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旧コラム 2011年1月

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「浮気をされて離婚されたら踏んだりけったり?」【相続家庭問題13】

弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。


最近は,ちょくちょく料理を作ったり,皿洗いをしたりしています。やってみると,気分転換ができていいですね。昨晩はチャーハンを作りました。おいしくできました。

昨晩もそうだったのですが,私が炊事を手伝うのは,自分が仕事で疲れているときが多いです。仕事で疲れていらいらしている時ほどリフレッシュできます。

さて,今回は,久しぶりに離婚の話です。

以前に裁判離婚のお話をさせていただきました。その際に有責配偶者からの離婚請求について少しだけ触れたと思います。今回はそのお話をしたいと思います。


◆ 以前お話した内容

「裁判離婚の話」で,裁判離婚には「法定離婚原因」が必要だ,その「法定離婚原因」には4つの「具体的離婚原因」と「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」という「抽象的離婚原因」があるとお話しました。

そして,不貞行為をしたなど婚姻関係破綻に責任がある配偶者からの離婚請求を,「有責配偶者の離婚請求」と呼び,有責配偶者が「婚姻関係が破綻したから別れたい」と言っても簡単に認められるものではない,ともお話しました。


◆ 踏んだり蹴ったり判決

他の女性の元に走って家を出た夫が,別居後十数年後に,もう婚姻関係が破綻したとして,妻に対して離婚を請求する訴訟を提起したとしましょう。
すでに長期間別居して婚姻関係はすでに破綻し,回復する見込みもないと考えてください。

ところで,抽象的離婚原因である「婚姻を継続し難い重大な事由」がある場合とは,「婚姻が破綻して回復の見込みがない」場合です。

客観的に見て,婚姻関係が破綻して回復の見込みがないのなら,「婚姻を継続し難い重大な事由」があり,したがって離婚を認めるべきだと思うでしょうか(積極的破綻主義と呼ばれます)?

確かに,形式だけの(実質を伴わない)婚姻関係に人をしばるのは,無意味だとも思えます。

しかし,有責配偶者の離婚請求を認めるのは,やはりすっきりしません。公平ではない,卑怯だ,と考えるもの人の自然な感情ではないでしょうか。

落ち度のない妻が離婚を望んでいない以上,不誠実な夫の請求なんて認める必要はないとも考えられます。

最高裁も当初はそのような立場でした。
夫の請求を認めると,妻は,「踏んだり蹴ったりだ」という理由であったため,「踏んだり蹴ったり判決」と有名です。浮気されて,しかも離婚されて,踏んだり蹴ったりだということですね。


◆ 条件付に離婚が認められるようになった現在

「踏んだり蹴ったり判決」から時代がだんだん下るにつれ,最高裁の態度は徐々に緩和されて来ています。現在では,不貞行為を行った夫または妻(有責配偶者)からの離婚請求であっても,条件付では認められるようになりました。

道徳で人を縛るのは現代的ではないということでしょうか。

その最高裁の事例は,別居後35年を超え,夫婦の間には子がいなかったケースでした。

理屈をご紹介します。

まず,有責配偶者の離婚請求は,信義誠実の原則(以前にも出てきました)に照らして許されるものでなければならない。

そして,その判断は,有責配偶者の責任の程度,相手方配偶者の婚姻継続の意思や感情,相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態,夫婦間の子の監護・教育・福祉の状況,別居後に形成された生活関係,これらに与える時の経過の影響,などの諸事情を考慮して,なされる。

有責配偶者からの離婚請求であっても,別居が年齢および同居期間に比して相当の長期間に及び,その間に未成熟子がいない場合には,特段の事情がない 限り,許される。その特段の事情とは,離婚すれば相手方配偶者が苛酷な状態におかれるなど,離婚請求を認めることが著しく社会正義に反する事情である。

というものです。

時代の流れに乗って,最高裁が離婚を認める事案の別居期間が,徐々に短くなって来ております。10年未満の別居期間であるケースも出てきています。

もちろん,離婚請求が認められるかどうかは,期間だけで決まるわけではありません。
最高裁は10年を一応の目安にしているのではないかなどと言われていますが,上に挙げた諸事情が総合考慮されますので,期間だけで目安をつけるのは無理な話です。

有責配偶者に有利な事情としては,毎月きちんと相手方配偶者に送金している,相手方配偶者に多額の財産分与を申し出ている,夫婦の子が成人になった,といったものがあります。
それらの事情があれば離婚が認められやすいようですが,それも一概には言えません。


◆ 最後に

諸事情を総合考慮して判断される点が争いになっている事件については,訴訟の見通しが難しいところですね。

いろいろな事例を探して,それとの対比で見込みをつける必要がありますが,当然に事件はそれぞれに違い,似たケースというものがない場合もあって,なかなか難しいです。

なお,裁判所は,原則を大事にして,事実の面であれ,評価の面であれ,例外ケース(「特段の事情」)をなかなか認めないなと感じることがあります。もちろん,一概には言えませんが。

 

じっくり話し合い、問題解決に導く法律のプロ 弁護士仲田誠一の取材記事はこちら!
(http://pro.mbp-hiroshima.com/nakata-law/)


「法律相談のコツ」【閑話休題8】

弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。catface

 

昨晩,事務所から帰るときには,雪がかなり降っていました。明日はもっと積もるかなと思っていたのですが,すぐ雪は止んだみたいですね。雪を体にたくさん付けて帰ったところ,雪だるまみたいだと笑われました。snow少し痩せなきゃダメですね。

それにしても,日本代表サッカーはすごかったですね。soccer韓国に続きオーストラリアにまで勝てると思いませんでした。W杯にアジア杯と,予想外の活躍を見せてくれていますね。私の見方が悲観的なのか,どうしても相手チームの方が強く見えてしまいます。韓国戦のPKは見ていられなくて,チャンネルを替えました。

代表チームの意外な活躍はうれしいものです。内閣総理大臣の意外な不活躍には困りますが・・・為替がわからないとは・・・。


ところで,みなさんは法律相談を受けたことがあるでしょうか?

受けた方はどうだったでしょう?満足できましたか?弁護士がイライラしていませんでしたか?

