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コラム 仲田 誠一 23ページ目

相続預金の取り扱い 【相続問題】

前回、離婚の話のうち、子の面接交渉、面会交流についてお話しました。
今回は相続の話です。

相続預貯金は、相続人全員のハンコ、遺産分割調停調書、あるいは遺産分割審判書がないと引き出せないか?

少し前までは、YESとの回答でした。「どうしてもと言うなら銀行相手の裁判をしてもいいけど、遺産分割調停の方が早く終わるかも。」というアドバイスをしていたでしょう。

従前は、約款を盾にして、あるいは相続争いに銀行が巻き込まれるのを防止するために、ゆうちょ銀行、市中銀行とも払い戻しを拒絶していたはずです。ところが、最近は変わってきたようなんです。

通常貯金は自己の相続分の払い戻し請求ができる、あるいは普通預金は通帳がなくても払い戻し請求により銀行が履行遅滞(損害金が発生する)に陥る、定期預金も満期到来によって履行遅滞に陥る、といった裁判例が出ているから金融機関の態度が変わってきたのかもしれません。

現在では、払い戻し請求をすると他の相続人へ照会をして問題がなかったら払い戻しに応じる、あるいは問題があっても払い戻しに応じてくれる金融機関が出てきました。定額貯金、定期預金はそれでも満期到来まで待たされるのでしょうが。

確かに、法律上、預金債権は分割債権であり相続によって相続人法定相続分に応じて分割取得するということになるのでしょう。ただ、実務では、払い戻しができたら確定的に解決したと考えるのは早計です。特別受益、寄与分、分与方法の判断によっては、すでに払い戻しを受けた金銭の返還を求められることでしょう。

そこで、現在のアドバイスは次のようになります。「払い戻しに応じる金融機関がでてきたから早く現実を手にしたければ払戻手続をしてみてもいいのではないですか、でも他の相続人に照会が行くから争いが激化するかもしれませんし、後に調停・審判で取り分が法定相続分から減ってしまうと他の相続人に返還しないといけませんよ、あくまでも最終的な解決は遺産分割調停、審判の結果を待たなければなりません。」という感じでしょうか。相続預金が遺産分割の対象となるかどうかの問題は「相続預金の取り扱い2」を参照してください。

相続預金を払い戻すことができるようになりつつあるのはいいことかもしれません。ただ、「遺産分割合意を早くしないと預金を分割できないからお互い譲って早く合意しましょう」というインセンティブが世の中からなくなると、相続争いが長期化する危険もあるのかなぁと危惧もします。

今回は相続問題に付きものの相続預金の取り扱いについてお話ししました。
動いている話なので、専門家に相談して慎重に対処してください。

コラム投稿後に、最高裁の判例で相続預金に関する従来の取り扱いを変更する判断が出ました。
本コラムは内容が古くなっております。
相続預貯金は、遺産分割の対象となりました。逆に、金融機関としては相続分に応じた払い戻しに対応できないということになるでしょう。
そこで、民法改正により、相続預金の一部払い戻し制度が創設されます。
なお、可分債権(貸付金など)は、判例変更がありませんので、従来どおり、相続と同時に各相続人が相続分に応じて取得することになります。

ぜひ相続問題は「なかた法律事務所」にご用命を。

広島市中区上八丁堀5-27-602
なかた法律事務所
弁護士 仲田 誠一

https://www.nakata-law.com/

 

https://www.nakata-law.com/smart/




子の面接交渉、面接交流2 【離婚問題】

広島市の弁護士仲田誠一です。


前回子の面接交渉、面会交流についてお話しました。
今回は補足です。


面接交渉、面会交流に対する裁判所の態度が厳しいというお話をしましたが、具体的には別居中あるいは離婚した相手方から子の面会交渉、面会交流に関する調停を申し立てられて争われます。
こちらが家を離れている場合にはこちらが申し立てることになります。そこで、裁判所は早期の面会交流をかなり強く促してくるのです。


裁判所が厳しいと言っても、こちらがなかなか応じられないという態度を示し説明を尽くすと、家裁調査官の調査や試験的面接を入れてくれるという配慮は見せてくれます。
ただ、調査の結果や試験的面接でよっぽど会わせるのが子の福祉に適合しないと判断されない限りは、継続的な面会交流を離婚が成立する前でも要求され、促されます。


話し合いが成立せずに調停が成立しなければ審判という手続に移行し、裁判所が面会交流の有無及びその方法を定めることになります。
審判になるとある程度面会が認められるということを念頭に置く必要があるでしょう。
そのことを念頭に、柔軟な調停解決の方向で進めることも多いです。
審判と異なり、調停ではきめ細やかな取り決めも可能ですから。


ところで、面会交流が調停、審判で定められて実行されなかった場合はどうなるのでしょうか。
離婚できたからもう会わせなくてもいいやと相手が腹をくくった場合です。


子は物ではありません。財産給付を求める権利と違って、子を差し押さえたり、強制執行で持って来たりはできないのはおわかりでしょう。
これも近時、統一的に裁判所が運用を始めたようなのですが、間接強制が認められるようになったようです(そこまでする事例には幸いに出会ったことはないですが)。


間接強制とは、子に会わせろ、会わせなければ1月当たり○万円を支払え、という形で間接的に(財産的、心理的に)強制する方法です。
相手が払わなかったらどうするのか?金銭請求は強制執行できますが、執行できる対象物がなければ・・・・です。


