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コラム 企業法務 7ページ目

「セクハラ行為が判明したら?」【企業法務7-2】

弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。catface


みなさん,時々どうしても食べたくなるものってあるでしょうか?

私は,宅配ピザと宅配カレーです。restaurantしょっちゅう食べるわけではないのですが,数ヶ月に一度は食べたくなります。
宅配ピザは,生地が分厚いアメリカンなやつが大好きです,端っこのパン生地がどうしても食べたくなります。
カレーは,チキン煮込み+イカフライ,400グラム,1辛,と注文するものが決まっています。

カレー屋さんについては,学生時代にバイトをしていた弁護士が未だにそのカレーのファンでいるようなので,しっかりした企業なのでしょう。

食べ物関連の職場で働いたことがある人から,二度と食べたくない,○○が嫌いになった,などの話を聞いたことはありませんか?

内部の人,内部にいた人からのよい評判は,企業の力強い宣伝になります。しかも,そのような企業では従業員が誇りを持って働いており,企業全体の活気があります。

銀行員時代,たくさんの企業を見てきましたが,企業ないし従業員の活気と,企業業績は比例するケースがほとんどでした。
活気があるから業績がいいのか,業績がいいから活気があるのか,それは難しい問題です。おそらくは,両者とも正しいのでしょう。相乗効果で企業が成長していくのだと思います。


前回は,セクハラの一般的なお話をしました。書かせていただきましたが,セクハラは企業活力に対するサイレント・キラーです。
無いのが当たり前のことを対策することは億劫かもしれませんが,無いのが当たり前だからこそ対策をする必要があるとも言えるのです。


◆ 企業のセクハラ対応が問題となるケース

企業のセクハラに対する対応が問題となるケースには,前回のとおり,企業に対する責任を追及されるケースだけではありません。

セクハラをした従業員に対する処分や転勤命令を巡って,加害者側の従業員などから争われるケースもあります。

企業にとっては,セクハラの被害者から訴訟などで争われるだけでなく,対処を誤ると加害者からも争われることとなります。


◆ セクハラに対する事前の対策

前回お話した「職場環境配慮義務」の内容のとおり,事前の防止措置としては、セクハラに関する方針を明確にして周知・啓発することや相談体制の整備が要求されます。

抽象的には,企業の規模に応じた措置をとればいいとは思います。

最低限,就業規則やセクハラ規程の作成などによって,従業員にセクハラ禁止の方針を伝え,セクハラが起きたときの処分内容を周知することが必要でしょう。

できれば,セクハラに関する講習会や勉強会もすればいいと思います。
顧問弁護士に講習させるもよし,役所などがやっている講習に従業員を派遣してその従業員に勉強会を主催させるなどでもよいでしょう。

相談体制の整備は,ホットライン(直通相談電話)の整備やラインから独立した相談部署の設置などですが,企業規模によっては難しいことです。
企業規模に応じてできるだけ被害者が相談しやすいような体制を作る必要があります。相談担当を決めること(基本的には社長直轄),相談によって一切不利益を被らないという方針の周知は必要でしょう。


◆ セクハラをした従業員に対する対応

まずは,真偽を確かめる必要があります。そして,できるだけ早くに対処をしないといけません。

処分が遅い,ということは,それだけで職場環境配慮義務違反になるおそれがあります。

公平な措置,迅速な措置が従業員の士気を低下させない唯一の方法です。

場合によっては,経営者の迅速・厳正な対処が,従業員の一体化・忠誠心の向上という,プラス面に転じることも期待できます。

従業員に対する対処としては,始末書提出,訓告,訓戒,配転,減給,退職勧奨,解雇,懲戒解雇などがあるでしょう。


◆ 事案の客観的な把握が必要

処分が後で問題となる場合,セクハラ行為の証拠が必要になります。

そのため,ある程度客観的な証拠,例えば第三者たる同僚の証言やメール・手紙などが必要でしょう。

もちろん,加害者とされる従業員が認めるならば,始末書等を書かせて証拠化するのもいいでしょう。

客観的に間違いないだろうと判断できることが必要です。

被害者の一方的な思い込みというケースも,多くはないでしょうが,絶対にないとは言えません。


◆ 事案に即した適正な処分や措置が必要

ある程度客観的に事案を把握したら,次に,できるだけ早く対処をする必要があります。

ここで大事なのは,客観的に妥当な,公正な判断をすることです。

加害者が力のある従業員だからといって,穏便に済ますようなことがあると,被害者だけではなく,他の従業員はどう感じるでしょう?
力のある従業員を守って,返って,企業活力全体を下げてしまう,という結果を招きかねません。

逆に,厳しすぎる処分などをしても,後で争われることになりますいようです。

例えば,裁判例を見ると,いきなり懲戒解雇というのは認められ難いようです。

まずは,企業側に,その従業員に対して行動を是正させるべく,注意,警告,より軽い懲戒をすることが要求されるようです。それには,早期のセクハラ発見が必要になりますね。

配転や退職勧奨,そして普通解雇なども,行為の内容や職場の環境などの諸条件によって,有効性が判断されているようです。

そのため,加害者従業員に対する処分や処置は,慎重に行わないといけません。
できれば,弁護士に相談しながら対処を決めるほうがいいでしょう。

何度も言いますが,企業の対処は,法律的な有効性はさておき,従業員が注目しています。被害者が「もういいです」と言っても,厳正な経営判断が必要でしょう。


◆ 最後に

セクハラに対する社会の見方の変化によって,認められる損害賠償額も大きくなっていますし,ある程度厳しい処分も有効だと考えられて来たような気がします。

セクハラの企業に対するリスクの大きさも時代の変化に応じて大きくなっていると思います。

何度も言うようですが,企業も時代に応じた対応が必要です。

自社の対応が十分か,再検討をしてみてください。


「セクハラ行為が判明したら?」【企業法務7-1】

弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。catface


ウナギの卵が見つかりましたね。店頭に出ているウナギの多くは養殖ウナギですが,それらは川に上ろうとするシラスウナギ(稚魚)を捕まえて養殖していることはご存知でしたか?

