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中小企業のM&A徹底解説

中小企業のM&Aの徹底解説です。
広島市の弁護士仲田誠一です。当職は、銀行や事業引継ぎ支援センター等と連携するなどして、M&Aのお手伝いをすることが多いです。中小企業のM&Aは事業承継問題の解決方法の1つとして数が増えています。今回は、当職の経験に基づき、中小企業に特化したM&Aの解説をさせていただきます。

目次

M&Aとは
事業承継との関係
株式譲渡
事業譲渡
方法の選択基準
価格の考え方
M&Aの流れ
その他の注意点
M&Aの費用
弁護士によるM&Aサポート
まとめ

M&Aとは

1.M&Aとは

M&Aは Mergers and Acquisitions の略称です。「合併と買収」と訳されるようですが、企業や事業の買収を広く意味する言葉として使用されています。資本提携や業務提携も含めることがあります。
ここでは会社あるいは事業を直接あるいは間接に売り買いするケース(法人あるいは事業のオーナーを変更すること)を指す意味でM&Aを捉えます。

そのような意味でのM&Aの手法には様々なものがあります。
株式譲渡、株式移転、会社分割、合併、事業譲渡でしょうか。法的には株式譲渡の一種ですがTOB(株式公開買付)やMBO(マネジメントバイアウト)という手法もニュースなどでお聞きになっていると思います。

2.中小企業のM&Aの手法

中小企業のM&Aの手法は、ほぼ株式譲渡事業譲渡の2つに収斂されます。

法律上は、会社の所有者は株主です。財団法人等持分権のある社員がいない特殊な法人は別として、各種法人も同様出資者の所有物です。会社・法人が欲しければ、あるいは売りたければ、株式や出資金を売り買いすればいいですね。
それを端的に実現するのが株式譲渡です。従業員や役員が株式を買い取るケースはMBOと呼ばれることもありますが、その実質は株式譲渡の手法です。TOBは株式公開会社のお話です。

会社・法人そのものではなく、ある部門あるいはある事業だけを売り買いしたいケースもあります。そのケースでは当事者が合意する内容の事業だけを売買すればいいことになります。
それを端的に実現するのが事業譲渡ですね。

そして、中小企業のM&Aはコスト面の配慮も重要です。手間、期間、費用はできるだけ節減したいですね。株式譲渡あるいは事業譲渡は、他の手法と比べて手続が簡便となっています。

そのため、中小企業のM&Aには、株式譲渡事業譲渡が利用されるのです。当職も年に数件はM&Aに携わっておりますが、株式譲渡事業譲渡のスキームがほとんどです。

株式移転、会社分割、合併は、特殊なニーズがあるケースに採用すべき手法ですが、通常の中小企業のM&Aにはあまりそのニーズがありません。
合併は昔はよく利用されていたかもしれません。今では、税制上のメリットがほぼなくなり、コストがかかるだけの手法となってしまった感があります。税制上のメリットが大きい適格合併の場合を除いて選択するケースは少ないでしょう。

いずれにせよ、買い手・売り手双方のニーズに適した手続を選択することが効率的です。
手続選択から弁護士等の専門家にご相談されることをお薦めします。当事者は合併を考えていたところ、当職が双方のニーズを確認した結果、事業譲渡の手法で簡便かつ効率的に進められた、というような例は珍しくありません。

事業承継との関係

1.中小企業の事業承継

同族中小企業に必ず発生する、かつ最も大きなリスク事業承継問題です。
株式を公開している大企業は株主と経営者が別ですね。会社の所有者である株主は不特定多数、経営者は雇われ経営者です。会社法が前提とする「所有と経営の分離」が実現している状態です。経営者が引退したり、経営者の相続が発生しても、社長が交替するだけで、会社は問題なく存続していきます。

これに対し、同族中小企業では、会社の所有者である株主(1人あるいはその親族)と経営者が同じです。「所有と経営の分離」がなされていません。経営者が引退あるいは相続は、経営者=株主の変更となります。スムーズに事業=株式を引き継ぐ必要があります。同族中小企業の経営者=株主には、いつかは引退あるいは相続が発生しますから、同族中小企業では必ず事業承継が発生するのです。

後継者にスムーズに株式と経営を承継をしていかないと、会社の経営継続自体が危機に晒されます。これが事業承継問題です。中小企業=会社ですね。経営者の交替は技術面、人事面、営業面等経営に大きな影響を与えます。また、相続税の問題が発生することは勿論、後継者に株式が集中できなければ会社を所有し経営を継続することもできません。相続争いが発生すると、株主総会を開いて新しい役員を選任することもできない事態になりかねません。

一方で、事業承継問題はチャンスでもあります。経営者の交替によって事業が傾く例を耳にしたことがあるでしょう。銀行勤務の経験あるいは弁護士としての経験からは、企業再生が必要になる会社あるいは破たんする会社では、事業承継に失敗したことが経営悪化の要因の1つになっている例が多いと感じます。事業承継に成功した会社は、それだけでライバル企業に差をつけらます。

事業承継問題は死活問題ですから、現在、早めの対策の必要性が盛んに喧伝されています。
もっとも、事業承継対策と銘打っても、株式の移転等に絡む相続税対策がメインではないでしょうか。それは事業承継対策の一部にすぎません。
財産面の問題だけでも、相続税対策だけではなく、後継者への所得移転、株式の集中プラン等、所得税、法人税も含めたが税制の横断的理解に基づくプランニングが必要です。適切な事業の引継ぎを法律的に準備する必要もあります(株式の集中策、種類株や属人的株式による議決権の集中策、承継財産の整理・相続法対策、定款変更等による組織改革、人事制度改革など)。そして、何よりも大切な対策は、後継者の育成です。経営力を身に付け経営革新を行える後継者を育て、事業承継を機に中小企業の強みである経営のスピードを向上させ、会社を時流に乗せなければなりません。事業承継の解決には総合的な対策が必要です。

当職が事業承継対策をサポートさせていただくときも、連携する税理士と共に、場合によっては当職も一員として中小企業をサポートしている合同会社RYDEENが主催する後継者育成経営塾を絡め、ワンストップでの総合的なプランニングをさせていただくことがあります。

2.事業承継とM&A

事業承継対策は後継者候補がいることが前提となっています。
しかし、後継者がいない中小企業の数は多く、当事務所のある広島県や隣県の山口県は後継者不在率が全国ワーストの部類に属しております。

会社の営む事業にはそれ自体社会的価値があります。中小企業は、日本の経済、特に地域経済を支える重要な存在です。事業をなくしてしまうのは社会的損失です。
また、従業員ほかの利害関係者も多数存在します。事業を引き継ぐのは経営者の責任とも言いうるでしょう。

そこで、M&Aです。後継者のいる同族中小企業は事業承継対策(親族内承継)で、後継者のいない同族中小企業はM&A(第三者承継)で、事業をバトンタッチして、事業や従業員等を守るのです。
事業承継対策の一環としてのM&Aは、現在盛んに喧伝されています。国も中小企業の後継者不足に危機感を持っているのですね。当職がお手伝いさせていただいているM&Aも、事業承継対策の一環のものが多いです。

買い手の視点から見ると、会社を買うチャンス、すなわち顧客・市場を新たに獲得するチャンスが増えているといえます。デフレ下で市場の拡大が見込まれない中では、顧客・市場を拡大するもっとも有効な経営戦略の1つといえます。また、人材不足が叫ばれるようになってからは、人材の確保もM&Aの目的になるようになりました。

株式譲渡

1.株式譲渡によるM&A

中小企業のM&Aに利用されることの多い株式譲渡の主張を説明していきます。
株式譲渡とは、文字どおり株式の譲渡です。会社の所有者は株主です。株式譲渡とは、オーナーチェンジですね。

株式譲渡に必要な手続は、
株式譲渡契約書の締結
②譲渡承認決議(株主総会、取締役会)-中小企業のほとんどは株式譲渡制限会社です
③役員の変更決議(株主総会、取締役会)
が基本となります。

通常は、株式譲渡による譲渡所得税課税と退職金支給による退職所得課税の兼ね合いで、
④旧経営陣への退職金支給
も絡みます。

単純に会社の所有権(株式)を売買する複雑ではない手続なので、利用されるケースが多いです。

2.株式譲渡によるM&Aの特徴

株式譲渡によるM&Aの特徴をいくつか挙げます。

【法人格をそのまま引き継ぐ】
株式譲渡では、会社の法人格(器)はそのまま存続し、会社の所有者=株主が変更されるだけです。株式譲渡によるM&Aの一番大きな特徴です。
この特徴によるメリットは、
①会社の名称、契約関係、債権債務関係はそのまま継続する(営業への影響が小さい)、
②会社と雇用契約を締結している従業員は株式譲渡の影響を受けない(従業員をそのまま引き継げる)、
③許認可や取引先との関係も、届出が必要なケースもありますが、そのまま利用・維持できます(許認可、取引先をスムーズに引き継げる)、
④所有不動産や自動車の登記、登録の変更の必要がない(手間と費用がかからない)、
といったところです。
一方で、デメリットとしては、法人格をそのまま引き継ぐため譲渡会社の保有するリスクや負債の遮断ができない点が挙げられます。コストがかかっても買収監査をきちんと経てリスクを点検しておく必要性が高いといえます。

【退職金支給によるプランニング】
株式譲渡では取締役、監査役等の役員が退任することがほとんどです。引継ぎ等で会社に残ってもらうケースでも、別途業務委託契約等を締結して協力してもらう形をとることが多いです。一定期間旧経営陣が役員で残るプランニングは例外的なケースになります(資格、登録の関係で必要なケースなど)。
旧株主が役員を退職する通常のケースでは、の退職金により最適なプランニングが可能です。売り手からすれば、退職金も株式譲渡代金も同じお金ですが、課税関係は退職所得課税、譲渡所得課税(通常は長期譲渡所得)と異なります。買収総額を割り振るバランスを考えて、効率的なプランニングをします。なお、買い手が会社であるケースでは、株式取得価格をできるだけ下げるために退職金に多くを割り振った方が喜ばれます。

【会社の清算の必要がない】
株式譲渡では、会社の清算を考える必要がありません。法人はそのままで株主が変わるだけです。旧オーナーは役員から退任すれば会社から手が離れることになります。
これに対し、事業譲渡では譲渡人会社は残り、事業だけ移りますね。全部の事業を譲渡したとしても、将来の会社の清算という課題が残ります。

【その他】
株式譲渡契約書は、金銭の授受が記載されていない通常のケースでは、印紙税の課税文書ではありません。
また、株式譲渡は消費税の課税取引ではありませんので、譲渡代金について消費税を考える必要はありません。

事業譲渡

1.事業譲渡によるM&A

中法企業のM&Aによく利用されるもう1つの手法である事業譲渡について説明します。
事業譲渡とは、文字どおり、事業の譲渡です。個人事業も含めて規律する商法の表現では、営業の譲渡になります。一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む)の全部または重要な一部を譲渡することを意味します。
難しい言い回しですが、機械や不動産等の財産の売買ではなく、会社等の営む事業の全部または一部の譲渡なんですね。事業譲渡は、一部の事業を売買する目的で、あるいは譲渡人会社の負債やリスクを切り離す目的で、よく利用される手法です。

事業譲渡に必要な手続は、
事業譲渡契約書の締結
②株主総会の事業譲渡等承認決議(会社法467条)
株式譲渡と同様に簡便な手続です。
ただし、株式譲渡と異なり、当然に契約関係等を引き継ぐことはできませんし、個々の財産について移転に必要な手続をしなければなりません。

2.事業譲渡によるM&Aの特徴

【譲渡対象を自由に選ぶことができる】
事業譲渡の最大の特徴(メリット)は、譲渡の対象を自由に設定できることです。
対象資産を選択することができますし、事業の部門・取引先との取引関係などを基準に一部を切り取ることもできます。
自由度が高く様々なニーズに対応することができますが、譲渡内容を決める事業譲渡契約書は緻密に作成する必要があります。

リスクを遮断することができる】
株式譲渡は、会社という器そのものを売買するため、譲受人は債務やリスクを負ったままの会社の新オーナーになるわけです。これに対し、事業譲渡における譲受人は、譲渡人が負う債務を承継せず(勿論、その旨譲渡契約書に明記します)、リスクも承継しません。事業のみを譲り受けることができます。事業譲渡の大きいメリットです。

