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コラム 身近な法律知識

民法改正講座4 [身近な法律知識]

広島市の弁護士仲田誠一です。

 

改正民法(債権法改正)の施行が近づいて来ました。2020年4月1日です。

大事な法律なので、改正点をかいつまんでですが説明させていただいております。

 

今回は時効の話ですね。時効は馴染みがある言葉だと思います。

 

刑事で言われる場合は公訴提起時効のことですが、民事で言われる時効は、取得時効と消滅時効です。

 

時効の援用(145条)】

時効の援用とは消滅時効、取得時効を主張することですね。援用により権利が消滅あるいは権利を取得します。

改正前では、「当事者」が時効を援用できると規定されていましたが、改正法は、「当事者」のほかに「消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有するものも含む。」と判例法理に従って明確にされました。

 

【裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新(147条)】

時効の完成猶予について旧条文を整備したものです。

時効の完成猶予は時効の停止と言われていた概念です。時効期間の進行が止まることですね。

裁判上の請求(訴訟等です)、支払督促、和解・調停手続、破産手続・再生手続・会社更生手続参加があれば、それが終了するまで時効期間は経過しません。

 

確定判決等によって時効期間が延びることなく手続が終わった場合には手続が終わってから6カ月は時効が完成しません。

時効が完成しそうなときは、時効完成を阻むにはとりあえず訴訟を提起する等をしないといけません。

 

確定判決等によって権利が確定したときは、上記手続が終了した時から新たに時効の進行が始まります。

消滅時効を援用して債務整理する際には、確定判決等の債務名義があるかどうか確認をしないといけませんね。

 

【強制執行等による時効の完成猶予及び更新(148条)】

こちらも強制執行等と時効の完成猶予の関係を整理した条文ですね。

強制執行、担保権の実行、競売、財産開示手続中は時効の完成が猶予されます。手続が取り消されて終了した場合には終了から6か月は時効が完成しません。

同手続が終わった時は、その時から新たに時効が進行します。ただし、取消しによって終了した場合にはその効果はありません。

 

なお、強制執行が空振り、あるいは費用を支弁するほどの物がなく、取下げられたため手続が取り消された場合の時効の進行については争いがあります。

ケースバイケースの判断にならざるを得ないですね。

 

【強制執行等による時効の完成猶予及び更新(149条)】

仮差押え、仮処分は改正前では時効中断事由(時効がリセットされる事由)とされていたましたが、終了から6か月間時効が完成しない時効の完成猶予事由に変更となりました。

 

【催告による時効の完成猶予(150条)】

催告は、裁判外での請求行為、請求書の送付等だとイメージしてください。

規定が整理されました。

催告があった場合には、その時から6ケ月を経過するまで時効は完成しません。

催告によって時効の完成が有訴されている間に再度の催告をしても時効の完成猶予の効力がないという判例法理も明文化されました。

 

催告を繰り返して時効の完成を延ばすことはできません。完成猶予中に訴訟等をしなければなりませんね。

 

【協議を行う旨の合意による時効完成猶予(151条)】

新しい制度ですね。

権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、時効完成が猶予されます。

合意があった時から1年を経過した時

当事者間で定めた協議期間

協議続行拒絶通知の時から6か月

のいずれか早い時までです。

 

再度の合意もできます。時効完成が生ずるべき時から通算5年までです。

催告による時効完成猶予との併用はできないとされています。

上記合意は電磁的記録によってすることもできます。

 

このような合意ができる場合には時効が完成しそうだからといって急いで訴訟を提起する必要はないということですね。

 

【承認による時効の更新(152条)】

規定の整備だけですね。

承認は時効の中断事由でしたが、更新事由と改められました。

承認があったかどうか争われる例も珍しくありません。一部弁済をすれば原則承認になりますが、例外的には承認と見られないケースもあります。

 

時効の完成猶予または更新の効力が及ぶ者の範囲(153条)】

改正前148条は時効中断事由は当事者及び承継人の間にのみ効力を有するとしていましたが、時効の更新(中断が更新と変わりました)及び完成猶予にについて同様の規定が整備されました。

 

【債権等の消滅時効(166条)】

割合大きな改正ですね。

改正前は、消滅時効は権利行使ができるときから10年間、所有権以外の財産権は20年間が時効期間でした。

改正により、債権は、

債権者が権利を行使できることを知った時から5年間行使しないとき

または

権利を行使することができるときから10年間行使しないとき

に消滅します。

 

後者は客観的な権利行使可能時点です。

前者は主観的な権利行使可能時点です。

通常は両者が一致しますね。結局、債権は5年が原則と考えておいた方がいいでしょう。

 

あわせて、商事消滅時効5年(旧商法522条)が削除され、商事、民事とも統一的な判断がなされることになります。

 

さらに、改正前170条から174条の短期消滅時効が削除されました。債権の種類によっては、1年から3年という短期消滅時効が定められていたのです。

統一的な規定にしたため、短期消滅時効に該当する債権に該当するか、商事債権に該当するかどうかを考えなくても済みます。

 

【人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効(167条)】

実質的に債権の消滅時効は短くなりました。

そこで、人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効の特則が設けられています。

債権者が権利を行使できることを知った時から10年間行使しないとき

または

権利を行使することができるときから20年間行使しないとき

に消滅します。

 

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広島の弁護士 仲田 誠一

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民法改正講座3 [身近な法律知識]

広島市の弁護士仲田誠一です。

 

改正民法(債権法改正)の施行が近づいて来ました。2020年4月1日です。

大事な法律なので、改正点をかいつまんでですが説明させていただいております。

 

表見代理、無権代理の話が続きます。

 

【代理権授与の表示による表見代理(109条)】

代理権授与表示をした本人は、表見代理人がしたその表示範囲内での行為について善意無過失の相手方に対して責任を負います。
代理権授与を表示した以上、有効な代理行為と同じく法律効果を甘受しなさいということですね。そこは変わりません。

2項では、さらに、その表見代理人がその表示された代理権の範囲外の行為をした場合について、判例法理を明文化しました。
相手方が、その行為の代理権があると信ずべき正当な理由がある限り本人が責任を負うとされています。

109条と110条の重畳適用の場面として司法試験の勉強でならった例です。

 

【代理権消滅後の表見代理(112条)】

代理権を与えた本人は、代理権消滅後、表見代理人が消滅代理権の範囲内でした行為について、代理権消滅の事実について善意・無過失の相手方に対して、責任を負います。
代理権を消滅させる場合にはきちんと相手方に通知をしなさいということですね。弁護士の場合には、弁護士の方で辞任通知を送るのが通例ですが。