では会わせて貰えない親はこれと引きかえに養育費の支払いを拒否することができるのか。
事実上はバーターで争う道を選択してもよいのでしょうが(その選択を進める場合もあります)、法的には難しいでしょう。
養育費は子の権利だからです。


離婚にまつわる問題は、理論割り切れる事柄ばかりではなく、なかなか難しいです。


広島市中区上八丁堀5-27-602
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弁護士 仲田 誠一

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子の面接交渉、面接交流1 【離婚問題】

広島市の弁護士仲田誠一です。
 

久しぶりのコラム投稿です。


子の面接交渉、面会交流というと何のことかわかりますでしょうか。


別居後あるいは離婚後に、子と離れて暮らしている親と子には会う権利があります。
お子さんがいらっしゃる場合の離婚問題に付きものの問題です。
子の権利なのか親の権利なのか議論はありますが、建前は別として、実務上は親の権利として争われているような感覚です。


離婚の相談の際、「何も要らない、ただ子供は相手に会わせたくない。」、とおっしゃる依頼者がよくいらっしゃいます。
お気持ちは非常にわかります。いいかげんなことあるいは無関心なことをして家庭を壊した相手に子供を会わせて子供を混乱させたくないということでしょう。


現在の裁判所の実務は、DV等よっぽどのことがない限り、子を親に会わせるという運用です。
ハーグ条約なり子どもの権利条約なりが影響しているかはわかりませんが、この1,2年はとくに強く押し進められている気がします。
そこで、上のような相談をされてしまうと、「残念ながら相手方が望めば拒むのは難しいです、ただ方法は工夫しましょう。」とお答えせざるをえません。


弁護士は裁判所(相手方)と依頼者の間に挟まれて、試験的な面会を事務所で開いたり等苦労をするのですが、裁判所はわかってくれません。第三者機関が介入して面会交流を設定してくれる制度もあるようですが、費用と合意が必要です。


一方、子供に会いたい親の気持ちも十分わかることです。


難しい問題ですが、やや裁判所は早急に面会を実現しようとする態度にあるなと感じてはいます。
離婚を争って、いがみ合っている中で、相手と時間を約束して子供を預ける、って簡単にはできませんよね。

離婚が実現すれば安心して子供とあわせることができるという方もけっこういらっしゃるのですが。


もちろん、別居している側の親の代理人となれば、早急な面会実現を求めるのが弁護士としての務めです。
ただし、きちんとけじめをつけた会い方をするよう依頼者には説明します。


子の面接交渉の問題は、子が成年に達するまで続く問題で、偶に会う親の方はかわいがっていいことしか言わない、育ててる親は厳しくせざるを得ないため、子供が混乱してしまうっていう事例があり、一方では育てている親が子に一方の親の悪口を吹き込んで会いたくないと言わせる事例もあったり、法律的に結論が出る問題ではないため、弁護士も悩むところです。


「親が親としての自覚をもって子供に接する。」、これさえできればいいのですが。
まあ、自分も子供に甘いといつも怒られるので難しいのでしょう。


今回は離婚問題には付きものの、面会交流についてお話しました。



広島市中区上八丁堀5-27-602
なかた法律事務所
弁護士 仲田 誠一

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弁護士費用の問題について(弁護士 仲田 誠一)

弁護士仲田誠一です。
 
よくある質問として弁護士費用の問題があります。
 
弁護士費用は弁護士に依頼する際には重要な判断事項ですね。
 
相場はいくらぐらいか、と聞かれることがあります。基本的には弁護士事務所と依頼者の相対で費用は決まるものなので、相場はあってないようなものです。
いろいろな弁護士に相談をしたらお分かりかと思いますが、バラバラです。
 
各事務所に費用の基準を備えつけるようになっているのですが、多くの事務所では旧日弁連の報酬基準を流用していると思います。
争いの金額等によって着手金、報酬金が算定できるのですが、事案によってはかなり高くなってしまいます。
 
現実には、お話を詳しく聞いたうえで、何をするのか、それにはどのくらいの手間がかかるのか、報酬がどれだけ見込まれるか、ご相談者がどれだけお支払いできるのか等、様々なことを考えて、事案に応じて費用を決めていることが多いです。
 
ホームページ等に出している費用よりも高いということはないでしょうが、それよりも低い金額でお受けすることはよくあります。
 
ここで注意をしていただきたいことがあります。
まずは、着手金と報酬金全体でいくらかかるのかを把握してください。
着手金が高くても報酬が見込まれないあるいは低額だと全体的に安くなりますし、その逆もあります。
次に、費用面だけで弁護士を選んではだめです。お医者さんなら安い方がいいとならないと同じ事です。
いいことばかり言わず、問題点をきちんと説明してくれ、責任をもって処理をしてくれると信頼できるかが一番大事なことです。もちろん、高いからいい弁護士、安いから悪い弁護士ということにもなりません。相談対応にも費用決定にも誠実さが大事だと思います。
 
結局は、信頼できる弁護士に出会えるまで、様々な弁護士に相談してみることがよろしいのではないでしょうか。
 
 
広島のなかた法律事務所
弁護士 仲田 誠一

交通事故に遭ったら... (弁護士 仲田 誠一)

