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旧コラム 2016年1月

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新株発行価額 [企業法務]

広島市の弁護士仲田誠一です。

前回、事業承継対策等の戦略的経営のための種類株式や属人株式の活用をお勧めしました。
 
それに絡む新株発行の価額について若干の補足をします。

新株を発行するのは、文字どおり資本を導入することもあれば、株主構成の変更を企図するものもあると思います。
いずれにせよ、会社に何かがないとあまりやりませんね。
将来の紛争の火種がある場面が多いかもしれません。
 
そこで、新しく株を発行する場合には、その発行価額に注意しなければいけません。
 
新株発行において、それを面白くないと思う株主がいる場合、「特に有利な金額」で発行したと判断されると手続要件が加算されるため、株主総会決議を取り消されるなどして効力を覆されるリスクがあります。
 
特に有利な金額で発行した(「有利発行」といいます。)とされるのは、「公正な価額」を下回る価額設定をしたときです。
 
漫然と、当初の発行価額で新株を発行してはいけないのです。

この点、旧商法下の事件ですが、近時判例が出ました。
 
非上場会社が株主以外の者に新株を発行するに際し、客観的資料に基づく一応合理的な算出方法によって発行価額が決定されたといえる場合には、その発行価額は、特別の事情のない限り、有利発行には当たらない。
 
とするものです。
 
相場が出ている上場会社の株式と違って、非上場株式の株式は、時価の評価方法自体が、純資産方式、類似会社比準方式、配当還元方式、収益還元方式、DCF方式等、と多岐に別れています。
「これが正しい」という明確な基準はありません。
そのため、何が公正な価額=時価に近い価額であったかを、事後的に、評価方法のどれかによって検証されてしまうと、新株を発行する側は恐いですね。
新株を発行する時点で、将来どのような基準で公正な価額が判断されるのか予測できないからです。
 
先の判例は、経営者の予測可能性を考慮して、公正な価額を事後的に検証するのではなく、当時の経営者の判断過程が合理的であったかどうかを検証するとした判断です。
これにより、経営者は、発行当時に客観的に妥当と思われる判断過程で決定すれば安心です。
裁判所の言い回しである「特段の事情」は一般的に簡単に認められません。
もちろん検討資料等、専門家の意見等判断過程の妥当性を証する書面は作成、保存する必要があります。
むしろ、判例は、それらの資料をきちんと作成して保存することを要求する趣旨と捉えるべきでしょう。

実務に即した判断と言えるかもしれません。

なお、従業員に対する新株発行に多いですが、時価を無視して従前の発行価額にて新株を発行した場合、税務上の問題も出てきます。
会社や経営者が従業員に対して発行した株式を購入する場面でも、時価を無視して従前の発行価額にて買い取ることもありますね。こちらも税務上の問題が出てきます。
思わぬ課税関係を発生させるので、ご注意ください。
 
顧問弁護士のご用命は是非なかた法律事務所に。
 
広島市中区上八丁堀5-27-602
なかた法律事務所
弁護士 仲田 誠一

https://www.nakata-law.com/

 

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種類株式、属人株式2 [企業法務]

広島市の弁護士仲田誠一です。

前回からの種類株式、属人株式のお話の続きです。

種類株式、属人株式の活用例ですね。
 
後継者に引き継ぐ前に中継ぎ経営者を用意する場合があります。
中継ぎ経営者が株主である場合あるいは経営に一定の責任を持ってもらうために株式を取得してもらう場合には、後継者の株式と中継ぎ経営者の株式の種類を変えることでスムーズになるでしょう。
経営に責任を持ってもらい、かつ将来揉めることがないようにする対策ですね。
 
後継者育成のため種類株式としては、黄金株(議決権制限・拒否権付・取得条項付)を先代が持つ例がよく挙げられます。
お目付け役の株ですね。
個人的には、2種類の議決権の属人株式(ステップ・ダウン株)を設定する方がおもしろいと思います。
先代と後継者の議決権数が年を経るごとに変わるものです。最初は先代が決定権を有する議決権数を維持し、後継者の成長に合わせて何年かすれば後継者の議決権数が先代の議決権数を上回ります。