改正民法112条1項は、表現を整えただけで改正前民法と同じです。

2項では、代理権が消滅し、かつ表見代理人がその消滅代理権の範囲外の行為をした場合について、判例法理を明文化しました。
相手方が、代理権があると信ずべき正当な理由がある限り本人が責任を負うとされています。

これも110条と112条の重畳適用の場面として勉強した懐かしい記憶があります。

 

正直言って、表見代理についてはあまり実務上問題となるケースを目にしません。

個人間の取引で問題となることがあるのでしょうか。

会社間の取引関係では、それぞれの会社の人の行為は、支社長、部長、課長、担当者等の権限の範囲など細かいことは問題とせずに、会社の行為と見られる感があります。

 

【無権代理人の責任(117条)】

マイナーな分野が続きます。極力簡単にお話しします。

無権代理人は、代理権の証明または本人の追認がない限り、相手方に対して履行または損害賠償の責任を負います。当然ですね。誰でも履行できる債務でない限り、損害賠償での解決なのでしょう。1項は表現を整えただけの改正です。

2項では、相手方が悪意または善意有過失、もしくは無権代理人が行為能力のない場合には無権代理人は責任を負わないとされていた点について、相手方が善意有過失でも無権代理人が悪意である場合には保護しないという改正をしました。その場合にまで無権代理人を保護する必要はないですからね。

 

これで代理権関係から抜け出せました。

 

【原状回復の義務(121条の2)】

新設規定です。

債務の履行として給付を受けたがそれが無効な行為である場合、給付された方はその給付を保持する法律上の原因がありませんね。
無効だから返さないといけません、これを原状回復義務と言います。

法律的に言えば不当利得の話とされていました。改正により、無効な行為による原状回復義務が明文で整備されました。

 

無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う(1項)。これが原状回復義務ですね。

 

2項では、無効な行為が無償行為であるケースについて、無効あるいは取り消すことができることを知らなかった(善意の)相手方の返還義務の範囲を、「現に利益を受けている限度において」(現存利益)に限定しています。有償行為については、双方とも全部返還しあいましょうということになります。

 

3項では、行為の時に意思能力あるいは制限行為能力者であった場合の返還義務を、やはり現存利益の範囲に限定しています。

なお、善意の消費者が消費者取消権を行使した場合の返還義務も現存利益に限定されるという特則があります(消費者契約法)。消費者の保護の為です。

 

現存利益というのがわかりにくいです。現存利益は、受けた利益がそのままの形あるいは形を変えて残っている場合です。

お金を借金弁済や生活費に充てた場合には財産減少を免れて形を変えた利益が残っている、浪費すれば利益が残っていない、という話になるようです。

実務ではあまり出てこない話ですが、少し変な感じがしますね。

 

【条件の成就の妨害等(130条)】

1項はそのままです。

条件が成就することにより不利益を受ける当事者が故意に条件成就を妨げたときは、相手方はその条件が成就したものとみなすことができます。

例えば、成功報酬を決めていたところ依頼者が成果実現の直前に梯子を外して自分で成果を実現して成功報酬を支払わないようにしたケースです。

2項が新設されました。

条件成就で利益を得る当事者が不正に条件を成就させた場合には、相手方が条件成就をしなかったものとみなすことができるとしています。1項と逆のケースですね。

判例法理の明文化です。

 

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民法改正講座2 [身近な法律知識]

広島市の弁護士仲田誠一です。

 

改正民法(債権法改正)の施行が近づいて来ました。2020年4月1日です。

大事な法律なので、改正点をかいつまんでですが説明させていただいております。

 

【詐欺又は強迫(96条)】

詐欺又は強迫による意思表示は取り消すことができます。詐欺強迫により適切な意思決定ができない場合の保護規定ですね。意思表示の瑕疵の場面です。

 

実務上、詐欺の主張はよく使います。消費者被害の裁判であれば、消費者取消、錯誤、説明義務違反と一緒に主張することが多いです。

強迫は使う場面が限定されますね。大人が自由な意思決定の余地がない状況に置かれていたと立証できるのはなかなか難しいです。要件が緩和された消費者取消権の利用に頼ることが多いでしょう。

 

変更点は、

①第三者による詐欺の場合、取り消すことができるのが、相手方が悪意に限られていたのを、過失がある場合にも取り消すことができるとしたこと、

②詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者には対抗できないとされていたものが、善意かつ無過失の第三者には対抗できないとしたこと、

です。

いずれも通説に沿った改正です。

①については、詐欺商法の場合のクレジット会社への取消し効果の主張の場面のうち、割賦販売法の適用がさえない場面での活用がなされそうだと言われていますね。

 

【意思表示の効力発生時期等(97条)】

1項 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。

 

これを到達主義と言います。

旧97条1項では、隔地者間のことについて定めていましたが、一般に到達主義は認められているので、一般的に到達主義を認める規定に変わりました。

 

到達主義のため、解除通知等の法的効果に直結する意思表示は、基本的には内容証明郵便、場合によっては特定記録郵便で送ります。到達の事実、日時を証明できますから。

 

2項 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。

 

新設規定です。判例で、到達は相手方が了知可能な状態に置けば足りるとされていましたし。また、受領できるのにしない場合も到達したものと認められていました。

住所に送付すれば基本的には到達は認められますね。内容証明郵便の不在通知があると、放っておいたらいいというわけにはいきません。

 

【意思表示の受領能力(98条の2)】

意思表示の受領には、意思能力、行為能力が必要です。改正内容自体は表現の調整だけでしょうか。

意思表示をする場合には、相手方が未成年なら親権者に対して、成年被後見人であれば後見人に対してするのが基本です。

未成年者相手の裁判も身分関係の訴訟や相続関係でありますが親権者を被告として訴訟提起します。訴訟の途中で成人するということもありましたね。

 

【代理行為の瑕疵(101条)】

読みにくい規定です。判例の明文化による改正です。

 

代理人による意思表示の効力が、心裡留保、虚偽表示、錯誤、詐欺、強迫によって影響を行ける場合あるいは悪意もしくは過失によって影響を受ける場合には本人ではなく代理人について判断します(1項)。

 

相手方が代理人に対して行った意思表示の効力が、意思表示受領者の悪意、過失に関わる場合には、本人ではなく代理人について判断します(2項)。

 

実際に意思表示を行う、あるいは意思表示を受領するのは代理人ですからね。本人が知らんといってもダメなわけですね。

 

ただし、特定の法律行為を委託された代理人がその行為をしたときは、本人に悪意あるいは過失があれば、本人は代理人が知らなかった、過失がなかったと主張することはできません(3項)。これも当然ですね。

 

意識する、しないは別として、法的に見ると代理人が本人に代わって交渉等を行っていると捉えられる場面は珍しくないです。実務上、意外に使うことがある条文です。

 