広島のなかた法律事務所の弁護士仲田誠一です。
 
今回は交通事故に遭った時の簡単な話をします。細かい話はまたの機会にお話しします。
 
交通事故に遭ったらどのような流れで進んでいくのでしょうか。
 
もちろん、まず警察を呼んで記録を作ってもらってください。
 
その後、加害車両が任意保険に入っていた場合には、保険会社から連絡が来ます。
通常は当座の治療費、交通費、休業手当等を支払ってくれ、また治療費の代払いをしてくれます。もっとも、あくまでも過失相殺は後で処理をするという前提で支払って来ます。
そのため、あなたの方が明らかに100%に近い過失があるということになれば、この段階からスムーズにいかないでしょう。
一方、加害車両が任意保険に入っていない場合には、自賠責の被害者請求等を行うことを検討しなければなりません。
 
治療が進み、症状固定(客観的にもう症状が改善しないという段階です)をした段階で後遺障害が出ているか出ていないかを前提に、本格的な示談交渉をすることになります。
た だ、一定期間経過すると一方的に治療費の支払いを止めて症状固定診断を迫る保険会社もいます。医者とよくコミュニケーションをとって、保険会社からの照会 に対して、言質を取られるようなことはないように、きちんと「治療中で症状固定はまだだ。」と回答してもらうようにしてください。
 
弁護士に相談するのはどの段階がよいのでしょうか。
依頼をするかしないの話は、示談交渉の段階、あるいはそれまでに揉めた場合にはそのタイミングでいいと思います。
ただ、交通事故に遭ったら早いうちに今後のことを弁護士に相談し、基礎知識を得て、アドバイスを受けておいてください。特に、保険会社等の、○○は払いますという言葉はうのみにしないでください、書面化しなければ平気で覆してきます。
このようなアドバイスを早めに専門家から聞いてください。
 
最後に雑感を。加入者の立場からは揉めない保険会社(きちんと被害者に保険金を払ってくれる会社)がよい保険会社です。
揉めて裁判になると、裁判所に出頭をしなければならない事態に陥ります。強硬な交渉をしてくる保険会社が中にはいますが、加入者にとってはよくない保険会社ですね。
実名を挙げるのは控えますが・・・

「相続放棄はいつまでできるか?」【相続家庭問題14-2】

弁護士の仲田誠一です(広島弁護士会所属)。


昨晩は時間をかけて手紙を書きました。

私が大学を卒業して初めて配属された銀行の支店長であり,その後いくつかの銀行の役員などを歴任され,昨年から隠居生活に入られた方です。お世話になった方です。

新前銀行員の私にとっては,当時,話すのも恐れ多い存在の方でしたが,縁あってまだ交流が続いています。

不思議なもので,怖い人は何年経ってもやはり怖いですね。その方に対する手紙の文章も,恥ずかしくないように何回も書き直して,ようやく書き上げました。


さて,前回の続きです。相続放棄の熟慮期間の具体例をお話したいと思います。


◆ 前回の復習

最高裁の立場では,

3ヶ月の熟慮期間の起算点(「自己のために相続の開始があったことを知った時」)は,原則として,相続人が相続開始の原因となった事実および自己が法律上の相続人となった事実を知った時です。

ただし,例外的に相続人を保護していました。

相続開始を知ってから3ヶ月以内に相続放棄または限定承認をしなかった理由が,被相続人に相続財産が全くないと信じたことであり,
かつ,
相続人の生活歴,被相続人相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて相続人に対し相続財産の調査を期待することが著しく困難な事情があって,相続人がそう信じることに相当な理由があるときは,
相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した又は通常これを認識しうべき時」が熟慮期間の起算点です。

それでは,どのような場合に,被相続人に相続財産が全くないと信じ(善意),かつ信じたことに相当の理由がある(相当性)と認められるのでしょうか?

具体例を見てみましょう。


◆ 肯定例

善意かつ相当と認められた(相続開始から3ヶ月以上先後に行われた相続放棄が有効とされた)例をいくつか挙げます。

最高裁の判例の事案は,被相続人相続人との行き来が14年以上途絶えていた,被相続人が債務を負ったのは交渉が途絶えてから10年後だった,被相 続人から資産負債の説明を受けたことはない,相続すべき積極財産がなく葬儀も行われなかった,その1年後に判決正本の送達を受けて初めて債務の存在を知っ た,などの事情から,被相続人に相続財産が全くないと信じたことに相当性を認めました。

相続人が被相続人と別居してから被相続人死亡まで30年間以上全く交渉がなかった,葬式の時も内縁の妻が喪主となり相続人は資産負債について話を聞かされなかった,某信用保証協会の突然の通知で債務があることがわかったという例。

相続人の債権者から突然内容証明郵便が送られて来たが,それまで全く交渉のなかった債権者から突然送られたこと,その記載内容や添付資料も不十分であることから,その後4ヵ月後に行った相続放棄を有効とした例。

事例が少ないのですが,基本的には,相続人に相続財産調査を期待できない事情があるケースですね。

最初から認められたケースでは,そもそも争いにならないので,当然に裁判例が残りません。そのため裁判例は否定例の方が多いです。


◆ 否定例

善意かつ相当と認められなかった(相続開始から3ヶ月以上先後に行われた相続放棄が無効とされ,単純承認の扱いになった)例をいくつか挙げます。

それらを大きく分けると,諸々の事情から相続人が簡単に相続財産債務の調査ができたであろうと判断される例と,一部でも積極財産の存在を認識した以上はたとえ借金を知らなくてもその時から3ヶ月の熟慮期間が進行するとされた例です。

