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旧コラム 借金問題

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法人の自己破産に取締役全員の同意が必要なのか?

広島市所在なかた法律事務所の弁護士仲田誠一です。
今回は、法人が自己破産を申し立てる際にどのような意思決定が必要なのかというお話をさせていただきます。
個人の自己破産は関係のない、法人の自己破産特有の問題です。

目次

Ⅰ自己破産と準自己破産との違い
Ⅱ法人の自己破産には取締役全員の同意が必要か?
Ⅲ法人の意思決定の方法とは
Ⅳ意思決定の具体例
Ⅴ意思決定にあたっての注意点
Ⅵまとめ

Ⅰ 自己破産と準自己破産の違い

1.自己破産と準自己破産

破産法18条1項では破産手続開始申立権を「債務者」に認めています。「債務者」の申立てによって開始される破産手続を自己破産と呼びます。
現在、ほとんどの破産手続が自己破産となっています。

これに対して、法人破産では、破産法19条が、理事、取締役および業務を執行する社員など役員がその地位に基づいて法人の破産手続開始申立てをすることも認めます。これら役員の申立てによる破産手続を準自己破産を呼びます。

2.自己破産と準自己破産の違い

① 破産手続開始原因の疎明責任の有無
準自己破産の場合(破産法19条に基づいて役員が申立てをするとき)は、役員全員が申立人となる場合を除き、破産手続開始原因事実が存在することの疎明を要求されます(破産法19条3項)。役員の一部による申立てでは、内紛を原因として破産手続が濫用されるおそれがあるからです。
破産手続開始原因とは、支払不能または債務超過です(破産法16条1項)。支払不能とは、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態です(破産法2条11号)。債務超過は、債務につきその財産をもって完済することができない状態です(破産法16条1項括弧書)。

② 予納金額の多寡と負担
準自己破産の場合には、自己破産と比べて、裁判所に要求される予納金が額が高額になる可能性があります。かつ、準自己破産では、原則として、申し立てる役員が予納金を負担します。

③ 弁護士費用
準自己破産の場合には、原則として、会社財産から弁護士費用等を支出することはできません。
申し立てる役員が負担する必要があります。

Ⅱ 法人の自己破産には取締役全員の同意が必要か?

1.自己破産ができる「債務者」とは

自己破産ができる「債務者」(破産法18条1項)には、自然人だけではなく、法人も含まれます。法人組織として法的に要求される手続を経て有効な意思決定がなされ、同決定に基づき代表機関が申し立てた破産手続は、すべて自己破産になります。

かつては、法人が「債務者」として自己破産を申立てられるのは、役員全員が申し立てるか、代表者が役員全員の同意を得て申し立てる場合に限られるという見解が一般的だったようです。一部の役員による申立ての場合にのみ破産開始原因の疎明義務が課されている(さきほどの破産法19条3項)という理由のようです。今でも、コンメンタール等では両論が併記され、役員全員の同意が必要と解説するインターネット記事も存在します。

法律が要求する機関決定に従った申立てであれば、法人の意思に基づく自己破産申立てだと考える方が自然ですね。自己破産をするために、わざわざ反対する取締役を解任して全員一致の形を作らなければならないと考えるのはとても迂遠ですし、非現実的ですよね。現在は、機関決定があればよいとする考えが一般的だと思います。少なくとも、広島地方裁判所本庁ではこの考え方で通用しております。

2.取締役全員の同意が必要なのか

法人が自己破産をするためには、取締役全員の同意を取り付ける必要はありません。

裁判所は、法人の自己破産申立てにかかる添付書類として、取締役会議事録とともに、取締役全員の同意書面も指定していると思います。
一見、取締役全員の同意を取り付けなければ準自己破産になるとも思えますね。

しかし、法的に要求される手続を経て有効に意思決定がなされていれば自己破産でした。
裁判所には、機関決定(取締役会決議など)を証する書面(取締役会議事録など)を提出すれば足り、全員一致である必要はありません。
では、法的に要求される機関決定とはどのようなものなのでしょうか。次に見ていきます。

Ⅲ 法人の意思決定の方法とは

1.株式会社の場合

取締役会設置会社で業務の決定を行うのは、あくまでも取締役会です(会社法362条2項1号)。取締役でも株主総会でもありません。
取締役会決議は、定款で条件を加重していない限り、議決に加わることのできる取締役の過半数が出席し、出席した取締役の過半数をもって行います(会社法369条1項)。
取締役会議事録を作成します。

これに対し、非取締役会設置会社では、業務の決定を行うのは、取締役です。
取締役が1人の場合には、単独で業務の決定をします(会社法348条1項)。取締役が2人以上いるときは、定款で別の定めをしない限り、取締役の過半数をもって業務を決定します(会社法348条2項)。
取締役決定書あるいは同意書を作成します。

ただし、非取締役会設置会社では、株主総会も業務の決定をする包括的権限を有します(会社法295条1項)。取締役はその決定に従わなければなりません。
株主総会決議で意思決定をする場合には、株主総会議事録を作成します。

2.有限会社その他の法人

その他の法人も株式会社と同じです。法律で要求される機関決定で足ります。

特例有限会社は、基本的に非取締役会設置会社と同じと考えてください。取締役単独あるいは取締役の過半数、および株主総会です。

その他の法人も、理事会決議等、法的に要求される手続による機関決定を経ていればかまいません。理事会議事録などを作成します。

Ⅳ 意思決定の具体例

1.取締役会設置会社のケース

代表者が95パーセントの株式を保有する取締役会設置会社です。取締役は3人ですが、名前だけ借りていて疎遠な取締役が1名いる例を想定しましょう。

取締役会設置会社では、業務の決定を行うのは、取締役会でしたね。反対する取締役がいても決議さえ成立すればいいです。上記会社では、取締役会を開催して破産手続開始申立てを決議します。裁判所には取締役会議事録を提出すればいいです。

2.非取締役会設置会社のケース

代表者が100パーセントの株式を保有している非取締役会設置会社です。取締役は5人ですが、同意を得られない取締役が1名いる例を想定します。

非取締役会設置会社かつ取締役が2人以上の会社は、取締役の過半数をもって業務の決定しました。これに従えば、裁判所には、過半数の取締役による取締役決定書、あるいは過半数の取締役の同意書を提出することになるでしょう。

ただし、非取締役会設置会社では、株主総会も業務の決定をする包括的権限を有しました。このケースでは、代表者1人で容易に全員出席株主総会が開催できますね。臨時株主総会にて破産手続開始の申立てを決議した方が簡便です。裁判所には、臨時株主総会議事録を提出します。

Ⅴ 意思決定にあたっての注意点

1.意思決定の手続を踏む

意思決定をする際には、法定の手続をきちんと踏むことを意識してください。
取締役会議事録等の機関決定を証する書面は裁判所に提出する書類であり、債権者等が閲覧することができます。また、破産に反対する役員がいれば、法定手続を経ていないとトラブルになるかもしれません。

法定手続を遵守している会社は少ないでしょう。しかし、自己破産の決定に際しては、招集通知などの手続をきちんと踏む方がよろしいでしょう。

2.意思決定の記録を残す

上述のように、法人の意思に基づく申立てであること(自己破産の申立てであること)を証する書面を裁判所に提出しなければなりません。議事録や同意書を裁判所に提出できるよう、あらかじめ弁護士等に準備をしてもらい、確実に作成してください。

後で作成すればいいと放っておくと、営業停止などによる混乱が生じた結果、後から作成できないという事態も生じることがあります。

Ⅵ まとめ

1.法人自己破産には取締役全員の同意が要求されない

法人が自己破産するために、取締役などの役員全員の同意は要求されません。法人組織として法的に要求される手続を経た有効な意思決定に基づき、代表機関が自己破産を申し立てればいいだけです。

法的に有効な意思決定があるのであれば、法人の意思による自己破産であり、役員がその資格で申し立てる準自己破産ではありません。

2.法人自己破産の意思決定方法

株式会社の場合、取締役会設置会社では取締役会で、非取締役会設置会社では取締役(1人の場合)、取締役の過半数(2人以上の場合)あるいは株主総会で、自己破産申立てを決定しました。その他の法人も、法定された機関決定を経れば自己破産と認められます。

法人の意思決定を証する議事録等は裁判所に提出しなけばなりません。機関決定にあたっては、法的手続をきちんと踏む、きちんと記録を残すことを心がけてください。

終わりに
今回は、法人の自己破産申立てにあたって取締役など役員全員の同意が要求されるかどうかについて説明をしました。法人破産は、事前準備と段取りでその成否が決まります。法人破産に詳しい弁護士に早めにご相談ください。なかた法律事務所は、法人破産について豊富な知識、経験を有します。

この記事を書いた人

弁護士 仲田 誠一(広島弁護士会所属)
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◆経歴
1996年4月~ あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~ 東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~ 広島大学大学院法務研究科
2008年12月 弁護士登録
2017年~各前期 広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格等
弁護士、公認内部監査人試験合格
著作「自転車利活用のトラブル相談Q&A」(民事法研究会,2022)

非免責債権の徹底解説【借金問題】

広島市の弁護士による借金問題コラムです。

今回は自己破産です。テーマは「非免責債権の徹底解説」です。

非免責債権があるとないとでは経済的更生への段取りが変わります。
非免責債権はどういうものなのか、非免責債権があればどのような手続になるのかなどを解説いたします。

目次

破産における非免責債権とは
租税等の請求権
悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権
故意または重大な過失による生命・身体を侵害する不法行為に基づく損害賠償請求権
親族関係に係る請求権
雇用関係に基づく使用人の請求権等
知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権
罰金等の請求権
まとめ

破産における非免責債権とは

1.破産における非免責債権とは

破産手続において、免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権についてその責任を免れます(破産法253Ⅰ柱書本文)。これが破産における免責です。

しかし、上記条文には続きがあります。「ただし、次に掲げる請求権については、この限りではない。」として1号から7号までの請求権が定められています(破産法253Ⅰ柱書ただし書)。この1号から7号に定められている請求権を、非免責債権といいます。「この限りではない」という意味は、破産免責の効果が及ばない、すなわち破産者が支払義務を免れることができないことを意味します。

結局、破産における免責は、非免責債権を除いて、弁済義務を免れるということになります。

勿論、これは個人破産のお話です。法人の破産は法人格自体が消滅しますので、免責手続自体が存在しません。

2.非免責債権の破産における扱い

非免責債権も破産債権です。配当を受けることができます。配当されない部分について免責の効果が及ばない点が異なります。

免責許可決定が確定すると非免責債権は破産債権者表に記載され、債務名義となります。強制執行をするには執行文を得ます。

なお、裁判所書記官において当該破産債権が非免責債権に該当するか否かの判断が容易でない場合があることに照らして、破産後に債権者が非免責債権についての給付訴訟を提起したとしても訴えの利益に欠けないとした判例があります。

非免責債権か、一般の破産債権なのか争いがある場合でも、破産手続では判断がなされません。非免責債権かどうかは、債権者から提起した給付訴訟、あるいは債権者からなされた強制執行に対して破産者が提起した請求異議の訴えという訴訟手続の中で判断されます。免責許可決定が確定しているのであれば、非免責債権と認められない限り、給付判決では棄却判決が出て、請求異議の訴えは認容されて強制執行が失効します。

以下、非免責債権にどのようなものがあるか具体的に見ていきましょう。

租税等の請求権(1項1号)

1.租税等の請求権

租税等の請求権とは、「国税徴収法又は国税徴収法の例によって徴収することのできる請求権」です(破産法97④)。国税徴収法によって徴収することができる請求権は国税ですね。国税徴収法の例による請求権は、地方税やその他の公租公課(例えば国民健康保険料、国民年金保険料)などで、地方税法、行政代執行法、厚生年金保険法、地方自治法などの各法律において「国税徴収法に規定する滞納処分の例による」などと定められている請求権です。

結局、国税徴収法または国税徴収法の例によって徴収することのできる請求権とは、法律で自力執行力を認められた請求権(債務名義を取得し裁判所を通じて強制執行を申し立てる一般の債権と異なり、自らの滞納処分等を執行できる請求権)ということになります。

1号は国庫等の収入を図るとの趣旨から設けられた規定と言われています。

2.租税公課の滞納がある場合

租税公課は自己破産をしても免れることはできないと考えておいてください。

自己破産をしただけでは租税公課の支払義務は残ります。支払いに困ったら税務所、区役所の課税課などの相談窓口に相談しなければいけません。各租税公課について、滞納処分の停止およびそれが3年間継続したときの支払義務の消滅、納付猶予・免除、保険料免除・保険料納付猶予等の救済措置が定められています。もちろん、容易に免除はされないことになっています。

自己破産は経済的更生を図る手段です。依頼者さんには、破産とは別途、滞納租税公課やこれからかかる租税公課について担当窓口と相談をしておくようお願いしています。

悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権(1項2号)

1.悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権

加害者に対する制裁、被害者救済、加害者の人格的・道徳的責任などの観点から定められた規定と言われています。

不法行為の被害者は加害者に対し損害賠償請求権を取得します(民法709)。不法行為の主観的な成立要件は、加害者の故意または過失です。

これに対し、本号の免責不許可事由の主観的成立要件は「悪意」です。
「悪意」は単なる故意では足りません。一般に、他人を害する積極的な意欲(「害意」)が要求されるとされます。すなわち、不法行為のうち、特に「害意」があるケースだけ、本号の非免責債権になるということです。

例えば、預託金の横領、債務超過を認識した上でのクレジットカードによる商品購入や飲食、虚偽の説明をした上での金融業者からの借入れ、売買代金の詐取などのケースで本号の適用を認めた裁判例があるようです。

2.債務不履行、不貞行為

本号の適用は、あくまでも「害意」のある不法行為による損害賠償請求権です。

個人の債権者の中には、破産者に「騙された。」と感じて本号の非免責債権であると主張される方もいらっしゃいます。しかし、借入時に多少の虚偽説明があったとしても、詐取といえるケースは限定されます。債権者に対して「害意」があると認められるケースは少ないでしょう。
仮に、破産者に当初は弁済する気があり、実際に弁済をしていたようねケースでは、不法行為ではなく、単なる債務不履行(約束違反)とみられるケースが多いでしょう。

不貞行為の慰謝料請求権の非免責債権該当性も問題となります。不貞行為の場合、通常は故意による不法行為ですね。問題は「害意」があるかどうかです。
実は、非免責債権に該当しないとされる傾向にあります。恋愛感情からなされる不貞行為は、原則として、配偶者に向けた積極的な害意を目的とするものではないという考え方です。
不貞行為の悪質性や、配偶者の多大な精神的苦痛といった事情は、破産者に「害意」があったかどうかのに判断とは直結しません。