【代理人の行為能力(102条)】

旧民法102条が、「代理人は行為能力者であることを要しない」と簡単に規定していましたが、その趣旨を明確化した改正です。

改正民法102条1項本文は、制限行為能力者が代理人としてした行為は行為能力の制限によっては取り消すことができないとしています。本人が代理人を選んだのだからリスクを負うべきですからね。

 

ただし、法定代理人(法律により包括的な代理権が与えられる)場合にはそうではありません。そこで、改正民法102条但し書きでは、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、行為能力の制限によって取り消すことができると例外を定めました。

 

【代理権の濫用(107条)】

代理人が自己または第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。

という規定が新設されました。代理権の濫用の規定です。

 

判例では、代理権濫用の場面では、心裡留保(93条但し書き)の規定を類推適用して、代理行為を無効としていました。代理人の目的と本人の真意の違いが、本人の真意と表示の食い違いに似ているということでしょうか。

 

上記条文はその明文化です。

ただし心裡留保の効果は無効であるところ、代理権濫用の効果は無権代理の扱いになりました。

後処理は無権代理の問題になります。

 

【自己契約及び双方代理等(108条)】

自己契約とは、法律行為の一方(契約の一方当事者等)が他方の代理人となることです。

双方代理とは、法律行為の当事者双方(契約当事者双方等)の代理をすることです。

改正前は、自己契約、双方代理は、債務の履行でない場合、あるいは本人があらかじめ許諾しない限り、できないと規定されていました。

 

改正法は、判例法理を明文化して整理しています。

1項では、自己契約、双方代理行為は、無権代理行為となると定めました。

ただし、債務の履行、本人の事前の許諾ある行為は有効な代理行為となることは変わりません。

 

2項で、代理人と本人間の利益相反行為についても、無権代理行為になると規定しました。この場合も本人の許諾あれば別です。

ちなみに、利益相反行為かどうかは、行為者の目的・動機は捨象して、外形的・客観的に判断することになっています。

 

弁護士が自己契約をすることは考えられませんが、双方代理はあり得ますね。

勿論民法上許される範囲で、かつ双方の同意を得て行います。

 

なお、弁護士は、依頼者間の利益相反行為も業法にて制限があります。

双方の同意があれば受任をすることになりますが、仮に利害相反が顕在化すれば双方とも辞任をします。相続問題の解決の際などにあり得る話です。

 

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同族中小企業の特殊性 [税法のお話15]

広島市の弁護士仲田誠一です。

法人税法のお話の最後です。

 

同族中小企業は、私法上、会社法等が想定する本来の法人の姿とは異なった実態であるという特殊性があります。
事業承継問題、オーナーの相続、オーナーの離婚が経営継続に影響を及ぼします。会社法ではなく民法の世界ですね。

 

同族中小企業は税法上も特殊な扱いを受けております。
個人事業とあまり異ならない実態から来る扱いです。

 

今回は、そのような同族中小企業の特殊性についてお話ししようと思います。

 

【私法上の特殊性】

まず、前提として私法上の同族中小企業の特殊性です。

 

会社法の建前は、株式会社は大規模公開会社を想定しています。

所有と経営の分離された会社です。株主がプロの経営者を雇う形ですね。

株主の有限責任(直接金融)が定められています。

また、株主保護の規定、厳格なルールを定めた規定が用意されています。

 

同族中小企業の実態は、所有と経営の一致です。

経営者である社長が会社の所有者である株主ですね。

有限責任は形骸化されています。社長が連帯保証人となっていますよね。

組織の形骸化し、会社法所定の手続の不履行も多いところです。

同族中小企業は、個人(民法)と会社(会社法)が未分離の状態なので、会社法だけではなく民法でも規律されます。

株主の相続が事業承継問題に直結しますし、離婚も関係してきます。持ち株、事業用財産は、相続の対象ですし、場合によっては財産分与の対象となります。

社長の責任は民法の連帯保証債務で無限化されていますしね。

 

【税法上の特殊性】

次に、同族中小企業は、税法においても、特殊な扱いがなされています。

税法は、同族中小企業に、

① 家族構成員(役員あるいは従業員として)に所得を分割する傾向

② 利益を内部に留保して法人税より高い所得税率の適用を回避する傾向

③ 所有と経営が結合しているためお手盛りによる取引や経理がされる傾向

があるとみているのです。

経営者が株主のチェックなしに何でも決められますからね。

 

そのため、租税負担の減少を図る行為に対応するための創設規定が用意されています。

 

ちなみに、
同族会社には、
同族会社(法人税法2条10号等)と特定同族会社(法人税法67条)の2種類があります。

簡単に説明しますと、前者は株主3人及び同族関係者で過半数以上の株式を保有、後者は1人の株主及び同族関係者で過半数を保有とイメージしておいてください。

 

典型的な同族中小企業は、たいてい両者に当てはまります。逆に、それに当てはまらなければ経営権が盤石ではなく、事業承継にも支障を来すなど、問題が大きいです。

同族中小企業である以上、株式の集中は経営のスピード維持、事業承継対策に必須です。

 

□ 留保金課税

特定同族会社には、特別税率(留保金課税)があります。利益を会社に貯めると税金がかかるのですね。

どうしてこんな税金がかかるのか不思議な方もいらっしゃるかと思います。

同族会社は利益を内部に留保して株主の所得税を回避する傾向があるため、個人企業と同族会社との間の負担の公平を図るべく、利益の内部留保に対して特別の法人税を課す趣旨です。

 

□ 同族会社等の行為・計算否認規定

包括的な否認規定があります。
法人税(所得税、相続税、地方税)の負担を「不当に減少させる」結果になると認められる場合に、税負担の公平を維持するため、正常な行為や計算に引き直して更正または決定を行う権限を税務署長に認めるものです。

これが怖いですね。

 

その適用は、当該行為計算が、純経済人の行為として不合理・不自然な行為・計算と認められるか否を基準として判定されます(経済合理性説)。

・ 当該行為・計算が異常ないし変則的であるか否か

・ その行為・計算を行ったことにつき正当な理由ないし事業目的があったか(租税回避の意図)

ですね。
 

所得税法157条の例としては、

     会社への無利息融資に利息相当額を所得加算

     同族会社への不動産管理料過大部分の必要経費否認

     同族会社への過少賃貸料部分の差額加算

があります。

例えば、同族会社に対する又貸し方式で過少な賃借料を設定した例で、同族関係ではない不動産管理会社に託した場合の管理料の賃料収入の金額に対する割合と比準する方法によって適正賃貸得額に引き直して課税することが許容されました(最高裁H6.6.21判決)。

 