そうであれば,被相続人に積極財産がない場合であっても,借金があるかもしれないと少しでも疑う場合には,必ず債務の存否の調査をしなければならないということになるでしょう。放っておいてはいけません。
また,一部でも不動産や預金などの積極財産があることを知ったなら,必ず債務の調査もする必要があるということになります。

気をつけて下さい。

具体的にはこれらの例です。

相続人は被相続人と同居し,被相続人死亡後はその経営していた会社の役員となっていた,被相続人の死亡後に相続不動産を第三者に賃貸した等の事情か ら,相続人は被相続人が積極・消極の財産を有していたことを知っていたものと推認されるし,財産がないと信じたとしても相当性がないとされた例。

相続人と長年月没交渉であったわけではなく,相続人の学生時代は被相続人の元に出入りしていたから,その生活状態を認識していた筈であること,他 の相続人(その人の母親)に対して債権者から照会が来ているから相続人は簡単に債務の存在を調査できた,などの理由から,相当性が否定された例。

会社員である被相続人の死亡時に,負債の存在は知らなかったとしても不動産などの相続財産の存在を知っていた,被相続人は会社員であってもその妻は 個人事業主であり事業に関連して保証債務を負う可能性もあること,被相続人死亡時にその妻に多額の借金があることを知っていたこと,被相続人と同居してい た他の相続人に容易に被相続人の債務の有無などを確認できたこと,などの理由から,相当性を否定した例。

相続人死亡時に,被相続人の積極財産の一部として土地,預金が存在することを知っていた以上,高額の相続債務があることを知らなくても,被相続人死亡時が熟慮期間の起算点となるとした例。

相続人死亡時に,被相続人の積極財産として不動産の存在を知っていた以上,長男が相続するものと信じ,自分は相続することはないと信じたとしても,被相続人死亡時が熟慮期間の起算点となるとした例。


最後の2つの例は,相続財産の一部でも認識したらその時が熟慮期間の起算点だとする判例に沿うものです。しかし,近時は,事情によって反対の判断をする裁判例もあります。

例えば,相続人が遺産の存在を認識していたとしても,他の相続人が相続する等のために,自己が相続すべき遺産はないと信じ,かつ,そう信じる無理からぬ事情がある場合には,熟慮期間は未だ進行しないとする裁判例があります。
また,被相続人の死亡時に相続財産の存在を知っていても,自らは全く承継しないと信じ,かつ,そう信じる相当な理由がある場合(そのケースでは遺言書がありmなした)には,被相続人の死亡時を熟慮期間の起算点としないとする裁判例もあります。

今後はこちらよりの判断がされる可能性が高いでしょう。


◆ 最後に

最後まで読んでいただいた方がいらっしゃるかわかりませんが・・・

上記のように,裁判では,具体的な事情によって微妙な判断がなされるようです。

不安になったらすぐに専門家に相談してください。
裁判で争わなくていいようにするに越したことはありません。


「相続放棄はいつまでできるか?」【相続家庭問題14-1】

弁護士の仲田誠一です(広島弁護士会所属)。


最近「ぬた」をよく食べています。「わけぎ」と酢味噌があれば簡単にできるからいいですね。葱で作るよりも「わけぎ」で作るほうが,やはり食感がよく,おいしいです。

「ぬた」に和えるのは,タコがいいです。今,タコは高いですね。高級魚並みです。昔は安かった記憶があるのですが。
私の育った家の近所の海では,蟹型の疑似餌を投げれば,数時間で何回かタコがかかりました。餌になる蟹やエビが減ってきているのでしょうか。


さて,相続放棄については以前にもお話ししましたが,今回と次回にわたり,相続放棄はいつまでできるか?についてお話しようと思います。


◆ 被相続人に借金がある場合にとる手段

田舎で1人残っていた母親が亡くなり,葬式も終わり,あなたが家を片付けました。その際,母親に多額の借金があることがわかったらどうしましょう?

相続人(母親)の借金などの債務は,相続分に応じて,相続人(あなたなど)に承継されるのが原則です。

原則どおり母親の借金をあなたが返すかどうか,選択肢は3つあります。

まず,財産よりも借金が明らかに大きいときには,特別な事情がない限り,「相続放棄」をすることになるでしょう。
相続放棄をした相続人は, 初めから相続人ではなかったものと取り扱われます。その結果,先順位の相続人が全員いなくなれば,後順位の推定相続人相続人となります。そのため,相続 順位ごとに相続放棄を順次検討する必要があります(第1順位の推定相続人が全員相続放棄をすれば,次に第2順位の推定相続人相続人となるから,再度その 時点で相続放棄をするか検討しなければなりません)。

次に,財産と借金のどちらが大きいかわからない場合には,「限定承認」をすれば,相続財産の範囲で借金を返済することができます(負債が返済しきれない場合も相続人は相続債務を負担しません)。
相続人全員が行う必要があることや手続が煩雑であるなどの理由から,あまり使われてはいません。

最後に,「単純承認」です。財産を受け継ぐ代わりに,原則どおり債務も受け継ぎます。
財産の方が借金よりも明らかに大きい場合や,負債の方が大きくてもどうしても手放せない財産があるなどの理由で放棄などができないケースには,単純承認することになります。

単純承認には手続は要りません。しかし,「相続放棄」および「限定承認」をするには家庭裁判所に申し立てる必要があります。また,いつまでもそれらを申し立てることができるわけではなく,申し立てる期間(「熟慮期間」)が決められています。