私が育った地域は,シラスウナギ漁もウナギ養殖も盛んでした。川で魚を捕まえていると,ウナギの稚魚が採れたり,大きなウナギを見つけたりしました,懐かしいです。
それにしても,養殖ウナギが餌を食べる姿は迫力があります,そのため,今でも養殖ウナギは少し苦手です。


さて,話は突然に変わりますが,セクシュアル・ハラスメント,略してセクハラ,の話をしたいと思います。従業員がセクハラをしたら,企業はどうしたらいいのでしょうか?

今回はセクハラに対する企業の責任について,次回はセクハラをした従業員に対する対応について,お話したいと思います。

◆ セクハラとは?

セクハラとは,相手の意に反する不快な性的言動のことです。

セクハラは,人事権の行使を伴う(パワハラの要素も含む)対価型セクシュアル・ハラスメントと,それを伴わない環境型セクシュアル・ハラスメントに区別されたりします。


◆ 従業員のセクハラに対する企業の責任

少しややこしい話になります。

企業がセクハラに関して負う責任は,セクハラ行為自体の責任とセクハラに対する対応の責任があります。

そして,企業が従業員等に代わって責任を負う場合と,企業自体の責任を負う場合があります。


◆ 従業員等の責任を企業が代わって負う

企業は,従業員などの行ったセクハラ行為自体の責任も負います。

民法715条には,従業員が業務に関連して行った不法行為について,使用者である企業も責任を負うという,「使用者責任」が定めています。

従業員が行なったセクハラが業務に関連した不法行為だと判断されれば,企業がその責任を追及されます。

同じように,代表者が事業に関連してセクハラをした場合には,会社法350条によって会社が責任を負うこともあります。

これらの責任は、セクハラが事業・業務に関連してされたときに成立しますが,近時は,より緩やかに「事業・業務に関連している」と認定される傾向があります。


◆ 企業自体の責任

企業自体の不法行為責任,あるいは債務不履行責任の追及もされるケースがあります。

セクハラ行為自体の責任という意味合いよりも,企業のセクハラ行為への対応についての責任と言えるでしょう。

労働契約に付随する義務として,使用者は,従業員に対して,適切な職場環境の構築・維持に配慮する義務を負っています。「職場環境配慮義務」と言います。使用者の指揮命令下で従業員が働かされるわけですから,使用者はその環境に配慮すべきだということです。

セクハラは,従業員にとって,安心な職場環境を破壊する行為です。

そこで,「職場環境配慮義務」の内容の1つとして,セクハラが発生することを予防する,セクハラが発生したら適切な措置をとる,という義務も含まれます。

「職場環境配慮義務」は,労働契約上使用者が負う信義則上の付随的義務であると同時に,不法行為法上の義務であるとも考えられています。

セクハラが起きたら,またはその対処が不適切であれば,企業が負っている職場環境配慮義務に違反したという事実を不法行為として民法709条の固有 の不法行為責任を,あるいは,職場環境配慮義務を民法415条の債務不履行だとして債務不履行責任を,追及される可能性があります。

使用者責任のほかに企業自体の責任を追及するのに何の意味があるかというと,まずは,従業員のセクハラの業務関連性が肯定しがたいケースや,加害者 が特定できないケースでも,(その場合には上記の責任が追求できません),使用者に対する損害賠償責任の追及が可能となる点です。
また,債務不履行責任の追及は,証明責任が有利なこと、消滅時効が長いこと、裁判の中で企業の行為規範を具体化できること,などの意味もあります。
さらに,セクハラ発覚後の企業の不適切な対応を捉えると,損害賠償の範囲も拡がっていきます(退職せざるを得なくなったなど)。


◆ セクハラに関する「職場環境配慮義務」

上のように,職場でセクハラが発生すると,企業はさまざまな責任を負います。

企業としては,セクハラが発生して使用者責任を負わないように措置をとっておく必要がありますし,かつ企業自体の責任が問われないように事前・事後の措置をとる必要もあります。

セクハラに関する「職場環境配慮義務」の内容としては,裁判例で言われているところによると,
①まず事前の防止措置として、セクハラに関する方針を明確にして周知・啓発することや相談体制の整備が要求され、
②また事後対応として、セクハラ行為が発生した場合の適切・迅速な事後対応をすることが要求される,
とされています。

どういう措置をするべきか,は次回にお話しようと思います。


◆ セクハラ事件に関する損害

セクハラ裁判では、被害の甚大性に比べて賠償額の低いことが批判の対象となっていましたが、近時は高額化の傾向が見られます。

また,企業がセクハラに適切に対応しなかった結果、労働者が退職せざるを得なくなったケースでは、「職場環境配慮義務」違反がなければ賃金不支給の 事態も生じなかったという意味で、義務違反と賃金相当額の財産的逸失利益と相当因果関係が認められ、半年から1年程度の賃料相当額の損害賠償責任が肯定さ れるケースもあります。

もっとも,職場で発生するセクハラによる企業損害としては,それ以上のものがあります。

少なくとも社員のモラルの低下は避けられません。モラルの低下は企業にとって,サイレント・キラーです。企業を蝕んでいきます。

また,加害者あるいは被害者が優秀な社員であっても失ってしまいかねません。

企業としては,セクハラを防ぐ,起きてしまったら早期に発見する,発見したらすぐに適切な対処をする,という当たり前のことを当たり前に準備しておく必要があります。


◆ 最後に

今回は,セクハラに関してやや一般的なお話をしました。

セクハラも企業が従業員を抱える限りに常に伴うリスクの1つです。

金銭的な損害のリスクの面は他のリスクと比べて小さいかもしれませんが,企業組織に与えるダメージという面では非常に大きいリスクと言えます。
企業活力が減退するというのは企業にとって致命傷ですし,なかなか気付かないことなのでとても怖いです。