法人税法132条の例としては、

     役員報酬・退職給与の過大な部分の損金算入を否認

     役員出張に同行した家族に支給した旅費を役員賞与

     役員への無利息融資につき利息を認定

     債務の無償引受けを寄付金ではなく利益処分

     資産の高価買入につき時価超部分を贈与

があります。

 

相続税法64条の例としては、
駐車場経営を目的として法人を設立し、被相続人との間で存続期間60年の地上権を設定したような例で、通常の経済人であれば到底採らない不自然、不合理な取引であるとして、地上権前提の90%控除の評価を認めなかった課税庁の行為が是認された例があります(大阪地裁H
12.5.12判決)。

 

その他同族会社に限られないものとして、法人税法22条、法人税法34条から36条等の規定も同族会社にありがちな行為の実質的な否認規定として利用されます。

 

このように、同族中小企業は、私法上特殊な存在であるだけではなく(勿論そのため生じる同族中小企業特有のリスクはケアしなければなりません)、税法上も特殊な存在になります。
特に、身内間で取引をする場合には、よくよく税務リスクを考えないといけません。

 

今回で法人税法のお話を終わりにさせていただきます。

 

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法人税法その4 [税法のお話14]

広島市の弁護士仲田誠一です。

 

同族中小企業にとって、役員報酬は、それを抑えて法人で利益を出して法人税を支払うのか、相応の支払いをして個人の所得を上げて所得税を支払うのか、ということが大事な経営戦略になります。

所謂、報酬戦略ですね。

 

法人で利益をたくさん出してたくさん法人税を支払う方針も否定はしません。また、所得税は超過累進課税ですので、所得税の方が法人税よりも税率が高くなるということもあるでしょう。

 

しかし、法人の自己資本をどんどん積み上げる結果何が起きるでしょうか。自社株の価値が上がり、事業承継の問題を複雑化させてしまいます。株式の価値だけ上がって、オーナー家族の資産があまりないというケースでは、相続等に苦労をすることになりかねません。その点で、必ずしも正しいとは思えません。

勿論、留保金課税もありますね。単純に税率で見てはいけません。

 

また、所得税を多く払ってでも、役員報酬額を戦略的に定めるべき場合も多いです。

事業承継対策として、あるいは連帯保証制度の下での信用力の問題として、オーナーあるいは後継者の個人資産の形成は重要です。

 

それでは、法人税法の「損金」のお話の続きをお話します。

 

法人税法上の「損金」に関する別段の定め(例外的な扱い)のお話の途中でした。

 

□ 寄附金(法人税法37条)の損金不算入

少しわかりづらい制度です。

寄付金とは、その名義の如何を問わず、金銭その他の資産または経済的利益の贈与または無償の供与をいいます。贈与よりも広い概念です。

寄付金は、直接対応した反対給付がないため、法人の事業活動に必要な費用であるかどうか(費用性の有無)を判断することが困難です(ない場合には利益処分の性質になります)。

そのため、行政的便宜と公平性の維持を目的に、統一的な損金算入限度額が定められ、超過部分を損金不算入としています(法人税法37条)。

 

「無償」とは対価またはそれに相当する金銭等の流入を伴わないことであり、その例としては、

子会社に対する内実を伴わない業務委託費名目の支出

売主に正常な対価を超過する支払をなした超過額

債務の免除をした債務相当額

使用権付建物譲渡の使用権の時価相当額 

などがあります。

 

名義を問わず、贈与等時点の時価で評価され益金に算入されます(法人税法37条7項)

ただし、広告宣伝費・接待費等の場合には寄付金になりません(同項括弧内)。

 

資産の譲渡または経済的利益の供与が時価相当額より低い対価を行われた場合の実質的な贈与または無償供与部分も寄付金とされます(37条8項)。低額譲渡の場面ですね。

 

□ 交際費

企業会計は交際費を費用計上することを認めています。損益計算書の販管費に計上されていると思います。

しかし、税法上は、特措法(同61の4、68の88)により交際費課税制度が定められています。基本的に資本金一定額以下の中小会社のみ一定額が損金算入可能ですが、その内容は特措法の度重なる改正で紆余曲折があります。

 

個人事業では交際費は悪とされていませんが、法人では悪者扱いだと言っていいのでしょう。個人事業は営業上交際費が必要である、法人は純経済的に合理的な営業しかしないから交際費は必要ない、と思われているのでしょうか。

 

企業の規模によっては、交際費にあたるのか(損金算入されない)、寄付金にあたるのか(限度額内の損金算入がなされる)、広告宣伝費・販売促進費にあたるのか(全額損金に算入される)が問題となります。

 

なお、東京高裁H15.9.9判決(萬有製薬事件)では、

交際費を定める特措法61の4Ⅰ③「接待、供応・・その他これに類する行為」に当たるためには、

① 支出の相手方が事業関係者等である

② 支出目的が取引関係の円滑化を図るものである

③ 行為の形態が「接待・・・類する行為」である

と3要件が必要とされています。

 

□ 使途不明金

使途不明金は、目的や内容、特に相手方が明らかではない支出です。通達では費途不明金」を損金不算入とされています(対役員の支出は役員報酬ないし役員賞与)。

法人税法上明文の規定はありませんが、当然のこととして判例も肯定しています。

 

※ 使途秘匿金課税(特措62)

ゼネコン汚職が契機となって制定された懲罰的規定です。

通常の法人税+40%課税されます。相当の理由がなく、かつ帳簿に相手方の記載なしという場合に使途秘匿金として課税されます。

 

□ その他損金不算入等

法人税額等の損金不算入(法人税法38条)。当然ですね。

 

課税繰り延べのための圧縮記帳(42、45、46、47、50)もあります。補助金等の額の範囲内で損金処理し取得価額を圧縮して課税繰り延べをする制度です。

 

引当金(法人税法52条)は、改正により法人税法上は貸倒引当金だけになったようです。所得税法では退職給与引当金もありますね。一定の要件の下で他にも認められるのではないかという見解もあります。

 

不正行為等に係る費用等の損金不算入(55条)。

 

等々、様々な損金不算入制度があります。損金不算入は税金を取る方向ですので・・・

 

今回は損金に関するお話の残りをお話いたしました。

 

次回は同族中小企業の税法上の特殊な扱いについてお話をします。

 

お悩み事がございましたらなかた法律事務所にご相談を。

 

広島の弁護士 仲田 誠一

なかた法律事務所

広島市中区上八丁堀5-27-602

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法人税法その3 [税法のお話13]

広島市の弁護士仲田誠一です。

 

法人税法のお話の続きです。

 

私は個人事業主ですが法人税の税務申告をしたこともあります。
法人の破産管財人として申告をするケースがあるのですね。

ちなみに、他人の所得税申告も、成年後見人としてしたことがあります。

 