満足できる法律相談を受けられるかは,弁護士の資質や相性によるところも大きいのはもちろんです。

ただ,私は,法律相談は,相談者と弁護士の「共同作業」の面もあると感じています。

今回は,相談者側から見た法律相談のコツをお話しようと思います。


◆ 目的を早く伝える

弁護士の相談を受けた方は,自分が話している途中で話を遮られて,結論を先に言うように促された経験があるかもしれません。

もちろん,法律相談において,具体的な事情をおうかがいすることは重要です。

しかし,具体的事情を先に長々と話されても,相談の目的がわからないと,その中のどの事実が重要なポイントかわかりません。聞くのがだんだんしんどくなります。

先に,この法律相談で何を聞きたいのか,話の結論をお話しいただければ,それを頭において具体的事情をお伺いできます。そのほうが,効率的ですし,有効なアドバイスができます。


◆ あなたの希望を伝える

結局,相談者が何を希望しているのかわからない相談も結構多いような気がします。

あなたの希望を言っていただければ,その希望を実現するための具体的な方法を詳しくアドバイスができます。

しかし,何を希望されているかわからなければ,選択肢を提示するだけになりますし,そもそも選択がたくさんありすぎて,一般的なお話しかできないこともあります。

ぜひ,あなたがどうしたいか,ある程度はっきりさせて相談してください。そうすると,より効果的な法律相談が受けられますよ。「希望」というのは,あなたの「本音」です,もちろん法律的なことは考えなくて結構です。


◆ 時系列で作ったメモ,登場人物の図

法律的に物事を分析する際には,時間的な先後を把握することが大切になります。

法律相談に行かれる際は,ぜひ,起きたことを時系列にメモして持っていってください。簡単でも結構です。

また,登場人物の関係図をメモしていくこともお勧めします。

お話の中でいろいろな方が出てきてしまうと,登場人物の確認だけで時間を取られてしまいます。関係図のメモがあれば,スムーズにお話を聞くことができます。

それらのメモを持っていくと,効率的にお話を聞くことができ,肝心なアドバイスの方に時間がかけられます。法律相談に行ったけど,話を聞いてもらって終わってしまった,ということはなくなります。


◆ 最後に

もし法律相談に赴かれるなら,ぜひ上のことを思い出してください。

せっかくの相談ですから,具体的な,有効なアドバイスを引き出しましょう。


「裁判所から訴状が届いたら?」【身近な法律知識8】

弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。catface

 

昨日,八丁堀福屋のところに新しくできた蒸しパン屋さんの蒸しパンを差し入れでいただきました。抹茶を食べたのですが,中にあんこが入っていておいしかったですよ。japanesetea

 

ところで,消費者金融から割りと長い期間の借り入れがある方に対して,突然,「消費者金融から借りているか?過払い金を取り戻してあげます。」という電話やDMが来るケースがまだまだあるみたいです。

どこで情報が漏れたのか,不思議です。いずれにしても,まともな弁護士等はそのような勧誘はしないと思っていいです。
そのようなケースでは,法外な料金を取られた,どう処理されたかよくわからない,弁護士をたらい回しにされた,過払金回収だけしかやってくれず他の借金はほっとかれた,などのお話を聞きます。
そもそも,業者が仲介料を取って弁護士に顧客を紹介する行為は,法律違反行為です。

何事もそうなのですが,まずは,地元の信頼できる弁護士や公的機関にご相談ください。

さて,今回は,よくある質問の1つとして,訴状が届いたらどうすればいいのか?についてお話をしようと思います。


◆ 訴状が届いたら?

裁判所から届いた封筒の中に,訴状,証拠の写し,期日呼出状,答弁書などが入っていると思います。

訴状と証拠の写しを見ると,誰があなたを訴えており,要求内容,その根拠がわかります。期日呼出状を見れば,第1回口頭弁論期日(最初の裁判の日)がわかります。答弁書は,訴状に対するあなたの答えとあなたの主張を書いて出すものです。

訴状が届いたら,自分で訴訟をしたい,と考える方でない限りは,すぐに弁護士に相談してください。
弁護士が対応するにしても,準備する時間が必要です。期日呼出状に記載されている期日の間際に相談をされても,なかなか間に合いません。
また,弁護士費用が不安でも,法律扶助制度を利用するなどで費用の問題を解決できるかもしれません,相談するのを怖がらないでください。


◆ 無視すると?

訴状が届いたのに,放っておいて,答弁書を出さないし期日にも出頭しないとどうなるのでしょうか?

一部の訴訟を除いて,裁判が第1回口頭弁論だけで打ち切られ,原告が出した訴状どおりの判決が出ることになります(「欠席判決」と呼ばれます)。不戦敗です。

よくあるのが,貸金業者から提起された貸金返還請求訴訟の訴状(支払督促のケースも多いでしょう)を,「よくわからない」「どうせお金がないから返済できない」「どうせ取られる財産はない」「仕事が忙しい」などとほっておくケースです。

しかし,判決をとられてしまうと,貸金業者がその判決に基づいてあなたの財産に対して強制執行ができます(差し押さえや競売などの強制執行をするためは「債務名義」と呼ばれる名目が必要なのですが,確定判決はその「債務名義」の1つです)。

給与債権も財産です。もし,あなたの勤務先が知られているならば,あなたの給与債権が差し押さえられる可能性があります。

給料を差し押さえられたら,勤務先にあなたの事情がわかってしまいますし,自己破産などの法的整理手続を進めないとなかなか取り下げてもらえません。


◆ 絶対に第1回期日に出頭しないといけない?