次回は,企業のセクハラ対応について,お話したいと思います。


「委託販売員からの未払賃金を請求される?」【企業法務6】

弁護士の仲田誠一です。catface


昨日のYahooニュースで,蛇の目ミシン工業が完全歩合制の「委任販売員」に対して労働基準法に基づく賃金(最低賃金相当額や有給休暇分給与)を支給していないとして,労働基準監督署から未払賃金を支払うよう是正勧告を受けたとのニュースを見ました。

労働基準監督署は,「委任販売員」を労働者と認めたようです。

以前に,プロ野球選手は労働者か?も問題になったことがありましたね。

コストカットのため,営業を完全歩合制の委託販売員に委ねている企業はかなりあると思われます。専属的な請負契約も多いですね。
この勧告は,今後他の企業にも大きな影響がありそうです。

そこで,今回は,どういうケースに労働基準法が適用される労働者と見られる可能性があるかをお話しようと思います。


◆ 労働基準法が適用される労働者とは?

労働基準法が適用される「労働者」は,労働基準法9条に定められています。最低賃金法も,労災保険上の労働者も,労働基準法の「労働者」と同じとされています。

労働基準法9条は,「労働者」を,①「事業又は事務所に使用される者」で,②「賃金を支払われる者」と定義してます。

②の賃金は名目は問われませんので,問題は,①の「事業又は事務所に使用される者」に該当するかです。

そこで,「労働者」に該当するか否かは、労働者が使用者に従属していることに伴う危険や弊害を除去,軽減,緩和するという労働法の目的に照らして、現実の労務給付の実態(働き方の実態)に即して,当事者間に「使用従属関係」が成立しているかによって判断されます。


◆ 「使用従属関係」とは

少し難しい話になります。

「使用従属関係」の有無は、労働基準法の適用をすることがこのケースで適切かどうかという観点から、労務受領者(企業)と供給者(働く人)の間に,指揮命令関係があるかどうかを中心的な判断基準とします(「人的従属性」と言われます)。
かつ,働く人に払われる報酬が労働力の提供に対する対価としての実質を持っているか(「経済的従属性」),就労の実態が独立した事業性をもたず企業組織の中に組み込まれているか(「組織的従属性」),を付加的して総合的に判断されます。

具体的要素としては、①業務遂行過程での指揮命令の有無(企業からの具体的な指示で働いているか)、②勤務時間や勤務場所の拘束の有無(企業に決め られたとおりの働き方をしているか)、③仕事の依頼・業務従事に対する許諾の自由の有無(決裁権があるかどうか)、④専属性の有無(兼業禁止などの就労制 限があるか)、⑤業務の第三者による代替性の有無(替わりはいるか)、⑥材料・生産器具などの使用者の提供の有無(働く人は労務の提供だけか)、⑦報酬の 性格が給与制か出来高払い制か、などが挙げられています。

名目は関係なく,上記のような具体的事情によって,労働者に当たるかどうかが判断されます。


◆ 争われた例

下級審の裁判例では比較的緩く「労働者」だと判断している例もあるようですが,最高裁の態度はやや固いようです。

最高裁で争われた例としては,専属的傭車運転手,一人親方の大工があるようです。

前者は,業務用機材のトラックを所有して自分の危険と計算の下運送をしていた,運送業務に当然に伴う指示以外は指揮監督をされていなかった,時間的・場所的拘束も一般従業員と比べてはるかに緩やかだったことを重視して,「労働者」ではないと判断されました。

後者は,工務店から指揮命令を受けていなかった,自己の道具を持ち込んでいた,報酬は仕事の完成に対して払われたものだ,と否定したようです。

下級審の裁判例としては,否定したものとして,証券外務員,受信料集金受託者,などがあるようです。ただし,あくまでも具体的事情によって判断されています。

下級審の肯定例としては,大学病院の研修医,映画制作プロダクションと契約するカメラマン,テレビ局専属のタイトルデザイナー,などがあるようです。
こちらも,あくまでも具体的事情によって判断されます。


◆ 最後に

労働者か否かは具体的事情によって判断されます。さらに,以前にも書かせていただきましたが,裁判所の判断は,時代によって変わっていくこともあります。

ワーキングプア問題など,非正規労働者等の生活権が問題となっている現在の状況や,冒頭のニュースの勧告を見てみると,コストカットのために犠牲となる形の就労者の保護が,今後重視される傾向も予想されます。

もしかしたら,裁判所の判断も徐々に変わっていくかもしれません。

企業にとっては,現在のやり方を,再検討する必要がありそうです。

penじっくり話し合い、問題解決に導く法律のプロ 弁護士仲田誠一の取材記事はこちら!(http://pro.mbp-hiroshima.com/nakata-law/)

 


「事業承継対策の必要性」  【企業法務】

弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。catface

 

 

大昔の話ですが,私が就職活動をする際,最初に受けた某企業の集団面接において,「企業にとって何が一番大切か?」と聞かれたことがありました。

私が「心です」と元気に答えると,面接官やほかの学生に笑われてしまいました。他の学生はもっともらしいことを話しており,恥ずかしかったです。
幼稚な考えだと思われたのでしょうか。当然,面接には落ちました。

しかし,銀行員あるいは弁護士として多くの企業を見てきた現在でも,「企業には心が一番大事だ」という考えは変わっていません。

心=経営理念は企業組織を貫く柱です。経営者の「心」が,組織の末端にまで到達していなければ,営業活動は上手くいくはずありません(営業マンが何 を話してもお客さんに何も伝わりません)。また,企業不祥事の原因も,経営理念が行き渡らなかったためのモラルが低下であることが多いようです。リスク管 理の根幹も経営理念の浸透にあります。

