期契約労働者(正社員)との労働条件の相違が、期間の定めの有無に関連して生じたものであることを意味します。
 
「不合理」の判断は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であるかを、
1 職務の内容(業務の内容および当該業務に伴う責任の程度)
2 当該職務の内容および配置の変更の範囲
3 その他の事情
を考慮して評価されます(総合判断)。
その他の事情の代表例は、定年再雇用の事実です。
 
気を付けないといけないのは、不合理かどうかの評価は、各賃金項目・各手当等個別の労働条件の相違毎に判断されます。
待遇の差異が総合的に判断されるわけではありません。
職務の内容等に照らして格差があることの理由が立たない手当が不合理な労働条件の相違と評価されています。
使用者には、個々の手当等毎に不合理ではないことの説明が求められますね。
 
不合理とされた労働条件の定めは無効となります。
無効となっても、有期契約労働者が無期契約労働者の労働条件と同一になるわけではありません。
しかし、不法行為に基づく損害賠償の対象となります。
 
実は、この労働契約法第20条は削除されることが決まっています。
規律がなくなるかというと、勿論、そうではありません。
パートタイム労働法に移管されることになります。
労働契約法第20条が、行政指導の根拠となるパートタイム労働法に移管されるという説明がありました。
改正後は、有期雇用労働者と無期雇用労働者との待遇の差が行政による指導・勧告の対象となるということですね。
 
なお、パートタイム労働法は、正式名称は「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」です。
改正に伴い、同法の名称が「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関す法律」に改められます。
 
施行日は来年の4月1日です(中小企業は再来年の4月1日)。
 
有期雇用労働者と無期雇用労働者の待遇の違いが不合理であってはいけません。
ただ、企業は様々な要素を考慮して人事施策を決定します。
有期雇用労働者と無期雇用労働者との間の合理的な待遇の差異も存在することは否定できませんね。
企業としては、合理的な待遇の差をつける場合にも、その方法はよくよく吟味しなければならないということです。
前述したように、個々の労働条件毎に不合理ではない待遇の差であることを説明できなければなりません。
結果として職務内容等の相違から合理的に説明できない手当等の名目により待遇の差が生じていれば、仮に総体的には合理的な相違だとしても、効力が否定されることになります。
 
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固定残業代・定額残業代 [企業法務]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
企業法務のうち労務管理のお話です。
 
時間外労働等の割増賃金を固定・定額で支払うことは直ちに違法ではありません。
固定残業代あるいは定額残業代と呼ばれます。
 
既に最高裁の判例もあるところです。
固定残業代あるいは定額残業代の有効性判断の枠組みを見ていきましょう。
 
まず、時間外労働等に対する対価としての性質を有するものであるか否かが問題となります。
対価性の要件などと呼ばれます。
業務手当等残業代と違う名目で支払われている場合などに問題になります。
時間外労働等に対する対価として支払われていたかどうかは、雇用契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の説明内容や就労実態等の事情を総合的に勘案して判断されます。
合意内容の認定として一般的に採られる方法ですね。
 
次に、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とに判別できるかという問題があります。
判別要件あるいは明確区分性などと呼ばれます。
そして、判別ができる場合に、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを踏まえて判断されることとなっています。
 
これら基準自体が総合的判断を前提とするものですので、基準を基にして具体的事情に応じて総合的に有効性が判断されます。
 
固定残業制・定額残業制を導入・維持するのであれば、有効だと認められるような仕組みを用意しておかなければリスクがありますね。
 
仮に固定残業代・定額残業代の支払いが有効ではないとされると、時間外等割増賃金が未払いとされ(一種のペナルティーである付加金も請求されるでしょう)、しかも割増賃金の計算の基礎に定額支給された手当も入ってしまうということになりますね。
 
そうすると、次のようなことに気を付けないといけません。
 
雇用契約書、労働条件通知書、賃金規程等就業規則にて、定額支給手当が時間外等手当として支払われている旨が明記されていた方がいいでしょう。
明記されていなければ、運用上しっかり時間外等手当として支払われていることが明確になっていないと厳しい判断が予想されます。
また、募集要項も含めて、曖昧な記載も避けなければなりません。
 
勿論、賃金体系上、所定内労働の対価の部分と時間外等割増賃金の部分を明確に区分できるものであることも必要です。
精勤手当の性質等の他要素を組み合せた形の定額支給手当は避けた方が無難です。
労働者が判別できるような計算指標、計算根拠となる時間数を超えた場合の精算方法も明示されることが望ましいです。
 
定額手当の金額は、法令上許される時間外手当等の範囲内の金額であること(法令の趣旨に反する金額であると有効性が否定されかねません)、時間外労働等の対価としての合理的な支給根拠が説明できる金額であること(それ以外に合理的な支給根拠がないこと、実際の勤務実態とほぼ合致していること等)も必要でしょう。
全従業員一律の額であると合理的な説明ができないかもしれませんね。
 