元銀行員なので会計の知識はあり、決算書も読めます。簡単な決算書であれば作成も可能です。

ただ、税務申告は難しいですね。付表等とにらめっこしながら申告を行いました。

 

前回は、法人税法上の「損金」のことをお話しましたが途中で終わっていました。

今回はその続きです。

 

損金の通則を定める法人税法22条3項の特則(別段の定め)の続きをお話します。

 

□ 減価償却費(法人税法31条)

固定資産の取得費用を当期の損金として計上することは特例を除いて許されません。

減価償却資産は長期間にわたって収益に貢献します。

費用収益対応の原則からは、固定資産の取得費を使用または時の経過によって減価するのに応じて各事業年度の必要経費に配分することになっています。

減価償却費は、経済的には、投下資本の回収、更新資金準備の機能、要するにCFを生む機能を有する制度です。

キャッシュフロー表を見ると、減価償却費はプラスされる項目になっています。会計上は費用なのですが、実際にお金が出ていかないので、キャッシュフローにはプラスして戻すのです。

 

固定資産であっても、事業の用に供していない資産は減価償却資産から除外されます(施行令13条)。

節税スキームの金融取引で問題となる点です。フィルムリース事件とう有名な判例がありました。

 

減価償却資産には、有形固定資産だけではなく無形の償却資産(営業権等)もありますね。営業権というとMAで見るものです。赤字会社の事業譲受から営業権は把握できないとする裁判例もあり注意です。

 

耐用年数は、耐用年数省令(法定耐用年数)で定められています。

 

※ 少額減価償却資産

取得費の損金算入(施行令133等)等の特例があります。政策的に特措法で度々改正されるところです。

 

※ 償却の方法

棚卸資産の評価方法と同様、減価償却の方法の税務署長への届出、変更の際の税務署長の承認が必要となっています(施行令)。

耐用期間内に毎期均等額で償却する定額法と

耐用期間内の毎期期首未償却残高に耐用年数に応じた一定の償却率を乗じて償却する定率法がメインですね。

ほかに、生産高比例法、リース期間定額法もあります。

減価償却はCF政策にも関わりますので、資金計画に沿ってその方法を採用するのでしょう。

なお、建物付属設備及び構築物は定額法のみ採用可能です(施行令)。

 

□ 役員給与等(法人税法34)の損金不算入

使用人に対して支給する給与は原則としてすべて損金に算入されます(ただし、特殊関係使用人に対する過大な給与の損金不算入、法人税法36条)。

ところが、役員給与については、法人税法は、以下の3種類の役員給与について損金算入を認めます。

利益の処分にあたるものを損金不算入にする趣旨です。

・ 定期同額給与

・ 事前確定届出給与(役員賞与)

・ 利益連動給与 ×同族会社

 

※ 勿論、役員給与等には、債務の免除益その他の経済的利益も含まれます(法人税法34条4項)。

 

※ 不当に高額な部分は損金に算入されません(法人税法34条2項)

不当に高額かの判断基準は次のとおりです。

職務の内容、法人の収益および使用人に対する給与の支給状況、同種事業・類似規模(「倍半基準」-売上高が0.5~2倍の範囲内の同業者)の法人の役員給与の支給の状況等に照らし相当であると認められる金額を超える部分(実質基準)、または定款の規定、株主総会の決議等により定められている役員給与の限度額等を超える部分の金額(形式基準)、のいずれか多い金額(施行令70条1号)。

ただし、裁判例で、当該役員のその法人に対する貢献度等も合わせて考慮しなければならないとされています。ここが問題ですね。

 

※ 役員退職給与

役員退職給与についても、不相当に高額な部分の金額は損金に算入されません(法人税法34条2項)。

その判断基準は次のとおりです。

法人の業務に従事した期間、退職の事情、同種事業・類似規模の法人の役員退職給与の支給の状況等を総合的に勘案して判断する(施行令70条2号)。

ただし、こちらも、当該役員のその法人に対する貢献度等も合わせて考慮しなければならないとされています(裁判例)。

弁護士の立場からすれば、中小企業のオーナー社長については、貢献度が非常に高いのであり、かつ、役員報酬等を決める権限は法律上株主総会にあるはずです。

株主総会がきちんと決定した退職金は損金と認められるべきものだと考えますが。

 

思ったよりも長くなってしまいました。次回に、法人税法上の「損金」のお話をもう1回だけさせていただきます。

 

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法人税法その2 [税法のお話12]

広島市の弁護士仲田誠一です。

 

法人税法の続きです。

 

法人税と所得税の大きな違いをまずお話します。
 

まず、所得税は所得の種類によって税金のかけ方が違います。

所得税法は、担税力に応じて所得を10種類に分け、異なる税金のかけ方をしています。

これに対し、法人の所得は1つです。
一律課税ですね。

個人の場合は、所得の分類によって税金が変わりますので、どの所得で申告するべきかが問題となりますが、法人はそのようなことは考える必要はありません。
 

また、所得税は超過累進課税ですね。
これに対して法人は基本的に一律税率です。

個人の場合は所得の分散ができればそれだけ節税になります。法人の場合はそうではないですね。
個人の節税のために法人と個人との所得分散を図ることはよく考えられることになります。

 

ちなみに、事業承継対策のスキームを考える際には、上述のような法人と個人とでの税金の違いを意識してスキームを組み立てる必要があります。
事業承継対策は、オーナー・会社・後継者の間のスムーズな資産移転を考えることになるからです。

  

さて、前回は、法人税法の所得計算の柱の1つである「益金」について簡単にお話ししました。
今回は、もう1つの柱である「損金」について簡単にお話しします。
簡単と言っても2回に分けざるを得ません。

 

まず、「損金」を定める法人税法22条3項では、

1 売上原価、完成工事原価その他の原価

2 販売費、一般管理費その他の費用

3 損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの

を損金に計上すると定められています。

 

【売上原価について】 

□ 費用収益対応の原則       

法人税法は「当該事業年度の収益に係る・・・原価の額」と定めています。

個別に収益と対応する費用ですね。

収益をある事業年度に計上する場合には、当該収益に係る売上原価も当該事業年度に計上し、適正な期間損益計算を確保する原則です。

 

□ 棚卸資産の評価方法(法人税法29条、同施行令28)

売上原価計算の基本は、期首棚卸資産+当期仕入額‐期末棚卸資産ですね。

期首棚卸資産と登記仕入額の2つは確定しているはずですから、決算内容そして所得内容は、期末棚卸資産の評価により左右されるわけです。

棚卸資産の評価方法として、法人税法は例外規定(63条、64条)のみおき、明文規定がありません。
そこで、基本的には企業会計原則(法人税法22条4項)に従います。

自由に評価していいわけではありません。
棚卸資産の評価は粉飾・脱税の方法によく使われるため、施行令により、棚卸資産の評価方法の税務署長への届出、変更する場合の税務署長の承認が必要となっています。
注意してください。