 

相続放棄はいつまで申し立てれば良いのか

先ほどのとおり,相続の放棄には,申し立てることができる期間(「熟慮期間」)が決められています。母親の借金を引き継ぎたくないと思っても,何もせずに放っておくと,結局は引き継ぐことになってしまいます(単純承認)。

民法で定められた熟慮期間とは,「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内というものです。

短いですよね。なお,熟慮期間の伸長を家庭裁判所に申請すれば認めてくれることもあります。

遠く離れて住んでいた母親の借金は簡単にわからないことが多いでしょう。
また,悪知恵の働く債権者は,お母さんが亡くなってから3ヵ月経過後にあなたに対して返済を要求するかもしれません。

そのようなケースではあなたを保護して,お母さんが亡くなられてから3ヶ月経過後に借金がわかったときに,なお相続放棄を認めてもよさそうと考えられます。

そこで,民法で定められている「自己のために相続の開始があったことを知った時」とはどの時点か?が議論されることになります。
その時点を後にずらせば,より相続放棄がし易くなるのです。

この点は,相続放棄制度の捉え方によって考え方が異なります。

相続人が亡くなっても,財産・負債の存在を知らなければ,相続放棄等の手続はとらないで放っておくのが通常ですね。それなのに,被相続人の死亡の 事実だけ知れば3ヶ月の計算がスタートしており,3ヵ月経過後に借金が判明しても,もはや相続放棄をすることができないとするのは,少し酷だと考えられま す。

そこで,相続放棄相続人を保護するための制度だと考えれば,「自己のために相続の開始があったことを知った時」は,自分が受け継ぐべき財産または債務の一部でも知った時だ,と言いたくなります。

一方で,相続は単純承認が原則だ,相続放棄や限定承認は例外的に認められる,と考える人もいます。相続人は財産負債を受け継ぐのが当然だということですね。

そう考えれば,「自己のために相続の開始があったことを知った時」は,被相続人の死去(相続発生)の事実さえ知ったときでいい,財産・負債を知らなくて3ヶ月経っても,単純承認の原則に戻るだけだからいいじゃないか,となるのでしょう。

 

最高裁の判例は,相続人の保護を例外的に認める立場をとっています。

まず,熟慮期間の起算点(3ヶ月の計算の出発)は,原則として,相続人が相続開始の原因となった事実および自己が法律上の相続人となった事実を知った時だとします。

ここまでだと単純承認が原則で相続放棄は例外という考えと基本的に一緒ですね。

ただし,例外的に相続人を保護します。

3ヶ月以内に相続放棄または限定承認をしなかった理由が,被相続人に相続財産がまったくないと信じたことであり,かつ,被相続人の生活歴,被相続人相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて相続人に対し相続財産の調査を期待することが著しく困難な事情があって,相続人がそう信じることに相当 な理由があるときは,「相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した又は通常これを認識しうべき時」を熟慮期間の起算点にするとしました。

要するに,あなたが母親には財産も借金もないと信じて放っておいた,そしてあなたが母親とは疎遠でよく母親の事情がわからず,母親の家を片付けても 財産も借金も見つからなかったなど,あなたが母親には財産も借金もないと信じたことがもっともだという事情があるときは,1年後に債権者から借金の返済を 要求されたなど,母親の債務の存在を知ってから3ヶ月以内に相続放棄手続をすればいい,ということです。


◆ 最後に

少し長くなりました。

どのような場合に相続放棄がなお認められるか,具体的に判断するのは難しいところです。

例えば,財産は少しあることは知っていた,しかし後に多額の借金を請求された,というケースではどうなるのでしょうか?
実際にありえそうな話です

次回に,上記の判例を踏まえた,具体的な裁判例を紹介したいと思います。


「浮気をされて離婚されたら踏んだりけったり?」【相続家庭問題13】

弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。


最近は,ちょくちょく料理を作ったり,皿洗いをしたりしています。やってみると,気分転換ができていいですね。昨晩はチャーハンを作りました。おいしくできました。

昨晩もそうだったのですが,私が炊事を手伝うのは,自分が仕事で疲れているときが多いです。仕事で疲れていらいらしている時ほどリフレッシュできます。

さて,今回は,久しぶりに離婚の話です。

以前に裁判離婚のお話をさせていただきました。その際に有責配偶者からの離婚請求について少しだけ触れたと思います。今回はそのお話をしたいと思います。


◆ 以前お話した内容

「裁判離婚の話」で,裁判離婚には「法定離婚原因」が必要だ,その「法定離婚原因」には4つの「具体的離婚原因」と「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」という「抽象的離婚原因」があるとお話しました。

そして,不貞行為をしたなど婚姻関係破綻に責任がある配偶者からの離婚請求を,「有責配偶者の離婚請求」と呼び,有責配偶者が「婚姻関係が破綻したから別れたい」と言っても簡単に認められるものではない,ともお話しました。


◆ 踏んだり蹴ったり判決

他の女性の元に走って家を出た夫が,別居後十数年後に,もう婚姻関係が破綻したとして,妻に対して離婚を請求する訴訟を提起したとしましょう。
すでに長期間別居して婚姻関係はすでに破綻し,回復する見込みもないと考えてください。

ところで,抽象的離婚原因である「婚姻を継続し難い重大な事由」がある場合とは,「婚姻が破綻して回復の見込みがない」場合です。

客観的に見て,婚姻関係が破綻して回復の見込みがないのなら,「婚姻を継続し難い重大な事由」があり,したがって離婚を認めるべきだと思うでしょうか(積極的破綻主義と呼ばれます)?