【原則として商号は続用できない】
ただし、譲渡人の商号を譲受人が使い続けると、譲受人も譲渡人の営業によって生じた債務の弁済責任を負います(商法17条)。事業譲渡では、譲渡人の商号を使って営業を継続することをしないのが原則です。
商号を変更しないといけないとなると、取引先関係の引継ぎに苦労をすることもあるかもしれません。デメリットですね。

【従業員の引継ぎ】
譲渡事業に従事する従業員はあくまでも譲渡人と雇用契約を締結しており、引き継ぐには譲渡人からの退職、譲受人への新規就職という形になります。従業員の合意が必要なのは勿論、退職金制度がある場合には譲渡人が退職金を支払う必要が出てきます(個別契約で譲受人が従業員の在職年数等退職金債務を引き継ぐ形もあり得ます)。デメリットですね。

【取引先との関係、契約関係、許認可】
取引先との契約関係や債権債務、賃貸借契約関係など契約関係も当然には移転しません。相手方の同意を得て、契約上の地位の移転あるいは新規契約等の手続を踏む必要があります。
許認可についてもそのまま利用することはできません。該当許認可で定められた手続に従って、譲受人が新たに取得する、あるいは譲渡手続を承認してもらう等しなければいけません。こちらもデメリットです。

【その他】
事業譲渡契約書は印紙税法の課税文書です。契約書には印紙を貼付しなければなりません。
また、事業譲渡の対象には消費税の課税資産を含みますので、消費税も考慮しなければなりません。
事業譲渡では譲渡対象資産である不動産の移転登記、自動車の登録変更などをしなければなりません。

方法の選択基準

1.株式譲渡を選択するべきケース

中小企業のM&Aで株式譲渡の手法がもっとも多く使われると思います。特に次のようなケースでは株式譲渡を選択するべきといえます。

【経営者が引退あるいは廃業を考えているケース】
経営者が引退、あるいは廃業を考えられているケースでは、原則株式譲渡の方法を選択するでしょう。
事業譲渡では、譲渡人の会社が残ります(譲渡代金は法人に入り、事業譲渡益には法人税課税されます)。引退、廃業のためには、別途会社の清算手続を考える必要があります。
勿論、負債やリスクの遮断を目的に事業譲渡が選択され、清算手続を別途行うケースもあります。

【許認可の引継ぎがメインの目的となるケース】
許認可ありきの事業法人のM&Aは、原則として、許認可の関係で被買収会社の法人格を活かせる株式譲渡を利用します。
株式譲渡では、法人格の移動はありませんので、法人格に付いている許認可はそのままです。役員や株主の変更について届出が必要なケースがあるというだけです。
これに対し、事業譲渡では譲渡人に許認可が付いているままですので、譲受人が新たな許認可を取得する等の手続を踏む必要があります。

【取引先との継続取引関係に価値があるケース】
取引先との継続取引関係の引継ぎはM&Aの重要な目的です。
株式譲渡であれば、法人格はそのままですので、法律上は取引先との契約関係に変更はありません。取引口座もそのままです。取引基本契約書などで役員、あるいは株主変更時の届出等の手続が定められていることがあるだけです。事実上、引継ぎには万全を尽くさなければいけませんことは当然ですが。
これに対し、事業譲渡では、取引先との取引関係の引継ぎは、取引先の同意が必要になります。新たな取引口座の開設が難しい場合は事業譲渡ではなく株式譲渡でしょう。

【従業員をスムーズに引き継ぎたいケース】
従業員を引き継ぐことはM&Aの主要目的の1つでしょう。
株式譲渡であれば、従業員との雇用契約関係には影響がありません。この観点から株式譲渡を選択することも多いです。勿論、経営者変更を契機に退職されないよう、新旧経営者からの十分な説明等が必要です。
これに対し、事業譲渡は、譲渡人と従業員との雇用関係は譲受人には引き継がれません。従業員の引継ぎには、従業員の退職、再就職が必要となります。譲渡人会社に発生する退職金の扱い(譲渡会社での支給の有無等)や移籍後の譲受人での待遇(現状を引き継ぐか譲受会社に合わせるか等)も問題になります。譲渡人には従業員の移転を促す努力義務や、従業員の移転が実現しなかった場合のペナルティを伴う義務を負ってもらうこともあります。

【商号続用をしたいケース】
株式譲渡では商号を続用することが通常です。取引先の関係等の維持を容易にするためですね。
これに対し、事業譲渡では、商号続用をしないことが基本です(リスクを負えれば商号続用もあり得ますが)。

事業譲渡ではコスト負担が大きいケース】
事業譲渡では、権利の移転に別途対抗要件の具備や合意が必要になります。不動産の移転登記、自動車の登録変更、リースの契約名義変更、賃貸借の名義変更等々ですね、契約移行等の手間がかかることは勿論、登記費用等に多額の費用がかかることもあります。
株式譲渡では、所有関係・契約関係等もそのままで、経営者交替に伴い保証人の変更が必要なるぐらいです。ケースによっては事業譲渡の様々なコスト面の負担から、それらのない株式譲渡を利用することもあります。

2.事業譲渡を選択するべきケース

一方、中小企業のM&Aでは事業譲渡もよく選択されます。特に、次のようなケースでは事業譲渡を検討することになります。

【売り手が事業継続を前提とするケース】
売り手が事業継続を前提とし、ある部門等を売却したいときは(選択と集中)、事業譲渡を選択します。

【株式の集中ができていないケース】
経営者及びその家族が全株式を保有しておらず、第三者が一部株式を保有しているケースでは株式譲渡によるM&Aは使えません。全部の株式の譲渡でなければ、買い手が見つかる可能性は低いです。
これに対して、事業譲渡は、承認決議ができる限りで可能です(ただし、反対株主の株式買取請求権の行使のリスクもあります)。
株式の集中ができていないケースでは、まずは第三者からの買取り、自己株式化、名義株の整理等、株式の集中を事前に図ることが肝要です。

【売り手のリスク、負債を引き継ぎたくないケース】
事業譲渡は、譲渡人のリスク、負債を引き継がない形でのM&Aが可能です。株式譲渡ではそれらを遮断することはできません。そのため、株式譲渡では、売り手会社に含有するリスクや負う債務などをきちんと監査しなければならないことが多いです(買収監査)。
売り手企業の財務内容が悪い、あるいは不審な点もあるというケースでは、事業譲渡にて譲渡人の負債・リスクを遮断する方法が適切かもしれません。その場合には買収監査を簡便にすることもできますね。

【売り手の負債が多いケース】
売り手が債務過多である場合は、その負債を引き継ぐほどの株式価値がある企業はあまり存在しません。株式譲渡は使えないですね(合併も同じことがいえます)。これに対し、事業譲渡では、売り手の債務を引き離して事業だけを買収することが可能です(会社分割を利用しても可能ですが)。
ただし、売り手企業が倒産するほどの状況下での事業譲渡にはリスクがあります。経済的危機状況でのM&Aは、倒産手続等において、資産隠し、債務飛ばしと問題視され得ます。譲渡人の債権者から債権者取消権を行使される、あるいは破産管財人等から否認権を行使されるリスクですね。
そのような可能性のあるM&Aは、弁護士の関与の下で行い、適正対価であることと、適正な対価の使い方をしているということを、合理的に説明できる手順を踏む必要があります。

買収価格の考え方

1.買収価格の考え方

買収価格は、勿論ケースバイケースで決めることになります。需要と供給の問題ですからね。
価格は当事者が自由に決めることができるのであり、決まりはありません。不当に安いあるい高いケースで税務上のリスクが発生することがあるだけです。

勿論、価格の目安というものはあります。
株式譲渡では株式の価値ですね。時価です。贈与税・相続税のための評価である相続税評価額は時価ではありません。
事業譲渡では事業(移転する財産も含めて)の時価ですね。

価値の評価方法はいくつかありますが、同族中小企業のM&Aでは、
① 時価純資産額
② 営業権価格
③ ①+②
を目安に考えることが多いです。同じパターンでもその具体的な評価方法は多岐に分かれます。

なお、当職がお手伝いする案件の中には、当事者間で既に譲渡価格はざっくりいくらと合意されていることも珍しくはありません。
税法上リスクが高い金額でない限りはそのまま話を進め、支払名目(代金か退職金か等)をアドバイスします。

2.買収価格の補足

前述した①資産価格、②営業権価格、③資産価格+営業権価格について、考え方を補足いたします。

【資産価格(時価純資産)】
株式譲渡における時価純資産は、株式が表章する会社のモノ・カネの価値です。決算書あるいは試算表の純資産額をベースに、含み益をプラス、含み損をマイナス、換価価値のない資産項目をマイナス等するなど修正して算出します。例えば、決算上純資産(資本の部)が3000万円あるとして、不動産の含み損が1000万円、保険解約返戻金の含み益500万円あれば、時価純資産は2500万円です。
この純資産価格ベースだけでの価格決定も珍しくありません。利益が出ていない会社の営業権価格は考える必要がないですから。

事業譲渡では、譲渡対象とする資産の時価を算出いたします。金額が小さい物については簿価を利用するケースもあります。

【営業権価格】
営業権価格は、会社(事業)が将来生む利益あるいはキャッシュフローを買収価格に反映させるものです。換価価値のある資産がほとんどない会社であれば営業権価格だけで買収価額が決められますね。

営業権価格は、 ①基準とする利益 × ②算定期間(1~5年) で算出します。

①の基準利益には、営業利益、経常利益あるいは当期利益の直近2~3年の平均額を入れます。
営業利益の平均にて算出することが多いでしょうか、営業権の価格ですからね。
ただし、営業利益には、実際に支出されない費用である減価償却費を加えることが多いです。現オーナーの役員報酬が大きい場合には買収後想定できる役員報酬との差額を加えることも多いです。

②の年数に決まりはありません。3年分がスタンダードですが、業種や業態等により異なります。
安定した業種・業態なら3年より長い場合もありますし、不安定であれば短い場合もあります。

事業譲渡での営業権価格の算出はやや難しいですね。部門別の損益計算書等の数字を出してもらうのですが、販売管理費の振り分けが難しいです。また、看板を変えることのリスク、従業員を引き継げるかのリスク、取引関係を引き継げるかのリスクは、価格引き下げ要因となるでしょう。
なお、業種によって特殊な価格算定が慣例になっていることがあります。例えば、当職が経験したものでは、売上〇カ月分と決めるケース、タクシー会社で営業権付車両台数×単価で決めるケースがありました。

【資産価格+営業権価格】
時価純資産価額と営業権価額の合計額を買収額の目安とするパターンです。
一般的な考え方だと思います。もっとも、当職がM&Aの交渉をしたケースでは、営業権価格の考慮を頑なに拒む某上場企業もいました。

【買収総額と買収額との関係】
主に株式譲渡のケースの話になりますが、旧経営者に対して退職所得が譲渡所得よりも有利な範囲で退職金を支給するケースでは買収総額と実際の買収額(株式譲渡代金)とはイコールではありません。
買収総額は退職金支給額と株式譲渡価格の合計になります。退職金を支給すればその分株式の純資産価格も減少しますからね。総額を決めたら、退職金額を検討し、その余を譲渡代金にする形です。

また、長期間にわたって旧経営陣による引継ぎが必要な業態であり、旧経営者にある程度高額の報酬を支払わなければならないケースでは、営業権価格を加味しないこともあるでしょう。営業権は引継ぎにより実現し、営業権価格は実質的に引継報酬により支払われる形ですね。

M&Aの流れ

1.一般的な流れ

単純化するとM&Aの流れは次のようなイメージでしょうか。
②から⑤や⑦の順番は前後しますし省略されるものもあります。

① マッチング(相手方候補者の選定)
② 基本契約書の締結
③ デューデリジェンス(買収監査)、価格・条件交渉
④ 最終契約書作成
⑤ 法定手続、最終契約書締結
⑥ 決済
⑦ 引継ぎ

①マッチング
相手方候補者が見つからないとM&Aがスタートしません。
相手方候補者は、当事者が候補者を見つけてくるケースも珍しくはありません。M&A専業コンサルタント、事業引継ぎ支援センター、取引銀行あるいは銀行系コンサルタントが探してくることも多いでしょう。
当職もマッチングを実現したこともありますが、情報量では銀行さんに劣ります。銀行の保有する情報量を活用することは大事です。