認められている評価方法はいくつもあります。

個別法、先入先出法、平均原価法、売価還元原価法、総平均法、最終仕入原価法(これが一応の法定評価方法です)、売価還元法ですね。

業種・業態によって向き不向きがあります。

 

【販管費、営業外費用について】

□ 債務確定主義
債務が確定したもののみ損金に計上できます。条文で「債務の確定しないもの」を費用から除外しています(法人税法22条3項2号)。
期間対応費用ですので、計上の恣意性を排除し会計報告の客観性確保する趣旨です。債務確定基準といいます。
したがって、資産の評価損(法人税法33条)は、例外を除いて、原則として損金計上できません。
また、費用見越・引当金の損金算入も原則として禁止されます。


なお、最高裁H16.10.29判決では、売上原価の例ですが、費用の見積り計上が、支出の相当程度の確実性、金額の適正な見積りの可能性が認められる事実関係の下では、当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が確定していないときであっても売上原価として損金の額に算入することができると、認められています。

 

【損失の額で資本等取引以外の取引に係るものについて】

□ 貸倒損失
例として貸倒損失をお話しします。
金銭債権の評価減は原則認められません(法人税法33条)。
したがって、金銭債権の貸倒損失を損金の額に算入するには、その全額が回収不能であることが必要です(一部貸倒処理は認められていないのです)。

かつ、回収不能であることが客観的かつ確実であることが必要とされています

この点で、有名な興銀事件最高裁H16.12.24判決では、住専処理計画に沿った母体行による債権放棄の例で、「当該事業年度の損失の額」として損金に計上できる基準について「債権者側の事情」「経済的環境」等も考慮するべきとしています。

 

長くなりましたので、今回はここで終わりとさせていただきます。

次回に損金の続きをお話します。

 

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法人税法その1 [税法のお話11]

広島市の弁護士仲田誠一です。

 

法人税法のお話をしていこうと思います。
法人税法は所得税法より捉えどころのない法律です。技術的な規定が多いのです。基本的には企業会計原則に則っているからでしょう(法人税法22条4項)。

 

所得計算の基礎を中心にお話をしていこうと思います。

 

【法人税法の所得計算】

 

法人税計算の作業の過程は、

① 生の資料の整理

② 仕訳伝票の作成

③ 元帳の記入

④ 試算表の作成

⑤ 確定決算書の作成(決算調整)→ 株主総会の承認

⑥ 申告調整(別表、特に別表四、内訳書)

⑦ 確定申告

の流れです。

 

大事なのは会計上の損益(確定決算書の数字)がそのまま法人税法の所得計算にならないところですね。

企業会計上は、「収益」=「収入」-「費用」で損益を出します。損益法といいます。

これに対して、法人税法22条は、課税標準である法人の各事情年度の所得の金額計算の通則を定めており、その計算は、「所得」=「益金」‐「損金」なのです。

収益=収入―費用

所得=益金‐損金

は似て非なるものです。

確定決算に基づく損益計算結果に、法人税法上の、益金(不)算入項目、損金(不)参入項目を減加算し、法人税法上の所得金額を算出しなければなりません。

それを申告調整といいます。企業会計を基礎として修正する形です。申告書の書式もそのような流れに沿って作成されています。

 

企業会計が、利害関係者に対する適切な表示を目的とするのに対して、法人税法は、担税力を適正に測定し課税公平をはかることを目的とします。目的が違うためのズレですね。

 

法人税法の解釈としては、「益金」と「損金」を明らかにすることがメインテーマとなります。

 

まず、「益金」のことを簡単にお話します。

 

【益金(法人税法22条2項)】

 

□「取引」に係る収益であること

条文上、「取引」に係る収益のみ益金に計上されます。

※ まず、条文上、資本等取引を除きます(法人税法22条4項)。資本維持の要請から資本取引と損益取引とが峻別されており、資本等取引(出資の受け入れ払出し等)からは益金は発生しないとなっております。企業会計と同じですね。デット・エクイティ・スワップ(DES)など資本等取引と他の取引との混合取引については、資本等取引以外の収益取引部分(DESなら債務免除)には課税があります。

※「取引」に係る収益が把握されるため、対外的取引によって生じた収益(実現主義)のみが益金です。そのため、未実現利益は課税の対象から除外されます。資産の評価益(法人税法25条)は益金に算入されません。企業利益は対外的取引によって生じた損益をもって計上する建前ですから、原則的に資産の評価替えによる増加益は益金に含まないのです。例外は一部で認められている時価主義です。

※「取引」すべてが益金発生原因となります。そのため、益金は合法・非合法・金銭・非金銭問わないという包括的所得概念が採用されているとされます。法律上取り戻されかねない違法な収益も益金になり得ます。

※「取引」は法的取引に限られません。有名なオウブンシャホールディング事件(最高裁H18.1.24判決)では、直接取引がなくても、資産価値の移転につき両当事者の合意ないし意図・了解が存在する場合には「取引」とされました。子会社を利用した資産価値移転の例です。

 

□ 収益計上基準について
権利確定主義が採用されているとされています。判例も、「ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般的に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきもの」としています。
売買なら引渡しのとき、請負なら仕事完成あるいは引渡しが必要な仕事なら引渡し時、不動産仲介手数料なら販売時点といった感じです。実際にお金を払ってもらった時点で益金に計上する現金主義は原則採用できないことになっています。
勿論、権利が確定した時といっても具体的な判定は難しいですね。具体的に判断されます。少なくとも、法的に把握された収入実現の蓋然性に着目する考え方で、債権の現実的な回収可能性に関わるものではありません。債権の発生が確定したらその回収可能性は別問題となります(貸倒損失の話)。

※ この点で、法人税法22の2が創設されました。企業会計基準委員会「収益認識に関する会計基準」に沿った改正です。次のような規定になっています。

1項・・・ 引渡基準または役務提供基準

2項・・・ 契約効力発生日基準または検収日基準の例外

3項・・・ 確定決算と確定申告の不一致の解消

4項、5項・・・益金に算入する金額(通常得べき対価-時価)

6項・・・資本等取引と損益取引の混合取引(損益取引の要素から損益が生ずる)