一部の訴訟を除いて,裁判所から来た封筒に入っていた答弁書を出しておけば,第1回口頭弁論期日は「擬制陳述」(裁判に出て答弁書とおりの内容を話したことにしてくれる)としてくれます。
そして,相手の主張をすべて認め,話し合いの余地もないといったケース以外は,次の期日を指定してくれます。

第1回口頭弁論に出席できない事情,自分の主張や和解希望,次回期日を指定してほしい旨,などを答弁書に書いておくことはもちろん,担当書記官さん(書いてあります)に電話で事情を話しておくと安心です。

なお,答弁書では,請求の原因に対する答弁の仕方に気をつけて下さい。

訴状をよく読んで,認められる事実,真実ではない事実,知らない事実を,それぞれきちんと細かく分けて答えてください。

不利なことを安易に認めると,「自白」となって,後で覆せなくなりかねません。


◆ 最後に

訴状が届いたら,ご自分だけで判断するのではなく,ぜひ弁護士に相談してください。ご自分で対応するという方も,法律相談ぐらいは受けてくださいね。coldsweats02

弁護士にとっても裁判は難しいものです。

 

 


「親子じゃないのに子が相続?」【相続家庭問題12】

弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。

 

昨晩の食事は,もやし鍋でした。市販される鍋のつゆの種類が最近増えてきましたね,昔はキムチとちゃんこぐらいしかなかったように思います。カレー 鍋が出てきたあたりから急に増えてきたような気がします。鍋は野菜をたくさん食べることができるので,週に1度は食べています。

 

 

今回は,最近,法律雑誌に載っていたおもしろい裁判例を題材にお話をさせていただこうと思います。


◆ 親子関係が存在しない戸籍上の子には相続権がない

親子関係が存在しない戸籍上の子とは,どのようなケースでしょうか?

親族などから子を譲り受ける形で,虚偽の出生届を出し,実子として育てる例があります。これは,「藁(わら)の上からの養子」と呼ばれる慣行です。その出生届は虚偽のため無効であり,また出生届は縁組届の形式をとっていないため養子縁組としての効果も生じません。

珍しい例としては,産院で乳児が取り違えられた例もあります。

もちろん,戸籍上「子」と記載されていても,事実の方が優先します。

「子」は,第一順位の相続人ですが,親子関係がない以上は,戸籍の記載があっても,相続人の資格はありません。

他の相続人などの利害関係人から,親子関係不存在確認訴訟によって親子関係が否定されると,相続を受けられないことになります。


◆ 最近の裁判例

最近出た控訴審判決の中に,このような事例がありました。まだ,結論が出ていない事案のようなので,事例自体はデフォルメさせていただいております。

産院で取り違えられて長男として戸籍上の記載があるYさんは,戸籍上の父母と実親子同様の関係で生活していました。ところが,戸籍上の父母の死後, 戸籍上の弟Xさんらと相続をめぐって対立しました。そして,その遺産争いを直接のきっかけにして,XさんらがYと戸籍上の父母の親子関係不存在確認訴訟を 提起しました。

Xさんらの請求は認められるでしょうか?

DNA鑑定でYさんが戸籍上の父母の子ではない事実は確認されています。事実である以上,親子関係がないことの確認が認められるべきだと思われるで しょうか?実の子であるXさんらからすれば,実子ではないYさんが,相続において,自分たちと同じ「子」として平等に扱われるのは許せないかもしれませ ん。

もちろん,理屈はそうです。真実の親子関係と戸籍の記載が異なる場合には,親子関係が存在しないことの確認を求められることが原則です。
第一審はその原則どおりに考えたようです。

一方で,実の親子と同様に育った事実は無視していいのでしょうか?Yさんには落ち度はありません。遺産相続争いという財産争いのために,これまで築いてきたYさんの人生を否定してもいいのでしょうか?血縁関係がないといっても,日本では養子も認められていますよね?

例外的に,Yさんを保護してあげないといけないケースがあるような気がしますよね。


◆ 裁判所の判断

上のように,第三者(Yさんと戸籍上の父母との親子関係については実の子は第三者です)から,戸籍上の子と親の間の親子関係不存在確認訴訟が提起されたケースについては,5年ほど前の最高裁の判例がありました。

最高裁判例の事例は,「藁の上からの養子」のケースだったようです。

最高裁は,具体的な事情を考慮して,実親子関係の不存在を確定することが著しく不当な場合には,その確認請求は権利の濫用として許されないと判断しました。

そして,考慮される事情としては,
①実の親子と同様の生活実体の長さ
②不存在確認を認めることによって戸籍上の子が被る精神的・経済的不利益
③改めて養子縁組の届けをして嫡出子の身分を得ることができる状況か(父母が死んでいたらもう養子縁組ができない)
④第三者が不存在確認を請求する経緯,動機・目的
⑤不存在を確認できないことによって第三者以外に不利益が及ぶか
等の諸般の事情を挙げています。

実の親子として何十年も暮らしてきた,そのため本人のショックが大きいし遺産をもらえないのも酷だ,戸籍上の父母が亡くなっているから改めて養子縁 組できない,第三者が訴訟を提起したのは遺産目的・財産目的だ,戸籍を直さなくても他に支障はない,といった事情があれば,実親子関係の不存在確認は許さ れない可能性が高くなります。

不存在確認が許されないということは,結局,戸籍上の子はそのまま相続できるという結果になります。

そのため,「親子関係のない戸籍上の子が相続する」ことが実質的に認められることになります。

最近の控訴審の裁判例でも,上の最高裁判例と同様な判断枠組みで判断しました。最高裁の「藁の上からの養子」(戸籍上の父母は知っていた)事例ではなく,産院での取り違え(戸籍上の父母も知らなかった)の例でも,同じ枠組みで判断したところが新しいところです。

同裁判例は,①Yさんは戸籍上の父母と46,7年間という長きにわたり実親子関係同様の生活実体を形成してきた,②戸籍上の父母が亡くなっており新 たにYさんが養子縁組をすることができない,③不存在確認を認めるとYさんに重大な精神的損害・少なからぬ経済的損害を与えること,④Xさんらの訴訟提起 は遺産争いを直接の契機としている,⑤不存在を確認できなくてもXさんら以外に不利益を受ける人はいない,などの事情を考慮して,Xさんらの親子関係不存 在確認訴訟は権利濫用として許されないとしました。


◆ 最後に

親子関係がないのに実質的に相続を受けられるという例を紹介しました。意外だったのではないでしょうか。

法律は,法的安定性(継続している事実状態を尊重するという姿勢)を重視します。継続する事実状態が容易に覆されると,それを前提に形成されてきた社会関係が混乱してしまうからです。前々回お話した時効制度も事実状態の尊重がその根本にあります。

上のような親子関係不存在確認訴訟も,形成されてきた生活実体を重視し,血縁主義や戸籍は正確でなければならないという要請の例外を認めたものだと思います。

 


「自分の物を自分で時効取得するって?」【身近な法律知識7】

弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。catface


みなさんは物をとっておく性格でしょうか?