②基本契約書の締結
独占交渉権付与と秘密保持契約を内容とする基本契約書を、交渉のスタートとして作成するケースも多いです。必須ではないですが、作成した方が双方が安心でしょう。
それまでに確定した交渉結果の内容も盛り込むこともあります。

③デューデリジェンス(買収監査)、価格・条件交渉
M&Aは、買収対象の株式(企業価値)あるいは事業自体にリスクが包含されている危険がありますし、手続面でのリスクもあります。程度の差こそありますが何かしらのデューデリジェンスあるいは監査を入れることが多いです。
価格算定のためのデューデリジェンス、財務・会計監査、法務監査などです。
価格・条件交渉を当事者だけで進めることはあまりお勧めしません。価格はある程度の相場観をベースに協議した方がいいですね。条件面は最終的に法律的に可能な形で最終契約書に落とし込む必要がありますので、客観的な専門家が仲立ちあるいは調整しながら具体化する方がいいでしょう。かつ、当事者間ではどうしても感情的になってしまう場面が出てきます(感情的な問題でM&Aが頓挫することは珍しくありません)ので、専門家の助言や調整が欲しいところです。

④最終契約書作成
M&Aには契約書を作成する必要があります。基本契約書に対して最終契約書と呼びます。
株式譲渡であれば株式譲渡契約書、事業譲渡であれば事業譲渡契約書ですね。契約書作成は法律の専門家である弁護士のサポートを得てください。
スキームによっては、引継ぎのための業務委託契約書、事業用不動産に関する不動産売買契約書や不動産賃貸契約書、あるいは旧経営者が残るケースの取締役委任契約書など、他の契約書の作成も必要になります。

⑤法定手続
M&Aには、法定手続が定められています。法定手続を履行しなければM&Aの効力が否定されることもあります。
M&Aの方法により、スキームにより、あるいは会社の組織体制によって、必要な手続が変わってきます。法定手続の検討の過程で問題点が判明することもあります。
契約書作成に専門家(特に弁護士)が入るケースでは、手続面のサポートも得られます。

⑥決済
株式譲渡事業譲渡等の実行日ですね。
銀行の応接室にて、双方当事者と当職のようなアドバイザーが立会って決済することが多いです。買い手の銀行融資が絡むことも多いですね。
決済日には、印鑑、鍵等の引継ぎや必要な登記書類の作成も行います。
株式譲渡ではほぼ必ず、事業譲渡ではケースによって登記が必要です。その場合には司法書士の立会いもお願いすることがあります。

⑦引継ぎ
引継ぎは、基本契約書締結から順次するケース、最終契約書締結から始めるケース、決済日から始めるケースがありえます。
引継ぎが必要な点や量は被買収会社あるいは事業の内容によって千差万別です。ケースバイケースで適切な引継ぎ方法を考えることも、M&A成功の秘訣になります。
旧代表者等が数か月から半年程度、業務委託契約に基づいて引継ぎや従業員へのケアをしていくことも珍しくはありません。

2.株式譲渡事業譲渡の補足

株式譲渡の流れに関する補足】
株式譲渡では、リスクや負債を負っている会社の株式を売買します。そのためデューデリジェンスやリスク監査が重要となります。
しかし、価格がほぼ決まっているから税理士等による価格算定のためのデューデリジェンスは必要がない、企業規模や事業形態から税理士等による財務・会計監査までは必要がない、というケースも多いです。
それでも、法務監査は必ず入れた方がいいです。複雑な契約ごとですし、最低限簡便なリスク監査は必要でしょう(法務監査の中で、価格算定や財務面も最低限見てもらうというパターンも多いでしょうか)。

旧経営者との間の債権債務関係の清算も決済までに行います。旧経営陣との間の債権債務関係を残すのは得策ではないですからね。場合によっては、旧経営陣に対する債務を免除してもらい整理することもあります。繰越欠損があるケースですね、そうでなければ法人税課税があります。
そのほかにも整理できるものは整理してシンプルな形にして株式を売買することが多いです。

なお、引継ぎ関係の話では、株式譲渡では会社の契約関係には影響がないため、各種契約の旧代表者の連帯保証を新代表者に変更することも必要ですね。

事業譲渡の流れに関する補足】
事業譲渡では契約書と引継ぎが特に重要になります。

事業譲渡の内容は契約書の記載次第ということになります。契約書の内容に一番気を使うことになります。
譲渡資産の切り取り、事業の切り取りを、漏れなく、かつ明確に記載しなければいけません。売掛金と買掛金をどう割り振るか、営業用電話やFAXの番号の引継ぎの有無等の細かい取り決めも必要です。

従業員の引継ぎが最大の関心事であることもあります。実行日前から従業員に対する説明、説得を重ねて、実行日に譲受人に再就職してもらうように手配しなければいけません。名目は別として、再就職時の手当(サイインインボーナス)を支給することもあります。

譲渡事業に必要な賃貸借契約等の契約関係の引継ぎも事前に相手方から了承をとって速やかに変更できるようにしておかなければなりません。

不動産や自動車など登記・登録が必要な資産の譲渡では実行日に変更登記等に必要な書類を授受します。

その他の注意点

1.契約、法定手続等の注意点

M&Aは、会社あるいは事業の引継ぎですので、ケースに応じて様々な課題が生じてきます。
個々の事例に即して、譲渡対象会社あるいは事業の内容を把握し、当事者双方の意向を確認しながら、リスクの有無や問題点を洗い出し、調整しながら法律的に有効な形で契約条項を作成する必要があります。
注意点はケースに応じて多岐にわたるのですが、ここでは共通項と思われる点をいくつか挙げます。

【株主、株券の確認】
株式譲渡では、自社株式の保有状況の確認が必要です。決算申告書の附票は証明資料にはなりません。
会社成立時から現在までの株主の移動を説明できるようにしないといけないのですが、株主総会議事録等の古い書類が残っていないケースもあり、ケースバイケースの確認になります。
名義株式や第三者の保有株式がある場合にはできるだけ早めにその解消方法を検討しなければなりません。
事業譲渡でも、きちんと株主総会決議ができるのか、反対株主への対応が可能なのかを検討しなければなりません。
また、株券の発行の有無、発行会社であれば株券の存否を予め確認しなければいけません。株券発行会社かどうかは商業登記、定款で確認します。
株券発行会社であっても実際には株券を発行していないケースも珍しくありません。
株券が発行されていて現在見当たらないケースは一番困ります、失権手続等の手当が必要なのかを検討しなければなりません。
早期に状況を確認してできる手当を講じることが肝要です。

【資産の整理】
同族中小企業では、事業用の不動産等が会社所有ではなく個人所有であるケース、逆に会社保有資産を個人で使用しているケースも珍しくありません。
M&Aではそれらを整理しなければなりません。
個人所有の事業用資産(引き続き必要なもの)がある場合には、事業に引き続き使えるようにしなければなりません。新オーナーあるいは会社が売買等で引き継ぐか、所有者から賃貸借契約等で使用権を設定してもらいます。
所有者に対する貸付金が会社にある場合には代物弁済で整理することもありました。
会社保有資産の個人使用のケースでは、譲渡日に買い取ってもらうのか、退職金の現物支給として名義を変更するのか、会社から個人への移転名目を考えます。
引継期間があるケースではその間の使用を許可し、終了後に清算を考えるということもあります。

【不動産】
不動産の境界確定義務を定めるのか定めないのか(争いがなく確認標・鋲があれば問題はないのでしょう)、建築確認済書類等建築図書、検査済証が引き継げるかどうかも、確認をしておかなければなりません。
それらを欠くと買い手が増改築のときに困りトラブルになることがあります。保健所が絡む工場や薬局などでは、建物図面や届出書類の引継ぎも必要となってきます。

【許認可】
許認可の内容、移転手続の要否等は実行日前に余裕をもって確認をする必要があります。譲渡人に所管の役所にて確認をしていただくことが多いでしょう。

【役員保険】
役員退職金を手当てする等の目的で役員を被保険者として保険契約しているケースも多く、そのケースでは解約して退職金を支払うことで整理します。保険の解約時期と退職金支給決定等保険の解約益と退職金計上損金が期をまたいでしまうと無駄な法人税がかかってしまいます。
旧役員が引き継ぎたい保険がある場合には、保険商品が許す限り、個人の契約者の名義変更をします。法形式は、解約返戻金額を評価額とする退職金の現物支給あるいは売買によります。そうでなければ高い税金がかかります。名義変更のタイミングを間違えないようにしないといけません。

2.引継ぎの注意点

M&Aでは、契約書を作って法定手続を踏んで実行したら終わりではありません。スムーズかつ十分な引継ぎがなされなければM&Aの目的は絵に描いた餅になりかねません。
引継ぎに関してもいくつかコメントをさせていただきます。

【旧経営陣の処遇】
事業譲渡であれば旧経営陣の処遇が問題になることはありませんが、株式譲渡であれば問題になります。
会社のオーナーが交代する以上、旧経営陣は取締役等役員から退任してもらうのが原則です。けじめをつけることがスムーズな体制移行には必要です。従業員や取引先にも経営者が変わったことをきちんと認識してもらう必要があります。
ただし、一定期間取締役として役員報酬をもらうことが条件の案件や、建設業等資格の問題で旧経営陣に役員として留まってもらう案件もあります。
経営権の問題が曖昧になることや定款で定めた取締役任期の関係のリスク等の課題がありますので、慎重にプランニングしなければいけません。

【引継ぎの形態】
引継ぎが2~3日で終わるようなケースではいいのですが、取引先との取引関係を引き継ぐため、従業員に対するケアのため、あるいは技術移転が必要等のため、別途契約によって引継期間を設定することがあります。
そのうち、相応の引継業務が必要な場合には、業務委託契約を締結し、委託報酬を支払う形をとることが多いでしょう。期間雇用の形態をとるケースもあります。
なお、引継期間の報酬あるいは給与が相応に高額になるケースでは、営業権価格をその分割り引くことになるでしょう。

【経理、会計】
経理、会計の引継ぎ方法も決めなければなりません。きりがいい形で譲渡実行日を決算期末に合わせることも多いでしょうか(税理士さんもそのタイミングで変えやすいです)。
ただ、その場合は決算申告事務の引継ぎの問題が発生しますね。また、会計ソフトのデータは汎用性があることが多いですが、実際にデータを引き継げるかどうか確認も必要でしょう。
なお、取引先との受発注システムの引継ぎも苦労したケースがあります。薬局関係のレセプト等データも同様です。

【取引先】
取引先の引継ぎは一番大事ですね。ある程度余裕をもって新旧社長が挨拶に行くことをお薦めしております。
取引基本契約書のチェンジオブコントロール条項(会社の支配権の移動がある場合の届出あるいは承認を定めた条項)の有無も確認しないといけません。
なお、取引先の安心を得るために一定期間の引継ぎ期間をとり、旧経営者に補佐してもらうことも珍しくありません。

M&A費用

1.サポート費用

M&Aのサポートは様々なところから受けることができます。どこに依頼するか、どの範囲を依頼するのかにより費用は大きく変わります。一概に説明することは困難です。

マッチング(相手先探し)からのサポートをするM&Aコンサルタント会社の報酬は、売買価格の〇パーセントで最低〇円と定まっていると思います。最低報酬は安くて5百万円から高くて数千万(想定規模によって違う)が多いのではないでしょうか。銀行系コンサルタント会社は報酬500万円からが相場でしょうか。これらと別に弁護士費用、税理士あるいは会計士費用がかかるケースもあります。

マッチングがなければM&Aはスタートしませんから、マッチングの対価として相応の費用を取ることは当然です。ただ、あまり高額だと地方の中小企業では利用できませんね。事業引継ぎ支援センターの利用も増えているようです。

当職は、マッチングをした地方銀行あるいは事業引継ぎ支援センターからの紹介により、マッチング以降のサポートをお手伝いをすることも多いです。地方銀行さんの持つ情報とネットワークは侮れません。地方の中小企業規模のM&Aは地方銀行のマッチングによるケースが多いです。当職自体もマッチングを実現したことがありますが、網羅的な情報を保有しているわけではない個々の法律事務所では限界があります。銀行さん等の手をお借りすることもあります。