※ いろいろな判例があるのですが、1つだけ紹介しましょう。
詐欺・横領被害による損害賠償請求権の計上時期という問題です。不法行為の被害者は損害賠償請求権を取得します。損失の損金計上と同時にそれを益金計上すると税額には影響しませんね(損益が相殺される)。勿論、損害賠償請求権が全額回収不能であることが客観的に明らかになった時点では損害賠償請求権は当該事業年度の貸倒損失(法人税法22条3項)として損金に算入できます。
裁判所は、そのような場合、不法行為による損失は法人税法22条3項3号にいう損失の額に該当し、その額を損失が発生した年度の損金に計上する。一方、損害が発生した時に不法行為による損害賠償請求権も発生し、確定するから同時に損金と益金に計上するのが原則(同時両建説)としました。
例外として、加害者を知ることが困難なため権利行使を期待できない場合には、損害賠償請求権は益金に計上しないことが許されます(客観的状況から判断されますので簡単に認められない傾向です)。


※ 権利確定主義の例外もあります。
リース取引、長期大規模工事、一事業年度を超える工事、などですね。工事完成基準等の採用が義務付けあるいは選択できることになっています。
また、一部、時価主義も採用されています。未実現利益の益金算入です。短期売買商品、売買目的有価証券その他デリバティブ、外貨取引等です。

 

□ 「無償」行為からも益金が発生すること
これが非常にわかりにくい話です。法人税法22条2項は、資産の無償譲渡・役務の無償提供その他無償取引に係る収益も益金に算入すると定めています。資産の無償譲渡は時価相当額が、無利息融資の場合は通常の利息相当額が、債務免除益は経済的利益相当額が、個人からの遺贈は時価相当額が、それぞれ益金に算入されます。気を付けないといけないところです。

※ 適正所得算出説
収益は外部からの経済的価値の流入です。無償取引の場合には経済的価値の流入が存在しないはずです。しかし、正常な対価で取引を行った者との負担の公平、競争中立性の観点から無償取引からも収益が発生することを擬制している創設規定とされています。


※「無償」には、低額譲渡等の場合も含まれます。
南西通商事件、最高裁H7.12.19判決です。時価との差額も益金として把握される(結局時価で売却したのと同じになる)ことになります。
なお、実質的に贈与・無償の供与をしたと認められる部分は譲渡の相手方に対する関係では寄付金に算入されます(法人税法37条8号)。
新株の有利発行も時価と払込価額の差額は低額による資産の譲受けによるものとして益金が発生する可能性があります。

 

以上、所得計算の柱の1つである「益金」について簡単にお話ししました。

次回はもう1つの柱である「損金」についてお話しします。

 

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相続税法の概観 [税法のお話10]

広島市の弁護士仲田誠一です。

 

相続税法のお話を簡単にします。

 

相続税とは、相続財産という資産に担税力を認める資産課税であり、日露戦争中の戦費調達のために創設されたようです。
現在の相続税法は、英米系と大陸系の双方を加味した制度になっています。税金の計算方法がやや複雑です。

 

◆ 相続税課税対象財産

相続税の課税物件は、相続または遺贈によって取得した相続財産です。

 

相続財産には、財産権の対象となる一切の物及び権利が含まれます。
民法上の相続財産(民896)ですね。経営者であると会社への貸付金も相続財産ですので気を付けて下さい。

 

相続税法は、相続財産のほかに、相続財産と実質を同じくする財産及び権利も相続税の対象としています。みなし相続財産(相続税法3)ですね。

生命保険金、退職手当金などですね(各基礎控除が定められています)。遺産分割の際の相続財産と申告すべき遺産総額は異なるのです。

 

相続財産の評価は取得の時における時価によります(相続税法22)。
時価は、課税時期における当該財産の客観的交換価値(市場価格)ですが、実務上は、財産評価基本通達その他の通達による財産評価がなされます。
画一的、公平な課税処理のため一応の合理性が認められています。

 

なお、他の相続税課税対象財産もあります。
相続開始前3年以内の受贈(相続税法19)、相続時精算課税(21の9)の適用を受けた財産などです。

 

◆債務控除

相続財産から相続債務を控除できることは当然ですね。
ただし、控除できるものは、現存(相続税法13Ⅰ)+確実(同14Ⅰ)の債務だけです。
会社のオーナーの保証債務は、会社に支払能力がなく顕在化していない限り控除できないことになります。

相続財産に関する費用(遺産の管理保存費用、弁護士費用等)は控除できません。

葬儀費用については税法上債務控除が認められています(相続税法13Ⅰ)。民法とずれるところです。

 

◆基礎控除(相続税法15)

各人の課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いて課税遺産総額が算出されます。

現在の基礎控除は、3000万円+600万円×相続人の数、ですね。

先年大幅な増税がありました。基礎控除が従前の6割に下がりました。基礎控除を超える相続が増えたわけです。

養子による節税の件ですが、実子ありの場合は1、実子なしの場合は2まで相続人の数のプラスできます(相続税法15Ⅱ)。
なお、相続人の数は、代襲相続人も各1名と数えますし、相続放棄者も
1人に数えます。ややこしいですね。


基礎控除内の相続は相続税申告義務があるでしょうか?

答えはNOです。そのため申告をしないケースもたくさんあります。

 

法定相続分にかかる相続税の総額(相続税法16)

相続人法定相続分に応じて取得したと仮定し相続税率を適用して合計したものが相続税総額です。
実際の分割方法は相続税の総額には関係がないことになります。

 

◆各相続人等の相続税額(相続税法17)

相続税総額を各相続人の取得割合に応じて割り振った各相続人の相続税額に、2割加算(相続税法18)、あるいは税額控除をすれば、各相続人が納める税額になります。

 

イメージ的には、遺産総額がある、法定相続分に応じて相続した形で税額を計算して相続税の総額を算出する、それを実際に相続した相続人の取り分に応じて割り付ける、という流れです。

 

各種控除には、贈与税額控除(19)、配偶者の税額軽減(19の2)、未成年者控除、障害者控除(19の3、4)、相次相続控除(20)、相続時精算課税適用者にかかる贈与税額控除、外国税額控除(20の2)等様々な制度があります。

小規模宅地特例、配偶者軽減特例は、遺産分割ができていることが要件ですので注意してください。
揉めていて申告時期までに遺産分割が完了できない場合は、暫定的に相続税を支払って3年延期することも可能です(相19の2)。後で更正することになります。

 

◆その他

相続税、贈与税は連帯納付責任です(相続税法34)。
贈与をして受贈者が贈与税を払わない場合に贈与者に課税が来るという怖い話もあります。

 

遺留分減殺請求を後に受けた場合は、後発的事由による更正(国税通則法23)により還付をしてもらうということになります。

 

遺産分割協議の錯誤無効(想定していない税金がかかった!など)の場合も、民事訴訟を経て後発的事由による更正請求という方法が考えられます(なお、遺産分割の債務不履行解除はできないとされています)。簡単に錯誤無効が認められるわけではありませんが。

 

遺産の再分割、遺産分割協議の合意解除については、新たな契約と見られますのでご注意を(贈与等の課税リスクがあります)。

 