私は,すぐに物を捨ててしまいます。昔の物はあまり持っていません。
駄菓子屋でこつこつ買って集めていたウルトラマンの消しゴムやカードなど,懐かしいなと思いつつインターネットオークションを覗いてみると,結構高く取引されているようですね。

ところで,法律的な争いはいつ起きるかわかりません。昔のことが今になって蒸し返されて争いになることは稀ではありません。
みなさん,昔の契約書や領収書など重要な書類や,古い通帳は保存していますか?

会社や事業主であれば,書類保存義務や帳簿保存義務を意識されて,重要な書類は5年から10年ほど保存しているでしょう。それでも20年以上も前の書類はどうでしょう?


◆ 古い証拠は残っていないことが多い,それが時効制度の存在理由の1つです

裁判になると,相手方が争う事実が真実だと裁判所に認めてもらうためには,証拠を出すことが必要です。証拠がなければ,真実を主張しているのに,裁判所には認められず,裁判に負けてしまうことがあるのです。

では,万が一裁判で争われることを考えると重要書類など証拠となる物は永久に保存しなければならないじゃないか!きりがないじゃないか!と思われるでしょう。

古い事実に関する証拠は散逸してしまうことが多いから立証が難しい。それが,時効制度の存在理由の1つです。時効制度があれば,証拠がなくても,時効で消滅した(「消滅時効」),時効で取得した(「取得時効」)と言えば済むわけです。

債権の「消滅時効」については以前に触れました。債権は一定期間それを行使しないと時効によって消滅する,その効果を得るためには時効の援用をしないといけない,時効完成後にそれを知らずに債務の承認をすると時効の援用ができなくなる,などのお話をしました。

今回は,自分の物だと一定期間の占有を続ければ,時効によって権利を取得する「取得時効」に絡むお話です。


◆ 自分の物を時効で取得する?

矛盾していると思いませんか?

既に自分の所有物であれば,理論7上,その後に時効により取得することはおかしいと思いますよね。「取得時効」を定める民法162条にも,時効取得の対象が「他人の物」と書かれています。

たとえば,あなたが30年前に土地を貰って,その後,家を建てて住んでいる。登記は前の所有者のままにしていた。しかし,突然,自分があなたの土地の所有者だという人が出てきて,あなたが立ち退くよう要求してきた。とします。

法律的に突き詰めるとややこしい話なのですが,少なくとも,あなたは相手方に対してその土地があなたのものだと主張しないといけないわけです。

でも,土地を貰ったのは昔のことで,書類が見当たらない。事情を知っている人も他界されている。としましょう。

困りますね。土地があなたのもの(貰ったもの)と立証できる証拠がなければ,不法占拠者扱いされてしまいます。

時効取得を主張できればどうでしょう。

自分が家をいついつ建てた,そして今もその家に住んでいる,ということを立証すればいいだけです。簡単ですね。

このように,所有権の取得時期が古い話で証拠がないケースでは,自分の物であっても時効取得の主張ができれば立証が楽になるのです。

そこで,判例も,自己の所有物の時効取得の主張も許されるとしています。判例の事案は少し特殊なので,紹介はしませんが,理屈はこうです。

時効制度は,永続する事実状態を尊重する趣旨である。所有権に基づいて占有をする者についても,所有権取得の立証が困難な場合など取得時効による権 利取得を主張できると考えるのが,その時効の趣旨に合致する。民法162条の「他人の物」という文言は,通常の場合を規定しただけに過ぎず,自己の物の時 効取得を否定するものではない。

実際に自己の物の取得時効を取得することは珍しくないです。

買った,貰った,相続した,という話でも,証拠が乏しいあるいはない場合には,裁判をする際に,売買・贈与・相続により所有権を取得したという主張とあわせて,それが立証できなくても時効取得によって所有権を取得したとの主張もする,とします。


◆ 最後に

今回は,「自己の所有物の時効取得」の主張という,一見して矛盾したような話をさせていただきました。

結論は,自己の物だとの立証が困難な場合には,自分の物でも時効取得を主張してもよいということです。

時効制度は卑怯だと感じる方もいらっしゃると思います。時効によって他人のものを自分のものにしたり,時効によって他人から借りた借金を返さないのは,一面で正義に反しそうです。

時効の制度の存在理由としては,①永続した事実状態の尊重,②権利の上に眠るものは保護しない,③過去の事実の立証困難の救済,の3つが言われています。

今回のお話で,③の話はわかっていただけたかなと思います。
時効制度は,立証が困難な古い話が争われたときにそれを救済する存在意義もあるのです。

時効に絡むお話は無数にあります。機会を見つけて,お話させていただきます。


「出世払いとは?」【身近な法律知識6】

弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。catface

前回,「条件」に関係するお話をしました。そこで,今回は,「条件」との区別が紛らわしい,「期限」のお話をさせていただこうと思います。
一見,当たり前のようで,しかし,難しいお話です。

出世払いの借金は,いつまでに返す必要があるのでしょうか,それとも出世しない限りは返済しなくていいのでしょうか?


◆ 「条件」と「期限」の違いは?

「条件」と「期限」の違いはわかりますか?

日常,よく「○○したら」とか「○○になったら」という言葉をつけて約束をしますね。それらは「条件」を決めたのでしょうか,それとも「期限」を決めたのでしょうか?

前回お話した,「広大に合格したら100万円をやる」という約束の「広大に合格したら」は,「条件」です(正確には「停止条件」です。「停止条件」 とは,それが成就したら効果が発生する「条件」です)。したがって,100万円の請求権は,広大に合格したという事実が発生(停止条件が成就)して初め て,発生するわけです。

では,「3月末になったら借金を返済する」という約束がされた場合の,「3月末になったら」は,どうでしょう?感覚的には,「条件」ではなく,「期限」だとおわかりでしょう。よく「返済期限」とか言いますからね。

なんとなくおわかりだと思います。「条件」と「期限」は,ともに将来の一定の事実ですが,その発生・到来が確実かそうではないかによって区別されます。

「合格」のように,将来それが発生するかどうかわからない事実が「条件」です。それに対して,「3月末」のように将来到来することが確実な事実が「期限」です。

「当たり前じゃないか」,「そんな区別ぐらいわかるよ」,とみなさん思われるかもしれません。

でも,そう簡単な話ではないですよ。

両者の区別が微妙なケースは多々あります。そして,どちらであるかによって,法律的な効果も違ってきます。

「出世払いで」借金をした場合はどちらでしょうか?
「出世したら返済する」という「停止条件」の意味なのでしょうか?
「出世するか出世しないかわかる時点まで返済を猶予する」という支払「期限」の意味なのでしょうか?