ここでは、マッチング以外の、弁護士のサポートを受けるべきサービスの費用を説明します。

当事務所では、次のような目安で案件に応じた費用をいただいております。

【助言・契約書作成・法定手続のサポート】
スキームの設計、契約書作成、法定手続のサポートまでのサポートです。一貫して最後までサポートします、書類の作成だけではありません。
経験上、55万円(税込み)から165万円(税込み)の範囲で、事案や仕事量に応じて話し合って金額を設定しています。
金額設定は、買収規模、サポート項目に法務監査が入れるか入らないか、あるいは当事者双方から費用をいただけるか一方からだけか等の事情によって変わります。
なお、サポートの内容や他のコンサルタント会社の費用との比較からは高い設定ではなく、一応は良心的な部類に属すると評価されています。

【税理士と連携する案件】
価格算定のためのデューデリジェンス、財務デューデリジェンス、会計監査を入れる案件では、税理士さんにも加わっていただいております。相応の規模と金額の案件に多いです。
簡便なものについては法務監査の中で対応をさせていただいておりますが、きちんと財務・会計をチェックするということであれば、弁護士だけでは対応できません。
経験上は、弁護士1人・税理士1名で対応できる案件は220万円(税込み)程度、税理士2名以上が必要な案件はそれ以上の設定をさせていただいております。

【コストの考え方】
確かに、専門家のサポートを受けるためには安くない費用がかかります。
しかし、M&Aは大きな売り物、買い物です。トラブルが生じた場合の損害や解決にかかるコストも大きいです。専門家のサポートにかかる費用は、安心して手続を進めるための保険のようなコストだと捉えてください。
必要なコストだということを前提に、取引の規模、想定されるリスクの大小で許容できるコストを考えて、その範囲でサポートを得ればいいと思います。当事者双方がコストを負担する形がとれれば、各当事者のコストは下がりますね。
なお、当事務所も、コストに応じたサポート内容を提案させていただいております。

【費用の頂き方】
設定金額にもよりますが、着手時一括払いのケースや、分割であると着手金50~70パーセント、成功報酬金30~50パーセントの割合でお支払いいただくことが多いでしょうか。
契約時に協議をして決めます。

株式譲渡では、株式譲渡は株主間の契約ですから、株主から費用をお支払いいただくのが原則です。もっとも、会社から費用をいただくケースもあります、事業承継対策のコンサルタントともいえますので、顧問税理士さんと相談していただき、ご希望に沿うようにしています。
事業譲渡のケースでは、売買の当事者である会社から費用をいただきます。

2.その他諸費用

株式譲渡では、役員変更登記が例外的なケースを除いて伴いますし、本店変更や会社の目的の変更等の登記事項を伴うケースもあります。その場合の登記費用の負担があります(司法書士報酬と登録免許税)。
事業譲渡でも、不動産登記が絡むことがありますし、会社の目的変更が必要なケースもあるでしょう。不動産の登記は固定資産評価額によっては大きなコストとなりますのでご注意ください。
当事務所では、司法書士と連携して登記もサポートしております。契約書、定款あるいは議事録等、登記の基礎となる資料は当職が作成しますので、それらを司法書士に依頼するコストは省けます。

その他は、印紙代(株式譲渡では原則として必要ありません)、証明書等の取得費用ぐらいでしょうか。大きなコストは見当たりません。

弁護士によるM&Aサポート

1.弁護士のサポートの意味

M&Aには多かれ少なかれリスクが伴います。当事者だけで進めることはお薦めしません。弁護士の助けを得て進めるべきでしょう。

【プランニング】
M&Aは定型的なものではなく、オーダーメイドでプランニングをすることが必要です。様々な当事者のニーズを法制度の中でできるだけ効率的に実現する形でM&Aを成功させなければいけません。
民法、会社法、税法等法律を横断的に理解して、法律の中で可能な限りの最適なプランニングをする必要があります。経験上、スキームの設計が一番難しく、かつM&A成功の秘訣であると感じております。
法律の専門家である弁護士のサポートを是非とも得て欲しい所以です。

【契約書】
各種契約書は、その内容に疑義がないように第三者の目を入れて契約書類を作成してください。M&Aの内容は勿論、M&A後の引継ぎ等にもトラブルが発生しないように想定できる課題を契約内容にしていかなければなりません。当事者が良好な関係であったとしても、曖昧な契約書を作成するのは後日のトラブルのもとです。後に問題を蒸し返すことができないように契約書を作成します。
特に事業譲渡は、契約内容によってその効果が定まります。契約内容は契約書の書き方次第です。
また、M&Aの当事者には、単なる売り買いの価格面ではなく、その他の条件面や引継面を始め、M&Aに関連して様々な想いや希望があります。それらニーズを法律に則った形で具体化し調整する、それらを契約書に盛り込む、あるいは別途合意書等の取り決めを行う等するサポートが必要です。
是非とも、法律の専門家、トラブル事例を熟知している弁護士のサポートを得てください。

【法定手続】
M&Aには各種手続に伴い必要な法定手続があります。それらを踏んでいないケースも見受けられます。トラブルのもとですし、M&Aの有効性に疑義も生じてしまうことです。
法律の専門家である弁護士のサポートにより安心して、かつ効率的に進めてください。
極端なケースでは口頭で取り決めをして法定手続を全く踏んでいないM&Aのケースの解決の訴訟代理人をした経験があります。きちんと手続を踏むことがトラブルの防止になります。

リスクの監査】
M&Aでは多かれ少なかれ譲渡人が抱えるリスクを引き継ぐことになります。
株式譲渡(合併もです。)は、被買収会社のリスクはそのまま残りますので、リスクの監査を経ることが望ましいです。
事業譲渡であれば譲渡会社の抱えるリスクはある程度遮断できますが、それらリスクは事業価値自体の評価にかかわります。
リスクは、最終的に法律を経て(裁判等)、損害賠償請求権等の形で顕在化しますので、監査は弁護士が法的な観点からするべきです。買収監査をどこまでやるかどうかはコストとの兼ね合いですが、少なくとも最低限の法務監査は弁護士にしてもらいましょう。

【総合的なサポート】
M&Aには、総合的なサポートが必要な事案もあります。
財務デューデリジェンスが必要な案件はぜひとも、そうでなくとも退職金が絡む税務面での設計はその限りで、税理士の助けが必要です。司法書士の助けも必要でしょう。実行後速やかな登記が必要になります。一番の理想は、ワンストップでそれら専門家のサポートを得ることですね。

当職の場合も、税務的なアドバイスが必要なケースでは(税法も大学院の客員准教授として税法を担当しておりますが)税理士に相談し、あるいは登記面で司法書士のアドバイスを得ながらサポートをすることが多いです。
弁護士、税理士がタッグを組んで取り組まなければならない財務デューデリジェンス等が絡む案件では、連携する税理士にも入ってもらいます。
なお、中小企業サポートの目的で士業(弁護士、税理士、司法書士等)が集結した合同会社RYDEENの一員として総合的なサポートをすることも多いです。

【M&Aに精通した弁護士のサポート】
弁護士業務の中でM&Aはやや特殊な部類の仕事になります。専門的な知識は前提として、様々なケースに対応できるだけの場数を踏まなければ十分なサポートができないかもしれません。
法律だけ知っていればいいわけではなく、得手不得手のある分野です。また、M&Aサポートに向けて他の士業との連携体制を整えていなければ総合的なサービスを提供することができません。

弁護士のサポートは必須と思いますが、どうせサポートを受けるのでしたら、M&Aに精通しサポート体制を整えている弁護士のサポートを得てください。
弁護士に相談する際には、弁護士に対して疑問点や質問等を投げて、具体的かつ的確な回答を得られるか、本当に任せてよいかをよく吟味して選択するべきでしょう。
手前味噌ですが、当職は、銀行勤務経験から会計にも明るく、税法にも精通しており、M&Aサポートの経験も数多く、他の士業との連携体制も整っております。ぜひ、ご相談ください。

2.サポートのタイミング等

弁護士がM&Aをお手伝いするタイミングは、
①相手方候補者探し(マッチング)から
②相手方候補者との契約交渉の段階から(交渉あるいは調整、助言、スキーム設計)
③契約書作成の段階から(助言、スキーム設計、契約書作成、法定手続サポート)
とケースバイケースです。

また、関わり合い方も、一方当事者の代理人のケース、あるいは双方当事者のアドバイザーとして調整していくケース等、ニーズに合わせた形をとっています。

①当職の伝手でマッチングを実現した例もありますが、銀行のサポートを得ることもあります。
当職が携わるM&Aでは、①のマッチングは、当事者で既に話し合っている、あるいは銀行ないし事業引継ぎ支援センターが既にマッチングしているケースが多いです。

②相手方候補が決まっても、なかなか当事者間でスムーズに話し合いができないケースもあります。当事者では協議がし難い事柄もありますね。また、概要は合意できても、それを形にするスキーム作りはなかなかできません。
弁護士が一方の代理人あるいは双方のアドバイザーとなり交渉あるいは調整しながら整理をしていきます。弁護士のアドバイスを受けながら具体的に話を詰めていくだけでも大きな意味がありますね。

③ほぼ当事者で話が決まった段階で、契約書はきちんと作らないといけない、具体的にどう進めていいかわからない、客観的な第三者に入ってもらった方が安心だ、等の理由で弁護士を入れることも多いです。
当事者で決めた話を吟味してスキームを設計し、助言をしながら契約書の形に具現化していき、法定手続等もサポートします。
単に契約書を作ればいいわけではありません。どのように契約書を作るかが大事であり、手続の段取りを組んでスムーズに進めていくサポートが重要です。

②と③は重なり合います。③の場面でも、これまでの交渉結果を具体化するスキーム設計を改めてしなければなりませんし、交渉により確定しなければならない詳細が多く残っているが通常です。

また、②③の段階で、買収監査を盛り込むケースもあります。法務監査、財務デューデリジェンス(こちらは税理士と連携します。)ですね。
買収監査をサポート項目に入れない場合でも、契約書作成過程にて最低限の法的リスクのチェックは行っております。

どこで依頼するべきかはケースバイケースの判断でしょう。ただ、遅くとも相手方との具体的な交渉の段階では、少なくとも弁護士の助言を得る方が安心ですし効率的です。
なお、交渉自体は当事者の方がやりやすいという話をよく聞きます。一面真実ですが、契約ごとはシビアに接しなければならない場面もありますし、感情的になって決裂するケースも少なくありません。当事者で話し合いを進める際も、少なくとも専門家による整理をしながら進めるべきでしょう。

まとめ

1.中小企業のM&A

中小企業のM&Aに特化した形で、M&Aとは何か、事業承継の一環としてのM&Aの位置付け、特に利用が多い株式譲渡事業譲渡、手続の選択基準、価格の考え方、M&Aの流れ、注意点あるいはM&Aにかかる費用などを説明させていただきました。網羅的な説明に終始し、詳細まで立ち入ることができなかった点は多々あります。また、M&Aは個々の事情に即したオーダーメイドの設計が必要ですので、そのすべてを解説することもできません。

簡単にまとめると次のようなことになります。M&Aは事業承継の一環として、あるいは経営戦略として活用されています。中小企業では基本的には株式譲渡事業譲渡の手法を選択します。ニーズに応じて株式譲渡事業譲渡の特色に照らしてスキームを設計しなければいけません。価格の考え方自体も一律ではなく、売買・退職金・業務委託なども絡んできました。その他様々な注意点や課題もクリアして、スムーズな引継ぎを実現しなければなりません。専門家のサポート費用は必要なコストでした。

説明内容は概括的に留まっている感もありますが、しかしながら実務経験に応じた解説になっております。ご参考にしていただければ幸いです。

2.法律的あるいは総合的なサポート

M&Aでは、法律的にリスクを確認して、法律的に可能な形で当事者のニーズを具現化し、後の法的トラブルを防止する必要があります。法定手続を踏まなければならないことも当然です。
M&A自体大きな買い物、売り物ですし、トラブルを生じさせてはその解決に多大なコストがかかる事柄です。弁護士による法律的なサポートがぜひとも必要です。

M&Aは専門的な分野であり場数を踏む必要がある事柄です。個々のケース毎に新たな課題が提示されてその都度解決策を講じていくようなイメージがあります。M&Aに精通した、かつサポート体制を整備した弁護士のサポートを得るべきでしょう。