故意・重過失による生命・身体を侵害する不法行為に基づく賠償請求権(1項3号)

1.故意または重大な過失による生命・身体を侵害する不法行為に基づく損害賠償請求権

被害者の保護が特に必要なために本号が設けられています。

本号は故意または重過失による不法行為に適用されます。重過失とは、僅かな注意をすれば容易に結果を予見し、回避することができたのに、漫然と看過したような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態です。
一方、軽過失による不法行為に基づく損害賠償請求権には本号の適用がありません。破産免責の対象となります。

また、本号は、生命・身体を侵害する不法行為に適用されます。
財産を侵害する不法行為については、故意・重過失による不法行為であっても、本号の対象ではありません。
財産的損害に対する損害賠償請求権については、2号に該当しない限りは、破産免責の対象になります。

2.交通事故の損害賠償請求権

加害車両が無保険であった場合など、交通事故の加害者が自己破産をすることもあります。

その場合、赤信号無視、飲酒・酒気帯び、無免許運転など、無謀運転による交通事故被害者の損害賠償請求権は、本号により非免責債権となります。加害者に重過失があればいいので、必ずしも危険運転致死傷罪が成立するようなケースに限られません。

ただし、非免責債権となるのは、生命・身体を被侵害法益とする損害賠償請求権のみです。これに対し、物損部分など財産の侵害に基づく損害賠償請求部分は、本号が適用されない結果、免責対象となります。

親族関係に係る請求権(1項4号)

1.親族関係に係る請求権

親族関係にかかる請求権は要保護性が高いこと、およびモラルハザードを防ぐ必要があること等から、本号が設けられています。

夫婦間の協力・扶助義務(民法752)
婚姻費用分担義務(民法760)
子の監護義務(民法766)
扶養義務(民法877~880)に基づく請求権
並びにそれらに類する契約上の請求権が対象となります。

2.離婚時給付は免責の対象か

離婚時に合意であるいは判決で決められる給付は、婚姻費用分担、養育費財産分与慰謝料ですね。

婚姻費用分担請求権、養育費支払請求権は、請求権の成立が認められる限りで、過去の分も含めて本号の非免責債権です。

離婚に伴う財産分与請求権は、夫婦共有財産の清算として基本的に財産請求権とみられます。したがって、本号の非免責債権に該当しません。
ただし、財産分与には、清算的要素のほか、慰謝料的要素、扶養的要素を含みます。扶養的財産分与の部分を明確に区別できるようにしてあるのであれば、本号の非免責債権となる余地があるでしょう。

離婚に伴う慰謝料請求権については、2号の「害意」のある不法行為による損害賠償請求権、あるいは3号の故意または重過失による生命・身体を侵害する不法行為に基づく損害賠償請求権と認められない限り、免責対象となります。不貞行為は2号に該当しない傾向にあることは上述のとおりです。

雇用関係に基づく使用人の請求権等(1項5号)

1.雇用関係に基づく使用人の請求権等

雇用関係に基づく使用人の請求権と使用人の預り金返還請求権です。
雇用関係に基づく請求権一般が対象となります。

2.雇い主が法人の場合

本号の適用があるのは、雇い主が個人事業主の場合です。
雇い主が法人である通常のケースでは関係がありません。法人破産の場合には、破産により法人格が消滅する結果、免責手続は存在しません、非免責債権もありません。従業員の給与請求権と退職金請求権が、財団債権あるいは優先的破産債権として保護されるだけとなります。

知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(1項6号)

1.知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権

債権者名簿(代用される債権者一覧表)に記載されない債権者に対しては、裁判所から意見申述期間の通知(破産法251②)がなされません。そのような債権者がいれば、意見申述の機会を奪われることになります。したがって、本号が設けられています。債権者一覧表に記載のない債権者には免責の効果が及びません。ただし、破産債権者が破産開始決定の事実を知っている場合には除きます。この場合は債権者が意見申述の機会を奪われないという理由です。

2.過失により債権者一覧表に記載しなかった請求権

条文には「債権者名簿に記載しなかった請求権」と表現されているのですが、故意にではなく、過失によってうっかり債権者名簿に記載しなかった請求権も含まれます。
債権者の記載漏れ等に破産者の過失がないケースは少ないかもしれません。債権者一覧表に記載漏れがあった場合は、当該債権者の請求権は非免責債権になり、破産免責の効果が及ばない可能性が高いことに注意してください。もちろん、破産手続中に債権者の漏れが判明した場合には、債権者を追加するだけで対応できます。気付かずに手続が終わった場合に本号が問題となります。

なお、仮に記載漏れのまま破産手続が終わってしまっても、当該金融機関が免責されたものとして処理してくれるケースがあります。

罰金等の請求権(1項7号)

1.罰金等の請求権

罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金、過料です。本人に負担させるべきとして非免責債権となっています。

2.破産手続での扱い

罰金等の請求権は、劣後的破産債権とされます。通常は配当対象とはならないが、非免責債権であるということになります。

まとめ

1.非免責債権とは

非免責債権は破産免責の効力が及ばない請求権です。
破産法253条1項1号から7号に定められています。各号の内容を説明してまいりました。どんなものが非免責債権に当たるかどうかのイメージを持っていただければ幸いです。

2.非免責債権があるケース

非免責債権があるケースでは、自己破産手続だけでは経済的更生を図ることができない可能性があります。準備段階で非免責債権があるかどうかを確認し、トータルでの経済的更生を検討しなければいけません。

また、債権者から非免責債権であると主張されるケースもあります。免責に反対するであろう債権者が想定できる場合には、それを前提とした手続の見通しを立てておくことが大事です。

以上、非免責債権の徹底解説と題して、破産免責の効果が及ばない非免責債権について解説しました。

信頼できる弁護士選びが経済的更生の第一歩です。
ぜひ、当事務所にご相談してみてください。

この記事を書いた人

弁護士 仲田 誠一(広島弁護士会所属)
◆経歴
1996年4月~
あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~
東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~
広島大学大学院法務研究科
2008年12月
弁護士登録
2017年~各前期
広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格等
弁護士
公認内部監査人試験合格
著作「自転車利活用のトラブル相談Q&A」(民事法研究会,2022)

破産免責の徹底解説【借金問題】

広島県広島市の弁護士仲田誠一による借金問題コラムです。

今回は、自己破産の話、テーマは「破産免責の徹底解説」です。
個人が自己破産をする目的は免責を受けることです。そこで、破産免責とは何か、免責不許可事由とは何か、免責手続ってどう進んでいくのかなど、堀り下げた解説をさせていただきます。


目次

破産免責とは何か
権利免責と裁量免責の違い
免責不許可事由の種類
免責手続とは
免責を得られる可能性
免責に反する債権者が要いるケース
まとめ

破産免責とは何か

1. 免責の申立て

破産手続自体は、破産者資産負債の清算をするだけです。資産負債を清算して残った債務の支払義務は残ります。個人の債務者が債務の責任を免れるためには、免責許可の申立てをし、免責許可決定をもらわなければなりません。

これに対して、法人の破産では、破産手続終了により法人格自体が消滅すれば、債務も消滅します。債務が残るということはありませんから、免責手続はありません。免責は個人破産特有の制度です。

免責許可申立てを忘れることは基本的にありません。債務者が破産手続開始の申立てをした場合(自己破産の場合)は、反対の意思を表示していない限り、同時に免責許可の申立てをしたものとみなされます(破産法248Ⅳ)。裁判所が用意している申立書書式も、破産手続開始と免責許可をセットで申し立てる形式になっています。

なお、自己破産ではなく、債権者申立ての破産手続では、免責許可の申立てをしたものとみなされません。したがって、破産者が免責を得るためには、破産開始決定が確定した日から1月以内に免責許可申立てをしなければいけません(破産法248Ⅰ)。


2. 破産免責の意味

破産法253条1項柱書本文は、「免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。」と定めます。これが破産免責です。破産債権について支払義務を免れるという意味ですね。

 

破産法253条1項柱書のただし書きでは、「ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。」と、1号から7号までの請求権が掲げられています。それら1号から7号の請求権を「非免責債権」といいます。破産免責によっても責任を免れることができない債権です。非免責債権の詳細は後述いたします。

 

結局、破産免責は、非免責債権を除いて、破産債権について弁済義務を免れるということになります。

 

なお、復権と免責は少し意味が違います。
復権とは、自然人に対する破産手続開始決定に伴い、同人に対して課せられていた行使の資格制限を消滅させ、破産者に本来の法的地位を回復させることです。免責許可決定の確定は基本的な復権事由となっています(破産法255)


権利免責と裁量免責の違い

1. 権利免責

裁判所は、破産者に破産法第252条第1項各号に掲げる免責不許可事由がいずれも該当しない場合、免責許可の決定をします(破産法252Ⅰ柱書)。
この場合には必ず免責決定を得られますから、権利免責といいます。権利として免責を受けられることができるという意味合いです。

破産者について、免責不許可事由(破産法252Ⅰ各号)が該当する場合は、権利免責を得ることができません。裁量免責が認められるかという話にはります。

 

2. 裁量免責

破産法第252条第2項は、「前項の規定(注:権利免責)にかかわらず、同項各号に掲げる事由(注:免責不許可事由)のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。」と定めます。これが、裁量免責です。

免責不許可事由があれば権利免責はありません。しかしながら、免責を許可することが相当である事情があれば、例外として、裁量によって免責許可を与えてもいいという建前です。

破産制度は破産者の経済的更生を図るための制度です。そのため、実際の運用では、上記原則と例外が逆転しています。免責不許可事由があって権利免責を得られなくても、ほとんどケースでは裁量免責を得られます。免責不許可となるケースは稀です。免責不許可事由の程度が大で、救済する事情もないような事例に限られます。

なお、免責不許可事由の程度が大きい場合には、同時廃止手続にはよらず、破産管財人を選任して一定期間破産者の調査や指導を行わせ、破産管財人から出された免責意見を踏まえた免責判断がなされることがあります。この場合の手続を、免責調査型管財事件といいます。予納金は20万から25万円程度です。

 

免責不許可事由の種類

1. 法252条1項1号から6号

債権者を害する目的で行う財産の価値を不当に減少させる行為(1号)

破産財団に属する、あるいは属すべき財産は、総債権者の配当原資となります。そのため、同財産の価値を減少する行為は、総債権者を害する行為として免責不許可事由となっています。財産には、不動産、動産、債権、知的財産権など財産的価値を有するもの一切を含みます。ただし、破産財団を構成しない差押禁止財産などは含みません。価値を不当に減少させる行為は、隠匿(秘匿)、損壊その他の価値減少行為の一切を含みます。

なお、生活資金捻出のための売買など、その行為に不当性がなければ本号の免責不許可事由に該当しません。弁護士管理の下で、財産を有用の資(生活費、弁護士費用、破産費用、引越し費用その他どうしても必要な支出)に供することはよくあることであり、問題視されません。

破産手続開始を遅延させる目的で行う不利益処分行為等(2号)

破産手続を遅延させる目的で行われる(破産者が支払不能状態にあって、同事実を認識していることが必要です)、著しく不利益な条件での債務負担行為、信用取引により買い入れた商品を著しく不利益に処分する行為などです。
著しく不利益な条件は、取引社会の実情からみて不合理な程度に債権者にとって不利益なものをいいます。不利益な処分とは、著しく低廉な価格で処分すること(廉価売買)、権利放棄などの行為を指します。要するに、経済的合理性を欠く行為ですね。破産手続開始を遅延させる目的には、破産手続開始自体を免れる目的を含むとされています。

なお、クレジットで購入した商品を低廉で売却することはよく見られる行為ですが、破産手続を遅延させる目的でなされた行為とまで言えるケースは少ないでしょう。きちんと説明をしていれば過度には問題視されない傾向です(勿論5号に該当するかが吟味されます)。

不当な偏頗行為(3号)

一部の債権者に対し、特別の利益を与える目的または他の債権者を害する目的で、義務に属さない担保提供または債務消滅行為をすることです。担保提供は、抵当権、質権、譲渡担保など、債務消滅行為は、弁済、代物弁済などです。配当原資となるべき責任財産を毀損させて総債権者の利益を害する行為ですね。

偏頗的な(不公平な)弁済を、特に偏頗弁済(へんぱべんさい)と呼びます。親類や知人など金融会社以外に偏頗弁済をしてしまうことが多いでしょうか、よく見る免責不許可事由の1つです。否認対象としても典型的な例です。当職が受任する際には、個人間のものを含めて、一切の弁済行為を止めるようお願いしています。

浪費又は賭博その他射幸行為による著しい財産減少等(4号)

頻繁に目にする免責不許可事由です。
浪費または賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、または過大な債務を負担したことです。浪費とは、必要かつ通常の程度を超えた不相応な支出です。社会的地位、境遇、財産など諸般の事情を考慮して判断されます。賭博にはギャンブル一般を含み、射幸行為は投機目的の証券取引、商品先物取引、FX取引、先物オプション取引などが該当します。射幸行為かどうかも、資力、職業、知識などから判断されます。著しく財産を減少させたかどうか、または過大な債務を負担したかどうかは、債務者の財産状況との関係において社会通念によって判断されますので、その判断は人により異なります。要するに、分相応か分不相応かということでしょうか。

浪費や射幸行為と、著しい財産減少や過大な債務負担との間には、相当因果関係が必要です。ギャンブル等が遠因となっているにすぎない、一因となっているが他に主要な原因があるといった場合には、本号の免責不許可事由に該当しません。


詐術を用いた信用取引による財産取得(5号)

破産手続開始の申立日から1年以内にされた、破産手続開始の原因(支払不能)となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得する行為です。

詐術には、消極的態度によって相手を誤信させる場合も含まれます。ただし、ほとんどの破産者は支払不能になっても引き続き信用取引を続けるのが通例です。支払不能状態であることの単なる不告知という消極的態度によっては詐術に該当しないと考えられています。そのためか、本号の免責不許可事由はあまり見かけません。


帳簿等の隠滅、偽造等(6号)

破産者の業務および財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件一般について、隠滅、偽造(名義の冒用)、または変造(内容を改変する行為)する行為を対象とします。それらの行為は破産財団の管理を困難とし、破産債権者の利益を害するため、免責不許可事由になっています。
あまり見かけない免責不許可事由になります。

 

2. 法252条1項7号から11号

虚偽の債権者名簿の提出(7号)