「出世すること」が「停止条件」だとすると,出世することがなければ返済する義務はありません。一方,支払「期限」だとすると,出世した時点または出世する見込みがなくなった時点で支払期限が到来して支払わなければなりません。


◆ 出世払いの約束の意味

大正時代に実際に争われた事例があり,有名な判例が出ました。

判例は,その事例での「出世払い」は「不確定期限」(将来確実に発生するが,その時期はわからない事実)であると判断しました。

つまり,出世しなかったら返済しなくていいという約束ではなく,出世した時点まで,あるいは出世の見込みがなくなった時点まで,返済を猶予するという意味の約束だとしたのです。

借金は返すべきだと考えると,判例のように,出世払いは停止「条件」ではなく不確定「期限」だという判断になるのでしょう。

もっとも,親族が出世払いでお金を貸すようなケースでは,そもそも貸主には借主に対して法的な返済義務を課すつもりがない場合が多いでしょう。

そのように法的に返済を強制されない債務を「自然債務」ということがあります。
これも戦前ですが,その点についての判例があります。
その判例は,カフェーの女給の歓心を買うために客がした女給に対して多額の金銭を与えるとの約束を,客が女給に対して裁判上の請求権を与える趣旨ではない(つまり,裁判では請求できない約束だから女給は裁判には負ける)と判断しました。

事例によって,そのようなケースなのか,上記の判例のような不確定期限付の約束なのかが判断されるのではないかと思います。


◆ 最近の事例

「条件」か「期限」か,の争いは,決して古いものではありません。

その点が争われた最高裁の判決が最近出ていました。デフォルメすると。

元請→ 一次下請 →二次下請 ・・・・・・・→Y →X,と順次工事が発注されました。XとYとの間には,「Yが請負代金の支払を受けた後に,Xに対して請負代金を支払う」との合意がありました。

「Yが請負代金の支払を受けた後」というのは,「条件」(「停止条件」)でしょうか,「期限」(「不確定期限」)でしょうか?

「停止条件」だとすると,Yが請負代金を受けない限り,XはYに請負代金を請求することができません。

XがYに対して請負代金の支払を請求しました。

最高裁は,その事案の事情(公共事業にかかわる工事であって,請負代金の支払が確実だったなど)の下では,XYの上記合意は,Yが請負代金の支払を 受けることを「停止条件」としたものではなく,Yが支払を受けた時点またはその見込みがなくなった時点でYの請負代金債務の支払「期限」が到来することを 定めたものだ,と判断しました。

それであれば,Yが自己の発注者から代金を回収できなくても,Xは自己の発注者であるYに対して,請負代金の支払を請求できることになります。

「条件」だとすると,Yが請負代金を回収できなければXもYに対して代金を請求できないことになり,結局,Yの請負代金回収リスクを,Xがまるまる 被ってしまいます。それは,通常,不公平でしょう。個人的には,特別の事情がない限り,そのような合意は「期限」と解釈するのが妥当だと考えます。


◆ 最後に

「条件」「期限」というような陳腐な言葉も,法律的に考えると判断が微妙なケースがあり,またどちらかによって効果も変わってきます。

契約書など文書を作成する場合は,その文章が法的にどのような意味を持つのか,よく確認してから作成しなければいけません。

外国語の文書の翻訳と同じような感覚で,専門家にチェックをしてもらう方が安心です。confident


「不誠実な行動は許さない」【身近な法律知識5】

弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。catface

先日,阪神タイガースの選手が,不動産業者に対して仲介手数料を支払え,との判決を受けた,という報道がありました。
不動産仲介業者が自宅物件を鳥谷選手に仲介したが,結局,同選手は直接オーナーと契約したとして,不動産業者から仲介手数料を請求されたようですね。
事実自体にも争いがあったようで,事案の詳細はわかりません。

今回は,そのニュースをヒントに,正義(「信義則」)について考えてみましょう。


◆ 条件付権利とは,

さて,不動産の仲介手数料は業者が仲介した物件の契約をさせて初めて生じるものです。その意味で,「条件付権利」(正確には「停止条件付権利」)です。つまり,仲介料請求権は,成約という「条件」が成就して初めて発生する報酬請求権と言えます。

受験生に対して広島大学に合格したら100万円をあげる,といった約束をした場合の,受験生の100万円の請求権も,広大に合格するという「条件」が成就して初めて100万円の請求権が発生する点で同じく「条件付権利」(「停止条件付権利」)だと考えてください。


◆ そのような条件の成就を故意に妨げると?

上の例で,業者に仲介を頼んだ買主が,仲介料をケチって,業者から紹介してもらったオーナーと直接自分で契約をしたら,業者に対する仲介手数料はどうなるのでしょうか?
あるいは,100万円あげると約束した人が,100万円を惜しんで広島大学の受験に行こうとする受験生を邪魔して受験できなくさせたら,その100万円はどうなるのでしょうか?

常識的に見ると,自分が約束をしておいて,条件が成就すれば損をしてしまう当事者がそれを妨害して利益を得るのは卑怯だ,仲介料や100万円を払わないと正義(信義則)に反する,と考えますよね。

安心してください。法律は(基本的には)常識から外れていません。

契約関係にある当事者は,お互いに利益を得るためには他方に損害を与えても構わないというわけではありません。お互い相手の信頼を裏切らないよう に,相手に損害を与えないように行動をする必要があります。それを,「信義則」(「信義誠実の原則」)と言います。そうではないと,社会が無茶苦茶あるい は弱肉強食の世界になってしまいますよね。そこで,民法も「信義誠実の原則」を定めています。

そして,「信義則」を具体化した規定として,民法130条があります。同規定は,「条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは,相手方は,その条件が成就したものとみなすことができる」,と規定しています。

民法130条によると,仲介により成約する,広島大学に合格する,という条件が達成されることによって,お金を払うことになる当事者が,自分で勝手 に紹介されたオーナーと契約をしたり,広大に受験させなかったりして故意に条件の達成を妨げたのであるから,相手方(業者,受験生)は,その条件が達成し たとみなして,仲介手数料を請求したり,100万円を請求したりできることになります。


◆ 条件が成就したら利益を受ける当事者が故意にその条件を成就させたら?