贈与税は、相続税の補完税として相続税回避の防止を立法趣旨としますから、贈与税法に規定があります。
贈与税は相続を前提とするため、個人からの贈与のみ課税対象です。個人が法人から贈与を受けたら所得税(一時所得など)です。

相続財産の評価と贈与財産の評価とは同一評価基準です。

基礎控除110万円内(21の5、措置法70の2)の贈与は申告が必要ありません。
ただ、暦年贈与は少しリスクがあります。確定日付を取っておく等の方法で明確にしなければいけません。

なお、贈与税には、婚姻期間20年以上の居住用不動産等の配偶者控除(21の6)や事業承継税制など特則がたくさんあり、要件も細かく決まっています。
よく見ておかないといけませんね。

租税法のお話が続きました。ここで一休みして、再開の際には法人税法のお話をしようとかと思います。

 

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所得税法その他、無償譲渡、低廉譲渡 [税法のお話9]

広島市の弁護士仲田誠一です。

 

とりあえず所得税法は今回までです。

 

【所得控除】

各種所得の金額の計算の結果を一定のルールの下で合算して(損益通算)算出した①総所得金額、②退職所得金額、③山林所得金額から控除することが認められている負担の控除です。

 

所得控除が認められる理由は、控除の種類によって異なります。基礎的人的控除として控除する、担税力の減殺を表す事情に応じて控除する、担税力を持たない所得分を控除する、支出奨励のために控除する、といった理由です。

 

所得税法に定められている所得控除には、雑損控除(所得税法72条)、医療費控除(同73条)、社会保険料控除(74条)、小規模共済等掛金控除(75条)、生命保険料控除(76条)、地震保険料控除(77条)、寄付金控除(78条)、障害者控除(79条)、寡婦(夫)控除(81条)、勤労学生控除(82条)、配偶者控除(83条)、配偶者特別控除(83の2条)、扶養控除(84条)がありますね。

 

あくまでも所得控除で、税額控除ではありません。税金がそのまま安くなるわけではありません。

税率が高い方の方が効果ありますね。

 

【税額控除】

政策目的等から算出税額からさらに控除して年税額を計算するものです。税金がそのまま安くなります。

配当控除(92)、外国税額控除(95)、住宅借入金等特別控除がありますね。

 

所得税法のさわりをざっと説明してきました。本当はいろいろ複雑な話もあります。

 

最後に、譲渡所得に関する頭の体操をしてみようと思います。頭の体操といっても、机上の空論ではありません。実務上よく考えないといけないことです。

 

【無償譲渡】

まずは、無償譲渡の事例です。

ABが、各個人か法人で場合分けをして、それぞれの課税関係を検討してみましょう。

① A個人 ⇒  B個人 の無償譲渡

これは分かりやすいですね。所謂贈与のお話です。

Bに贈与税課税があります。贈与が物等の場合には、その評価は相続評価によります。表族税評価通達に沿って計算されることになります(法律ではないですが一定の合理性が認められています)。

なお、贈与されたBAの取得価格の引継があります。売却をするときに忘れないということですね。

 

② A個人 ⇒  B法人 の無償譲渡

贈与税は個人から個人への贈与だけに課税されます。相続税法の中に定められている税金(相続財産の逸失による相続税逃れを防ぐ税金とも言われています。)ですから、当事者に法人がいる場合には適用がありません。

A個人には、譲渡所得課税があります。いくらで譲渡したことになるかというと実勢価格(時価)で譲渡されたとみられます。所得税法第59条です。譲渡益は、時価-取得費で計算しますね。

B法人には法人税課税があります。実勢価格で計算した益金が認定されます。

 

③ A法人 ⇒  B個人 の無償譲渡

A法人には法人税課税です。益金は、実勢価格-取得費です。法人税法でも無償譲渡は時価で譲渡したものとみなされます。個人の譲渡所得税とは別の理屈からなのですが。

B個人には、一時所得あるいは給与所得課税(実勢価格)があります。個人からの贈与ではないため贈与税課税ではありません。

B個人がA法人の従業員あるいは役員である場合には給与所得課税があり得ますね。

それ以外は一時所得になるはずです。

 

④ A法人 ⇒  B法人 の無償譲渡

A法人に法人税課税(実勢価格―取得費が益金)があります。

B法人にも法人税課税(実勢価格です)があります。

 

【低廉譲渡(低額譲渡)】

続いて、低廉譲渡(低額譲渡とも呼ばれます。)を考えてみましょう。時価の1/2未満の代金の譲渡と思ってください。同じく、ABが各個人か法人で場合分けをして課税関係を検討します。

実務的には、親族間の紛争の解決によく出てきます。売買代金は当事者で自由に決めることができます。しかし、あまりに安いと、別の課税関係が生じます。税金を知らないと怖いですね。弁護士が解決を図る際も税金を考慮したスキームを考える方がいいですね。

 

① A個人 ⇒  B個人 の低廉譲渡

Aに譲渡所得税課税がありますね。ただ、実際の代金ベースです、取得価格が不明な場合や相続を受けて取得価格が低い場合以外は低廉譲渡で譲渡所得が発生することはないでしょう。ただ、代々引き継いだ不動産を低廉譲渡する場合はけっこうあります。

Bには、理屈上、贈与税課税があります。贈与額は、相続税評価額と実際の代金の差額となるでしょう。

 

② A個人 ⇒  B法人 の低廉譲渡

法人が当事者になると贈与税課税は関係ないですね。

A個人には、譲渡所得税課税があり得ます。実勢価格での譲渡があったことになります。所得税法第59条です。

B法人には法人税課税です(実勢価格と代金との差額が益金です)。

 

③ A法人  ⇒ B個人 の低廉譲渡 

A法人に法人税課税(実勢時価が益金)ですね。無償譲渡と同じ扱いになります。

B個人には、一時所得あるいは給与所得の課税があります。無償譲渡の場合と同様ですが、所得は実勢価格と実際の代金の差額でしょう。

 

④ A法人  ⇒ B法人 の低廉譲渡

Aに法人税(実勢価格―取得費)課税があります。

Bに法人税(実勢価格と実際の代金の差)課税があります。

 

無償譲渡、低廉譲渡の課税判断は、実務でもよく考えないといけないのですが、明確な基準がない(そもそも時価をどう見るかで判断が変わる)ため、難しい判断になります。また、理屈上の考え方を一応の目安として整理しています。実際に課税されるかどうかはわかりませんが、リスクがあり、課税されても文句が言えないということですね。和解や事業承継のスキームを考えるときは、合理的な根拠を説明できるようにしないといけません。

 

広島の弁護士 仲田 誠一

なかた法律事務所

広島市中区上八丁堀5-27-602

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