確かに,形式だけの(実質を伴わない)婚姻関係に人をしばるのは,無意味だとも思えます。

しかし,有責配偶者の離婚請求を認めるのは,やはりすっきりしません。公平ではない,卑怯だ,と考えるもの人の自然な感情ではないでしょうか。

落ち度のない妻が離婚を望んでいない以上,不誠実な夫の請求なんて認める必要はないとも考えられます。

最高裁も当初はそのような立場でした。
夫の請求を認めると,妻は,「踏んだり蹴ったりだ」という理由であったため,「踏んだり蹴ったり判決」と有名です。浮気されて,しかも離婚されて,踏んだり蹴ったりだということですね。


◆ 条件付に離婚が認められるようになった現在

「踏んだり蹴ったり判決」から時代がだんだん下るにつれ,最高裁の態度は徐々に緩和されて来ています。現在では,不貞行為を行った夫または妻(有責配偶者)からの離婚請求であっても,条件付では認められるようになりました。

道徳で人を縛るのは現代的ではないということでしょうか。

その最高裁の事例は,別居後35年を超え,夫婦の間には子がいなかったケースでした。

理屈をご紹介します。

まず,有責配偶者の離婚請求は,信義誠実の原則(以前にも出てきました)に照らして許されるものでなければならない。

そして,その判断は,有責配偶者の責任の程度,相手方配偶者の婚姻継続の意思や感情,相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態,夫婦間の子の監護・教育・福祉の状況,別居後に形成された生活関係,これらに与える時の経過の影響,などの諸事情を考慮して,なされる。

有責配偶者からの離婚請求であっても,別居が年齢および同居期間に比して相当の長期間に及び,その間に未成熟子がいない場合には,特段の事情がない 限り,許される。その特段の事情とは,離婚すれば相手方配偶者が苛酷な状態におかれるなど,離婚請求を認めることが著しく社会正義に反する事情である。

というものです。

時代の流れに乗って,最高裁が離婚を認める事案の別居期間が,徐々に短くなって来ております。10年未満の別居期間であるケースも出てきています。

もちろん,離婚請求が認められるかどうかは,期間だけで決まるわけではありません。
最高裁は10年を一応の目安にしているのではないかなどと言われていますが,上に挙げた諸事情が総合考慮されますので,期間だけで目安をつけるのは無理な話です。

有責配偶者に有利な事情としては,毎月きちんと相手方配偶者に送金している,相手方配偶者に多額の財産分与を申し出ている,夫婦の子が成人になった,といったものがあります。
それらの事情があれば離婚が認められやすいようですが,それも一概には言えません。


◆ 最後に

諸事情を総合考慮して判断される点が争いになっている事件については,訴訟の見通しが難しいところですね。

いろいろな事例を探して,それとの対比で見込みをつける必要がありますが,当然に事件はそれぞれに違い,似たケースというものがない場合もあって,なかなか難しいです。

なお,裁判所は,原則を大事にして,事実の面であれ,評価の面であれ,例外ケース(「特段の事情」)をなかなか認めないなと感じることがあります。もちろん,一概には言えませんが。

 

じっくり話し合い、問題解決に導く法律のプロ 弁護士仲田誠一の取材記事はこちら!
(http://pro.mbp-hiroshima.com/nakata-law/)


「親子じゃないのに子が相続?」【相続家庭問題12】

弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。

 

昨晩の食事は,もやし鍋でした。市販される鍋のつゆの種類が最近増えてきましたね,昔はキムチとちゃんこぐらいしかなかったように思います。カレー 鍋が出てきたあたりから急に増えてきたような気がします。鍋は野菜をたくさん食べることができるので,週に1度は食べています。

 

 

今回は,最近,法律雑誌に載っていたおもしろい裁判例を題材にお話をさせていただこうと思います。


◆ 親子関係が存在しない戸籍上の子には相続権がない

親子関係が存在しない戸籍上の子とは,どのようなケースでしょうか?

親族などから子を譲り受ける形で,虚偽の出生届を出し,実子として育てる例があります。これは,「藁(わら)の上からの養子」と呼ばれる慣行です。その出生届は虚偽のため無効であり,また出生届は縁組届の形式をとっていないため養子縁組としての効果も生じません。

珍しい例としては,産院で乳児が取り違えられた例もあります。

もちろん,戸籍上「子」と記載されていても,事実の方が優先します。

「子」は,第一順位の相続人ですが,親子関係がない以上は,戸籍の記載があっても,相続人の資格はありません。

他の相続人などの利害関係人から,親子関係不存在確認訴訟によって親子関係が否定されると,相続を受けられないことになります。


◆ 最近の裁判例

最近出た控訴審判決の中に,このような事例がありました。まだ,結論が出ていない事案のようなので,事例自体はデフォルメさせていただいております。

産院で取り違えられて長男として戸籍上の記載があるYさんは,戸籍上の父母と実親子同様の関係で生活していました。ところが,戸籍上の父母の死後, 戸籍上の弟Xさんらと相続をめぐって対立しました。そして,その遺産争いを直接のきっかけにして,XさんらがYと戸籍上の父母の親子関係不存在確認訴訟を 提起しました。

Xさんらの請求は認められるでしょうか?