勿論、当職は、M&Aに精通した弁護士の一人と自負しておりますし、業務の柱の1つとしてM&Aサポートを掲げて経験も積んでおります。他士業との連携体制も用意しております。M&Aをお考えの際には、ぜひともご相談ください。

この記事を書いた人

firsttime_lawyer.jpg弁護士仲田誠一(広島弁護士会所属)
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602

https://www.nakata-law.com/

https://www.nakata-law.com/smart/

◆経歴
1996年4月~ あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~ 東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~ 広島大学大学院法務研究科
2008年12月 弁護士登録
2017年~各前期 広島大学大学院客員准教授(税法担当)
その他、広島市消費生活紛争調停委員会委員等
◆資格等
弁護士、公認内部監査人試験合格

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会社の自己破産の徹底解説

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。当事務所では、破産、民事再生などの倒産事件を業務の柱の1つとしております。

会社、法人破産は、業種、業態、現在の業況あるいは資金繰りなど、個々のケースに応じたオーダーメイド的な対応が必要となります。段取りが大事なのですね。

会社、法人の自己破産をご検討されている方へ、できるだけ共通項を探った解説をさせていただきます。

目次

法人の破産とは
法人の破産は最後の手段か
法人の破産の選択
弁護士に相談するタイミングなど
法人の破産の流れ
破産に必要な費用の目安・費用の捻出
取引先との関係は
従業員との関係は
準備にあたっての留意点
弁護士に依頼する意味(倒産弁護士)
まとめ

法人の自己破産とは

1.自己破産とは

簡単に申し上げると、破産手続は、資産・債務の清算手続です。破産開始決定時の資産を現金化し開始決定時の債権を弁済(配当)していくイメージです。
実際には配当ができずに破産が終了する事件も多いです(「異時廃止事件」と呼ばれます)。
 
自己破産とは、破産手続開始の申立てを自分(法人・個人)が行う場合です。自己が破産の申立てをするから自己破産なのですね。破産というと僅かな例外を除いてほぼ自己破産に当たります。
 
他に、数は少ないですが、取締役、理事、業務執行社員あるいは清算人が申立てる「準自己破産」や、債権者が申し立てる「債権者申立て」の破産もあります。
債権者申立ての破産についても破産管財人として携わったことがありますが、広島本庁でも年数件あるかないかでしょうか。

2.法人と個人の自己破産との違い

法人の自己破産と個人(自然人)の自己破産は次のような違いがあります。

◆法人破産には免責手続がありません◆
法人破産の場合には、手続完了により法人格が消滅します。そのため、破産手続が完了すれば債務を負う状態はなくなります。
これに対し、個人(自然人)の破産の場合には、破産をしても人格は残りますから、破産手続(財産負債の清算手続)を経ても清算後残った債務が残った状態になります。そのため、別途借金支払義務を免れるための「免責」手続が用意されています。
 
◆法人破産では必ず破産管財人が選任されます◆
法人破産では、必ず破産管財人が選任されます。破産管財人が財産の換価、配当等を行っていきます。いわゆる「管財事件」です。予納金が標準100万円と高額になります。破産手続開始決定により会社、法人の財産管理処分権は破産管財人に移行します。
これに対し、個人破産の場合には、破産管財人が選任されない事件(「同時廃止事件」といいます)の方が多いです。広島地方裁判所本庁では、個人破産のうち70パーセント前後が同時廃止事件でしょうか。同裁判所では、免責不許可事由の程度が大きいケース、過去5年以内に経営あるいは事業を行っているケース、明らかにオーバーローンと認められない不動産を所有しているケース、一定額の財産があるケース(預貯金50万円、その他の財産は項目毎に20万円)などに限り破産管財人が選任されます。
なお、法人破産と同時に法人代表者の個人破産を申し立てることが多いですが、代表者は上述の基準によって管財事件になります。
 
◆自由財産の有無◆
法人破産の場合には、法人の財産は原則すべからく換価されて残りません。法人格がなくなりますから。
一方、個人破産の場合には、自由財産拡張手続を経て裁判所の許可を得れば、一定の財産が手元に残すことができます。破産後の生活が保障される形です。

◆事業の整理◆
会社、法人破産の申立て準備は、程度の差こそあれ会社・事業の清算も進めなければならないことが特徴です。必要書類を揃えればいいだけで準備が済むことが多い個人(自然人)のケースと異なります。

法人の自己破産は最後の手段か

1.事業継続の可能性の見極め

会社・法人の営む事業はそれ自体に社会的価値が存在します。かつ、従業員さん、取引先など多様な利害関係者も存在します。その事業をなくしてしまうのは偲びないことですし、社会的な損失です。
そのため、事業継続に悩まれる経営者の方は、まず金融機関のリスケジュール(条件変更)あるいはM&Aでの事業継続の可能性を見極めるべきでしょう。
 
例えば、金融債務の返済をストップすれば資金繰りが回るのであれば、リスケ中に経営改善を図ればいいわけです。
企業再生は、企業の収益力が維持あるいは向上されることが前提になります。再生協議会や銀行主導のリスケを経て破産に至った法人の破産管財人をすることもありますが、コストダウンに重点を置きすぎた安易な資産の切り売り、事業縮小は、多くは企業価値を毀損するだけで傷を深くするだけに終わる可能性が高いので慎重にするべきです。

また、企業価値あるいは事業価値がある事業のM&Aによる承継も考えられます。それだけでは負債の抜本的解決にはならないことが多いのですが事業は残りますね。経済的危機状態のM&Aは法的リスクも大きので慎重におこないます。
 
当職は、銀行で企業再生にも携わりました。事業継続の可能性の見極めからご相談ください。
また、現在は認定経営革新等支援機関でもあります。事業計画策定のお手伝い、リスケジュールのお手伝いもしております。M&Aのサポートも主業務の1つとしております。事業継続、M&Aも含めてご相談ください。

2.法人の自己破産は最後の手段か

会社、法人の自己破産は、上述のような意味では、最終手段といえるかもしれません。しかし、破産はぎりぎりまで引き延ばすべき手段でもありません。余力を全く残さない状態での破産は困難です。
他の選択肢と並行して検討し、早期に決断しなければならない事柄です。その決断も大切な経営判断です。
 
◆破産費用の捻出◆
破産費用(弁護士費用・予納金)を用意できなくなれば破産もできません。
事業継続を引き延ばした結果として費用が用意できずに、会社の破産を断念された経営者さんもいらっしゃいます。
 
◆早期の決断も大事な経営判断◆
早期の決断が結果的に迷惑をかける範囲を拡げません。給与の未払いが残らない形での事業廃止ができるタイミングが望ましいです。
また、破産は利害関係者に対する最後のけじめとも言い得ます(夜逃げや休眠状態で放っておかれるよりは破産手続を望まれるのが通常です)。
 
◆経済的再建◆
経営者様とそのご家族の早期の生活再建も図らなければなりません。
経営者家族の生活を極限まで切り詰め、働き通しで体調を崩すなど苦労を重ねてきた末に弁護士に相談される方も多いです。その責任感には頭の下がる想いですが、「もう少し早くご相談に来ていただければ。」「そこまで思い詰める必要はなかったのではないか。」と思われる事例も多く目にします。

会社、法人の自己破産の選択

1.自己破産を選択するべきケース

金融機関のリスケで対処できるケースであれば自己破産を選択する必要はありません。あるいは、M&Aで事業自体は残す途も検討してよいでしょう。

一次的な資金繰りの悪化を改善するだけで経営が持ち直す余地があるなら、金融機関のリスケジュール(条件変更)により資金繰り手当てができる限りで対応が可能です。金融機関の支援を受ける間に経営改善策の実施により経営が持ち直す見込み、計画が立てられるのであれば、また同様です。利払いのみのリスケをすれば資金繰りがある程度余裕をもって回る、かつリスケ期間中に金融機関への弁済計画が立つまでの経営改善を図る見込みが立ちそうだというケースでは、経営改善策を試すべきでしょう。経営改善計画や資金繰り表などを金融機関に提出し交渉をします。
例えば、設備投資等による債務過多が業績不振の主な原因であり、事業の収益力自体は相応に残っているケースでは、リスケ対応により資金繰りを改善しつつ計画的に債務を削減することで難局を乗り切れるでしょう。

しかしながら、企業の業績不振には多種多様な要因が絡みます。企業努力では如何ともしがたい外在的な要因も大きいです。単純明快かつ解決可能な原因による業績不振で簡単に改善できる、あるいは一時的に資金繰り手当てをすれば簡単に業績が持ち直すと計画が立案できるケースは少ないです。
リスケによる企業再生を図る際には、単なる時間稼ぎになってしまわないのかをよく吟味する必要があります。延命だけでは傷口が深くなる、あるいは拡がることになります。
 
企業再生あるいは事業再生には、事業自体の収益力がある、あるいは収益力が改善する見込みがある、ということが前提となります。慢性的な赤字体質であり事業継続をしても今後の状況を悪化させる、あるいは現在の厳しい状況が続くだけというケースでは、早い自己破産の決断が必要でしょう。金融債務の返済を一時ストップしても資金繰りが余裕をもって回らないケースでは、慢性的な赤字体質といえます。
 
経営者に企業再生への気力・体力が残っているかも重要な要素です。当職に相談に来られる経営者の方は経営努力をされた結果として現在に至っているのであり、疲弊されて余力も残っていないという方が多いです。
その責任感は尊敬されるべきです。結果として自己破産を選択しても非難されるものでは決してありません。

2.民事再生との違い

会社、法人がとる法的債務整理手段としては自己破産のほかに民事再生もあります(なお、大企業向けの会社更生という手続もあります)。
民事再生は、債務を大幅に減額した上で、経営者の交替もなく事業を継続できるという大きなメリットがあります。
しかし、仕入先・外注先の協力が必要なこと(あるいは現金決済に耐えうるスポンサーが必要なこと)、事業用資産の担保権者の協力がいること、債務免除益の課税がなされること、及び申立てに多額の費用がかかること、という条件が揃わないと選択できません(事実上必要となる条件も含んでいます)。実際には、民事再生に適合するケースは少ないです。

弁護士に相談するタイミングなど

1.弁護士に相談、依頼するタイミング

弁護士に相談、依頼するタイミングは早いに越したことはありません。

早めに弁護士に相談をし、金融機関へのリスケ要請、自己破産申立て、民事再生申立てなどの手続選択の方針を決定し、それに応じた準備をしていかなければなりません。
自己破産を選択するにも、費用の捻出の問題を始め、破産を前提として事業廃止に向けた準備を段取りを組んで進めることが理想です。
残された時間や、相談時の状況によって、できる準備や選択肢が異なります。
弁護士への依頼も、早期になされることが肝要です。会社・法人の自己破産では、事業整理に向けた段取りを計画的に組んで進める必要があります。段取りが悪いと混乱をいたしますし、破産法上問題となる行為がなされることがあります。準備段階での出来不出来が、後の手続に響くのです。
できるだけ早くから弁護士の指示を受け、あるいは弁護士のナビゲーションによりご準備をされた方が、効率的ですし、ご負担も小さくなります

◆相談時の注意点◆
弁護士への相談時には、少なくとも直近の決算申告書類一式をお持ちください(勿論、3期分程度を拝見した方が検討はしやすいです)。
資金繰表を作成されているのであればそれもお持ちいただいた方がありがたいです(資金繰り予想ができる入出金のメモ程度でもかまいません)。
連帯保証人の方の資産・負債状況もわかればありがたいです。会社、法人と連帯保証人である経営者を一体としての債務整理の方策を考えるべきです。
 
◆緊急の場合もあります◆
手形・小切手の不渡りが見込まれるなど急を要する場面もございます。
緊急の対応が必要なケースはそれに応じた対応をすることになりますが、1日が惜しいケースもありますのでやはり早めにご相談ください。

2.事業廃止のタイミング

破産手続をスムーズに進めるには事業廃止のタイミングが重要です。事業廃止のタイミングを間違えば、要らぬ混乱を招く、破産手続に移行することができないという事態を招きかねません。弁護士とよく相談の上で決めてください。
 
事業廃止のタイミングは、買掛金等の支払いをストップすればお金が一番残る時点がベストになることが通常です。破産費用の手当てが必要ですし、残る財産は各債権者に平等に配当されるべきともいえます。
勿論、未払給与はできるだけないようにしたいところです。
 