債権者名簿あるいは債権者名簿とみなされる債権者一覧表に事実に反する内容を記載し、記載すべき債権者名等を記載しない行為が対象となります。免責手続の適正な遂行を妨害する行為として、免責不許可事由となっています。
通常の自己破産手続では債権者一覧表が債権者名簿とみなされています。免責不許可事由に該当するのは、破産者が手続の遂行を妨害し、または債権者を害する目的がある場合に限られるべきといわれています。免責不許可事由という制裁に相応しい行為に限るべきということです。

なお、債権者一覧表に誤りがある、抜けていた債権者が破産手続中に判明する、といったようなことは多々あります。途中で訂正・追加すれば問題はありません。過失により債権者名簿に債権者名等を漏らし手続を終えた場合には、非免責債権(破産法253Ⅰ⑥)となる可能性はありますが、免責不許可事由には該当しません。

調査協力義務違反(8号)

裁判所は、破産手続の全般について調査をすることができます(破産法8Ⅱ)。裁判所は、書記官に調査させ、破産管財人を通じた調査も行います。これら裁判所の調査に対し、説明を拒み、または虚偽の説明をする行為は、免責不許可事由に該当します。説明の拒絶には正当な理由のない審尋期日の欠席を含みます。虚偽の説明には当然に説明すべき事項について消極的に説明しないことも含みます。退職金や所有不動産を報告しないケースが典型的ですね。ただし、うっかりした報告漏れは補正をすればいいだけです。実務上、申立書の記載に誤りや漏れがあることは珍しくありませんが、本号の免責不許可事由を問題とすることはあまりありません。

このように、申立書類に嘘を書くと免責不許可事由のペナルティがありますから、申立てにあたっては、あくまでも嘘はつかない範囲内で、できるだけ有利に説明することが大事です。

不正な手段による破産管財人等の職務の妨害(9号)

破産管財人等とは、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理または保全管理人代理です。別途、破産管財人等に対する職務妨害罪(破産法272)も定められています。職務妨害罪に該当する行為のほか、財産持ち出し、引渡しや明渡しの拒絶、脅迫、郵便物の発送回避等が免責不許可事由に該当します。

過去に受けた免責(10号)

次の①から③に掲げる日(債権者の同意を問題としない免責あるいは一部免責の確定日になります。)から7年以内に申立てがあった場合には、免責不許可事由に該当します。モラルハザードを防ぐ趣旨です。
他の免責不許可事由と比べても厳しく運用され、裁量免責が容易には認められない印象があります。7年間は原則として再度の自己破産はできないと考えていた方がいいでしょう。
①破産の免責許可決定の確定日
給与所得者等再生における再生計画認可決定の確定日
③ハードシップ免責にかかる再生計画認可決定の確定日
各決定から確定日までは、ざっくり1か月ぐらいだと思ってください。

①~③から7年を経過すれば、自己破産を申し立てて免責を求めても問題ないこととなります。複数回の破産免責を法も許容しているのですね。2回目の破産でも、それだけでは免責不許可事由に該当しません。かつ、2回目というだけで管財事件になるわけでもありません。勿論、反省文などで反省を示す必要があるなど、初めての破産に比べてより厳しく見られるのは仕方がありません。また、管財事件になる可能性は初回に比べると高いのも確かです。

破産法上の義務違反(11号)

破産手続中の説明義務(破産法40Ⅰ①)、重要財産開示義務(同41)、免責手続における調査協力義務(同250Ⅱ)、「その他のこの法律に定める義務」への違反があった場合には、免責不許可事由となります。「その他のこの法律に定める義務」違反は、保全処分(同28)、居住等の制限義務(同37Ⅰ)、債権調査期日への出頭義務(同121Ⅲ)などへの違反です。

 

免責手続とは

1. 免責についての意見申述

破産法では免責についての意見申述制度を設けています(破産法251)。免責手続における破産債権者に対する手続保障ですが、破産管財人も意見申述をすることができます(破産管財人は必ず免責意見を提出する運用です)。免責決定の影響を受けない非免責債権者(破産法253Ⅰ)には、意見申述権が認められていません(破産法251Ⅰかっこ書)。

意見申述は、原則として、裁判所から指定された意見申述期間に、書面を提出して行います。意見申述期間は、破産手続開始時から3カ月程度先というイメージです。

破産債権者の免責についての意見は、裁判所を拘束するものではなく、裁判所が判断する際の参考資料にすぎません。裁判所は意見申述に対する応答をする必要もありません。個人の債権者からは意見申述がなされることがときどきありますが、それにより免責不許可となる例は見たことがありません(なお、金融業者は基本的に意見申述をしません)。


2. 免責の効力発生(許可の確定)

免責許可決定が確定すると、破産者は、破産債権についてその責任を免れます(破産法(253Ⅰ本文)。

利害関係人は、免責責許可申立ての裁判に対し、即時抗告をすることができます(同252Ⅵ)。利害関係人とは、免責許可決定では破産管財人および破産債権者(非免責債権者も含みます)、免責不許可決定では破産者です。
即時抗告期間は、決定を受けた日から1週間です(破産法13、民訴法13)。破産債権者に対して送達代用公告がなされた場合は公告の効力が生じた日から起算して2週間です(破産法9)。破産債権者については通常後者ですね。

即時抗告期間が終了すれば免責許可が確定します。即時抗告がなさない通常のスケジュールでは、免責許可決定日から約1か月後が確定日となります。2週間前後に官報公告され、それから2週間で確定ですから。

一方、即時抗告がなされれば確定はしません。抗告審によって免責許可申立ての裁判の当否が判断されます。勿論、一度出た免責決定が覆されるのは稀なケースといえるでしょう。

 

免責を得られる可能性

1. 裁量免責にあたって考慮される主な事項

裁量免責の判断にあたっては、主に次のような事情を考慮するとされています。

破産手続開始の決定までの事情

①破産者の年齢、職業、収入、家族構成など、②債務を負担するに至った経緯、③支払不能に至った事情、④破産手続開始の申立てに至った事情です。
どれも申立書に記載する事項ですね。この説明内容が一番大事になります。

免責不許可事由に関する事情

免責不許可事由の種類、内容、程度、②免責不許可事由の行われた時期、③同行われた経緯、④破産者の主観的状況、⑤破産手続に与えた影響
要するに免責不許可事由の悪質性の程度です。
免責不許可事由があると想定されるケースでは、管財事件になるリスクを下げるため、免責不許可にならないため、これらの事情をきちんと整理・説明します。

債権者側の事情

①債権者の属性、②破産者との関係、③与信内容、現在額、④与信の経緯、⑤債権者の審査能力の有無、⑥調査内容、⑦債権管理状況、⑧債権回収状況です。
破産はあくまでも破産者の経済的更生を図る制度です。そのため、債権者側の事情は一般的には重視されない傾向にあります。

破産手続開始後の事情

①配当状況、②破産者の協力状況、③破産者の反省の有無程度、④破産者の生活状況、⑤再生への意欲、⑥再生の見込み、⑦関係者の評価です。
主に破産管財人が免責意見を出すときに破産者を救う方向の事情として挙げるものです。プラスの事情があまりないケースでは、②の破産者の協力と、⑤⑥の経済的更生の可能性が、免責意見のメインになります。
なお、③については、手書きの反省文を初めから提出しておくといいでしょう。スムーズに同時廃止手続に進む傾向にあります。

免責許可決定のもたらす影響

①破産者の再生に及ぼす影響、②債権者に及ぼす影響、③免責許可についての債権者の意見です
破産はあくまでも破産者の経済的更生を図る制度です。そのため、免責許可についての債権者の意見は、あくまでも参考資料として取り扱われるべきといわれています。

 

2. 免責を得られる可能性

免責不許可決定がでるのは非常に稀なケースです。免責不許可事由の程度が重大であり、かつ救う材料がまったくないようなケースでした。

広島地方裁判所本庁で免責不許可の決定がでるのは、年間数件程度にすぎません。もっとも、明らかに免責不許可となるような事案では、別途、裁判所から申立てを取下げるよう勧奨を受けることがあります。それを含めるともう少し多いのかもしれません。いずれにせよ、全体の申立件数からはごく少数です。ほとんどの案件では、最終的には免責決定を得られています。

当職の経験でも免責不許可決定を得たことはありません(勿論、免責を得られることが明らかに難しいと判断したケースでは個人再生手続を勧めています)。破産管財人として免責不許可相当の意見を提出したことも、1度しかありません。そのほかは全件について免責相当の意見を申述しています。

一方、免責を得るための努力が必要なケースは多々あります。浪費やギャンブルの案件では説明を尽くした上で反省文を書く、
家計の収支状況を報告する、否認が疑われるような案件では財団に金銭を拠出して和解的解決をする、などの努力が典型的でしょうか。
個別の事情に応じて努力の仕方は変わります。肝心なのは、資料をできるだけ集めて事情をわかりやすく説明することです。当職もその一人ですが、破産管財人の経験が豊富な弁護士は、説明するツボや説明を要求される程度を肌感覚で理解しています。
なお、広島地裁では、一定期間金銭を積み立てて任意弁済をするという方法は採られなくなりました。

 

免責に反対する債権者がいるケース

1. 免責に対する意見申述、即時抗告

破産法では免責についての意見申述制度を設けていますから(破産法251)、免責に反対する債権者が免責不許可の意見を申述する可能性があります。
裁判所は債権者の意見に拘束されるわけではありません。債権者の意見は参考資料にすぎません。

仮に、裁判所、破産管財人が免責許可を相当と考えていた場合、結論が覆ることはなかなかありません。同時廃止事件は裁判所が免責を許可する方向で選択した手続です。管財事件での破産管財人も免責不許可相当の意見を出すのは免責不許可事由が重大で救う方法もないような稀なケースです。あまり効果がないことを知っていてか、
金融会社が反対意見を提出してくることはまずありません。

なお、結論は変わらなくとも、場合によっては、集団免責審尋から個別免責審尋に切り替えられる、免責決定が一定期間留保されるなど対応が必要となることがあります。裁判所あるいは破産管財人から意見書の提出を求められることもあります。

免責許可申立ての裁判に対しては、利害関係人が即時抗告をすることができますから(破産法252Ⅴ)、免責許可決定に対して債権者が即時抗告を申し立てる可能性があります。即時抗告がなされると、免責許可決定は確定せず、抗告審により当否が判断されることになります。破産者の意見を抗告審に提出する必要もあるでしょう。
勿論、一度出た免責決定が覆されるのは稀なケースです。だからでしょうか、あまり利用されない印象です。

 

2. 給付訴訟、強制執行

免責許可決定が確定すると、破産者は、非免責債権を除き、破産債権についてその責任を免れます(破産法253Ⅰ本文)。ただし、非免責債権には免責の効力が及びません(破産法253Ⅰただし書)。

貸金返還請求訴訟、損害賠償請求訴訟などの給付訴訟が提起された場合、免責決定が確定していれば、請求債権が非免責債権に該当しない限り、請求が棄却される形で訴訟が終わります。
既に訴訟が提起されていたときも同様です。免責許可決定が確定し次第棄却されます。

また、強制執行がなされた場合には、破産者は、責任の消滅を理由として、請求異議の訴え(民事執行法36)を提起することになります。

非免責債権であると主張している債権者がいれば、破産手続および免責手続の終了後、貸金返還請求訴訟、損害賠償請求訴訟などの給付訴訟を提起する、あるいは既に債務名義を取得していればそれに基づいて強制執行をしてくる可能性があるでしょう。
非免責債権かどうかに争いがある場合でも、破産手続では判断してくれません。債権者から提起された給付訴訟の中で、あるいは破産者から提起された請求異議の訴えの中で、非免責債権に該当するかどうかが判断されます。

 

まとめ

1. まとめ

免責とは非免責債権を除き破産債権についてその責任を免れることです。その免責には、権利免責と裁量免責の2つがありました。
免責決定をするためには、意見申述期間が設けられます。
免責決定後、即時抗告がなされなければ確定し、免責の効力が発生します。決定から約1カ月後です。

実務上は、免責が原則、免責不許可が例外として運用されています。

債権者の意見は参考資料にすぎません。
給付訴訟、あるいは強制執行では、債権者免責許可決定が確定していれば、非免責債権でない限り、訴訟は棄却され、請求異議が認容されます。非免責債権かどうかは破産手続の中で判断してくれません。

 

2. 最後に

弁護士による破産免責の徹底解説と題して、破産免責について詳しく解説してまいりました。免責を得られない自己破産は意味がありませんね。破産の準備にあたっては、免責を得られるかどうか、何を準備すればいいのか、見通しをもって段取りを考えます。

スムーズに免責を得る第一歩は、破産手続に詳しい、経験が豊かな弁護士のサポートを得ることです。ぜひ、広島の破産弁護士である当職までご相談ください。

 

この記事を書いた人

弁護士 仲田 誠一(広島弁護士会所属) 

◆経歴
1996年4月~
あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~
東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~
広島大学大学院法務研究科
2008年12月
弁護士登録
2017年~各前期
広島大学大学院法務研究科客員准教授(税法担当)
◆資格等
弁護士
公認内部監査人試験合格
広島市消費生活紛争調停委員会委員
経営革新等支援機関(中小企業庁)
M&A支援機関(中小企業庁)
著作「自転車利活用のトラブル相談Q&A」(民事法研究会,2022)

売れない不動産の破産や再生での扱い【借金問題】

広島の弁護士による自己破産・個人再生解説です。
今回は、一般に売却することが困難な不動産が、自己破産や個人再生などでどのような扱いを受けるのか説明します。なお、自己破産、個人再生などの倒産手続は、各裁判所により扱いが多少異なります。私は広島の「倒産弁護士」(破産など倒産手続に精通し業務の柱とする弁護士)です。そのため、裁判所によって異なる点は広島地方裁判所の扱いを前提に説明しております。

目次

不動産の扱い(自己破産)
不動産の扱い(個人再生)
売れない不動産とは
売れない不動産はどうなるか(自己破産)
売れない不動産はどうなるか(個人再生)
まとめ

自己破産における不動産の扱いの基本

1.不動産がある場合は同時廃止か管財事件か

不動産があれば原則として管財事件となります。共有不動産の持分権しかない場合も同じです。
不動産がある場合の予納金は30万円が標準となります。

不動産があっても例外として同時廃止事件となるケースもあります。
同時廃止基準(同時廃止と管財事件を振り分ける基準で各裁判所が定めています。)によれば次のとおりです。