DNA鑑定でYさんが戸籍上の父母の子ではない事実は確認されています。事実である以上,親子関係がないことの確認が認められるべきだと思われるで しょうか?実の子であるXさんらからすれば,実子ではないYさんが,相続において,自分たちと同じ「子」として平等に扱われるのは許せないかもしれませ ん。

もちろん,理屈はそうです。真実の親子関係と戸籍の記載が異なる場合には,親子関係が存在しないことの確認を求められることが原則です。
第一審はその原則どおりに考えたようです。

一方で,実の親子と同様に育った事実は無視していいのでしょうか?Yさんには落ち度はありません。遺産相続争いという財産争いのために,これまで築いてきたYさんの人生を否定してもいいのでしょうか?血縁関係がないといっても,日本では養子も認められていますよね?

例外的に,Yさんを保護してあげないといけないケースがあるような気がしますよね。


◆ 裁判所の判断

上のように,第三者(Yさんと戸籍上の父母との親子関係については実の子は第三者です)から,戸籍上の子と親の間の親子関係不存在確認訴訟が提起されたケースについては,5年ほど前の最高裁の判例がありました。

最高裁判例の事例は,「藁の上からの養子」のケースだったようです。

最高裁は,具体的な事情を考慮して,実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な場合には,その確認請求は権利の濫用として許されないと判断しました。

そして,考慮される事情としては,
①実の親子と同様の生活実体の長さ
②不存在確認を認めることによって戸籍上の子が被る精神的・経済的不利益
③改めて養子縁組の届けをして嫡出子の身分を得ることができる状況か(父母が死んでいたらもう養子縁組ができない)
④第三者が不存在確認を請求する経緯,動機・目的
⑤不存在を確認できないことによって第三者以外に不利益が及ぶか
等の諸般の事情を挙げています。

実の親子として何十年も暮らしてきた,そのため本人のショックが大きいし遺産をもらえないのも酷だ,戸籍上の父母が亡くなっているから改めて養子縁 組できない,第三者が訴訟を提起したのは遺産目的・財産目的だ,戸籍を直さなくても他に支障はない,といった事情があれば,実親子関係の不存在確認は許さ れない可能性が高くなります。

不存在確認が許されないということは,結局,戸籍上の子はそのまま相続できるという結果になります。

そのため,「親子関係のない戸籍上の子が相続する」ことが実質的に認められることになります。

最近の控訴審の裁判例でも,上の最高裁判例と同様な判断枠組みで判断しました。最高裁の「藁の上からの養子」(戸籍上の父母は知っていた)事例ではなく,産院での取り違え(戸籍上の父母も知らなかった)の例でも,同じ枠組みで判断したところが新しいところです。

同裁判例は,①Yさんは戸籍上の父母と46,7年間という長きにわたり実親子関係同様の生活実体を形成してきた,②戸籍上の父母が亡くなっており新 たにYさんが養子縁組をすることができない,③不存在確認を認めるとYさんに重大な精神的損害・少なからぬ経済的損害を与えること,④Xさんらの訴訟提起 は遺産争いを直接の契機としている,⑤不存在を確認できなくてもXさんら以外に不利益を受ける人はいない,などの事情を考慮して,Xさんらの親子関係不存 在確認訴訟は権利濫用として許されないとしました。


◆ 最後に

親子関係がないのに実質的に相続を受けられるという例を紹介しました。意外だったのではないでしょうか。

法律は,法的安定性(継続している事実状態を尊重するという姿勢)を重視します。継続する事実状態が容易に覆されると,それを前提に形成されてきた社会関係が混乱してしまうからです。前々回お話した時効制度も事実状態の尊重がその根本にあります。

上のような親子関係不存在確認訴訟も,形成されてきた生活実体を重視し,血縁主義や戸籍は正確でなければならないという要請の例外を認めたものだと思います。

 


「だれが相続人になる?」 【相続・家庭問題11-2】

弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。

さっそくですが,前回の相続人の話の続きをお話いたします。

 

◆ 同時死亡の推定

事故などで,数名の人が亡くなり,そのうちある人が死亡した時点で他の人が生存していたかわからない場合には,法律上,同時に死亡したものと推定されます。これが同時死亡の推定です。

推定ですから,反証(証拠を出して覆すこと)はできます。

同時死亡とされる場合には,それらの者相互の間では相続が生じません。遺贈の効力も発生しないことになります。
例えば,祖父A,祖母B,父であるABの子C,母であるCの妻D,CDの子Eがいるケースを考えましょう。AとCが事故で亡くなったとします。

まず,Aが亡くなったら,相続人は妻Bと子Cですね。Cが亡くなったら,相続人は妻Dと子Eですね。
次に,Aに不動産があるとして,Aが先 に,次いでCが亡くなったら相続はどうなるでしょう。不動産の相続者は,まずAの妻B・子Cが1/2ずつでAを相続して,さらにCの妻Dと子EがCを1 /2ずつ相続します。結局,不動産は,祖母B1/2,嫁D1/4,E1/4の共有状態となります。
父Cが先に,次いで祖父Aが亡くなったらどうでしょう。Aの不動産の相続人は,Aの妻であるBが1/2,Aの孫Eが既に亡くなったCの代襲相続人として1/2を相続します。結局,B1/2,E1/2の共有状態となります。仮に,Eがいないとすると,Bがすべて相続します。
このように,死亡の先後によって相続の結果は大きく変わります。