事業活動の根幹は,「心」だと思います。

ちなみにその会社は,斜陽の一途をたどっています。

さて,今回は,中小企業の「事業承継対策はなぜ必要か?」についてのお話をさせてください。

事業承継対策の必要性については,近年さかんに宣伝され,経営承継円滑化法など立法や金融支援制度などの手当てもされているところです。経営者の方に対して,金融業界や弁護士,税理士など,様々な業界からアプローチがされているのではないでしょうか。

私なりの考えることを,銀行員として多くの中小企業経営を見てきた経験やリスク管理部署にいた経験も踏まえた上で,かつ法律の専門家としての観点から(といっては偉そうですが),お話しさせていただきたいと思います。

結局は,「心」の引継ぎが必要だというよくわらない話になりそうですが…

◆ 中小企業の事業の継続のためには・・・

企業は,事業を継続していくことに存在意義のある組織です(ゴーイング・コンサーン)。企業活動には,経営者一族はもちろん,従業員や取引先など利害関係者が多く存在します。企業がその事業活動を止めてしまうと,それらの利害関係者に多大な影響を与えてしまいます。

大企業をイメージすると,一般的には株主(企業の所有者)と経営・事業資産は分離しています(「所有と経営の分離」)。株主の経営に対する影響力 は限られていますし,よほどの大株主が変更しない限り経営者は代わりません。事業資産も会社名義なので株主の変更により影響を受けません。そのため,株主 が代わっても事業継続に支障をきたすことはないのが一般的です。

個人事業主はもちろん,法人であっても,わが国の中小企業の場合は様子が変わります。所有(株主)と経営は分離していません。事業自体が株主(兼経 営者)の資質に左右されることが大きいことはもちろん,株主の変更は即経営者の変更を意味します。さらに,工場や社屋など事業用資産が株主名義になってい るケースも多いです。したがって,株主(兼経営者)が交代すると,事業継続への影響が大きいのです。

そのため,中小企業においては,事業の継続を確保するために,ひいては多くの利害関係人のために,後継者などにスムーズに事業を引き継ぐことを考えなければならないのです。

それが事業承継の問題です。


◆ 中小企業の事業承継対策をしないと
具体的な話をしましょう。

例えば,経営者が,遺言を作成することなく急に亡くなったとします。経営者の遺産の大部分は持ち株や事業用資産でした。法定相続分に応じて,持ち株や事業用資産(事業用不動産など)が分割相続されたとしましょう。
後継者はなんとなく長男みたいなのですが,まだまだ周りから信認されているとは言えず,そのため他の相続人も納得していません。
そして,仕事ができて従業員や取引先の信認も厚い次男が,他に株を持っている親族なども抱きこんで後継者争いが始まりました。
長男は何とか遺産分割協議をまとめたいが,話合いがまとまりそうもない。

極端な,最悪なケースです。この会社は,事業継続自体が危ぶまれますし,会社が分裂する可能性もあるでしょう。

このようにならないために事業承継の対策が必要なのです。


上の会社は何が悪かったのでしょう?

◆ 後継者の育成

上の例では,そもそも後継者の育成がおざなりでした。

まず,事業承継の肝は,言うまでもなく,後継者の育成です(M&A,MBOも含めて)。
後継者が育たなければ,他のどんな対策をとっても意味がありません。

ちなみに,銀行時代の経験上,経営者代替わりによって取引先の企業が傾いたという実例は珍しくありませんでした。

さらに,後継者争いが起こった企業の有形無形のダメージは相当なものでした。

そのようなことがあって,銀行も,取引先企業に後継者候補がいるかいないか,また後継者候補の資質などを,みなさんが思っている以上に気にしています。銀行の融資対応にも少なからず影響すると言ってもいいと思います。


◆ 一般的に言われる「事業承継対策」

一般的に「事業承継対策」といわれている方策は,後継者育成のための環境作り,引き継いだ後継者へのサポートの意味合いを持ちます。

企業は,「ヒト・モノ・カネ」で出来ています(「ジョウホウ」を含めることもありますが,ここでは「ヒト」に含まれると考えてください)。
事業承継というからには,それらを後継者にスムーズに引き継ぐ必要があります。

せっかく育てた後継者に,会社の「ヒト・モノ・カネ」をスムーズに引き継がないと,後継者を育成した意味がありません。これも当然に重要なことです。


◆ 「モノ・カネ」の承継の問題

上の例の「モノ・カネ」の面を話すと,まず,事業用資産が分割取得されている面が問題です。上の例のように親族間の関係が悪化すると,事業継続に支障を来たすおそれがあります。
また,持ち株が共有取得されている問題もあります。そもそも関係悪化による事業継続への支障がおきるという問題に加え,新しい取締役等の決定もままならない手続上の問題も生じ得ます。
さらに,資産形成面でも,持ち株と事業用資産に集中をさせすぎていて,遺産分割に柔軟性を持たせられない問題もあります。


◆ 「ヒト」の承継の問題

一方,「ヒト」の承継の問題は,従業員の志気,取引先との関係,銀行との関係など,「心」の問題になります。

上の例では,経営者の生前の行為あるいは遺言によって,他の親族が事業の引継ぎを納得できるような環境を作れなかったため争いを招きました。

さらに,従業員がモラルを維持できるような,取引先や銀行との関係を維持できるような後継体制が整備されていなかった問題もあります。対策をしない うちに争いが起きてしまった以上は,従業員の士気は下がり,築き上げた企業風土は消え去ります。取引先もどちらにつくか混乱するでしょう。もしかしたら銀 行は融資を引き上げるかもしれません。