①被担保債権の残債が固定資産税評価額の概ね1.5倍以上又は業者査定価格の概ね1.3倍以上であるとき。

②不動産の性状及び立地条件に照らして明らかに売却可能性が乏しいと認められるとき。

①は、いわゆる「オーバーローン」の場合です。不動産の価値が残っていないことが明らかなケースでは同時廃止になるということです。

②が、売れない不動産ということになります。管財人に売却を試みてもらう必要はないということですね。
ただし、②は簡単には認めらません。田舎の不動産でも、共有持分権だけでも、破産管財人に売却可能性を検討してもらうため管財事件になる傾向があります。
地目では、山林や農地であれば可能性があります。宅地であればハードルは高いです。
価値が小さいと客観的に認められる、正確な位置すらわからない、売買されるような地域ではない、共有持分しかない等の事情もありますね。
裁判所は総合的に判断をします。当職の経験に基づくと、固定資産税評価が僅少で、路線価がついておらず倍率地域であるなど、価値がほとんどないことが客観的に明らかであることが疎明されているかを重視するようです。

なお、不動産を直前に売却して不動産を持っていない状態にすれば必ず同時廃止になるのかというと、そうではありません。確かに不動産があるという理由では管財事件とはなりません。しかし、売買の妥当性を検証させるために管財事件となることは珍しくありません(不動産の売買は弁護士の下で行ってください)。

2.管財事件での不動産の扱いの基本

管財事件では、破産開始決定と同時に破産管財人が選任されます。
開始決定以後は、財団(開始決定時にある自由財産以外の財産と思ってください。)の管理処分権は破産管財人に移行します。

不動産は自由財産ではありません。そのため、破産管財人は、不動産を処分しようとします。不動産が担保に入っている場合でも、担保権者が敢えて競売による処分を希望しない限り、管財人が処分をすることが基本です。

破産管財人が最終的に処分ができなかった不動産は、破産管財人が財団から放棄します。放棄された不動産は破産者の手元に戻ることになります(担保がついていれば競売あるいは任意売却により処理されます)。

個人再生における不動産の扱いの基本

1.個人再生における不動産の扱いの基本

個人再生における不動産の扱いは破産と全く異なります。個人再生では財産が処分されることはありません。
不動産は、財産のひとつとして、清算価値保障原則(破産をした場合の財産=清算価値以上の額を弁済するというルール。)とのかかわりで問題となります。

個人再生での清算価値の計算において、破産における自由財産拡張対象財産は、99万円まで控除できます。破産と平仄を合わせるためです。
不動産は自由財産拡張対象財産ではありません。不動産の価値がそのまま清算価値に加算されます。
最低弁済額が大きくなる可能性があります。弁済可能な再生計画案を作成する見込みがなくなり、個人再生を断念するケースもあります。

なお、住宅ローン付の自宅不動産がある場合、自宅を維持するために住宅資金特別条項を利用した個人再生が選択されることが多いです。その場合も、不動産価値が住宅ローンよりも大きければ、価値が超過する分(余剰価値)が清算価値に加算されます。

2.個人再生委員が選任されるか

個人再生において個人再生委員が選任されることがあります。

具体的な選任基準はありません。当職が経験した中では、破産でいう否認対象行為が目立つケース、住宅資金特別条項適用の判断が難しいケース、履行可能性その他要件を満たすか判断が難しいケース、債務が多いケース、弁護士が代理しておらず本人の手続理解が乏しいケースなどで個人再生委員が選任されます。
個人再生委員が選任された場合の追加予納金は20万円が標準です。

清算価値保障原則との関係で申立人側は不動産価値を小さく主張する傾向があります。
不動産価値の評価が難しいケースや微妙なケースでは、個人再生委員が選任される可能性が高いでしょう。

売れない不動産とは

1.売却できる不動産

不動産(特に宅地)は基本的に売却が可能と見られます。

共有不動産はどうでしょうか。他の共有者が購入するかもしれませんし、共有持分だけでも購入する業者は存在します。共有であることだけで売却ができないとは見られません。
市街化調整区域の不動産でも売却は可能です。
特殊な不動産(農地、元旅館など)でも売れないとは限りません。

なお、売却できる不動産であれば、任意売却を試みてから破産を申し立てる選択肢も出てきますね。売却代金を有用の資(破産費用、どうしても必要な生活費、引越代等)に充てることは許されます。親族に買い取ってもらうこともできますね。勿論、直前の不動産売買は弁護士の関与の下で問題なく進めなければなりません。

2.売れない不動産

上述のとおり不動産は基本的には売却可能と見られます。客観的・抽象的に不動産の売却可能性がないと説明することは意外に難しいです。

ただ、実際に売れない不動産は珍しくありません。
共有持分権は、他の共有者か特別な不動産業者しか購入しません。
農地は親族、小作人、農業委員会からの紹介者でないと売れないですね。元旅館な元ガソリンスタンドなど特殊な物件はタイミングよくニーズが存在しないと売買が長期化します。
特殊な事情がなくても、買取りニーズがない地域で値段を下げても買い手が付かないということも珍しくありません。
具体的に動いてみて売れないという不動産はけっこうあります。

売れない不動産も倒産手続では財産として見られます。どのように取り扱われるかを見ていきましょう。

破産手続で売れない不動産はどうなるか

1.同時廃止事件での扱い

売れない不動産であると申立時に認められるケースでは、同時廃止基準により、同時廃止事件になります。
もちろん、ほかに管財事件になる理由があれば別ですが。

同時廃止とは、簡単にいうと管財人報酬等手続費用を賄える財産がないから破産手続開始決定と破産手続の廃止決定を同時にする手続です。免責手続のみ残り、財産整理手続(破産管財人により管理処分手続)は省略されるわけです。
そのため、同時廃止手続では、不動産は処分されず、申立人所有のまま変わりません。

もちろん、不動産に担保がついている場合には、破産手続外で処理がなされます。担保権者による不動産担保の実行(競売です。)がなされることになります。担保権者から競売の前に任意売却の協力を乞われることもあります。

2.破産管財人の処理の目安

管財事件では、破産管財人が不動産を不動者業者を通じて売り出すのが基本です。
勿論、物件に合わせて売り方も変えます。賃借人、隣地所有者などと直接交渉することもありますし、入札により売買することもありました。

共有物件の場合は、ほぼ例外なく他の共有者(主に親族でしょう。)に買取りを打診します。
予め他の共有者に話をしておいた方がいいと思われます。
勿論、共有持分権なので売買価格は融通がききます。

破産管財人が、様々な方法で売却を試みて、それでも売却が見込めないときは、財団からの放棄を検討します。不動産が財団から放棄されれば破産者の手元に残ります。
放棄の際には、破産者から任意でいくらかの金銭を財団に組み入れてもらうこともあります。

なお、破産管財人は、年末に向けて放棄を検討する傾向にあります。固定資産税・都市計画税は1月1日の所有者名義人に賦課されるため、翌年度の税金を財団で税金を負担しないよう12月31日までの放棄を考えます。ちなみに、放棄対象が自動車であれば4月1日になります。

個人再生で売れない不動産はどうなるか

1.清算価値の算出

個人再生手続では、不動産の価値が清算価値算出の過程で問題となります(清算価値によって最低弁済額が変わりえます)。
客観的な資料を基に不動産価値を裁判所に説明します。基本的には査定書を要求されます(書面で査定をくれない業者さんも多くて査定書の取得はなかなか面倒なのですが)。

裁判所は、不動産の価値がゼロとはなかなか認めてくれません。価値がない、あるいは小さいと主張する申立人側は、それなりの資料を提出して裁判所を説得しなければいけません。価値評価に問題があるとされれば個人再生委員が選任される可能性があることは上述しました。

2.個人再生委員の意見

個人再生委員は、清算価値の算出が適切になされているかもチェックをします。
売れない不動産として価値がない、あるいは小さいと主張されているケースでは、その評価の妥当性をチェックし、追加の資料提出を求めるなどします。個人再生委員をやっていると、表紙だけの査定書、あるいは1社だけの査定書では、その評価額に納得感がないケースもあります。
個人再生委員は、場合によって、個人再生委員から清算価値算出シートの訂正や弁済計画の変更を指導します。

まとめ

1.自己破産を検討する場合

自己破産では不動産があれば管財事件になるのが基本です。
不動産があっても同時廃止事件になるケースが同時廃止基準に定められていました。ただし、「明らかに売却可能性が乏しい」と認められるのは大変です。

管財事件では原則として破産管財人が不動産の売却を試みます。共有物件の場合は他の共有者に打診がなされます。どうしても売却が見込まれないケースでは、財団から放棄され、破産者の手元に残ることになります(担保が付いている場合には担保権者との関係で処理されます)。

あなたのケースでは同時廃止事件なのか管財事件なのか、管財事件であれば破産管財人がどう不動産の売却に動いてどういう落としどころになると見込まれるか、倒産事件に詳しい弁護士と十分に打ち合わせをして準備してください。

2.個人再生を検討する場合

個人再生では不動産が処分されることはありません。不動産の価値は清算価値に計上され、最低弁済額を画することになります。不動産は破産における自由財産ではないのでその価値は清算価値に直接加算されます。

清算価値を算出する過程で、価値をゼロとする、ないし価値を小さく評価する場合では、裁判所を納得させる資料の提出を要します。不動産の評価が問題となるケースでは個人再生委員が選任される可能性があります。

あなたのケースでは、不動産の評価がどのようになされ、その結果として個人再生手続の選択が可能なのかどうか、倒産事件に詳しい弁護士と十分に打ち合わせをして準備してください。

この記事を書いた人

弁護士 仲田 誠一(広島弁護士会所属)

https://www.nakata-law.com/

https://www.nakata-law.com/smart/

◆経歴
1996年4月~ あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~ 東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~ 広島大学大学院法務研究科
2008年12月 弁護士登録
2017年~各前期 広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格
弁護士
認定経営革新等支援機関(中小企業庁)
公認内部監査人試験合格

個人再生の徹底解説

個人再生の徹底解説
広島市の弁護士仲田誠一です。今回は個人再生を徹底解説します。個人再生は自己破産と比べて技術的な要素が高いためわかりにくい制度かもしれません。
しかし、選択肢の1つとしてぜひ検討していただきたい手続です。徹底的にかつわかりやすく説明させていただきます。
ぜひ、ご参考にしてください。

目次

個人再生
選択する基準
住宅資金特別条項
小規模個人再生
給与所得者等再生
最低弁済額
清算価値
再生委員
費用
準備に関する注意点
まとめ

個人再生とは

1.個人再生手続とは

個人再生とは、裁判所から認可された再生計画に基づいて、原則3年(最長5年)の弁済期間で一定の債務(計画弁済額)を弁済し、計画弁済額を弁済し終わったところでその余の債務の免責を受けられる法的債務整理手続です。
民事再生の個人版です。
 
非免責債権を除いてすべての債務の支払義務を免れる自己破産と、元金カットがない任意整理との中間的な手段として位置づけられるでしょうか。
 
個人再生と破産の違いとしては、①個人再生には免責不許可事由がない、②資格制限がない、③財産が処分されることはない、④住宅ローンを支払い続けることができる、といったものがあります。
これらの違いにより、個人再生を選択肢に入れることによってスムーズな経済的更生に向けた解決策が生まれることがあります。
  
◆個人再生での弁済期間◆
個人再生は債務の一部(計画弁済額)を弁済していきますが、その期間は原則3年です。「特別の事情」がある場合には5年まで定めることができます。
小規模個人再生のケースでは5年間の弁済期間を定めることは比較的容易です。
これに対し、要件判断が厳しい給与所得者等再生では、ハードルが高いです。3年では弁済できない理由やそれでも履行可能性があることなどを裁判所に理解してもらわなければなりません。
 
◆弁済方法◆
再生計画に基づく弁済方法は分割です。3か月に1回以上の弁済をすることが法律上要求されます。ボーナス併用も許容されます。
当職は、例外なく、3か月に1度の均等弁済の計画案を作成しています。毎月ですと面倒ですし振込手数料もかさばります。また、変動する賞与をあてにすると怖いですからね。
 
例外として、不利益を受ける債権者の同意がある場合、少額債権、非減免債権等の支払方法を別に定めることができます。分割するまでもない少額の債権者について一括で弁済するケースが多いです。
 
なお、再生計画に基づく弁済中の繰り上げ返済ができるかという相談を受けることもあります。理屈上は、全債権者に対して一括弁済をする限りで許されます。

2.個人再生手続の種類

個人再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生という2種類の手続があります。
 
両者の大きな相違点は、最低弁済額、要件、再生計画案の決議の有無です。
 
両手続のイメージは次のとおりです。
小規模個人再生は =弁済額が小さく抑えられるが、債権者の反対があれば認可されない。
給与所得者等再生 =債権者の同意は必要ないが、要件が厳しいし弁済額が大きくなる傾向にある。

◆小規模個人再生か給与所得者等再生か◆
小規模個人再生を優先して検討するのが基本でしょう。
最低弁済額の計算方法の違いから、給与所得者等再生では、特に収入が高い、あるいは被扶養家族が少ないケースで最低弁済額がかなり大きくなります。場合によっては、個人再生を選択できない、あるいはできても意味がなくなることもあります。また、給与所得者等生死吾は小規模個人再生に比べて要件が厳しく、裁判所も厳しく見てきます(個人再生委員選任の可能性も高まります)。
ただし、小規模個人再生の選択には、債権者の構成を気にしないといけません。給与所得者等再生と違って、債権者の半数あるいは債権額の過半数を占める債権者の反対があれば再生計画が認可されません。
債権者が2社以内、あるいは飛びぬけて債権額の大きい債権者がいるなどのケースでは、債権者反対のリスクが高くなりますので、給与所得者等再生を選択することもあります。

個人再生を選択するケース

1.任意整理と法的債務整理の選択

まずは、任意整理と法的債務整理(自己破産、個人再生)のどちらを選ぶか考えないといけません。
 
任意整理は、債権者との交渉により通常3年から5年の分割弁済契約を結ぶことです。将来の利息をカットしてくれる債権者がほとんどですが、元金カットは望めません。裁判所の調停手続を利用する場合を特定調停といいます。
 
自己破産が「支払不能」、個人再生が「支払不能のおそれ」を要件としています。「支払不能」とは、期限の到来した債務を一般的・継続的に弁済できない状態をいいます。
理屈上は、「支払不能のおそれ」もないケースでは任意整理を選択することになります。ただ「支払不能のおそれ」といっても明確ではありませんね。
 