そのため同時死亡の推定により,反証がない限り,その間では相続の関係がないものとして公平に扱うのです。
AとCとの間で相続の関係が生じないということは,Aの財産は,本来B1/2・C1/2で相続されるはずですが,Cがいないので,前回お話しした代襲相続により1/2をCの子であるEが相続します。Cの財産は,もちろん,DとEが1/2ずつ相続します。


◆ 遺言を破棄すると相続人でなくなる-相続欠格

民法では,一定の行為をした者は相続権を剥奪されると定めています。それが,相続欠格の制度です。

遺言の破棄は,その相続欠格事由の1つです。

相続欠格事由には,
1 被相続人,あるいは相続について先順位・同順位にある者に対する殺人・殺人未遂の刑を処せられた
2 被相続人が殺害されたことを知って,告訴・告発をしなかった
3 詐欺や強迫により,相続に関する被相続人の遺言作成・取消し・変更を妨げた
4 詐欺や強迫により,相続に関する被相続人に遺言作成・取消し・変更をさせた
5 被相続人の相続に関する遺言書を偽造・変造,破棄・隠匿した

相続欠格は,前回お話した代襲相続の原因となります。相続欠格者に子がいれば欠格者に代わって相続人となることになります。

相続欠格制度は,相続人の著しい非行行為を理由に,相続資格を法律上当然に剥奪する制度です。したがって,なんらの手続も要りません。


◆ 放蕩息子に相続させたくない -廃除

相続欠格ほどの非行や不正がなくても,被相続人が特定の推定相続人にその財産を相続させたくない場合,その意思によって相続資格を奪う制度が廃除制度です。

以前にお話したように,兄弟姉妹を除く相続人には,遺留分の権利がありますから,遺言を作成して特定の者に相続させないようにしても,限界がありま す。生前贈与で他の推定相続人に財産を移転させる場合も,税金の問題が生じますし,遺留分の問題もやはり残ります。しかし,推定相続人に対して相続させた くないという被相続人の意思に客観的に合理的な理由がある場合にまで,遺留分を保障する必要はないですよね。そのため,一定の要件の下で,裁判所が許可し た場合に限り,遺留分を有する推定相続人の相続権を奪う廃除制度があるのです。

どのような場合に廃除できるかは,法律で決まっています。推定相続人に,被相続人に対する「虐待」「重大な侮辱」「著しい非行」がある場合です。そ の判定は,家庭裁判所が行うのですが,被相続人の感情など主観面からではなく,あくまでも客観的に判断されます。簡単に認められるものではありません。

有名な例では,年少時代から非行を繰り返し,暴力団員との交際・元組員との結婚,反対したにもかかわらず親の名前で招待状を出す,などの行為があっ た場合に認められたものがあります。否定されたものでは,過去に少年院に入ったが現在は更生した男性と親の反対を押し切った結婚した例などがあります。

廃除をするには,被相続人の請求が必要になります。被相続人が家庭裁判所へ調停・審判を申し立てる方法か,遺言によって意思表示をして,その死亡後に遺言執行者が家庭裁判所に廃除請求をする方法があります。

なお,一旦廃除しても,素行を改めたなどの理由で,その取消しをすることもできます。


相続人がいない場合は?

調査の結果,相続人がいるようだが行方がわからない場合と,調査の結果,相続人が本当にいないとわかった場合に分けてお話します。

相続人に行方不明者がいる場合は?
生死不明の状態が7年以上の場合には家庭裁判所に失踪宣告をしてもらえば,行方不明者が死亡したものとみなされますので,その時点と被相続人の死亡時の先後を見て,必要であれば行方不明者の相続人と遺産分割協議を行えばいいことになります。
生死不明の状態が7年以上続いているとは言えないような場合には,家庭裁判所に不在者財産管理人を選任してもらって,不在者財産管理人と協議,調停などを行えばいいことになります。

相続人がいない場合は?
戸籍上推定相続人となるべき者がいないか全員が相続放棄をした場合には「相続人不存在」の状態となります。
その場合には,利害関係人などが請求して選任される相続財産管理人が,相続財産から債務の弁済を行ったうえで,特別縁故者の請求があれば財産分与を行ったり,残りを国庫に帰属させます。

相続人に未成年者がいるとき

相続に未成年がいる場合に,困ることがあります。

父親がなくなり,相続人は母親と幼い子3人だとしましょう。親権者は母親であり,母親は子の法定代理人なのですが,母親が子を代理して行った遺産分 割協議は,法的には無効です(子が成年になって追認しない限り)。客観的には,母親と子は共同相続人として利害相反関係にあると見られ,利害相反ある代理 は本人の同意がない限り無権代理行為として無効だからです。

そのような場合は,法的には,家庭裁判所に対して,それぞれの子について特別代理人を選任してもらって,その特別代理人と遺産分割協議をする必要があります。

◆ 最後に
相続の話は,みなさんに身近なお話ですし,一般の方向けの書籍も多数あります。当事務所へ相談に来られる方も,ある程度の知識を持って相談に来られますし,自分で手続などを始めている方も少なくありません。

ただ,相続に関する話は,奥が深く,ある程度の知識だけでは対応できないものだと感じています。知識の誤解や感情的な主張や言動によって,手続を誤った方向に進めていたり,いたずらに対立を激化させているような例も少なくありません。

そのようなことにならないようご注意ください。

 


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