外部資本を導入する際には、議決権制限、取得請求権付、取得条項付、代金、議決権復活条項、拒否権付等様々な組み合わせを設定することが考えられます。
種類株式の内容によって利害調整をするわけです。
ただ、外部資本の導入は、結果的に借り入れよりもコストが高くつくことがあります。
IPOを企図している場合は別ですが、慎重に進めないといけませんね。
 
大株主が事故等で判断能力を失った際、行方不明になった際に、株主総会の定足数を満たすことができずに株主総会開催ができない事態があります。
新たな取締役の選任すらできなくなります。
成年後見人や不在者財産管理人の選任では経営の継続がおぼつきませんし、時間がかかります。
特に、揉める要素があると困るのですね。
そのような事態を回避して会社の継続を可能とするものとして、属人株式を利用することもお勧めです。ヒーロー株と言われているようです。
 
他にもいろいろな場面での活用が可能です。会社の戦略に応じた設計ができるのです。
せっかく会社法がこのような制度を用意してくれました。
組織設計は、戦略的経営そのものではないですが、戦略的経営を支えるものとして、経営者の方々には是非検討していただきたいところです。
 
次回、新株発行の価格について補足します。
 
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種類株式、属人株式1 [企業法務]

広島市の弁護士仲田誠一です。

前回、定款自治のお話の中で、種類株式、属人株式に触れました。
今回は、その補足をいたします。
 
会社の所有者は株主です。
株主は数量的に(持ち株数に比例して)平等に扱うのが原則です。株主平等原則です。
ところが、今は株主平等原則の例外が認められています。
それが、種類株式、属人(的)株式です。
 
それらが認められた理由は様々あります。
ざっくり申し上げると、資金調達を多様にする、経営形態を多様にするといったところでしょうか。
 
中小企業にとっては、外部資本を導入するためのほか、事業規模に応じた戦略に応じた機動力ある意思決定をするために、あるいは事業承継、会社の継続のために利用すべき制度です。
 
種類株式は、内容の違う株式のグループを作るとイメージしてください。
配当、残余財産、議決権、譲渡制限、取得請求権付、取得条項付、全部取得条項付、拒否権付(黄金株)、役員選任解任権付について内容の違う株式を発行し、それぞれ株主に割り当てるのです。
ニーズに合わせて、複数の内容を組み合わせることもできます。
登記事項なので種類株式の発行の事実は外部からわかります。
 
なお、同時に種類株主総会決議不要の定款の定めもしておかないと面倒です。
 
属人(的)株式は、ニーズに合わせて株主の個性を重視し異なる取扱いをするものです。
閉鎖会社のみ設定可能で、剰余金、残余財産、議決権について定めます。
種類株式と異なって登記事項ではありません。会社の外からはわからないのですね。
 
種類株式、属人株式は、戦略的に様々な利用が考えられます。
 
例えば、相続、事業承継の対策としてはどうでしょう。

種類株式、属人株式は、相続、事業承継としての株式の集中あるいは議決権の集中に活用することができます。
 
種類株式であれば、議決権株式(配当無)と無議決権株式を設定する、後継者株式以外を取得条項付(共有持分含む旨明記)にする、といったところでしょうか。
勿論、他にも考えられるでしょう。

属人株式では、議決権の属人株式(VIP株)の設定です。現社長あるいは後継者の株式の議決権を他の株主の持つ株式よりも多くするものです。

私は後者の方が使い勝手がいいなと考えています。
特に、株価が高いなどの理由で株式の集中に時間がかかる場合には、議決権の属人株式(VIP株)と暦年贈与を組み合わせるといいですね。

勿論、事業承継税制を利用して済むケースもあるでしょう。
時限立法なので忘れずに検討してください。
事業承継税制の利用では対応しきれないケースも多くあり、上記のような対策は有用です。

 蛇足ですが、相続対策として、共有株式の分割権利行使の定めを定款に記載することをお勧めしていました。それがなければ、遺言がない場合は遺産分割協議が終わるまで、遺言があっても遺留分減殺請求をされた場合、株主総会が事実上開催できない、もしくはクーデターなどの紛争を招く可能性があるからです。しかし、最高裁の判例で遺産共有株式の権利行使方法について、持分過半数で決定するという判断がなさました。上記定款の規定の有効性を論じたわけではないですが、有効性に大いに疑問を生じさせてしまう判例です。このような定款の規定は無効とされると考えて対策を練らないといけないのでしょう。

続きはまた次回に。
 
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