そのようになってしまうと収拾をつけるのは難しくなります。事業継続が難しくなるか,あるいはダメージを負ったまま分裂してしまうかもしれません。


事業承継対策の必要性

上に挙げたのは極端な例ですが,多かれ少なかれ,中小企業にとっての経営者の交代は企業の命運を左右するリスクがあることなのはわかっていただいたと思います。

中小企業の事業承継が,企業にとっての大きなリスク要因である以上(しかも保険ではカバーできません),経営者にとって,そのリスク管理は必須です。

「家族が争って事業をだめにするようなことはあり得ない」と考える方もいらっしゃるでしょうが,それは事業承継リスク管理の放棄です。問題が起きた 場合のダメージは大きいため,問題発生の可能性が完全にゼロと証明できない限りは,それに対する対策をする必要があります。


事業承継対策っていうけど・・・

事業承継対策は具体的にどういうことをするべきか,上の例に沿って,ほんのさわりだけお話しさせていただきます。詳しくは機会を見つけてお話しようと思います。

◆ 後継者の育成には

企業理念,取引先とのパイプ,企業人として心構え,経営者の自覚,カリスマ等々の引継ぎは非常に難しく,皆が納得できるような後継者育成には時間がかかります。

また,経営者は,往々にして,自分が元気なうちはすべて自分がやりたいと思う傾向があると思います。企業経営者には,ある程度自分を抑えて,計画的に後継者を育てる責任があると思います。

後継者の育成の方法としては,他社に修行に出す,社内で育てていく,子会社や一部門を任せる,などいろいろな方針があると思います。

経験上,社内で育成する場合には注意が必要だと思います。どうしても,裸の王様になりがちなような気がします。

銀行のジュニア層向けの親族会に積極的に参加させたり,社内でもきつい仕事を受け持って苦労を知ってもらうなどもいいかもしれません。

個人的には,中小企業経営者やその後継者が集まる企業法務あるいはマネジメントの講座や私塾に参加することもいいと思います。意識の高い目上の人あるいは対等の人との交流は,きっとよい財産になると思います。


我田引水ですが,私も大学と連携して他の弁護士や税理士などと,そのような戦略的ビジネス法務の研究会の準備をしているところです。

◆ 「モノ・カネ」の承継は,財産権の承継の問題です。

財産権の承継の問題である以上,持ち株や事業資産の分散を防ぐ対処は,遺言の作成や生前の売買・生前贈与・死因贈与によってできます。ただし,どの 方法をとっても,極端な場合には遺留分減殺請求をされて結局争いが生じかねません。この点で,経営承継円滑化法の特例も万全とはいえません。

また,資産の形成方法にも配慮する必要があります。過度に持ち株と事業用資産に集中せず,遺言作成や将来の遺産分割に柔軟性を持たせる方がベターです。

なお,株式が共有状態になる手続上の支障は,きちんと定款等の手当てをすれば大丈夫です。

◆ 「ヒト」の承継の問題はどうでしょう。

「ヒト」の引継ぎは,従業員の志気,取引先との関係,銀行との関係,他の株主との関係など,「心」の問題になります。対策は簡単ではなく,一朝一夕にはいきません。

「ヒト」の承継には,納得のいく後継者の育成を前提に,経営者の想いやメッセージを利害関係人に対して伝えていくことが必要です。経営者の想いを 表す遺言の作成によって,経営者の理念,会社に対する想い,後に残された関係者に対する願いを伝えることも1つの方法でしょう。

「モノ・カネ」の承継対策だけでは限界があり,「ヒト」の承継対策が不可欠です。
「モノ・カネ」や相続税対策ばかり考えても意味はないのです。利害関係者の納得を得られないような(「ヒト」がうまく承継できないような)対策を講じても,万全な対策にはなりません。

「ヒト」の承継が完全なら,そもそも争いは生じません。むしろ,他の方策をとる必要はないとも言えるかもしれません。

もっとも,実際には万が一にも争いが生じるリスクは消せないため,「モノ・カネ」の対策も不可欠なのですが。

そのような観点で事業承継を準備して初めて,一般的な事業承継対策も実を結ぶことになります。


◆ 最後に
企業戦略としての事業承継は,経営者が自ら決断・実行する部分が大きなウェイトを占めます。企業や経営のことがわからない専門家のアドバイスだけで準備をしても不十分です。

今回は,抽象的な話に終始してしまった感があります。具体的な話はまたの機会にさせていただきます。

 


「新卒者の内定を取り消さざるを得ない」 【企業法務】

弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。catface

先日の中国新聞紙上に,日本郵便が新卒者の採用を中止するという記事が載っていました。
近年の経営環境の悪化によって,新卒採用を見合わせる企業が増えてきていますが,学生には気の毒なことです。士気の低下や社員構成がいびつになるなど,ゴーイング・コンサーンとしての企業自身にもいい影響はありません。

新卒採用を見合せる会社が増えているとともに,経営状況の悪化により採用内定を取り消す会社のことも毎年のようにニュース出てくるようになりました。

そこで,今回は,採用内定の取り消しのお話をしようと思います。

◆ 採用内定とは?
採用内定とは,企業が新規学卒者を採用する場合、在学中に選考を行い合格通知を出した上で、翌春の卒業を待って入社させる採用方法です。

現在では,採用内定段階で一定の労働契約が成立するとされています。契約が成立していないと考えてしまうと,就職活動をすでに止めて入社日を心待ち にしている学生の保護が図られないからです。(なお,口頭の内々定段階ではまだ1社に絞っておらず契約が成立したとは認められがたいです。)

入社は翌春であるから契約には「始期」がついており,また採用内定期間中は企業に特別の「解約権」が「留保」されていると考えられているため,結局,「解約権留保付始期付労働契約」が成立するとされています。

◆ 採用内定取消とは?
採用内定によって上記のような労働契約が成立するため,その取り消しは,「解雇」の性質をもちます。したがって,合理的理由・社会相当性がない取消は,解雇権の濫用として無効になります。

そして,内定において解約権が留保されている趣旨は、採用内定段階では十分知りえなかったことにつき必要な補充調査を行うため、最終的な決定を留保する点にあるとされます。