民法130条は,条件成就により「不利益」を受ける当事者がその条件の成就を「妨げた」場合の規定です。

では,条件が成就したら「利益」を受ける当事者が故意にその条件を「成就させた」らどうなるのでしょうか。このような場面で直接適用できる規定はありません。もちろん,民法130条が適用される場面ではありません。

この点に関しては,有名な判例があります。
かつらメーカー同士の争いの結果,AB社は和解契約をしました。
その内容は,ある種類のかつらをB社が製造販売することを禁止し,それに違反したらB社がA社に対して違約金を支払うというものでした。
裁判所の認定では,A社は,B社が和解契約を守っているか調査・確認する範囲を超えて,人を使って積極的にB社が禁止された種類のかつらを製造販売するように仕向けた(誘発した)という事案でした。

ある種のかつらを製造販売しないという条項に違反するという「条件」が成就したら,違約金請求権が発生するという点で,A社の違約金請求権は「条件付権利」です。

A社は,B社が和解条項に違反したとして,B社に対して違約金を請求しました。

常識的にはどうでしょう。やはり,条件を故意に成就させた当事者がそれによって利益を得るのは,正義(「信義則」)に反すると思いませんか?

先ほどの民法130条も,正義(「信義則」)に基づく規定でした。

そこで,判例は,このケースは条件が成就したら利益を受ける当事者(A社)が故意にその条件を成就したケースだから,民法130条の「類推適用」によって,相手方(B社)はその条件が成就していないものとみなすことができる,として,A社の請求を認めませんでした。

「類推適用」とは,ある法律の規定が「直接」適用される場面ではないが,その規定の趣旨や適用される利益状況などが共通する場面にも,その規定の考え方を及ぼし,同じような効果を生じさせようとする「解釈」手法です。

民法130条が直接適用される場面ではない。しかし,同規定は「信義則」に基づくし,民法130条の適用される場面とこの場面とは,条件の成就に絡 んで一方当事者が不誠実な行動を取って利益を得ようとしているという利益状況も共通である。だから,同規定の趣旨をこの場面にも及ぼして,同じように不誠 実な当事者には利益を与えない結論を導く,ということです。


◆ 最後に

法律は,正義に基づくはずです。
また,裁判も正義に基づくはずです(証拠に基づく限りの判断という限界はあります)。

今回は,ニュースをヒントにして,正義(信義則)に基づく民法130条の紹介と,直接の規定がない場面にその正義(信義則)の考えを及ぼした判例の紹介をさせていただきました。

 


「だれが相続人になる?」 【相続・家庭問題11-2】

弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。

さっそくですが,前回の相続人の話の続きをお話いたします。

 

◆ 同時死亡の推定

事故などで,数名の人が亡くなり,そのうちある人が死亡した時点で他の人が生存していたかわからない場合には,法律上,同時に死亡したものと推定されます。これが同時死亡の推定です。

推定ですから,反証(証拠を出して覆すこと)はできます。

同時死亡とされる場合には,それらの者相互の間では相続が生じません。遺贈の効力も発生しないことになります。
例えば,祖父A,祖母B,父であるABの子C,母であるCの妻D,CDの子Eがいるケースを考えましょう。AとCが事故で亡くなったとします。

まず,Aが亡くなったら,相続人は妻Bと子Cですね。Cが亡くなったら,相続人は妻Dと子Eですね。
次に,Aに不動産があるとして,Aが先 に,次いでCが亡くなったら相続はどうなるでしょう。不動産の相続者は,まずAの妻B・子Cが1/2ずつでAを相続して,さらにCの妻Dと子EがCを1 /2ずつ相続します。結局,不動産は,祖母B1/2,嫁D1/4,E1/4の共有状態となります。
父Cが先に,次いで祖父Aが亡くなったらどうでしょう。Aの不動産の相続人は,Aの妻であるBが1/2,Aの孫Eが既に亡くなったCの代襲相続人として1/2を相続します。結局,B1/2,E1/2の共有状態となります。仮に,Eがいないとすると,Bがすべて相続します。
このように,死亡の先後によって相続の結果は大きく変わります。

そのため同時死亡の推定により,反証がない限り,その間では相続の関係がないものとして公平に扱うのです。
AとCとの間で相続の関係が生じないということは,Aの財産は,本来B1/2・C1/2で相続されるはずですが,Cがいないので,前回お話しした代襲相続により1/2をCの子であるEが相続します。Cの財産は,もちろん,DとEが1/2ずつ相続します。


◆ 遺言を破棄すると相続人でなくなる-相続欠格

民法では,一定の行為をした者は相続権を剥奪されると定めています。それが,相続欠格の制度です。

遺言の破棄は,その相続欠格事由の1つです。

相続欠格事由には,
1 被相続人,あるいは相続について先順位・同順位にある者に対する殺人・殺人未遂の刑を処せられた
2 被相続人が殺害されたことを知って,告訴・告発をしなかった
3 詐欺や強迫により,相続に関する被相続人の遺言作成・取消し・変更を妨げた
4 詐欺や強迫により,相続に関する被相続人に遺言作成・取消し・変更をさせた
5 被相続人の相続に関する遺言書を偽造・変造,破棄・隠匿した

相続欠格は,前回お話した代襲相続の原因となります。相続欠格者に子がいれば欠格者に代わって相続人となることになります。

相続欠格制度は,相続人の著しい非行行為を理由に,相続資格を法律上当然に剥奪する制度です。したがって,なんらの手続も要りません。


◆ 放蕩息子に相続させたくない -廃除

相続欠格ほどの非行や不正がなくても,被相続人が特定の推定相続人にその財産を相続させたくない場合,その意思によって相続資格を奪う制度が廃除制度です。

以前にお話したように,兄弟姉妹を除く相続人には,遺留分の権利がありますから,遺言を作成して特定の者に相続させないようにしても,限界がありま す。生前贈与で他の推定相続人に財産を移転させる場合も,税金の問題が生じますし,遺留分の問題もやはり残ります。しかし,推定相続人に対して相続させた くないという被相続人の意思に客観的に合理的な理由がある場合にまで,遺留分を保障する必要はないですよね。そのため,一定の要件の下で,裁判所が許可し た場合に限り,遺留分を有する推定相続人の相続権を奪う廃除制度があるのです。