実際には、任意整理が可能かどうか検討して、可能であれば任意整理、そうでなければ個人再生か自己破産を選択する流れでしょう。
 
当職は、総債務の元金合計額を3年で弁済できるのかどうかを基準にしています。月々の平均収支を考えて、3年で支払えない、あるいは支払い続けられるか不安であるケースでは、個人再生か自己破産を選択します。
個人再生の弁済期間は原則3年であり、任意整理の支払期間も3年が標準です。そのため、3年を基準として考えるのです。
このような考え方で個人再生を申し立てて、裁判所から自己破産や個人再生を否定された経験はありません。

ぎりぎりの収支を考えてはいけません。ある程度余裕をもった数字で考えます。ボーダーラインでは、元金カットができない任意整理よりも、個人再生や自己破産を選択する方がいいケースが多いです。
債務整理をするのであれば、経済的更生を確実に図るべきです。ぎりぎりの計画では、途中で支払えなくなり失敗をするとそれまでの苦労が無駄になります。法的整理で元金をカットして生活を安定し不測の事態に備えて少しでも貯蓄ができるようにした方が適切です。

◆法的債務整理を躊躇しうるケース◆
基本は上述の基準で考えていきますが、なお法的債務整理を躊躇するケースについて何点かコメントします。
 
家族に内緒にしているというケース
法的債務整理でも家族に連絡が届くことはありませんが、同居の家族の収入証明資料(源泉徴収票、給与明細)など同居の家族の協力がなければ必要書類が用意ができないかもしれません。
それらを集めることができないという理由で任意整理を選択するケースもあります(なお、個別の事情を説明して取得できない資料の提出を免除してもらったケースも例外的にあります)。
 
保証人がいるケース
法的債務整理を行うと保証人に請求がいってしまいます。任意整理では、債権者を選ぶことができ、保証人がいる債務の整理を外すこともできます。

勤務先に対して債務がある、あるいは家賃滞納をしているケース
任意整理と異なり、法的債務整理ではすべての債権者を破産債権者あるいは再生債権者として扱わないといけません。
勤務先に対する債務がある、家賃滞納をしているケースでは、勤務先や家主を債権者として扱えないということで、任意整理を選択するケースも考えられます。
もっとも、それらを優先して弁済して完済した時点で法的整理を行う方策が可能ですので(手続上問題視されるのですが)、諦める必要はありません。

車のローンの担保になっている車(所有権留保物件)を維持したいケース
車が所有権留保物件であれば返却の必要があります(銀行ローンでは担保になっていないことが通常です)。任意整理であれば車のローンを整理の対象としなければいいだけです。
任意整理では経済的更生が難しいようなケースでは、本当に車が必要なのか考えなければなりません。経済的立ち直りと車のどちらが優先順位が高いかです。
法的整理がやはり必要でかつ車がどうしても必要なであれば、新たな車の準備の可否、親族等の援助を得て手元に残す(問題視され得る行為なので弁護士の指示にしたがって進めてもらいます)等、法的債務整理でも車が残る方策を考えます。

2.自己破産と個人再生の選択基準

法的整理手続を選択するとして、自己破産と個人再生のどちらを選ぶのかという問題が残ります。
経済的合理性の観点だけで考えると、全ての債務の支払義務を免れるメリットがある自己破産を優先するのが基本となるでしょうか。
次のような基準で決断していただければいいと考えています。
 
◆支払不能か支払不能のおそれか◆
破産の要件は「支払不能」であるのに対し、個人再生の要件は「支払不能のおそれ」です。しかし、基準としてはあまり使いませんね。程度問題ですし、多くの場合は双方に当てはまります。
 
◆住宅ローン付の自宅を維持したいか◆
住宅ローン付の自宅を維持したいケースでは、個人再生を選択し、後述の住宅資金特別条項を利用します。個人再生事件の多くは住宅資金特別条項を利用した自宅の維持を目的とするものです。
自己破産では自宅は維持できません(適正価格での親族への売却により残せるケースもなくはないですが)。
 
◆破産における免責不許可事由の程度が重いケース◆
浪費やギャンブルなど破産法で定める免責不許可事由の程度が大きいケースでは、破産を避けて、免責不許可事由がない個人再生を選択する場合があります。
破産でも免責不許可になるのはレアケースですが、リスクはあります。また、管財事件になる可能性も高まります。
なお、個人再生手続においても、免責不許可事由が偏頗弁済や贈与等無償行為などの否認相当行為にも該当するケースでは、清算価値に影響します(それでも破産手続で否認されるよりは影響を自分だけに留めるメリットがあります)。
 
◆免責決定が確定してから7年未満のケース◆
前回自己破産の免責確定から7年未満のケースでは、自己破産をすることができません。厳密にいえば免責不許可事由の1つになるのですが、このケースでは裁判所が容易に裁量免責をしてくれません。
そのため、小規模個人再生を選択します(個人再生でも給与所得者等再生は使えません)。
 
◆破産における資格制限を回避するケース◆
破産手続には、数は少ないですが、手続中に就けない職業があります(「資格制限」といいます)。警備員、保険外交員、証券外務員、宅建主任者、旅行業務取扱主任者、マンションの管理業務主任者などです。
これに対し、個人再生は資格制限がありません。資格制限を避けるために個人再生を選択するケースがあります。
 
◆処分されたくない財産があるケース◆
個人再生では、財産は処分されません。財産額(清算価値)が最低弁済額に影響を与えるにとどまります。車、保険、不動産を残したいという目的で個人再生を選択することもあります。もっとも、清算価値が大きいケースでは、最低弁済額が大きくなり、個人再生の選択ができない可能性もあります。
もっとも、破産においても、本来的自由財産及び自由財産拡張対象財産は手元に残ります。
 
◆車を残したい◆
ローンの付いていないあるいは完済した車は、個人再生では確実に残せます。価値が最低弁済額に影響を与えるだけです。
破産でも初年度登録から6年経過している車は原則残せます。
クレジット会社の所有権留保物件になっている車はどちらの手続でもクレジット会社へ返却が必要です。普通自動車は、所有者名義の登録状況や契約形態によって返却すべきでないケースもありますので、車検証の写しと契約書を弁護士に提出して確認してもらった方がいいです。
なお、銀行のマイカーローンは所有権留保物件になっていないのが通常です。
 
◆勤務先に対する債務があるとき◆
債権者はすべて破産債権者あるいは再生債権者として扱わなければなりません。勤務先に借金(名目は借金ではなくても債務があれば同じです。給与明細を確認してもらってください。)があるときは、申立て前に優先弁済する決断をするケースもあります。破産でいう免責不許可事由と否認対象行為に該当します。そのようなケースでは、個人再生の方が無難かもしれません(破産を利用できないというわけではありません)。免責不許可事由がないですし、否認対象行為も清算価値に計上するだけで済みます。
 
◆家賃滞納があるとき◆
家賃滞納があるケースでは、免責不許可事由と否認対象行為に該当することを覚悟して優先して滞納を解消してから自己破産を申し立てるケースもありますが、個人再生の方が無難な方法かもしれません。免責不許可事由がないですし、否認対象行為と見られても清算価値に計上するだけで済みます(破産を利用できないというわけではありません)。
 
◆自己破産を望まれるケース◆
個人再生を選択して少しでも債権者に弁済したいというご意向を尊重するケースも多くあります。自己破産を潔しとはしない方です。
ただし、職業が不安定なケースや、弁済期間が5年にしなければならないケースでは、お勧めしません。途中で弁済できなくなると水の泡になりますし、5年後に全く貯蓄がないという状況は好ましくないです。

住宅資金特別条項

1.住宅資金特別条項とは

住宅資金特別条項は、個人債務者が住宅を手放すことなく経済的更生を図ることを可能とするため、住宅ローンの返済を継続しながら住宅を維持しつつ、他の債務を圧縮して原則3年で弁済できるようにする制度です。住宅ローン特則とも呼ばれます。
 
住宅資金特別条項の利用には、担保が付いているのが「住宅」であり、対象のローンが「住宅資金貸付債権」でなければなりません。
 
「住宅」と認められる条件は、
①所有する建物であること
②自己の居住の用に供する建物であること
③床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されること
です(複数建物がそれらを満たす場合には主として居住の用に供する建物でなければいけません)。
 
この3つの要件を充たす限り、店舗兼居宅、二世帯住宅でもかまいません。
必ずしも単独で所有している必要はなく、共有の不動産でも対象になります。
 
「住宅資金貸付債権」と認められる条件は、
①住宅の建設・購入あるいは住宅の改良に必要な資金の貸し付けであること
②分割払いの定めがあること
③債権または保証人(保証会社)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されていること
です。
この3つの要件を充たす限り、借り換えローンやリフォームローンでもかまいません。抵当権ではなく根抵当権でもかまいません。
 
通常の住宅ローンですと、「住宅」、「住宅資金貸付債権」とも上述の条件を満たしますね。
 
住宅資金特別条項には、①期限の利益回復型、②リスケジュール型、③元本猶予期間併用型、④同意型・合意型の4つの種類がありますが、そこまで気にしなくてもけっこうです。
住宅ローンの期限の利益を喪失していなくて、そのまま約定の弁済を続ける最も多いケースを「約定型」あるいは「そのまま型」と呼んでいます。

保証会社が既に代位弁済をしていても利用できます(「巻戻し」)。ただし、保証会社による代位弁済から6か月以内でなければならない等条件があります。利息損害金等の費用負担も問題となります。
抵当権が実行され競売を申し立てられているケースでは、競落されてしまうと住宅資金特別条項が利用できなくなりますので、中止命令申立てが必要です。
 
借入が住宅ローンだけのケースでも住宅資金特別条項を利用した個人再生が可能です。
 
仮に住宅資金特別条項が利用できないときは、別除権協定を債権者と結んで住宅を残す方法も理屈上は考えられますが、実際上はなかなか難しいです。

2.住宅資金貸付特別条項が利用できるか問題となるケース

住宅資金特別条項が利用できるかどうかの判断は技術的で難しい場合がありますので、弁護士に確認してもらってください。
弁護士に相談される際には、①住宅ローンの契約書、②不動産の登記簿謄本、③固定資産課税明細書、④返済予定表をお持ちください。
 
住宅資金特別条項が利用できるか問題となる具体的な例についていくつかコメントをいたします。
 
◆オーバーローンではないケース◆
住宅資金特別条項は、自宅不動産がオーバーローン状態(不動産価値よりも抵当権の被担保債権の方が大きい状態)でなくとも利用できます。
ただし、余剰価値(不動産価値マイナス抵当権の被担保債権)は、清算価値に計上しなければいけません。余剰価値が大きいと、最低弁済額が大きくなりすぎます。
 
◆賃貸に出しているケース◆
賃貸している不動産については、自己の用に供する建物ではないとして住宅資金条項が使えないのが原則です。
しかし、転勤の期間を利用するなどして一時的な賃貸借をしており、将来的に居住の用に供すると客観的に認められるケースでは、住宅資金特別条項の利用が可能です。
 
◆他の担保が付いているケース◆
自宅不動産に住宅ローン以外の担保権が付いていたら住宅資金特別条項が利用できません。債権者間で不公平が生じるからです。
同じ理由で、滞納処分による差し押さえがなされている場合も利用できません。完済する、課税庁と協議が成立しているケースでは例外が認められ得ます。
 
◆諸費用ローンがあるケース◆
住宅ローンと同時に諸費用ローンを組み、自宅不動産に抵当権を付けているケースでは、理論上は住宅資金特別条項が利用できないのが原則です。
しかし、諦める必要はありません。
運用上は、
①住宅の建設もしくは購入に密接に関わる資金の借入れであること
②諸費用ローンの額が住宅資金に比べて僅少であること
をきちんと説明できるケースでは、諸費用ローンを住宅資金貸付と扱ってくれる傾向にあります。
②は通常満たしますね。住宅ローンの1割程度が諸費用ローンの金額のはずです。①は、諸費用ローン契約書の資金使途欄の記載や領収書にて、登記費用、仲介手数料、税金、火災保険料等住宅の建設もしくは購入に密接に関わる資金であったことを説明すれば大丈夫です。
ただし、諸費用ローンを住宅資金貸付と認めるのは例外的取り扱いなので、個人再生委員が選任される可能性が高いと思われます。
 
◆夫婦ABが同時に債務整理しなければならないケース◆
夫婦ABが同時に債務整理をしつつ自宅を維持したい場合には気を付けないといけません。場合によっては自宅の維持に支障があります。
不動産所有者名義(単独所有か共有か)と住宅ローンへの関わり合い(連帯債務者、連帯保証人か)でパターンを分けて説明します。
 
①Aが所有者兼債務者でBが住宅ローンに関与していない
通常のケースです。BがAの住宅ローンの連帯保証人や連帯債務者ではない、かつ不動産の所有権持分ももっていないケースです。
Bの債務整理がAの住宅ローンに影響を与えることはありません。単純に住宅ローン債務者であるAが住宅資金特別条項を利用して個人再生を進めます。
Bは自己破産でも個人再生でもかまいません。
②Aが所有者兼債務者でBが連帯保証人
住宅ローン債務者であるAは住宅資金特別条項を利用して個人再生ができますが、所有者ではない保証人のBは住宅資金特別条項を利用できません。
ここで困ることがあります。保証人の自己破産、個人再生申立ては住宅ローンの期限の利益喪失事由に挙げられています。
Bが個人再生あるいは自己破産をすることによりAの住宅ローンの期限の利益が喪失されないように、住宅ローン債権者との交渉が必要になります。多くの債権者は期限の利益を喪失しない扱いにしてくれるとは思います。
③Aが所有者兼債務者でBが住宅ローンの連帯債務者
所有者であるAしか住宅資金特別条項が利用できません。
Bが自己破産なり個人再生なりを選択するのであれば、上述の連帯保証人のケースと同じような交渉が必要です。
④不動産はAB共有、Aが債務者、Bが連帯保証人
このケースでは、ABが同時に個人再生を申し立てる場合に限って、夫婦ともに住宅資金特別条項が利用できるとされています。Bは所有者でありますが、保証債務履行請求権は住宅貸付金に該当しません。同時に申し立てる場合に限って利用が許される所以です。
⑤不動産はAB共有、ABが連帯債務者
登記簿の乙区を確認してください。住宅ローンの抵当権の債務者の記載として夫婦AB両名が記載されていれば問題なく住宅資金特別条項の利用ができます。不動産が夫婦共有の場合はこのケースが多いと思います。抵当権の債務者の記載がズレているケースは債務者としての記載のない配偶者は利用できないことになります。
⑥不動産はAB共有、ABが個別に住宅ローンを負担
夫婦がそれぞれ個別の住宅ローンを組んでいるケース(ペアローン)は、ABのそれぞれの住宅ローンについて各ABを債務者とする抵当権が設定されていれば、住宅資金特別条項が利用できます。ただし、このケースでもABが同時に個人再生を申し立てる必要があります。
 