運用上も、支給時に支給対象の時間労働等の時間数と残業手当の額が明示されていること、
固定残業代によってまかなわれる時間数を超えた場合の精算をする取り扱いが確立していることも要請されます。
 
残業代等の固定支払いは、支払方法について法定されていないため、一概に無効とはされない傾向ですが、事案によっては無効と判断されかねません。
リスクを排除するためには、上述のような手当をしなければなりません。
 
固定残業制のメリットの1つは労務管理の簡便化でしょうか。
上述のように見ていくと、リスクを排除するには結局手間がかかるような気がします。
一定の無駄なコストも生じるわけですし、その分を賞与あるいは成果的報酬に反映する方が労働者のモチベーションの向上につながる経営戦略上のメリットがあるような気がしています。
 
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債務免除益の課税区分 [企業法務]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
経営者などの個人が会社に対する債権について会社に債務免除を行うことはよくあります。
決算書の見栄えをよくするため、あるいはM&Aの下準備として、個人の会社に対する貸付を放棄することはよく見ますね。
 
債務免除益も原則として課税の対象となることは争いがありません。
数千万もの会社に対する貸付金を免除すると同額の益金が会社に発生します。
繰越欠損が潤沢にあり課税がなされない、あるいは高額な税金がかからない場面に限って考えることでしょう。
 
その逆、会社から個人に債務免除を行うことはあまりないかもしれません。
ただ、法人から経営者の離婚、相続対策の前提で行うことなど、いろいろな場面で考えることができると思います。
 
その場合に債務免除益を受けた個人の税金は所得税ですね。
所得税には、法人税と異なり、所得区分という問題があります。
所得税課税がありますよという注意だけではなく、所得の種類を考える必要があるのです。
法人から個人が受けた贈与は、一般的には、一時所得か、個人が役員・従業員の場合には給与所得になる、というイメージなのではないでしょうか。
私も、広島大学のロースクールにて(租税法を教えています)、法人からの贈与は一時所得か給与所得だよ、と教えています。
 
ちなみに贈与税は、個人から個人への贈与の場面での課税です。
 
法人から個人に対する債務免除について、債務免除益の所得区分が争われた地裁の裁判例を目にしましたので投稿します。
 
金融機関が、賃貸用の建物の建築資金とするための借り入れの返済に充てられた借入金の債務免除、農業用機械の購入資金とするための借入金の借り換え等にかかる債務の返済に充てられた借入金の債務免除、をおこなった事案です。
事案自体は特殊かもしれません。
 
納税者たる個人は、債務免除益を一時所等として申告したんですね。まあ、無茶な申告ではないと思います。
しかし、課税庁は、借入れ目的に応じて、事業所得、不動産所得、一時所得に該当するとして更正したのです。
 
所得税は所得区分に応じて税金のかけ方が違います。
一時所得は所謂2分の1課税の所得区分ですので税金が安いのですね。
更正により、当然税金が上がります。過少申告加算税賦課決定も合わせてされています。
裁判の事件名は、所得税更正処分等取消請求事件です。「等」の中に過少申告加算税賦課決定も入っています。
 
裁判所は、
所得区分の判断にあたっては、当該所得の内容及び性質、当該利益が生み出される具体的態様を考慮して実質的に判断される、
借入金の債務免除益の所得区分の判断においては、当該借入金の目的や債務免除に至った経緯等を総合的に考慮して判断することが相当である、
とします。

そして、
不動産貸付業務に充てるため、あるいは農業用機械の購入資金に充てるための借入金の債務免除益は、不動産所得あるいは事業所得に該当するとしました。
それぞれ、不動産貸付業務あるいは事業遂行による収入ということができるからということのようです。

また、不動産貸付業務、事業の運転資金的性質を持つ借入れの返済に充てられた部分の借入金、借換資金、及びその債務免除益も同様の性質を有するとしています。

勿論、不動産所得あるいは事業所得に該当する以外の債務免除益は一時所得とされました。
 
借入金の債務免除益の所得区分の判断においては、借入金発生原因をよく吟味しないといけないということですね。
債務免除益は、単なる法人から個人への贈与とは場面が異なるのかもしれません。
こういう裁判例がある以上、債務免除益は法人からの受贈益として一時所得でいいのではないか、と簡単にお話することはできませんね。
 
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広島の弁護士 仲田 誠一
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契約書類の解釈 [企業法務]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
現在控訴審で契約解釈の争いとなる裁判を1年以上続いています。
B TO Bの訴訟はほぼ契約内容の解釈で決着が付きます。
 
一審では当方の主張した点があまり細かく吟味されずに全面敗訴してしまいました。
 
控訴したところ、控訴審では、さすがに簡単すぎる判決だと感じてくれたのでしょう。
何も整理されていないじゃないかと指摘され(それは一審の裁判官の判断なのですが)、なかなかないことですが細かい審理を続けてくれています。
先日、控訴人である当方に有利な和解案が出されました。
和解は整わなかったのですが、逆転勝訴の可能性が十分に出てきたところです。
勿論、結果は最後までわからないところですが。
 