事業廃止のタイミングの決定には、資金繰りのほかに、
銀行取引停止処分の時期
従業員解雇あるいは退職のタイミング(解雇予告手当の問題もあります)
資産整理の状況(弁護士関与の下で資産を処分して破産費用を用意することもあります)
も絡んでくる問題です。
事業形態によっては、新規の仕事を取らずに既存の仕事は時間をかけて順次止めていくほかないケースもあります。

ご事情に応じてベストなタイミングでの事業廃止を図ります。

法人の自己破産の流れ

1.会社、法人の自己破産の流れ(申立準備)

会社、法人の自己破産の相談~申立準備までの一般的な流れは次のようにイメージしてください。

①方針・スケジュールの決定
方針と段取りを話し合い、事業廃止のタイミングをターゲットに定め、準備の段取りやスケジュールを立てていきます。
悩む必要はありません。弁護士の指示やサポートを受けて進めるだけです。

②受任通知の発送
弁護士との契約後、事業廃止のタイミングで受任通知を発送することがスタンダードでしょうか。債権者毎に受任通知発送のタイミングを図ることもあります。
受任通知が債権者に届いてからは、債権者対応はすべて弁護士が窓口になります。
勿論、既に取立てが厳しい、あるいは銀行取引停止処分が予定されているなど急を要する場合は早急に発送します。

③申立ての準備・事業の整理
会社、法人破産の申立て準備は、程度の差こそあれ会社・事業の清算も進めます。事業廃止の前後にわたり、例えば、従業員退職・解雇の手続、賃借物件の明渡し及び交渉、売掛金の入金先口座変更等売掛金の回収手立てをする、管理のための事業廃止時点の売掛金リスト・在庫リストの作成、債権者リスト作成、整理のための在庫や新規仕事の圧縮、財産の逸失を防ぐ資産保全、整理のための資産譲渡、継続的契約関係の解消(水道・電気を除く)、リース物件・所有権留保物件の返還、等々の準備をしていただくことになります。資産のうち簡単に現金化できるものは現金化をします(それにより破産費用を捻出することもあります、資産や在庫の処分、代金の管理等は必ず弁護士の関与の下で行ってください。後の破産手続に問題が生じることがあります)。
個々のケースで必要な準備は異なります。段取り、整理の程度、あるいは整理の方法など、すべて弁護士の指示を受けて負担なくご準備ください。その方が後々問題になりませんので弁護士としても安心です。
 
◆お金の管理◆
事業廃止時の現預金を弁護士に預けていただき、弁護士管理の下でどうしても必要なもののみに支出していくことが多いです。ある程度お手元に管理していただいて出納を記録してもらいながら、そこから事業の整理にかかる費用を支出していただくこともありますね。売掛金や貸付金の回収も弁護士が代理人として進めていきます。資産の処分代金も弁護士が管理します。
破産を見据えて、弁護士がお金を管理し、お金の散逸を防ぎ、適正な管理状況を報告できるようにすることが大事なのです。
 
④申立て
通常は、2か月~3か月程度の準備期間を経て、自己破産申立てを行います。
資産の整理及び売掛金の回収など段取りを組んだ事業の整理が終わるタイミングも待つことも多いです。
申立て先は、原則として、本店所在地を管轄する地方裁判所です。広島地方裁判所本庁ですと、民事第4部になります。

2.会社、法人の自己破産の流れ(申立て後)

申立て後の一般的な流れは次のようにイメージしてください。

①破産開始決定まで
自己破産を申し立てると、裁判所から追加資料の提出や質問事項の回答を求められることがほとんどです。それを補正連絡と呼びます。
補正連絡に対応しつつ、裁判所から指示がある予納金を納めると、破産手続開始決定が出ます。
法人破産には必ず破産管財人が就任いたしますので、破産管財人候補者も同席する債務者審尋の日に破産開始決定が出ることが多いです。申立後1か月前後先がスタンダードでしょうか。
急を要する場合や債務者審尋が開かれない場合(最近増えています)では、予納金を納めるとすぐに破産開始決定が出ます。
 
②破産開始決定後~第1回債権者集会
破産開始決定が出ると、2~3か月に1度のペースで債権者集会などの期日が開かれます。代表者の方には、申立代理人弁護士と共に同期日に出席していただきます。
第1回の債権者集会までの間には、破産管財人弁護士の事務所に赴いて面談をする機会が数度設けられます。第1回の債権者集会の後は、破産管財人に呼ばれることはあまりありませんが、在庫や資産の処分などのため引き続き破産管財人から協力を求められることがあります。

③第2回債権者集会~
配当ができるまでの財産が形成されない場合、手続が異時廃止の形で終了します。配当ができる見込みがあるケースでは、債権調査、配当の手続がありますので、その分手続が長引きます。
第1回債権者集会が終わると、破産管財人からの聞き取り調査等はほとんどなくなります。期日に出頭する負担だけになりますので、それほど負担は大きくありません。

◆破産手続にかかる時間◆ 
一概には申し上げられません。不動産の処分や債権回収その他管財業務にかかる業務量にも依りますし、配当がなされる案件かどうかによっても所要期間が異なります。
資産の処分もない、配当もないケースでは3か月から6か月程度、それらがある場合には1年前後がスタンダードでしょうか。ただ、1年を超えるケースも珍しくはありません。

破産に必要な費用の目安、費用の捻出

1.破産に必要な費用の目安

破産に必要な費用は、弁護士に申立代理を依頼するための弁護士費用、申立時に裁判所へ納める予納金及び予納郵券です。

◆裁判所へ納める予納金◆
裁判所に破産開始決定を出してもらうためには予納金を納めなければいけません。法人破産の場合は原則100万円です。大型管財と呼ばれる大規模な破産の場合にはより多額の予納金を要求されますし、休眠会社や資産の整理が必要のない会社等破産管財人の労力が相対的に少なく見積もられるケースでは交渉次第で減額も可能です。
なお、2社同時に申し立てると単純に倍となるわけではありません。
そのほか、裁判所が債権者等に書類を送る際に使用される予納郵券(債権者数に応じて納付します)がかかりますが、多額ではありません。
 
◆弁護士費用◆
弁護士を申立て代理人とする場合には、弁護士費用の手当が必要です。費用額は弁護士と相対での契約で決まりますので、定価はありません。費用の面の相談も弁護士相談の大きな目的の1つですので、お気軽にご相談ください(費用の面がご相談の大きな部分を占めているのが実情です)。
110万円(税込み)を確保できればありがたいです。一応の目安であり、必須というわけではありません。事情に応じて話し合いで設定しており、手間がかからないような案件ではより少額の金額設定もありますし、資産が相応にあるケースではより高額の金額設定もあります。
着手時に全額揃っている必要はなく、売掛金回収や資産売却などで捻出することもあります。

◆諸費用◆
多額ではないですが数万程度の諸費用もかかります。
 
◆余裕のある準備のためには◆
以上を踏まえて、当職は、法人1社の場合、トータル(弁護士と裁判所にかかる費用)で250万円を「目標」に準備していただくようお願いしています。
250万円用意できればある程度余裕をもって準備ができるという意味の目標であり、必須という意味ではありません。
ご依頼時に全額揃っていなければいけないということではありません。費用の手当の可能性を探る、手当の段取りを組むことも相談内容です。

◆代表者個人破産との関係◆
連帯保証人となっている代表者の自己破産も同時に受任するケースがほとんどです。
個人の破産での裁判所の予納金は30万円前後がスタンダードですが、減額交渉ができるケースもあります。
弁護士費用は法人・個人トータルで調整しております。例えば、個人で多くいただける場合は法人の分を減らす、あるいは法人で多くいただける場合には個人はいただかないというようなこともしております。

2.破産費用の捻出をどうするか

破産費用の捻出はほぼ例外なく頭を悩ませる事項です。依頼時によく吟味をして段取りを組みます。
すべてを説明できるわけではありませんので、概要をお話します。

◆口座のお金◆
まずは、事業廃止時点で会社、法人の口座にあるお金が基本ですね。
支払いをストップして一時的に資金が多く残るタイミング(多くはそれが事業廃止のタイミングともなります)で、残った資金を弁護士に預けていただくことが多いです。
その準備として、借入銀行口座から順次資金を移す、あるいは入金先口座を借り入れのない銀行に変更する必要もあるかもしれません。
破産法は、債権者平等原則が理念となっております。支払いをストップさせてお金を移すことは、債権者の平等を期するための資産保全ですので、何ら問題がありません。
なお、取引先は勿論、租税公課や銀行も資金を確保しようとしますので段取りが大切になります。
 
◆弁護士に依頼した後に資金を捻出するケース◆
弁護士への依頼時に資金が揃っていなければならないわけではありません。売掛金回収、資産売却、金融資産の解約等で用意していただくこともあります。
弁護士関与の下で資産を現金化して破産費用に充てることは許されております。資金を弁護士が管理しつつ、その経過を裁判所にきちんと報告します。弁護士の関与なく資産を現金化して費消することは後に問題を生じさせる恐れがあります。
売掛金は、事業廃止後に、順次、依頼者が引き続きあるいは弁護士が回収し、回収金は弁護士が管理します。売掛金リストを作成していただき管理をしますね。滞納処分により売掛債権が差し押さえられると現金化ができなくなることには注意を要します。
資産を売却・換価することにより、費用の捻出をすることもあります。弁護士との相談時には、早期に換価できる財産がどれくらいあるのかも検討します。

取引先との関係は

1.買掛先への対応

相談者がよく悩まれることですね。仕入先、買掛先も、借入をされている金融機関と同様に、債権者です。弁護士が受任通知を発送した上で対応しますのでご安心ください。
商品引き揚げの要請には応じられないのが基本です。後の破産手続で問題視される可能性もあるためです。在庫の所有権が仕入先にあることが契約書上明確である場合は返還することもあります。
 
買掛先からの取り付け騒ぎの危険もなくはありません。無断で商品等を引き上げることは厳密に言えば犯罪ですが、そのようなことが起きないよう、事業廃止時には事務所・倉庫や車などのセキュリティーにも気を付けていただきます。
場合によっては弁護士名の張り紙をして牽制をすることもあります。
混乱を避けるために弁護士名の受任通知を事業廃止の当日か翌日に届くように手配することも心掛けています。

2.売掛先への対応

販売先、売掛先は債務者の立場になりますので、事業廃止後も売掛金の回収を行わなければいけません。破産開始決定までに回収できなかった売掛金は、破産管財人が回収を図ります。
事業廃止時の売掛金リストを作成していただき回収します(事業廃止したことを知ると支払いを渋る先も見受けられます)。
借入のある金融機関口座は弁護士の受任通知が届くと口座を凍結してしまい、基本的にその後の入金の引き出しには応じません。入金先を借入のない銀行口座あるいは弁護士口座へ振り込むよう依頼しなければなりません。
小口集金形態のご商売の場合には集金を引き続きお願いして回収するケースもあります。
在庫の処分を並行して行うこともありますね。

従業員との関係は

1.従業員の解雇・退職

残念ながら、事業廃止日が決まれば、従業員の方々を解雇する、あるいは従業員の方々に退職してもらうことになります。解雇には解雇予告手当が必要ない30日間の解雇予告手続をとることが多いでしょうが、ケースバイケースです。
破産申立て準備にどうしても必要となる従業員がいらっしゃる場合(多くは経理担当でしょうか)、給料あるいは相応の費用をお支払いすることで引き続き残っていただくこともございます。

退職あるいは事業廃止に伴う社会保険、特別徴収住民税の異動手続、ハローワークの手続、源泉徴収票の発行等の退職に伴う手続は忘れないでください。

◆事業廃止をいつ従業員に伝えるか◆
事業廃止をいつ従業員さんにお伝えするかは悩ましい問題です。
従業員さんの生活等のことを考えると、できるだけ早くお伝えした方がいいとは思います(小規模会社であれば事情の説明により自主的に退職してもらえるケースも多いです)。
一方、あまりにも早く事業廃止を伝えると業務に支障を来すこともございます。
 
 ◆税理士・社会保険労務士
少し話はズレますが、税理士さんの協力が必要な場合もあります。費用との兼ね合いもありますが、事業廃止時点までは数字を作成してもらった方がありがたいです。
また、破産管財人が就任後に税理士に申告を依頼することもあります。
社会保険労務士さんがいらっしゃる場合には、退職手続等でご協力をいただくこともありますね。