◆住宅ローン債権者に他の借入れもあるケース◆
住宅ローンを借りている銀行に、銀行カードローンなどの他の借金もあることは多いです。
このようなケースでも住宅資金特別条項を利用して、住宅ローンのみ支払いを継続することはできます(他のローンは再生計画に基づいてその一部を支払うことになります)。
もっとも、受任通知が届くと引落口座を凍結されると思いますので、返済方法を銀行と協議する必要が出てきます。

小規模個人再生

1.小規模個人再生の要件

小規模個人再生を利用する要件は次のとおりです。
勿論。個人再生ですから、個人であることが条件となっています。
 
◆手続開始要件◆
①支払不能のおそれがあること
②申立てが適法であること
③民事再生法25条所定の棄却事由がないこと
④将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあること(収入要件)
⑤負債総額が5000万円を超えていないこと
 
③は、主に再生計画の立案あるいは可決の見込みがあることが要求されます。特に履行可能性が問題になると思ってください。きちんと計画どおり弁済していける見込みがあるのかということです。
⑤では、住宅資金特別条項の住宅資金貸付(住宅ローン)の金額は外して計算します。
 
◆認可要件◆
再生計画が認可されるための認可要件として、債権者の消極的同意が必要です。そのため、書面決議手続があります。
具体的には、書面決議により、再生債権者の頭数の半数以上の不同意、あるいは基準債権額(議決権の額)の過半数となる債権者の不同意があると、再生計画案が否決されます。手続もそのまま廃止されることになります。
債権者が2社以内のケース、過半数の債権額を占める債権者がいるケースでは、1社でも反対をすれば再生計画が認可されませんので小規模個人再生の選択も慎重になり、給与所得者等再生の選択も検討します。
 
◆派遣社員、契約社員、アルバイト、年金生活者◆
継続的な就労実態がある限り、たとえ勤務先が変わっていたとしても、「将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込み」(収入要件)を満たすと認められます。年金生活者もまた利用可能です。
給与所得者等再生と違って、小規模個人再生では緩く認めてくれる傾向にあります。
 
◆家族の収入や親族からの援助◆
本人について将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあることの要件を満たせば、履行可能性については配偶者などの収入を入れた家計収支で判断します。
親族の援助も確実に見込まれることが疎明できれば加味してもらうことは可能です。
 
◆専業主婦・専業主夫◆
継続収入の要件を充たさないために個人再生を利用することはできません。
 
◆再生中に退職予定の場合◆
転職先が確実に見込まれているときは可能です。
なお、退職金が出る場合には最低弁済額が大きくなってしまいます(手続中に支給されるケースで4分の1評価が可能であったケースがあります)。
 
◆債権者の反対◆
債権者の反対の可能性は高くはありません。従前は、公的金融機関以外はよほどのことがない限り反対をしてきませんでした。反対しても自己破産を選択されてしまうと経済的合理性がありません。
しかし、最近は、ケースバイケースの判断で、あるいは会社の方針として、反対する債権者が増えてきているような気がします。勿論、反対をしてこない債権者が大多数であることは変わりありません。
 
◆不認可となったら◆
債権者の反対により再生計画が不認可となっても失敗だと諦めてはいけません。手続廃止を待って、すぐに自己破産あるいは給与所得者等再生を申立てます。
弁済率を上げれば債権者が賛成するという見込みがあれば、交渉の上、小規模個人再生の形で再度申立てをすることもあり得ます。

2.小規模個人再生の流れ

広島地方裁判所本庁における小規模個人再生の流れは次のとおりです。わかりやすくするために細かい手続は捨象しております。
 
なお、個人再生委員が選任されない多くのケースでは、弁護士が代理する限り、ご本人が裁判所に行くことは原則ありません。例外的に事情を確認のために呼び出されることがあるだけです。
 
①受任通知の発送
契約後、債権者に受任通知を発生します。弁済はストップいたしますが、住宅資金特別条項を利用するケースでの住宅ローンは引き続き弁済してもらいます。
受任通知の発送により、借入れをしている銀行の口座が凍結されることにご注意ください(保証人の口座も凍結されます)。
 
②申立準備
個人再生では家計収支表を3か月分提出しないといけません。自己破産よりも1か月分多く、準備期間を3か月から4カ月とることが多いです。
また、個人再生を選択するケースでは収入が相応にあり法テラスを利用できないケースも多いです。弁護士費用の分割払いをしている期間が長くなれば準備期間も長くなります。

③申立て
住所地(住民登録地と居所が別の場合には居所が優先)を管轄する地方裁判所に個人再生手続開始を申し立てます。
申立て後、1~2週間で、裁判所から補正連絡(宿題のようなもの)が来ることが多いです。
なお、履行可能性を確認するために必要とされる「試験積立」を開始するタイミングも申立て時が多いです。
 
④手続開始決定
補正連絡(裁判所からの宿題)に対応し予納金を納めれば開始決定が出ます。裁判所から債権者に対して債権届の提出を求めます。
個人再生委員が選任されるケースでは、予納金を納付したタイミングで個人再生委員が選任され、選任後3週間を目途として開始要件に関する意見書が出された後に開始決定が出ます。
 
⑤報告書、計画案の提出
財産状況報告書、再生計画案、返済計画表の提出期限が開始決定の2か月後程度に設定されます。
試験積立通帳の写しは必ず、裁判所の指示があれば家計収支表も一緒に提出します。
 
⑥書面決議
報告書等提出後1週間程度で書面による決議に付する決定が出ます。回答書提出期限は1月弱でしょうか。
個人再生委員が選任されているケースでは、意見書の提出に2週間ほどかかります。
 
⑦再生計画の認可・不認可
回答書の提出があり、再生債権者の頭数の半数以上の不同意、あるいは基準債権額(議決権の額)の過半数となる債権者の不同意がない限り、裁判所が再生計画の認可決定を1週間以内に出してくれます。
 
⑧弁済開始
再生計画の認可決定が確定したら、再生計画に基づいた弁済の開始です。再生計画認可の翌月末から弁済が開始するイメージでいいと思います。
 
◆申立て~認可決定の期間◆
スタンダードでなケースで5カ月程度だと思ってください。弁済開始までは6か月前後ですね。個人再生委員が選任されるケースでは1か月程度長くなります。
広島地方裁判所本庁では、開始決定が出ると今後の手続の予定を書いたスケジュールをもらうことができます。

◆弁済ができなくなったとき◆
再生計画の履行の見込みがないと再生計画は認可されませんが、その後の失業などで再生計画案に基づく弁済ができなくなるケースもあります。債権者が再生計画取消を裁判所に申立て、取消し決定が出てしまうと、失敗に終わります。
これまでの苦労も水の泡になってしまい、改めて自己破産を申し立てざるを得ないことが多いでしょう。数日の遅れなら何とかなりますが、遅れが続くようでしたら、早めに相談してください。

給与所得者等再生

1.給与所得者等再生の要件

給与所得者等再生は、小規模個人再生の特則と位置付けられています。小規模個人再生の特則ですので、前述の小規模個人再生の手続開始要件を満たしていることが前提です。
 
小規模個人再生と違い、再生債権者による書面決議が必要ありません。債権者の意見は聞かれずに、裁判所がOKを出したら再生計画が認可されます。
再生債権者の書面決議を不要とする代わりに、要件が加重され、最低弁済額の計算も異なるという仕組みです。
それらを要件を充足するかの意見をもらうため個人再生委員が選任される可能性が高まります。
 
◆加重される要件◆
「給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり、収入の変動の額が小さいと見込まれること」が必要です。
将来において継続的・反復的に収入を得る見込みがあることが小規模個人再生よりもかなり厳しく吟味されることになります。
原則として過去2年間で給与収入の額に5分の1以上の変動がないことが要求され、もし変動があれば今後の変動が小さいと見込まれる事情の説明が必要です。
 
また、破産免責決定の確定、給与所得者等再生計画認可決定の確定、あるいはハードシップ免責再生計画認可決定の確定から7年を経ていることが必要です。
それらから7年未満のケースは、小規模個人再生を選択します。
 
さらに、個人再生では再生計画が遂行される見込みがないときは再生計画が認可されません。この再生計画の履行可能性をかなり厳しく吟味されます。給与所得者等再生では債権者の意見を聴かずに認可の決定をするためです。
小規模個人再生では書面決議の結果認可できるときは例外なく認可されます。
 
◆最低弁済額の計算方法◆
給与所得者等再生では、再生計画において計画弁済額を定める際の最低弁済額が小規模個人再生と比べて厳しくなっております。
生活保護基準に従って計算した可処分所得の2年分以上であることが要求されます。収入と被扶養者の数によっては、可処分所得が大きくなりますので、独身者や収入が多い方は選択ができないケースもあります。
詳細は後述いたします。
 
◆個人事業主◆
給与所得者等再生といっても、給与に準じる定期的な収入があればいいわけです。個人事業者であっても、安定的な収入が見込まれる限りで給与所得者等再生の利用も可能です。
 
◆派遣社員、契約社員、アルバイト、年金生活者◆
将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあること(収入要件)を満たし、かつ収入の変動幅が小さいと見込まれる場合には、給与所得者等再生も選択可能です。
裁判所からは厳しく吟味されますが。年金生活者もまた利用可能なケースがあります。

2.給与所得者等再生の流れ

基本的には小規模個人再生の流れと同じ流れですのでそちらをご参照ください。

ただし、給与所得者等再生では、書面決議が必要ありません。
また、個人再生委員が選任される可能性が相対的に高いと思ってください。

再生弁済額

1.最低弁済額とは

個人再生は、計画弁済額を原則3年、最長5年で、弁済する再生計画を策定しますが、計画弁済額を定める際の下限が最低弁済額です。再生計画には、最低弁済額以上の計画弁済額を定めます。
 
最低弁済額をそのまま計画弁済額とすることが多いです。もちろん、それを上回る計画弁済額を定めることもあります。一部の債権者の中には弁済率の大小を反対するかしないかの判断にするところもあります。
 
小規模個人再生と給与所得者等再生では最低弁済額の計算方法が違います。再生債権者の書面決議が必要にもかかわらず小規模個人再生の利用が圧倒的に多いのはこの理由によります。

2.最低弁済額の計算

最低弁済額の計算方法はややこしいです。

財産があまりなく、住宅ローン以外の借金も1500万円以下という最も多いケースでは、小規模個人再生では100万円と債務の5分の1(80%カット)の大きい方の額、給与所得者等再生では可処分所得によりそれが大きくなりうる、とイメージしてください。
詳しくは次のとおりです。

◆小規模個人再生の最低弁済額◆
小規模個人再生の最低弁済額は、
①財産評価額(清算価値)
②基準債権から計算される最低弁済額(総債務の一定割合)
の大きい方の金額になります。
 
①まず、清算価値保障原則があります。財産財産(清算価値)以上の計画弁済額を定めないといけません。自己破産をする場合よりも多く弁済しなさいということです。
そのため、清算価値の考え方は破産手続とほぼ同様になります。詳しくは後述します。
 
②次に、基準債権から計算される最低弁済額は、次のとおりです。
基準債権額100万円以下・・・・その額
基準債権額の500万円以下・・・100万円
基準債権額1500万円以下・・・基準債権の5分の1
基準債権額3000万円以下・・・300万円
基準債権額5000蔓延以下・・・基準債権の10分の1
 
基準債権額には、未払利息・遅延損害金も入ります。手続が遅れるとだんだん大きくなっていきますので、気を付けてください。
基準債権には、住宅資金特別条項を利用する場合の住宅ローン債務額は入りません。
 
例えば、基準債権が600万円、清算価値が110万円であれば、基準債権から計算される最低弁済額120万円の方が清算価値より大きいですから120万円が最低弁済額です。
基準債権が500万円、清算価値が150万円ですと、基準債権から計算される最低弁済額100万円よりも清算価値の方が大きいですから、最低弁済額は150万円になります。
 
給与所得者等再生の最低弁済額◆
給与所得者等再生の場合には、
小規模個人再生における
①財産(清算価値)、
②基準債権から計算される最低弁済額
のいずれか大きい金額という計算に加えて、
③最低弁済額が可処分所得の2年分以上であること、
も要求されます。
可処分所得は裁判所の書式である可処分所得算出シートに基づいて計算します。

可処分所得は、【手取り収入額-費用額】です。
「手取収入額」は、総収入から所得税額・住民税額・社会保険料額を控除して算出します。それだけしか控除できません。計算には過去2年分の源泉徴収票(あるいは確定申告書)、市県民税課税台帳記載事項証明書が必要になります。
「費用額」は実額ではありません。個別の事情にかかわらず、再生債務者の収入と年齢、被扶養者の数と年齢から、機械的に算出されます。生活保護基準がベースになっております。通常は、実際にかかっている費用よりも小さい数字になります。
 
実際に計算してみると、可処分所得の2年分がかなり大きくなることも多いです。収入が相応にあり、被扶養家族が少ないあるいは独身者のケースですね。

清算価値

1.清算価値とは

小規模個人再生でも給与所得者等再生でも、計画弁済額を定める際は、清算価値を上回るように定めなければいけません。清算価値保障原則です。
 
清算価値保障原則は、自己破産との均衡を図るためのものです。
そのため、清算価値の計算においては、
・基本的に破産の場合の財産評価方法によります。
・破産における自由財産拡張相当の財産99万円までを控除することができます。
・破産における否認相当行為がある場合には清算価値に計上します。
 
手続的には、裁判所の書式である財産目録兼清算価値算出シートに従い清算価値を算出するようになっています。

2.清算価値の注意点

清算価値の計算は、基本的には破産の場合の財産評価方法に従いますので、ここではいくつかコメントするに留めます。
評価方法や計算方法は専門的なため、弁護士の指示にしたがって資料を提出していただき、弁護士が計算することになります。
 
◆破産における自由財産◆
個人再生では破産における自由財産は清算価値に計上しません。自由財産には、本来的自由財産と拡張手続を経たそれ以外の自由財産があります。
 
本来的自由財産である現金と自由財産拡張の対象となる財産のうち全体で99万円までが清算価値から控除できるとイメージしてください(例えば300万円の財産価値があっても清算価値は201万円になりうる)。
 