どのような場合に廃除できるかは,法律で決まっています。推定相続人に,被相続人に対する「虐待」「重大な侮辱」「著しい非行」がある場合です。そ の判定は,家庭裁判所が行うのですが,被相続人の感情など主観面からではなく,あくまでも客観的に判断されます。簡単に認められるものではありません。

有名な例では,年少時代から非行を繰り返し,暴力団員との交際・元組員との結婚,反対したにもかかわらず親の名前で招待状を出す,などの行為があっ た場合に認められたものがあります。否定されたものでは,過去に少年院に入ったが現在は更生した男性と親の反対を押し切った結婚した例などがあります。

廃除をするには,被相続人の請求が必要になります。被相続人が家庭裁判所へ調停・審判を申し立てる方法か,遺言によって意思表示をして,その死亡後に遺言執行者が家庭裁判所に廃除請求をする方法があります。

なお,一旦廃除しても,素行を改めたなどの理由で,その取消しをすることもできます。


◆ 相続人がいない場合は?

調査の結果,相続人がいるようだが行方がわからない場合と,調査の結果,相続人が本当にいないとわかった場合に分けてお話します。

相続人に行方不明者がいる場合は?
生死不明の状態が7年以上の場合には家庭裁判所に失踪宣告をしてもらえば,行方不明者が死亡したものとみなされますので,その時点と被相続人の死亡時の先後を見て,必要であれば行方不明者の相続人と遺産分割協議を行えばいいことになります。
生死不明の状態が7年以上続いているとは言えないような場合には,家庭裁判所に不在者財産管理人を選任してもらって,不在者財産管理人と協議,調停などを行えばいいことになります。

相続人がいない場合は?
戸籍上推定相続人となるべき者がいないか全員が相続放棄をした場合には「相続人不存在」の状態となります。
その場合には,利害関係人などが請求して選任される相続財産管理人が,相続財産から債務の弁済を行ったうえで,特別縁故者の請求があれば財産分与を行ったり,残りを国庫に帰属させます。

◆ 相続人に未成年者がいるとき

相続に未成年がいる場合に,困ることがあります。

父親がなくなり,相続人は母親と幼い子3人だとしましょう。親権者は母親であり,母親は子の法定代理人なのですが,母親が子を代理して行った遺産分 割協議は,法的には無効です(子が成年になって追認しない限り)。客観的には,母親と子は共同相続人として利害相反関係にあると見られ,利害相反ある代理 は本人の同意がない限り無権代理行為として無効だからです。

そのような場合は,法的には,家庭裁判所に対して,それぞれの子について特別代理人を選任してもらって,その特別代理人と遺産分割協議をする必要があります。

◆ 最後に
相続の話は,みなさんに身近なお話ですし,一般の方向けの書籍も多数あります。当事務所へ相談に来られる方も,ある程度の知識を持って相談に来られますし,自分で手続などを始めている方も少なくありません。

ただ,相続に関する話は,奥が深く,ある程度の知識だけでは対応できないものだと感じています。知識の誤解や感情的な主張や言動によって,手続を誤った方向に進めていたり,いたずらに対立を激化させているような例も少なくありません。

そのようなことにならないようご注意ください。

 


「だれが相続人になる?」【相続・家庭問題11-1】

弁護士(広島弁護士会所属)の仲田誠一です。

寒ブリが記録的豊漁みたいですね。氷見では去年の25倍の大漁らしいです。
生物の異常発生などの異常気象は地球温暖化の影響で起きたと言われるのが近年の定番であるところですが,この寒ブリ豊漁の原因は違うみたいです。
日本の冬の寒さ,日本海の海水温の低下が原因らしいですね。
いずれにしても,寒ブリが昨年の半値ぐらいのようです。今年は,寒ブリが食卓に並ぶ頻度が高くなりそうです。個人的には,照り焼きが一番おいしいと思います。

さて,これまで,相続問題についていろいろなお話をさせていただいたところですが,「だれが相続人になるのか?」という基本のお話をさせていただいていませんでした。

そこで,2回にわけて,相続人の範囲や相続人が見つからない場合について説明させていただこうと思います。

相続人の範囲を把握することはもちろん大事です。
遺産分割協議は,相続人全員の合意によらなければ成立しませんし,遺産分割調停なども他の相続人全員を相手に申し立てる必要があります。
また,相続放棄をしようとする場合でも,通常は相続人が居なくなるまで相続順位に応じて順次相続放棄をする必要があります(以前にも書かせていただきました)。
相続人を把握することがこれらの手続の出発点です。

なお,弁護士にとっても,相続人の範囲を確定するのは骨が折れる作業になることがあります。何代も前の先祖の名義の不動産が残っている場合などは, 数十人にものぼる相続人を戸籍で追跡する必要があります。また,戸主制度である旧法(明治民法)が適用される相続もあったりすると,さらに複雑になりま す。

◆ 配偶者は常に相続人となる

被相続人が亡くなったら,その生存配偶者は常に相続人となります。

もちろん,被相続人よりも配偶者が先に亡くなっていたり,離婚したりして,被相続人がなくなった時点では既に婚姻関係が解消されているなら,相続人ではありません。


◆ 内縁関係の夫あるいは妻は相続人とならない

内縁関係の場合(実質的に夫婦同然の関係であるが,婚姻の届出をしていない場合)には,被相続人の内縁の夫あるいは妻には相続権がありません。
そのため,財産を内縁相手に残そうとするには,生前贈与,生命保険,遺言により対処する必要があります。

なお,内縁の相手でも,被相続人に相続人がいない場合には,居住用建物の借家権を承継することができたり,特別縁故者として財産を承継することはあります。
もちろん,共有理論などの民法の一般理論での保護も考えることができます。