したがって、内定取消は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由とした採用内定の取消しが、解 約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的理由が存し社会通念上相当と是認されるものに限り,許されることになります(大日本印刷事件判決)。

具体的には,長期療養を必要とする病気の罹患が判明した,犯罪で訴追され入社日以降通常通り勤務できない,経歴書・身上書への虚偽記載が見つかった,卒業延期(不能)が判明した,などです。

◆ 経営状態が悪化したために採用内定を取り消すことが認められるか?
経営の危機も,客観的に合理的理由が存し社会通念上相当と是認される限りで,採用内定取消の理由になります。

経営状態の急激な悪化状況,採用過程の事情,内定取消を回避する経営努力状況など,具体的な事情に基づいて判断されます。

実際の例では,訴訟までもつれることは少なく,一定の謝罪金などを交付して学生側に誠意を見せることが多いと思います。

◆ 採用内定取消のペナルティ
新規学卒者に対する採用内定取消は,あらかじめ公共職業安定所長と学校長に対し,通知をしなければならないことになっています。

そして,一定の場合には,企業名等が厚生労働省のサイトなどに公表されますし,ハローワークから管轄地域の学校に情報が提供されます。

やはり,企業にとって一番大きい損失は,企業イメージの悪化や信用失墜でしょう。取り戻すのに何年かかるかわかりません。採用内定取消の目的である経営改善どころではなくなるかもしれません。

◆ 自宅待機
採用内定を取り消すのは忍びない,しかしラインが1つ停止しており,今来てもらっても仕事がない。

そのような場合には,自宅待機の方法をとることがあるでしょう。

自宅待機には,従業員との合意による場合と一方的な自宅待機命令の場合とがあります。前者では合意による手当,後者の場合には休業手当相当の手当を支払う必要があるでしょう。

どの方法であっても,あらかじめ公共職業安定所長や学校長への通知が必要となります。

◆ 最後に
採用内定取消や自宅待機は,それがやむを得ない事情による場合であっても,新規学卒者にとっては大きな損失を与えることになります。また,企業イメージや信用も大きく傷つくことになります。誰も得をしません。

新規採用は計画的に行う,雇った以上は不義理をしない,というのが企業側に必要な心構えでしょう。かといって,採用に慎重になりすぎるのは,企業の活性化を阻害し本末転倒ですが・・・。

 


「営業秘密を守ってもらうには?」  【企業法務3】

弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。catface

 

 

本日の中国新聞に,日本航空の解雇の件で訴訟が提起される予定だという記事が載っていましたね。airplane

整理解雇については,昨年の12月11日にお話させていただきました。ご興味ございましたらそちらも見ていただければ幸いです。

今回は,営業秘密について簡単なお話をさせていただこうと思います。

 

 

◆ 営業秘密とは?
ノウハウ,設計図,顧客情報など事業にまつわる諸々のデータなどが事業活動にとって重要な知的財産であることは言うまでもありませんね。

それらが不正に開示や使用されたら,それ自体のダメージが非常に大きいだけでなく,信用問題にもなり事業の継続を危機に至らせることも十分に考えられます。

そこで,それら営業秘密は不正競争防止法によって保護されています。もちろん,民法上の不法行為による対応もできるのですが,損害の立証等それでは保護が十分ではないため,不正競争防止法で保護を強化しているのです。

 

◆ 不正競争防止法で保護される「営業秘密」とは?
営業上の秘密のすべてが不正競争防止法で保護されるわけではありません。ここが大事なのです。経営者にとって必須の知識だといえます。

不正競争防止法上,営業秘密は,「秘密として管理されている生産方法,販売方法その他事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないもの」と定義されています。

その定義から,保護される「営業秘密」と認められるには,①秘密として管理されていること(秘密管理性),②事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること(有用性),③公然と知られていないこと(非公知性),の3つの要件が必要だとされています。

今回は,そのうち,盲点になりがちな「秘密管理性」について説明しようと思います。

 

◆ 秘密管理性とは?
秘密として管理されていると認められるためには,主観的に秘密にする意思があるだけではなく,客観的にも秘密として管理されていることが必要です。
そして,後者の客観的な秘密管理性が重要です。その情報がどんなに重要でも,相応の管理をしていないと「営業秘密」とは認められないのです。

それには,①情報にアクセスできる者が客観的に制限されていること(アクセス制限),および②アクセスした者に情報が営業秘密であることが認識できるような状況にあること,が必要です。

管理をおろそかにすると,いざ不正行為が発生した場合に不正競争防止法による対処ができなくなります(「秘密管理性」を否定された裁判例はかなりあ ります)。また,管理を徹底することになれば,不正行為自体を事前に防止することにもなります。きちんと対処をしておかないと,安心して営業活動にまい進 できないはずです。

 

◆ 具体的にはどのように管理すべきか?
それでは,具体的にはどのように管理すればよいのでしょうか?

残念ながらそれを画一的に説明することはできません。
裁判例では,その情報の性質,保有形態,保有する企業規模などの諸事情を総合考慮して,合理的な管理がなされていたかどうか,判断されているようです。

あなたの保有する情報の種類や事業内容に適切な形で,しかも企業規模に見合った対処をすればよいのですが,具体的に考えると難しいです。

参考となるものに,経済産業省が出している「営業秘密管理指針」があります。
昨年改定されました。チェックシートなども付いています。

ただ,それは大部にわたるものですし,なかなかご自分で読み込むのは難しいかもしれません。ご心配でしたら,弁護士等の専門家に相談することも検討してください。

 

◆ 最後に
情報が不正に利用されるなどして損害を被ったなどのお話を聞くことは稀ではありません。

今回は,経営者にとって非常に重要な営業秘密の管理について問題意識を持っていただこうという趣旨でお話をさせていただきました。

細かいお話はまた機会を見つけてお話させていただきます。confident


「デリバティブで倒産急増」

弁護士の仲田誠一ですhappy01

 