本来的自由財産は、破産法で定められた自由財産で、99万円以下の現金及び差押え禁止財産が本来的自由財産だと考えてください。
差押え禁止財産の主なものは次のとおりです。差押え禁止財産はそもそも清算価値に計上しません。
・生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用品等(通常の家財一式)
・退職金の4分の3
・小規模企業共済
・中小企業退職金共済、建設業退職金共済
・確定拠出年金
 
自由財産拡張は自由財産の範囲を本来的自由財産以外の財産まで拡げる手続ですが、その自由財産拡張対象となる財産について、現金を含めての99万円の範囲で清算価値から控除することができます。
経済的更生に必要・相当と認めてくれない財産は自由財産拡張の対象となりません。不動産、株式、債権、投資信託などが典型です。車については、実用車は対象ですが、趣味のための車は対象外です。それらの判断をしないと清算価値は計算できないことになります。
 
◆退職金の評価◆
退職が差し迫っている例外的なケースを除き、自己都合退職した場合の支給見込額の8分の1が財産額として評価されます。仮に退職が決まっているが受取前という段階まででしたら、差押え財産との関係で4分の1の評価まで抑えることができます。
これに対し、中小企業退職金共済(中退共)、小規模企業共済は、退職金と類似のものですが、法律上差押え禁止財産ですので財産とはみなされません
 
◆保険の評価◆
解約返戻金額が評価額となります。契約者貸付を受けている場合には同貸付金を控除した金額になります。解約をしたら現金預金での評価です。
確定拠出年金は本来的自由財産でありカウントされませんが、年金保険は評価の対象です。
 
◆破産における否認対象行為があるとき◆
破産における否認対象行為(一定の時期における贈与等無償行為や偏頗弁済など)があるときは個人再生手続においても清算価値に影響します。
破産において破産管財人が否認権を行使して財団に取り戻すべき財産の評価額を、清算価値に計上する扱いになります。例えば、申立て直前に100万円贈与したのであればその100万円が現在のこっているものとして清算価値に加えるのです。これも破産との均衡を図るためです(清算価値保障原則)。
免責不許可事由の程度が大きいため個人再生を選択しても、それが否認対象行為にもあたる場合にはその分清算価値が大きくなります。
 
◆共済借入があるとき◆
共済借入は個人再生開始決定が出るまでは給与天引きを止めないことがほとんどです。偏頗弁済としての否認相当行為として、受任通知後の弁済額を清算価値に計上するのが通常です。早めの申立てが必要なケースがあります。
 
◆交通事故の被害者◆
損害賠償金が入金されていれば、現金あるいは預貯金として財産評価されます。
そうでない場合には、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料という一身専属性が認められる慰謝料請求権とそれ以外の財産的損害を填補する損害賠償請求権に分けて考えます。
前者は金額が確定しない限りは財団債権に属さないとされているので確定しない限り清算価値に計上しません。
後者の財産的損害に基づく損害賠償請求権は、財産として評価されます。治療費、介護費用、入院雑費については自由財産拡張対象財産としてその範囲で清算価値から控除することができます。
 
◆試験積立金◆
個人再生では履行可能性を判断するために、弁済計画に基づいて想定できる月額弁済金相当を通帳に積立ていただき、裁判所に再生計画等と一緒にその通帳写しを提出します。それを試験積立てと呼びます。履行テストですね。
試験積立金は再生計画認可決定が確定次第、引き出す等して再生計画に基づく弁済に使ってもらいます。
再生開始決定までの試験積立金は清算価値に計上することになっていますので、当職は申立て後に試験積立てを開始してもらうことが多いです。

個人再生委員

1.個人再生委員とは

裁判所が必要と判断するケースで個人再生委員が選任されます(全件について選任する運用をしている裁判所もあります)。個人再生委員には弁護士が選任されます。
 
個人再生委員の仕事は、
①再生債務者の財産及び収入状況の調査
②再生債権につき適法な評価申立てがあった際の裁判所の補助
③再生債務者が適正な再生計画案を作成するために必要な勧告の実施
のうち裁判所が指定する職務を行うとされています。
といっても、手続全般に関してサポート、監督をするイメージです。
 
主に、
将来おいて継続的または反復して収入を得る見込み
破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれ
再生計画案の作成若しくは可決の見込みまたは認可の見込みがないことが明らかではないか(財産状況、清算価値保障原則、履行可能性)
をチェックすることになります。
 
個人再生委員は、破産手続の破産管財人と違って財産の管理処分権を有しませんし、調査権限も再生債務者を通じた間接的なものです。
個人再生委員が再生開始の適否等を判断するのに必要な資料が提出されないことによる不利益は再生債務者が負担しますので、個人再生委員から求められた報告や書類はきちんと提出するようにしなければいけません。
 
個人再生委員が選任されることになると、裁判所への予納金が20万円程度高くなります。
 
個人再生委員の意見書(開始要件)の提出スケジュールが選任後3週間と、上述のような点を全て調査しなければならないことを考えると非常にタイトです。個人再生委員選任前に資料の提出などをお願いされることが多いでしょう。
 
開始決定後では、家計収支表の継続提出と試験積立口座の継続的な提出をお願いされるでしょう。個人再生委員は、その上で、再生計画案及び弁済計画表の作成指導をします。

2.個人再生委員が選任されるケース

広島地方裁判所本庁では必要があると裁判所が判断するケースのみ個人再生委員が選任されます。個人再生委員が選任される可能性があるケースでは追加予納金20万円程度の用意も考えておかなければいけません。
 
当職は個人再生委員を拝命することも多いですが、その経験から言えば、次のようなケースで選任される傾向です。
 
◆本人が再生手続をよく理解していないと判断されるケース◆
本人申立てや司法書士が書面作成代理をする案件で、本人が再生手続をよく理解していないと裁判所が判断したケースです。弁護士代理案件では弁護士が代理人として裁判所に対応しますのでこのようなことは起きません。
 
◆裁判所からの補正要請に十分に対応していないケース◆
申立てをすると、裁判所から必要書類の不備の追完を指示されたり、問題点を指摘されて報告を求められたりします。そのことを補正連絡といいます。補正連絡にきちんと対応しなければ、個人再生委員が選任される傾向にあります。
 
住宅資金特別条項の適用要件を充たすか検討が必要なとき◆
住宅資金特別条項を利用する場合、不動産の価値の算定や諸費用ローンがある場合などの要件を充たすのか問題が生じることがあります。その判断のために個人再生委員が選任されることがあります。
 
◆開始要件や清算価値に疑義が生じ得る案件◆
収入要件を充たすかどうかや清算価値の計算方法などに疑義が生じるケースでは個人再生委員が選任されます。
 
◆破産における否認対象行為があるケース◆
破産における否認対象行為がある場合には清算価値に計上しなければならないのですが、その評価のために個人再生委員が選任される可能性があります。
 
◆別除権協定を締結する場合ケース◆
別除権協定を締結する場合には個人再生委員が選任されます。別除権協定を締結するケースはレアですので、あまり気にしなくてもいいです。

個人再生の費用

1.個人再生の費用

個人再生に必要な費用としては、弁護士費用と裁判所への予納金、予納郵券が挙げられます。

◆相談料◆
当事務所では借金問題の初回相談料は無料とさせていただいております。お気軽にご相談ください。
 
◆弁護士費用◆
着手金が必要です(成功報酬金をとる事務所はあまりないと思います)。少額の実費を請求されることもあります。
着手金の相場は広島では33万円から38万5000円(消費税込)前後でしょうか。
当事務所では、原則として27万5000円(消費税込)で対応させていただいておりますが、ご事情により増減させていただくこともあります。
当事務所は比較的安い設定と言われることがありますが、弁護士は金額だけで選んではいけません。
 
◆法テラス◆
弁護士費用は法テラスの民事法律扶助制度を利用してご準備いただくことも多いです。弁護士費用を立て替えてくれ、毎月5000円からの分割で償還していきます。債権者の数にもよりますが20万円からの安価な設定となっております。自己破産よりも設定金額が高めとなっている理由は、手続が煩雑なためでしょうか。
法テラスへの利用は家計収入が一定未満であること、財産が一定額未満であることが必要です(資力要件)。申請は弁護士事務所を通じて行いますので、要件に該当するかどうかどうかや必要書類の用意は弁護士にお尋ねください。
なお、法テラスの無料法律相談も同一案件3回まで利用できます。
 
◆予納金等◆
個人再生委員が選任されないケースでは、債権者の数にもよりますが、予納金及び予納郵券で30,000円ほどお預かりしております。余った分はご返却しています。
個人再生委員が選任されるケースでは、予納金が20万円程度余分にかかると思ってください。個人再生委員の報酬分予納金が高くなります。

2.費用の準備

費用の準備の方法も弁護士とよく相談しないといけないことです。
 
法テラスの民事法律扶助を利用しないケースでは、分割払いにも応じております。個人再生のケースでは、借金の弁済をストップしている間に、個人再生をしたと仮定して想定される月当たりの弁済額を毎月お支払いいただいて、試験積立ての代わりにすることが多いです。約束どおりお支払いできないかったケース、あるいは支払いが厳しかったケースでは、自己破産へ方針を変更することも検討します。
 
また、資産処分により弁護士費用、申立て費用を用意することも自己破産と同様に許容されています。
 
個人再生委員が選任される可能性があるケースでは、予納金の準備も考えなければなりません。準備中に用意してもらいますが、用意できる目途がたつまで申立てを遅らせるケースもあります。
 
費用の準備の方法や時期は、個々の事情に応じて申立てのタイミングを図りながら考えないといけません。弁護士によくご相談ください。

準備の注意点

1.弁護士のサポートが必要

個人再生の申立ては技術的な面が多いため、専門家のサポートが必要になります。
 
個人再生のサポートには、個人再生手続は勿論、清算価値等で考え方の重なる破産手続にも精通してなければいけません。個人再生や破産を表からも裏からも見ることができる破産管財人や個人再生委員の経験も重要です。
破産管財人、個人再生委員は弁護士が担っています。弁護士のサポートを受けるべきでしょう。
 
また、自己破産と同様、個人再生申立代理人となれるのは弁護士だけです。諸手続について代理しあるいは同席できるのは弁護士ですので、やはり弁護士のサポートを受けるべきでしょう。
 
破産、個人再生に精通し経験豊富な弁護士であれば、ご相談内容に応じて、任意整理、個人再生、自己破産等のどの債務整理手続が適切なアドバイスができますし、問題となり得る点を想定して法的な対応を検討・整理できます。
弁護士ならだれでもいいというわけではありません。準備や組立ての巧拙が、後の個人再生手続での手続進行や解決に直結します。個人再生委員の選任の有無にも関係してきます。
 
弁護士に相談される際には、細かいことでもどんどん質問してください。役に立つ弁護士であれば、具体的な回答やアドバイスがもらえるはずです。
 
当職は、破産や再生事件を業務の柱の1つとして倒産法制に精通し破産管財人等の経験も豊富な「倒産弁護士」の一人であると自負しております。
個人再生についても広島において最も多くの申立代理人や個人再生委員をしている弁護士の1人だと思います。
ぜひ、当事務所にご相談ください。一緒に解決策を探していきましょう。

2.準備の注意点

個人再生の準備における注意点は必要書類を含めて自己破産の準備の注意点と重なります。ここでは、個人再生特有の注意点を中心にいくつかコメントいたします。
 
◆受任通知◆
個人再生においても受任通知を借り入れのある銀行に発送すると銀行口座が凍結されます。残高がある場合には相殺もされてしまいます。保証人の口座も同様ですのでご注意を。
借入のある銀行に給与口座、年金口座がある場合、変更できたことを確認できてから受任通知を発送します。
住宅ローン債権者である銀行に他の借入れがあるケースでは、住宅ローンの返済方法を銀行と協議をして住宅ローンのみ返済を継続します。
 
◆自己破産か個人再生の選択は申し立て直前まで変更できる◆
方針は申立て直前まで変更可能です。個人再生の申立準備期間は、本当に個人再生が可能か見極める期間でもあります。家計収支表の作成をしながら、あるいは費用を分割でご準備されながら家計をチェックした結果、個人再生に必要な弁済原資が確保できそうもなく自己破産に変更するということがあります。
 
◆試験積立◆
当職は試験積立を申立て後にしていただいております。開始決定前の試験積立金額は清算価値に計上されるからです。また、再計計画に載せる計画弁済額は準備が進まないと正確に把握できないという理由もあります(弁済のテストですので再生計画認可後に想定される金額を積み立ててもらいます)。
 
住宅資金特別条項の利用を考えている場合◆
相談時には、住宅ローン契約書、不動産登記簿謄本、固定資産課税明細、住宅ローンの残高が分かる資料をお持ちください。事前に近くの不動産業者にだいたいの相場を聞いてみることもできれば有用です。
申立て時には、原則として不動産業者の査定書が要求されます。取得できなければ弁護士に相談してください。銀行発行の住宅ローンの残高証明書も必要になります。
 
◆租税公課の滞納◆
租税公課の滞納がある場合には、弁済方法を課税庁と協議をしてもらわないといけません。協議結果およびその履行状況が申立書の報告事項になっております。
 
◆債権者に漏れがないように◆
個人再生はすべての債権者を計上しなければなりせん。手続中に債権者に漏れが判明した場合には、債権者に届出をしてもらわなければならないのですぐに弁護士に伝えてください。
手続後に債権者の漏れが判明した場合には、再生計画の再生債権の弁済率に応じて債務を弁済します。再生計画で既に期限が到来している分は一括弁済です。免責の効果が及ばない破産よりは傷が浅いですが、気を付けてください。
 
◆給与天引きの返済◆
給与天引きで救済借入等が控除される形で弁済しているケースがあります、受任通知を出しても通常止まりません。理屈上は受任通知後の天引き分は偏頗弁済となり、清算価値に計上する必要が出てきます。
そのためできるだけ早く申し立てなければならないケースもあります。
 
◆家計収支表◆
家計収支表3か月分が必要書類ですが、申立て後も履行可能性のチェックのために再生計画案提出までの家計収支表の作成を指示されることがあります。家計収支表は申立後も引き続き作成してもらうようにしております。
 
◆相続関係◆
相続関係は報告しないといけません。ケースによっては遺産分割協議書、不動産登記簿謄本、戸籍等の提出が必要となります。
未分割遺産があると法定相続分が財産となり清算価値に計上しなければいけません。清算価値が大きくなりすぎ個人再生の利用を諦める可能性も少なくありません。
また、直前の遺産分割は否認対象行為かどうか吟味されます。否認対象行為であると、取り戻されるべき財産評価額を清算価値に計上することとなります。