2.未払給与等の扱い

賃金の未払いはないようにしたいと思われるのが経営者の常です。労働基準法上罰則も定められています。
未払給与がない形で事業廃止できることが理想形ですが、支払えないケースがあるのも当然です。
 
◆破産手続における労働債権の扱い◆
労働債権は、破産手続開始決定前3か月間の未払給与と退職金の一部が財団債権として一般の債権者より優先して支払えることができます。
ただ、時間がかかりますし、支払えるだけの財産が破産手続の中で残るかどうかわかりません。また、事業廃止後できるだけ早く破産申立てをしなければいけませんね。
 
◆労働福祉事業団立替制度◆
そのため、労働福祉事業団立替制度の利用も考える必要があり、事業廃業時には従業員さんへの同制度の説明をするでしょう。
破産管財人の証明書の発行により未払い給与の8割が立替払いされますが、時間の制約があります。大まかに申し上げると、退職、解雇から6か月以内に破産申立てをしなければ対象になりませんので早期の破産申立てが必要になります(なお、破産手続外の認定制度もあります)。
賃金台帳、タイムカード、就業規則等、未払給与を確認できる資料も破産管財人に引継ぐことになります。
 
◆役員報酬の扱い◆
未払いの役員報酬は(従業員兼務役員のケースでは従業員分給料と認められ得る限りで別ですが)、一般の破産債権となります。経営者家族であっても従業員の立場のケースでは一般の従業員の給与と同じ扱いです。
 
◆中退金がある場合◆
退職金制度が中退共の場合は、請求手続をしていただければ(開始決定後は破産管財人が協力しますが)、従業員さんが受け取ることができます。

準備にあったっての留意点

1.やるべきことの整理をするべき

破産を準備するといっても、経験がある方ではない限り、何にどの順番で手を付けていいかわからず途方にくれるものと思います。
また、破産をするためには事業の清算が必要ですが、どこまで清算すべきか事情により異なります。場当たり的な準備は、疲弊しますし、効率も悪く、中には後で問題となる行為をしてしまうこともあります。弁護士のサポートを受けて整理をしてください。

◆やるべきことの整理◆
準備の仕方や優先順位には勘所があります。様々な問題点や課題を整理してシンプルに段取りを組むのが弁護士の腕の見せ所です。
最低限必要なこと、できればやっておきたいこと、放っておいても仕方がないこと等々、やるべきことの整理をします。そうすれば全体像がつかめますし、優先順位も決めることができ、悩まずに準備ができます。
当職は、優先順位をつけたリストを作成し、それをチェックしながら打ち合わせを重ねています。

◆要望や問題点は早めに弁護士に伝える◆
なお、準備にあたって、様々なご要望もあることと思います。また、説明が難しい、準備が難しい等の問題点もあることが多いです。弁護士へは、早めにそれら要望や問題点を伝えてください。
破産法上問題がない形で、可能な限り、ご要望等を形にするよう心掛けています。問題点への退職も準備しなければいけません。遅くなるとそれだけ手当ができなくなる可能性が高くなります。

2.やってはいけないこともある

破産手続をスムーズに進行させるため、あるいは問題視されないためには、準備にあたってやってはいけないこともあります。
 
◆書類の廃棄は慎重に◆
事業を廃止したからといっても、すべての書類の廃棄をするのは止めてください。破産手続の中で提出しなければならない書類も多々あります。
 
否認対象行為◆
否認対象行為を行ってはいけません。否認とは、破産管財人がその行為の効力を否定し財産等を取り戻す制度ですが、破産管財人否認できる行為、その要件は破産法で定められています。主要なものだけ簡単に説明させていただきます。
 
偏頗弁済は否認の対象です。偏頗弁済とは支払停止状態等の経済的危機状態での不公平な債務の弁済です。問題となるのは、経営者家族、親族に対する弁済が多いです。弁済の相手、時期、債務の内容等によって判断が異なります。
事業廃止のタイミングも含め、支払っていいもの、いけないもの振り分けを弁護士と相談してください。
 
財産の散逸行為も否認の対象です。会社の資産の廉価売買、放棄など、財産を減少させる行為にお気を付けください。中には合理的な説明が可能なものもありますので、実行に移す前に弁護士に判断をしてもらってください。
 
◆法人と個人の財産の混同◆
破産手続は法人格毎の手続です。法人と個人とは明確に区別されます。会社、法人の資産と個人との間の混同を避けてください。特に会社、法人から個人への財産移転は慎重にしなければなりません。
この点で、経営者家族の役員報酬、給与も問題になり得ます。事業廃止までの役員報酬、給与は、支払う原資があるのであれば支払って問題はないでしょうが、その他は弁護士と相談してください。

弁護士に依頼する意味(倒産弁護士)

1.破産申立代理を弁護士に依頼する意味

会社、法人の破産の申立てには、代理人弁護士を依頼することが通常です。会社、法人の破産は複雑であり、弁護士の助けがなければ難しいです。
 
◆地図を作りナビゲーションを行う◆
ご相談者は初めは何をどのようにすればいいかわかりません。弁護士に複雑な状況を法的かつシンプルに整理してもらい(地図を作ってもらい)、弁護士の助言(ナビゲーション)に従って、効率的なご準備をしてください。
暗中模索の中で今後のことを悩まれるのは大変な心労です、「何もわからなかった頃が一番辛かった。依頼してよかった。」とおっしゃる方が多いです。
 
◆債権者対応を弁護士に任せる◆
取引先や金融機関への支払を停止すると、程度の差はあれ混乱が生じます。債権者の対応を弁護士に任せられることは安心です。
 
◆申立後のサポート◆
破産手続が開始されてからは破産管財人が破産手続を主宰しますが、申立代理人弁護士も破産手続の最後までサポートをします。ご安心ください。

2.倒産弁護士

◆申立代理人の腕が手続の帰趨を決める◆
申立代理人弁護士の腕が、破産申立ての準備のご苦労の程度や申立て後の手続のスムーズな進行度合いに直結します。準備に不備があると、申立て後に苦労を強いられかねませんし、行為が問題視されることもあります。
当職が破産管財人に就任した案件でも「準備をもう少しきちんとしていただければ苦労されなかったのに。」と感じることがあります。
 
◆倒産案件の弁護士業務は職人芸◆
破産手続は、破産法に則っています。当然、破産の準備には、破産法の知識・倒産事件の経験が必要です。かつ、破産手続には、独特のルールや考え方があり、それに携わる弁護士も職人的な能力が必要とされます。場数も必要でしょう。
破産申立てを裏から見る破産管財人の経験も必須です。特に法人破産の破産管財人の経験が豊富でなければ手続の勘所がわかりません。その時々の破産裁判所の傾向・考え方も事件処理の方向に影響しますので、それらもキャッチアップしなければなりません。
破産等倒産手続に精通した弁護士のサポートを得てください。
 
◆企業会計の知識◆
会社・法人破産の申立ては、資金繰り、事業廃止・受任通知のタイミング、資産・契約関係の整理など様々な段取りを考えないといけませんね。そのため、企業会計に関する諸知識も必要です。
まずは決算申告書類等の会計書類を拝見して事案の見立てを行い、個々の問題を紐解いていきます。
 
◆倒産弁護士、破産弁護士◆
倒産法制に精通し、申立て代理人経験も破産管財人等の経験も豊富で、破産等倒産事件を業務の柱の1つにしている弁護士を「倒産弁護士」、「破産弁護士」と呼ぶことがあります。「離婚弁護士」なんてドラマもありましたね。
会社、法人の破産の申立てを依頼するのであれば、当然、そのような弁護士に依頼した方がいいでしょう。
弁護士の質を確かめるには、相談する弁護士に細かいことでもたくさん具体的な質問を投げかけてください。あなたの望む弁護士であれば、抽象的な回答にとどまらず、具体的なアドバイスをしてくれるでしょう。
 
なお、当職も、申立て代理は勿論、破産管財人経験も豊富で、破産等の倒産案件を業務の柱の1つとしています。裁判所との破産等に関する協議会のメンバーにもなっております。また、銀行出身であり、企業会計の諸知識も豊富です。安心してご相談いただけるものと自負しております。

まとめ

1.会社、法人の自己破産の決断にあたって

自己破産の説明や自己破産を選択すべきケースなどの説明をさせていただきました。
社会的価値のある事業はできるだけ継続するべきですので、リスケやM&Aにより事業継続を図ることが優先されるでしょう。
しかし、会社、法人の自己破産は最後の手段ではありません。事業継続の可能性を見極め、自己破産の決断を早期に行うことも大事な経営判断です。
弁護士に相談するタイミングの説明もさせていただきました。できるだけ早く弁護士に相談し、事業継続の可能性を見極め、事業継続の可能性に沿った適切な選択をしてください。
費用面も説明させていただいたとおり、弁護士と相談すればいいことです。
経営者に必要なのは、適切な助言を得ることと決断することです。当事務所にぜひご相談ください。

2.会社、法人の自己破産の準備にあたって

自己破産の流れ、取引先や従業員との関係あるいは破産準備の注意点等をお話しいたしました。
会社、法人の自己破産は、様々な課題を抱えており、それを整理して1つ1つ紐解いていかなければいけません。
海図と羅針盤なくして進んではいけません。準備の内容や程度はケースバイケースで異なり、やってはいけないことも存在します。倒産弁護士とともに、事業廃止のタイミングを見極め、やるべきことを整理した上で、ナビゲーションに沿った準備を進めてください。効率的な、かつ適切な準備が後の破産手続のスムーズな進行に直結します。
当事務所にご相談いただければ幸いです。

この記事を書いた人

firsttime_lawyer.jpg弁護士仲田誠一(広島弁護士会所属)
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27
アーバンビュー上八丁堀602
TEL:082-223-2900
https://www.nakata-law.com/
https://www.nakata-law.com/smart/
◆経歴
1996年4月 あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月 東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月 広島大学大学院法務研究科
2008年12月 弁護士登録
2017年~各前期 広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格等
弁護士
公認内部監査人試験合格、認定経営革新等支援機関(中小企業庁)

中小企業のM&A価格の考え方 [企業法務]

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。
 
今回の企業法務コラムでは、中小企業のM&Aの代金額の決定方法のお話しです。
 
当職は、M&Aに関わることが割合多く、最近は常に案件に携わっている状態が続いています。
すべて中小企業のM&Aです。
 
M&Aといっても、その形態はほぼ株式譲渡事業譲渡です。
合併や会社分割を絡めたM&Aのニーズやメリットは中小企業にはあまりありませんので。
 
関わり方はケースバイケースです。
交渉から関わるケース、買い手売り手双方のコーディネーターとしてかかわるケース、契約関係や法定手続だけサポートするケースなど、依頼者のニーズに合わせた関わり合いをします。
 
いただく費用も関わり合いに応じて千差万別です。
しっかり財務デューデリジェンスをする案件では、税理士と弁護士がセットでお手伝いします。
 
今回は買収価格の決定方法の話です。
 
勿論、買収価格の決め方には決まりはありません。
当事者が自由に決められます。
不当に安いあるいは不当に高い価格での売買には税務上のリスクがあるだけです。
 
もっとも、決めるのには目安がないといけませんね。
 
株式譲渡であれば、株式の価格です。
事業譲渡では対象事業(物も含めて)の価格です。

税務上の株式評価(相続税評価)は使いません。税金のための評価ですからね。
 
評価方法はいくらかありますが、経験上、中小企業の株式譲渡は、
 
時価純資産価格+営業権価格
あるいは
そのどちらか一方、

を目安に決めることが多いです。
 
時価純資産は、決算書あるいは試算表の純資産をベースに、含み益をプラスし、含み損をマイナスして算出された、所謂、清算価値・純資産価格ですね。
要するに、株式が表章する会社のモノ・カネの価格です。
 