広島南部も大雪注意!だそうですねsnowsnow
たまに雪が積もると,雪に慣れていない分,交通などが麻痺したり,事故が増えたりしますね。
気をつけないといけませんねpaper

 

さて,昨日の中国新聞で,「デリバティブで倒産急増」という記事が載っていましたbook

中小事業者が銀行から為替デリバティブ商品を買っていたところ,このところの急激な円高で多額の損失が発生し,倒産などに追い込まれるケースが急増しているとのことです。

デリバティブは,なんであれ,うまく使わないと「博打」になってしまいます。


うまく使うということは,私の金融経験上,「儲けは考えない。保険料を払うような気持ちで,損失を抑える契約をする。」ということですmemo

本来,一般事業者が行うデリバティブは,リスクヘッジの方法のためにあるべきです。儲けが出るような契約は,損失も青天井だったりします,それはくどいですが「博打」と同じですsign01

銀行から勧められると,付き合い(力関係)や安心感から,いろいろな金融商品に手を出して損をするケースが多いのも実情です。言うまでもなく銀行も営利事業者です。元銀行員の私が言うのもなんですが,お客さんの利益になることばかりを勧めるわけではありません。

特に,注意して欲しいのが,銀行が新しい商品を販売したり,新しい提携商品を紹介したりする時期です。新規投入商品というのは,通常の商品よりもノ ルマがきつく,またノルマ達成に対するインセンティブが高いのが通例です。どうしても,売りたくなります。一方,新しい商品なので,銀行側の知識もまだ 蓄積されていません。
その両者があいまって,トラブルが起きるような取引をしがちなのです。変額保険しかり,投資信託しかり,デリバティブしかり,です。

新聞の記事を読んだだけなので詳細はわかりませんが,トラブルが生じている事業者が,本当にデリバティブ商品が必要だったのか,またその商品が適切だったのか,気になります。

銀行は,もちろん堅い商売をするため,通常は安心して取引できる相手ですrock

ただ,盲信はいけません。トラブルが生じているのも現実です(ご相談もお受け致します)。
金融取引をするときは,失敗しても誰も責任を取ってくれないという意識で,慎重に取引してください。

それでは,失礼します。


従業員は転勤を拒めない?  【企業法務】

弁護士の仲田誠一です。catface
 
 
 
これから4月をピークに転勤が増えていくのではないでしょうか。

みなさんの会社では,転勤の内示を受けるのはどれぐらい前でしょう?

今 は知りませんが,私が勤めていた頃の銀行は,転勤の直前に突然に転勤を知らされていました。もともと銀行は,癒着や不正を防ぐために定期的に転勤があるも のなのですが,直前に知らせることで不祥事を隠せないようにする配慮もあったようです。もちろん,家族持ちにはもう少し早く話が来ていたようですが。



さて,企業は自由に転勤を命じることができるのでしょうか?逆に言うと,従業員は転勤命令には絶対に従わないといけないのでしょうか?

転勤は,ケースによっては,企業側の業務上の必要性が,従業員の家族生活やキャリア形成の利益と衝突してしまう場面です。

最近読んだ法律雑誌に面白い記事が載っていたため,今回は,転勤命令のテーマをお話します。



◆ 企業に転勤命令権はある?
従業員に対する転勤命令権(法律的には「配転命令権」ということが多いです。)が企業にあるのでしょうか?

もちろん,勤務地・職種の限定がある労働契約を結んでいる場合には,従業員の合意がない限り配転はできません。一般的な契約の場合の話です。

少なくとも,就業規則上に転勤命令条項(転勤に関する条項)があり,勤務地限定の合意がない限りでは,企業側に転勤命令権が認められています。
就業規則の定めを確認しておいてくださいね。



◆ 企業は自由に転勤を命令できる?
結論を先に言うと,企業側に広い裁量が認められますが,完全に自由ではありません。

判例では,
① 企業側は業務上の必要に応じて,その裁量により広く転勤を命令できる,
② しかしそれは無制約ではなく,不当な動機・目的がある場合や従業員に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を追わせる場合など,特段の事情がある場合には,企業の配転命令権が権利の濫用として許されない。
としています(表現は噛み砕いています)。

つまり,企業に業務上の必要性がある限りで,「原則」的に従業員に転勤を命令できるが,従業員にあまりにも不利益を与えてしまうようなひどい場合には,「例外」的にそれは許されないということです。

上に要約したのは,昭和61年の最高裁判決です。事例は,母の扶養や妻の仕事の都合から従業員が単身赴任を強いられるケースでした。
裁判所は,業務上の必要性を幅広く認めた上で,単身赴任を強いられるような不利益は従業員が普通に我慢すべきだから企業側の配転命令拒否を理由とする懲戒処分は有効だと判断しました。



◆ 最近の裁判所の判断の傾向は?
最近読んだ法律雑誌で次のような記事を読みました。

大企業では転勤命令に際して従業員の意向を確認する例が増えてきた。
また,最近の裁判例で,転勤に伴う従業員の新幹線通勤や単身赴任の不利益などを認め,企業側が敗訴する例が増えてきた,という趣旨の記事です。

時代は変わりつつあるようです。
従業員の健康,育児・介護を重視する法律ができ,家庭生活を重視する風潮も定着しましたね。
裁判所もそれを構成する裁判官は世代が交代していくわけです。それに伴い,時代にあった判断がされるようになるのです(かなりのタイムラグがあるのが通常ですが・・・)。



◆ 最後に
その当否は別として,会社に滅私奉公するという時代は既に過去のものとなっているようです。
企業の転勤命令も慎重に行使しないといけなくなったわけでして,それに限らず,企業のコンプライアンスも,その時代に合わせた対応をすることが必要なようです。

整理解雇って? 【企業法務1】

弁護士の仲田誠一です。

 

先日、新聞で日航の整理解雇の記事を読みました、みなさんは読まれましたか?