◆ その他の相続人(血族相続人)の順位,代襲相続

血族相続人は,
第1順位 子(代襲相続人,再代襲相続人を含む)
第2順位 直系尊属(父母や祖父母)
第3順位 兄弟姉妹(代襲相続人を含む)
の順で,配偶者とともに,あるいは配偶者がいないときには同順位者だけで,相続人になります。

配偶者とともにする相続の際の相続分は,直系卑属が1/2,直系尊属が1/3,兄弟姉妹が1/4です

「子」は,実子あるいは養子縁組をした子です。前妻・前夫との間の子や,他家に養子縁組した子(実家との縁が切れる特別養子のケースを除きます)も,「子」に含まれます。
非嫡出子(被相続人と婚姻関係にない母との間に生まれた子)も「子」に含まれますが,相続分は嫡出子の1/2になります(法律婚の尊重のためですが,平等原則に反していないか議論があるところです)。
なお,胎児も相続については既に生まれたものと扱われます。

「直系尊属」は,父母や祖父母です。子などの第1順位の相続人がいないか,その全員が相続放棄した場合に,相続人となります。当たり前ですが,直系尊属の中では,親等の近い方(父母は1親等,祖父母は2親等)が優先します。

「兄弟姉妹」については,第1順位,第2順位の相続人がいない,いなくなった場合に,配偶者とともにあるいは兄弟姉妹だけで,相続人となります。
父母の一方だけを同じくする兄弟姉妹は,父母の両方を共通とする兄弟姉妹の1/2の相続分となります。
なお,兄弟姉妹は,遺留分の権利がない点で他の相続人とは大きく異なります。そのため,遺言により兄弟姉妹の相続権を完全に排除することができることは,以前にお話させていただきました。

代襲相続について
子,兄弟姉妹については,「代襲相続」という制度があります。

相続発生以前(「同時死亡の推定」の場合も含みます)に,子が亡くなっている場合には孫が「子」の代わりに(「代襲相続」),孫も亡くなっている場合には曾孫が「子」と孫の代わりに(「再代襲相続」),相続人となります。

相続発生以前に,相続人であるべき兄弟姉妹が亡くなっている場合には,その子である「おい・めい」が兄弟姉妹に代わって(代襲相続),相続人となります。
兄弟姉妹の代襲相続は,子の場合と異なって1代限りです。「おい・めい」までしか相続を受けることはできません。

正確には,代襲相続が認められるのは,相続発生以前に相続人となるべき者が亡くなられていた場合だけではありません。子や兄弟姉妹に相続「欠格事由」がある場合,子や兄弟姉妹が「廃除」された場合も,代襲相続が認められます。欠格,廃除については次回にお話します。

一方,子や兄弟姉妹が相続放棄をした場合には,それらの子に代襲相続は認められません。

◆ 例を挙げると
被相続人の関係者には,妻A, Aとの子B・C,Bの子(孫)D,前妻E,Eとの子F,母親G,姉H,なくなった妹の子であるめいI,がいるとしましょう。

まず,妻のAは無条件に相続人となります。血族相続人は,第1順位である子B・CとEです。法定相続分はAが1/2,B・C・Fが各1/6です。前妻との子は非嫡出子ではありませんのでご注意を。

被相続人と子Bとが同じ自動車に乗っていて大きな事故で同時に亡くなった場合にはどうでしょう?同時死亡の場合にはその両名の間には相続が発生しません。ただし,代襲相続が認められています。結局,DがBに代わって相続することになります。

A,BおよびCが被相続人の借金が多いことを知って相続放棄をしたらどうでしょう?
相続人は,Fだけです。Bの子Dは相続人とはなりません。相続放棄では代襲相続が発生しないからです。

ではFも相続放棄をしたらどうでしょう?
そうすると第一順位の血族相続人である「子」がいなくなりますから,第2順位の「直系尊属」である母Gが相続人となります。

さらに,Gも相続放棄をすると?
第1順位に続いて,第2順位もいなくなりますので,第3順位である,兄弟姉妹が相続人となります。姉Hと亡くなった妹を代襲相続するめいIが相続人となります。相続分は,各1/2です。

◆ 最後に
次回は,今回のお話に出てきた,「同時死亡の推定」,「欠格事由」,「廃除」という言葉について簡単に説明させていただくとともに,もう少し突っ込んだお話をさせていただきます。


「過払金の税金,相続など」【消費者問題6】

弁護士の仲田誠一です。

今回は,よくある質問から,過払金の税金と相続などについてお話します。
小ネタで恐縮です。

 

◆ 過払金の税金について
過払金が回収できた場合,それを所得として申告する必要があるのでしょうか?
実は,「過払金元金」については,課税されません。払いすぎのお金を返還してもらうだけなので,原則として所得が生じないのです。
ただし,過払い返還金に付された利息については、その支払を受けた日の属する年分の雑所得の金額の計算上総収入金額に算入されるようです。

なお、個人事業主などで,制限超過利息の支払額が各年分の各種所得の金額の計算上必要経費に算入されている場合にはこれを修正する必要も出てくるようです。

詳細は,国税庁のHPに記載されているため,そちらを参照してください。

 

◆ 過払金の相続について

以前にもお話しましたが,過払金返還請求権も財産として相続されるのです。

故人に明らかに過払金が発生するような借金がある場合には,他の債務との兼ね合いで相続放棄をしなければならない場合を除いて,相続放棄をせずに過払金を請求すればよいのです。

遺産分割協議が整っていたら相続した人が,整っていなかったら法定相続人がその持分において請求することになります。

 

◆ 以前に和解契約を締結したことがあるんだけど

過払金を無視して債務を減額するなどの和解を以前にした場合も,過払金返還請求をする余地があります。

過払金の存在を知らずに和解をしたので,それは錯誤(重要な事項に関する勘違い)により無効だと主張するのです。

 

◆ 途中から貸主の会社の名前が変わったりしてるけど

合併や債権譲渡によって,貸主の社名あるいは貸主が替わった場合でも,新しい会社(合併の場合には会社は替わっていませんが)に過払金返還債務が承継されると考えられます。
したがって,新しい会社に対して過払金の返還を主張することができます。

 

◆ 最後に
今回は,小ネタで失礼いたしました。


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