この純資産価格ベースでの価格決定も多いです。
利益があまり出ていない会社はこれだけで十分だからです。
 
営業権価格は、会社が将来生む利益あるいはキャッシュフローを価格に反映させるものです。
 
営業権価格の計算は、
利益(キャッシュフロー)×1~5年
で行いますが、それぞれどの数字を持ってくるかが重要になります。
それにより数字はかなり変わりますから。
 
利益には、基本的に営業利益を持ってくるでしょうか。
 
減価償却費をプラス、時にはオーナー役員報酬の全部または一部をプラスするなどして、キャッシュフロー的な数字を持ってくることも多いです。

経常利益を使うこともあるでしょう。こちらの方が収益力が正しく反映されていることがあります。

ケースバイケースですね。
 
期間は、3年がスタンダードでしょうか。
業種や業態により、短ければ1年、長ければ5年でしょうか。
 
価格の目安が決まったとして、実際の契約価格を決めるには別の考慮をします。
 
売主が個人の株式譲渡のほとんどでは、前オーナーは会社を退きます。
 
株式譲渡による譲渡所得税よりも退職所得の方が一般的に有利です。
そこで、売り手には株式譲渡代金と退職金とを分けて受け取ってもらうことが多いです。
 
買い手にも損はありませんし。
 
総額を決めて、役員退職金をいくら受け取れるか検討し、残額を代金額にするというイメージです。
退職金支給により株式の価値は下がりますから当然といえば当然です。
 
次は事業譲渡の価格ですが、基本点には株式譲渡の価格の考え方に準じます。
 
全ての資産を含めた全事業を譲渡する場合には、株式譲渡と変わりませんね。
ただ、看板名を変えることのリスク、従業員を引き継げるかのリスク、取引口座を引き継げるかのリスクなど、価格マイナス要因はあるでしょう。
 
全ての事情譲渡であれば株式譲渡でもいいのですが、売り手の債務・リスクを遮断したいときには、債務を引き継がない形の事業譲渡にすることがありますね。

逆に、免許や取引先の関係で株式譲渡の方法しかとれないケースもあります。
 
一部の事業譲渡、あるいは資産を引き継がない事業譲渡では、引き継ぐ資産の時価に引き継ぐ事業の営業権価格を加えた金額が一応の価額の目安になります。
 
最初にお話ししたように、M&Aの価格は自由に決められます。
実際に、売り手・買い手のパワーバランスによって価格は大きく左右されます。
 
また、業種によっても様相が変わります。
いろんな業種のM&Aに携わると、様々なことに気付きます。
 
事業承継の一環として、後継者のいない会社のM&Aが増えているようです。
事業承継は後継者に引き継ぐか売却するかの2者択一ですからね。

逆に言えば、現在では、会社を買うチャンス、顧客・市場を獲得するチャンスも増えているということです。
 
事業承継の一環として、あるいは経営戦略の1つとしてM&Aをお考えになることもいいと思います。
 
顧問契約、契約トラブル、企業法務サポートのご用命は是非なかた法律事務所に。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602
https://www.nakata-law.com/
 
https://www.nakata-law.com/smart/


労働契約法20条 [企業法務]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
最近、労働契約法20条絡みの裁判例をよく目にします。
企業法務のうち労務管理に関する問題ですね。
 
労働契約法第20条をご存知でしょうか。
次のような条文です。
第20条
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
 
分かりにくいですが、有期雇用契約労働者と無期雇用契約労働者(正社員)との間で職務内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定です。
 
「労働条件」には、労働者に対する一切の待遇が含まれます。
賃金、手当に限りません。
「期間の定めがあることにより・・・相違」とは、有期契約労働者と無期契約労働者(正社員)との労働条件の相違が、期間の定めの有無に関連して生じたものであることを意味します。
 
「不合理」の判断は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であるかを、
1 職務の内容(業務の内容および当該業務に伴う責任の程度)
2 当該職務の内容および配置の変更の範囲
3 その他の事情
を考慮して評価されます(総合判断)。
その他の事情の代表例は、定年再雇用の事実です。
 
気を付けないといけないのは、不合理かどうかの評価は、各賃金項目・各手当等個別の労働条件の相違毎に判断されます。
待遇の差異が総合的に判断されるわけではありません。
職務の内容等に照らして格差があることの理由が立たない手当が不合理な労働条件の相違と評価されています。
使用者には、個々の手当等毎に不合理ではないことの説明が求められますね。
 
不合理とされた労働条件の定めは無効となります。
無効となっても、有期契約労働者が無期契約労働者の労働条件と同一になるわけではありません。
しかし、不法行為に基づく損害賠償の対象となります。
 
実は、この労働契約法第20条は削除されることが決まっています。
規律がなくなるかというと、勿論、そうではありません。
パートタイム労働法に移管されることになります。
労働契約法第20条が、行政指導の根拠となるパートタイム労働法に移管されるという説明がありました。
改正後は、有期雇用労働者と無期雇用労働者との待遇の差が行政による指導・勧告の対象となるということですね。
 
なお、パートタイム労働法は、正式名称は「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」です。
改正に伴い、同法の名称が「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関す法律」に改められます。
 
施行日は来年の4月1日です(中小企業は再来年の4月1日)。
 
有期雇用労働者と無期雇用労働者の待遇の違いが不合理であってはいけません。
ただ、企業は様々な要素を考慮して人事施策を決定します。
有期雇用労働者と無期雇用労働者との間の合理的な待遇の差異も存在することは否定できませんね。
企業としては、合理的な待遇の差をつける場合にも、その方法はよくよく吟味しなければならないということです。
前述したように、個々の労働条件毎に不合理ではない待遇の差であることを説明できなければなりません。
結果として職務内容等の相違から合理的に説明できない手当等の名目により待遇の差が生じていれば、仮に総体的には合理的な相違だとしても、効力が否定されることになります。
 
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広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602
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固定残業代・定額残業代 [企業法務]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
企業法務のうち労務管理のお話です。
 
時間外労働等の割増賃金を固定・定額で支払うことは直ちに違法ではありません。
固定残業代あるいは定額残業代と呼ばれます。
 
既に最高裁の判例もあるところです。
固定残業代あるいは定額残業代の有効性判断の枠組みを見ていきましょう。
 
まず、時間外労働等に対する対価としての性質を有するものであるか否かが問題となります。
対価性の要件などと呼ばれます。
業務手当等残業代と違う名目で支払われている場合などに問題になります。
時間外労働等に対する対価として支払われていたかどうかは、雇用契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の説明内容や就労実態等の事情を総合的に勘案して判断されます。
合意内容の認定として一般的に採られる方法ですね。
 
次に、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とに判別できるかという問題があります。
判別要件あるいは明確区分性などと呼ばれます。
そして、判別ができる場合に、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを踏まえて判断されることとなっています。
 
これら基準自体が総合的判断を前提とするものですので、基準を基にして具体的事情に応じて総合的に有効性が判断されます。
 
固定残業制・定額残業制を導入・維持するのであれば、有効だと認められるような仕組みを用意しておかなければリスクがありますね。
 
仮に固定残業代・定額残業代の支払いが有効ではないとされると、時間外等割増賃金が未払いとされ(一種のペナルティーである付加金も請求されるでしょう)、しかも割増賃金の計算の基礎に定額支給された手当も入ってしまうということになりますね。
 
そうすると、次のようなことに気を付けないといけません。
 
雇用契約書、労働条件通知書、賃金規程等就業規則にて、定額支給手当が時間外等手当として支払われている旨が明記されていた方がいいでしょう。
明記されていなければ、運用上しっかり時間外等手当として支払われていることが明確になっていないと厳しい判断が予想されます。
また、募集要項も含めて、曖昧な記載も避けなければなりません。
 
勿論、賃金体系上、所定内労働の対価の部分と時間外等割増賃金の部分を明確に区分できるものであることも必要です。
精勤手当の性質等の他要素を組み合せた形の定額支給手当は避けた方が無難です。
労働者が判別できるような計算指標、計算根拠となる時間数を超えた場合の精算方法も明示されることが望ましいです。
 
定額手当の金額は、法令上許される時間外手当等の範囲内の金額であること(法令の趣旨に反する金額であると有効性が否定されかねません)、時間外労働等の対価としての合理的な支給根拠が説明できる金額であること(それ以外に合理的な支給根拠がないこと、実際の勤務実態とほぼ合致していること等)も必要でしょう。
全従業員一律の額であると合理的な説明ができないかもしれませんね。
 
運用上も、支給時に支給対象の時間労働等の時間数と残業手当の額が明示されていること、
固定残業代によってまかなわれる時間数を超えた場合の精算をする取り扱いが確立していることも要請されます。
 
残業代等の固定支払いは、支払方法について法定されていないため、一概に無効とはされない傾向ですが、事案によっては無効と判断されかねません。
リスクを排除するためには、上述のような手当をしなければなりません。
 
固定残業制のメリットの1つは労務管理の簡便化でしょうか。
上述のように見ていくと、リスクを排除するには結局手間がかかるような気がします。
一定の無駄なコストも生じるわけですし、その分を賞与あるいは成果的報酬に反映する方が労働者のモチベーションの向上につながる経営戦略上のメリットがあるような気がしています。
 
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債務免除益の課税区分 [企業法務]

広島市の弁護士仲田誠一です。
 
経営者などの個人が会社に対する債権について会社に債務免除を行うことはよくあります。
決算書の見栄えをよくするため、あるいはM&Aの下準備として、個人の会社に対する貸付を放棄することはよく見ますね。
 
債務免除益も原則として課税の対象となることは争いがありません。
数千万もの会社に対する貸付金を免除すると同額の益金が会社に発生します。
繰越欠損が潤沢にあり課税がなされない、あるいは高額な税金がかからない場面に限って考えることでしょう。
 
その逆、会社から個人に債務免除を行うことはあまりないかもしれません。
ただ、法人から経営者の離婚、相続対策の前提で行うことなど、いろいろな場面で考えることができると思います。
 
その場合に債務免除益を受けた個人の税金は所得税ですね。
所得税には、法人税と異なり、所得区分という問題があります。
所得税課税がありますよという注意だけではなく、所得の種類を考える必要があるのです。
法人から個人が受けた贈与は、一般的には、一時所得か、個人が役員・従業員の場合には給与所得になる、というイメージなのではないでしょうか。
私も、広島大学のロースクールにて(租税法を教えています)、法人からの贈与は一時所得か給与所得だよ、と教えています。
 
ちなみに贈与税は、個人から個人への贈与の場面での課税です。
 
法人から個人に対する債務免除について、債務免除益の所得区分が争われた地裁の裁判例を目にしましたので投稿します。
 
金融機関が、賃貸用の建物の建築資金とするための借り入れの返済に充てられた借入金の債務免除、農業用機械の購入資金とするための借入金の借り換え等にかかる債務の返済に充てられた借入金の債務免除、をおこなった事案です。
事案自体は特殊かもしれません。
 
納税者たる個人は、債務免除益を一時所等として申告したんですね。まあ、無茶な申告ではないと思います。
しかし、課税庁は、借入れ目的に応じて、事業所得、不動産所得、一時所得に該当するとして更正したのです。
 
所得税は所得区分に応じて税金のかけ方が違います。
一時所得は所謂2分の1課税の所得区分ですので税金が安いのですね。
更正により、当然税金が上がります。過少申告加算税賦課決定も合わせてされています。
裁判の事件名は、所得税更正処分等取消請求事件です。「等」の中に過少申告加算税賦課決定も入っています。
 
裁判所は、
所得区分の判断にあたっては、当該所得の内容及び性質、当該利益が生み出される具体的態様を考慮して実質的に判断される、
借入金の債務免除益の所得区分の判断においては、当該借入金の目的や債務免除に至った経緯等を総合的に考慮して判断することが相当である、
とします。

そして、
不動産貸付業務に充てるため、あるいは農業用機械の購入資金に充てるための借入金の債務免除益は、不動産所得あるいは事業所得に該当するとしました。
それぞれ、不動産貸付業務あるいは事業遂行による収入ということができるからということのようです。

また、不動産貸付業務、事業の運転資金的性質を持つ借入れの返済に充てられた部分の借入金、借換資金、及びその債務免除益も同様の性質を有するとしています。

勿論、不動産所得あるいは事業所得に該当する以外の債務免除益は一時所得とされました。
 
借入金の債務免除益の所得区分の判断においては、借入金発生原因をよく吟味しないといけないということですね。
債務免除益は、単なる法人から個人への贈与とは場面が異なるのかもしれません。
こういう裁判例がある以上、債務免除益は法人からの受贈益として一時所得でいいのではないか、と簡単にお話することはできませんね。
 
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