「一部労組が提訴も辞さない構え」とも書いてましたね。

 

そもそも「整理解雇」って何でしょうか?

また,労組が提訴し訴訟になったらどのような点が審理されるのでしょうか?

 
そこで、今回は、「整理解雇」とはどういうものか、また訴訟で争われるとどのような判断をされるのかなどについてお話させていただこうと思います。またまた理屈っぽい話になるのですが・・・

 

 
◆ 「整理解雇」って何でしょう?

「整理解雇」とは、使用者(雇い主)が経営不振の打開や経営合理化を進めるために、余剰人員削減を目的として行う解雇です。

 
◇ 解雇は使用者の都合で認められる?
当然、解雇は簡単には認められません。
実は、民法上では、期間の定めのない労働契 約(通常の雇用契約のことです)について、当事者は「いつでも」解約を申し入れることができると規定されています。これは、「使用者の解雇の自由」と「労 働者の退職の自由」の保障を意味します。近代自由主義のたまもののような規定です。

しかし、解雇も自由に任せると労働者がたまりませんね。労働は生計維持の手段であるばかりでなく、人格発展の機会でもあるからです。もし解雇されたら、労働者は、大きな経済的不利益および人格的不利益を被りますね。

そこで、労働法は,「使用者の解雇の自由」の原則に修正を加えて、労働者の雇用保障と不利益回避を図っています。
すなわち、解雇は、「客観的に合理的な理由」を欠き、「社会通念上相当」であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とされます。
こ こで、「客観的な合理的理由」は就業規則上の解雇事由に当たるか等によって、「社会的相当性」は、労働者の事情・過去の行状・他の労働者の処分との均衡・ 解雇手続が適正か等の事情によって、判断されます。難しくなってきましたが、要は、解雇には、従業員から職を奪ってもしかたがないと客観的に認められる事 情が必要です。

その際、就業規則の定めが重要になりますから、経営者の方は、就業規則をちゃんと整備しているか確認してくださいね(就業規則にはきちんと整備しないといけない決まりが他にもあります、機会があればお話します)。

 

◇ 整理解雇の特殊性は?
「整理解雇」も、もちろん「解雇」の一類型です。そのため、上のような理屈が当てはまります。
ただ、整理解雇には、普通の解雇と違い、労働者側に責任がなくもっぱら使用者側の事情によること、解雇される従業員が通常多数に及ぶ、といった特殊性もあります。
そのため、整理解雇の有効性は厳しく判断されそうですよね。

 

 

◆ 裁判ではどのような点が審理される?

上のような「整理解雇」の特殊性から、現在、「整理解雇の4要件」(「要素」とされる場合もあります)という「厳しい」判例法理が構築されています。昭和50年代に採られた大企業の雇用調整をモデルにしたと言われています。
その4つの「要件」(「要素」)とは、
①人員削減の必要性があること

②使用者が整理解雇回避のための努力を尽くしたこと(解雇回避努力義務)

③被解雇者の選定基準および選定が公正であること

④労働組合や労働者に対して必要な説明・協議を行ったこと

です。

整理解雇の有効性が裁判で争われると、上記の4要件(要素)に沿った審理がなされることになります。つまり、経営上本当に必要なのか、解雇以外の道を十分探ったのか、不公平な人選になっていないか、労働者側とちゃんと話をしたか、等についてチェックされるのです。

冒頭に書いた日航の場合,訴訟に発展するとどういう判断が下されるかについてはもちろんわかりません。ただ、裁判所の判断は、以前より、やや解雇を 認める方向に柔軟化されているように感じます。会社が自己破産等破綻してしまうと「元もこうもないではないか」という考えが事実上判断に投影されているか もしれません。

 

 

ずいぶん難しい、ややこしい話になってしまいました。
弊事務所の事務員さんからも、内容が堅苦しくておもしろくない、と突き上げを食らっています。もっとやさしい、おもしろいテーマを選んで書こうと努力いたします。

 


「近況報告:法人関係 特に内部統制」

弁護士の仲田です法人関係の近況を報告します。 法人関係の仕事といえば、法人の自己破産ですね。不況が続き、一部の元気な会社を除いて中小企業はすでに限界に来ています(二極化しているのでしょうか)。 また、法人に破産申立をするお金すら残っていないため、法人の破産を諦め、 代表者個人のみ破産を申し立てるケースが多いです。できれば代表者だけではなく法人も自己破産した方か債権者のために少しでもなるのですが。 さらに、従業員の不祥事関連の訴訟等も意外に多いです。 さて、仕事からは少しそれますが、現在、中小企業の内部統制全般を研究しております。 前職の銀行員時代、私が内部監査や内部統制を所管する部署におり、その関係でCIA(公認内部監査人)という資格をとっています。 ところが、現在の内部統制 論、コンプライアンス、内部監査論は大企業向けのものに止まっております。中小企業に当てはめるには、かなりの工夫が必要だと感じております。 今のところ、中小企業の経営者の方々は、それらに対する興味があまりなく、残念ながらニーズが高いとはいえません。 しかし、それらのリスク管理をおろそかにしてしまうと企業の存続自体を危機に陥らせる危険があり、非常に大切なものです。 少しでも経営者のみなさんの意識を変えてもらえればと思い、現在、某大学等と連携して、来年度から経営者(及びその後継者)向け講座を開くよう準備しているところです。 「リスク管理は、損失を防ぐあるいは極小化させるためにだけあるのではなく、 利益を極大化させるためにも必要だ。」ということをお伝えできればと準備を進めて います。 また、私が力を入れている消費者問題も裏を返せば消費者を相手とする企業のリスク管理の問題ですので、それらの知識も経営者には必須のものである ことも伝えていきたいです。 今後、これらのこともみなさんにお話させていただこうと思っております。

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