事案は、
注文書発行・預り金預託 ⇒ キャンセル ⇒ 預り金没収の念書作成 の流れで、預り金の違約金充当合意が無効であり預託金を返還しろと請求した訴訟です。
高級外車だったので没収された預託金が大きかったのですね。
 
注文書上、申込の撤回(キャンセル)ができるのか、契約が成立していて一方的解約ができないのか、が第1の争点でした。
原審ではきちんと当方の主張を汲み取ってもらえずに、あっさりと契約は成立しているから申込の撤回はできないと判断され、敗訴判決を貰いました。
 
一方、控訴審では、注文書の記載を細かく吟味して、契約は成立しておらず、キャンセルは可能であった、という方向で話を進めてもらっています。
 
確かに、注文書裏面の約款条項には注文書を発行したらキャンセルができないという条項はあったのです。
しかし、注文書の他の約款条項とは矛盾する内容でした。
条項全体を吟味していくと、やはり契約は成立しておらずキャンセルを許容する趣旨の合意だと見られるべき書類だったのです。
控訴審では、そこが理解されたということです。
書面の解釈で前提問題ががらりと変わるのが訴訟です。
訴訟では、いくら経緯や実態を説明しても、契約書類に「こう書いてありますよ。」とあっさり切られることも珍しくはありません。
勿論、契約書類の記載は、大きな武器にもなります。 

契約あるいは合意書面は大事であるということをことある毎にお話ししています。
FAXでもなんでもいいので書面を残しておくのです。
裁判になると想像以上に、条項や取り決めを吟味されて契約内容が解釈されます。契約条項が独り歩きする感もあるぐらいです。
処分証書の法理という考え方があります。
法律行為(契約など)を直接表す書面(契約書など)が真正に成立していれば、特段の事情がない限り、その記載どおりの法律行為の存在を認定するという考え方です。
実務では、契約書等があれば必ず勝てるというほどは厳格に適用されていない感がありますが、それでも処分証書となる契約書類は非常に重要なのですね。
理屈上は、反証が成功しなければ、処分証書の記載内容どおりの事実が認定されるのです。
その観点からいけば、個々の契約条項がよく吟味されるのは当然だと言えます。
 
企業の事前のリスク対策としては、契約書、少なくとも合意内容がわかる書類を残すことは勿論、個々の条項や取り決めが相互に矛盾しないようにそれらを作成することが必要です。
誰が見ても一義的に理解できる内容、このケースではこう解決されるとイメージができる内容にしなければなりません。
そのような契約書類があれば、相手方も争ってくることはあまりありません、トラブルが防止できますね。
トラブルが発生したら、当然、強力な武器として契約条項が使えます。

B TO Bのトラブルの相談に限りませんが、契約書、あるいは契約関係書類、合意書面がしっかりしているご相談は、ほっとします。
逆に、取り決め内容がきちんと残っていない案件は、どうやってそのことを立証すればいいのか、立証が可能なのかと悩むところです。
直接の証拠がないので、間接事実で立証することになりますが、実際そのような訴訟は多いです。
 
御社が使っている注文書や契約書のひな型を1度チェックしてみてはどうでしょうか。
取引の流れ(注文あるいは受注から代金支払いあるいは納品・代金受領)を、注文書や契約書等の取引関係書類に沿っていろいろなケースを想定しながらトレースしていけるかを見るのです。
こういう場合はこうなると明確に理解できるのであればいいのですが、そうでなかった場合には契約書類に不備があることになります。
契約条項1つの内容で、トラブルの発生の可能性、トラブルが発生したときの解決にかかるコストが変わってきます。
 
必要なコストだと考えて、一度専門家に契約関係書類を吟味してもらうことをお勧めします。
ひな型や、大口取引先関係を1回見てもらえば何度もチェックを受ける必要もないと思います。
 
本当は、書類関係だけではく、取引プロセス自体の監査をして、トラブル防止の仕組みを整備することもお勧めしたいです。
裁判をしてみると、依頼企業の主張を裏付ける記録が何もないという例も珍しくありません。
ルーティン化できる簡単な仕組みでそういうことは防げます。
 
なお、上記案件ですが、キャンセルはどうやらできそうという第1関門は突破しましたが、しかしキャンセル条項の中にキャンセルの場合には通常生ずる損害は賠償請求できる旨もありました。
そこで、現在は、通常生ずる損害とは何かを議論しているところです。

一審でやってくれていればよかったのですが・・・

なお、消費者契約法9条の話では通常生ずべき損害の立証は消費者側に負わされる傾向ですが、こちらはB TO Bの争いで条項自体に通常生ずべき損害と記載されているので、立証責任は損害を主張する側です。
 
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広島の弁護士 仲田 誠一
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