まとめ

1.個人再生の徹底解説

個人再生の徹底解説と題して説明をさせていただきました。
個人再生は、最低弁済額(多くのケースでは総債務の5分の1になる。)を原則3年(最長5年)で分割弁済をし、その余の債務の免責を受ける手続でした。まずは任意整理か法的整理手続か検討し、次に自己破産と個人再生の手続選択をします。個人再生でも、最低弁済額の計算方法の違い等から、まずは小規模個人再生の利用を考えますが、給与所得者等再生を選ぶべきケースもありました。住宅資金特別条項の利用は個人再生選択の目的の1つですが利用できる条件がありますので注意が必要です。最低弁済額のルールは複雑で清算価値は破産と同じ考え方で計算をする必要がありました。個人再生委員は聞きなれない制度だったと思います。
わかりやすく説明をしたつもりですが、かえって個人再生はややこしい手続だと思われたかもしれません。難しいことは専門家に任せればいいのでご心配なさらないでください。費用の面もご説明いたしましたが、通常無理なくご用意いただけていますのでご相談ください。
個人再生は経済的更生の手段として有効なものの1つです。ぜひ選択肢に加えてご検討ください。

2.専門的な弁護士のサポート

個人再生の制度は技術的で理解が難しいです。専門家のサポートが必要です。
破産手続、個人再生手続に精通し、破産管財人や個人再生委員の経験が豊富な弁護士のサポートを得ることが、スムーズに手続を進行するため、かつ問題が発生することを防止するための第一歩です。
まずは、そのような弁護士に早めにご相談ください。具体的な解決方法を説明してもらえますし、先の見通しを把握でき安心できると思います。費用面も大事な相談内容ですので、ご遠慮なく相談されてください。
当職もそのような弁護士であると自負しております。
当事務所にご相談いただければ幸いです。一緒に解決策を考えましょう。

この記事を書いた人

firsttime_lawyer.jpg弁護士仲田誠一(広島弁護士会所属)
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27アーバンビュー上八丁堀602
TEL082-223-2900
https://www.nakata-law.com/
https://www.nakata-law.com/smart/
◆経歴
1996年4月~
あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~
東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~
広島大学大学院法務研究科
2008年12月
弁護士登録
2017年~各前期
広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格等
弁護士
公認内部監査人試験合格

個人破産の徹底解説

個人破産の徹底解説
広島市の弁護士の仲田誠一です。今回は、個人(自然人)の破産についての徹底解説です。当事務所では破産や個人再生などの倒産事件を業務の柱の1つとしています。できるだけ実務的な、実際に役に立つ情報を盛り込んだつもりです。ご参考にしてください。なお、会社、法人の破産の解説については別途コラムを用意しておりますので、ぜひご参照ください。

目次

個人の破産とは
破産を選択する基準
同時廃止と管財事件
破産しても残る財産
免責
破産における否認
非免責債権
破産準備の注意点
破産に係る費用
弁護士に依頼する意味
まとめ

個人の破産とは

1.個人の自己破産とは

破産手続とは、支払不能状態にあると判断される場合に選択される、資産・負債の清算手続です。換価できる財産を換価して債権者に配当できる場合には配当をします。
個人の破産には債務の支払義務を免れる「免責手続」が用意されています。法人格が消滅する法人と異なり、資産と負債を清算しても債務が残りますから、別途支払義務を免除する免責手続が必要なわけです。
裁判所の用意する破産申立書では免責許可決定申立てもセットで申し立てる形式になっています。
 
自己破産とは、上述の破産手続開始を「自己」が申し立てる場合です。
債権者が申し立てる債権者申立ての破産もあります。

2.個人の自己破産の流れ(申立てまで)

自己破産申立てまでの個人破産のスタンダードな流れは次のとおりです。

①相談
弁護士に相談をする際は、疑問点や要望、気になっていることを全て伝えてください。弁護士と一緒に、最適な債務整理方法を考えます。

②契約・受任通知の発送
弁護士と契約をすると、弁護士から債権者宛に受任通知を出します。これで債権者からの督促等は止まります。事情によっては必要に応じて特定の債権者に対する受任通知の発送を遅らせることもあります。
受任通知の発送により物事が進んでいきます。期限の利益が喪失され、債権者である銀行の口座が凍結され、相殺されます。保証会社がいるケースでは代位弁済がなされ、車などの所有権留保物件の返却要請も来ます。
 
③申立て準備
申立ての準備期間は2か月~3か月です。
その間に、家計収支表の作成などの準備をしていただきます。弁護士の方は、債権者対応、債権調査をすることになります。
 
④申立て
2カ月分の家計収支表の作成が完了し、債権調査も終わった、というタイミングで申し立てます。
申立先は、住所地を管轄する地方裁判所です(住民登録地と居所が違う場合には居所が優先します)。夫婦や連帯保証関係にある一方に管轄が付く裁判所であれば他方も同時に申し立てることができます。
申立て後、1~2週間を目途に、裁判所から補正命令という形で追加書類の提出要請や質問が送られてきます。

◆給与等の差押えを受けているケース◆
受任通知時を出しても差押えの取り下げに応じない債権者が多いです。可能な限り急いで申立てをし、破産手続開始決定を得て、執行裁判所に対して強制執行の中止を申立てます。
強制執行の中止決定をもらっても差押えが取り消されるわけではありませんが、天引き分は勤務先にプールされ債権者には支払われません。免責決定が確定すれば従業員に支払われます。
中止決定が出た段階では、通常の債権者は差押えを取り下げます。
◆訴訟あるいは支払督促がなされているケース◆
訴訟や支払督促まで進んでいると、債権者が勤務先を知っている場合、給与等差押えに備える必要が出てきます。
訴訟の場合には答弁書を提出し、支払督促の場合には異議を出して、事実上の時間稼ぎをせざるを得ません。その間にできるだけ早く破産を申立て、破産手続開始決定へ進めなければいけません。
弁護士が代理した答弁書あるいは異議申し立ての提出があれば、手続を取下げてくる債権者も多いです。

申立て後の流れは、選択される手続きによって変わるので、後述します。

破産を選択する基準

1.自己破産を選択する基準

個人の債務整理の方法には、自己破産のほかにも、任意整理、特定調停、個人再生もあります。どのような基準で自己破産を選ぶのでしょう。

任意整理と自己破産・個人再生という法的整理手続のどちらがいいのでしょう。

任意整理は、債権者との交渉により通常3年から5年の分割弁済契約を結ぶことです。将来の利息をカットしてくれる債権者がほとんどですが、元金カットは望めません。裁判所の調停手続を利用する場合を特定調停といいます。

自己破産の要件は「支払不能」、個人再生の要件は「支払不能のおそれ」です。それらがないときは、任意整理を選択することになります。理屈はそうですが、よくわかりませんね。
 
当職は、総債務を3年で「確実に」弁済できるかどうかを一つの基準とします。「確実に」というのは、ギリギリではなく余裕をもって返済に回せるお金を考えてもらうという意味です。任意整理の弁済期間も個人再生の計画弁済期間も3年が標準ですから3年を基準にします。支払原資(通常の生活をした際に返済に回せるお金)を考えていただき、元金だけを36回で弁済できないようでしたら自己破産か個人再生でいいです。裁判所に問題視されたこともありません。

その他にも考えることがいくつかあります。
・年収に近い消費性ローン(住宅ローン以外)の残高があるケースは、弁済ができないと見て自己破産、個人再生でよろしいのでしょう。
・無職、職業が安定されていない方、持病をお持ちで仕事に制約がある方は、基本的に自己破産でよろしいでしょう。債務額が小さくても「支払不能」の説明ができます。
・生活保護を受給されている方は、金額にかかわらず自己破産を選択します。保護費からの弁済はしないように指導がなされます。
・任意整理に応じない等強硬な債権者もいます。そのような債権者がいるケースも自己破産を選択した方がよろしいでしょう。
・整理できない債権者がいるときは任意整理を選択します。任意整理できる債権者を選ぶことができることが任意整理の大きなメリットです。

任意整理ではなく法的整理手続を選択するとして、自己破産と個人再生のどちらを選べばいいでしょう。
 
個人再生とは、裁判所から認可された再生計画に基づいて、原則3年間(最長5年間)で一定の債務(計画弁済額)を弁済し、弁済し終わるとその余の債務の免責を受けられる手続です。
任意整理と自己破産との中間に位置づけられるイメージです。債権者の同意が要らない「給与所得者等再生」と、債権者数・債権額の過半数の消極的同意が必要な「小規模個人再生」の2つがあります。給与所得者等再生は、弁済額が大きくなる可能性が大きいので、小規模個人再生を優先して考えます。
 
破産の要件は「支払不能」、個人再生の要件は「支払不能のおそれ」ですが、相対的な違いであり、どちらでも選択できるケースが多いです。
双方可能であれば、経済的更生の観点からのメリットが大きい自己破産を優先して考えることになるでしょう。自己破産であれば非免責債務を除いたすべての債務の支払義務を免れることができるメリットがあります。
 
他にもいくつか考えることがあります。
・継続・安定した収入がない方は自己破産を選択します。個人再生の要件に当て嵌まりません。
・個人再生を選択した場合に予想される計画弁済額を賄えるだけの家計の余裕がない場合も同じです。
・債権者数が少ない、あるいはある債権者が過半数の債権を持っているケースでは小規模個人再生における再生計画案が否決される可能性があり、自己破産の方が無難でしょうか。反対を覚悟して個人再生を選択する戦略をとることもあります。
・住宅ローンを支払いながら自宅不動産を維持したいケースでは個人再生です。個人再生では住宅資金特別条項を用いて住宅を維持できることが大きなメリットです。
・その他残したい財産があるケースは、ケースバイケースでしょう。個人再生でなく自己破産にて特定の財産を残す途も考えられます。
・破産における「資格制限」にかかる職業を継続しなければならないケースでは、資格制限がないというメリットを持つ個人再生を選択します。保険外交員、警備員、証券外務員、宅建主任者等、法律で定まっています。
免責不許可事由の程度が大きい場合には、管財事件になる、あるいは免責不許可になる可能性を考慮します。免責不許可事由のない個人再生を選択する方が無難なケースもあります。
・自己破産をいさぎよしとせず、個人再生にて少しでも弁済したいというご希望が強いケースもあります。個人再生により経済的更生が可能だと判断できる限りで尊重すべきでしょう。

2.自己破産選択を悩むケースの具体例

上述の考え方で方針を選ぶとして、なお自己破産を選択してもいいのか悩む例をいくつか挙げます。
 
◆家賃滞納がある◆
債権者はすべて計上するのがルールです。破産自体では自宅賃貸物件からの退去を求められませんが、家賃滞納がある場合には、家主を破産債権者として扱う必要が出てきますので、賃料不払いにより解約される可能性があります。
諦める必要はないでしょう。他の債務の支払をストップする間に家賃滞納の解消する方法もあります。偏頗弁済という免責不許可事由に該当しますが、弁護士が事情を説明して裁量免責をもらいます。
なお、家主に事前に話をしてもらい、破産手続後滞納分を弁済する(これは自由です)ことで合意して申立てたケースもあります。
 
◆勤務先に対する債務がある◆
借入金、立替金、弁償金、負担金等の名目は問わず、勤務先に債務を負っているケースでは、勤務先を破産債権者に計上しなければなりません。事実上無理ですね。
こちらも問題になることを承知で、やむを得ず優先して弁済するほかないケースもあるでしょう。
なお、組合借入、共済借入の場合には、勤務先自体からの借入れではありません。また、多くは保証会社がいるため支障がありません。
 
◆親族からの借入れ◆
親族も債権者として計上し難い場合があります。通帳に振込みあるいは支払の記録があって判明することがあります。弁済を優先するやむを得ない客観的な事情はないでしょう。
ただし、本当に貸借関係なのかを吟味します。定期に弁済をしていないなどの場合には、法的に弁済を求められる借入金ではなく、援助(贈与)だという説明も可能です。その場合には債権者扱いをしません。
 
◆破産が恐い◆
破産は、破産者の経済的更生を図るために設けられた法律上の制度であり、制裁はありません。
破産手続中の「資格制限」があるだすし、一定の財産を残すこともできます。日常生活には支障がありません。
なお、個人信用情報機関に情報(所謂ブラック情報)が載り、破産後5年間あるいは10年間その記録が残りますが期間が長いかどうかの程度問題です。各信用情報機関加盟金融機関以外はアクセスできませんので、不動産賃借の審査などは関係がありません。
 
◆破産は恥ずかしい◆
破産、個人再生は官報公告があります(政府が発行する新聞のようなものに氏名・住所が載ります)。破産者MAPのような問題サイトも出現しては消えております。
しかし、破産は恥ずかしいものではありません。法律が破産者の経済的更生を図るために設けられた制度です。経済的に困窮された方は、法律上認められた制度に則り、早めに経済的更生を図ることの方が大事でしょう。
 
◆家族に知られたくない◆
経済的更生にはご家族に事情を知っていただき協力してもらうことが望ましいです。
それは別にしても、家族であるという理由で連絡が行くことはありません。程度の高い浪費のケースで配偶者と話をしたいと裁判所に言われた経験が1度だけあります。
一方、同居の家族については、収入証明資料(源泉徴収票、給与明細)、家計の主口座(公共料金が落ちている口座)の写しの提出が原則必要です。同居家族については、必要書類が揃う限りで、内緒で自己破産が可能です。
なお、家族が保証人、債権者、あるいは債務者になっている、あなたが家族の保証人であるケースでは、裁判所あるいは債権者から連絡が行きます。
 
◆勤務先に知られたくない◆
債権者ではない職場には連絡がいくことはありません。勿論、官報に氏名と住所が掲載されますが、見たことはありませんね。ほとんどの方は会社に内緒で自己破産をされています。
ただし、給与振込口座が債権者である銀行口座ならば、口座の変更を頼まないといけません。また、勤続5年以上の場合には退職金の説明資料を用意しなければいけません。その限りで勤務先の協力が必要なケースもあります。
 
◆仕事が続けられないのではないかと不安◆
通常の会社員であれば仕事に破産の影響はありません。
法律で定められている「資格制限」に該当する場合のみ、破産手続中は就けないだけです。実務上見るのは、警備員、保険外交員、証券外務員、宅建主任者でしょうか。破産手続が終われば法律上の制限が消えます。
仮に資格制限により自己破産ができない場合には、資格制限のない個人再生等を選択することになります。
 
◆周りに迷惑がかかるか不安◆
債務は個人単位で負うものです。保証人以外には直接の迷惑がかかりません。
ただし、あなたがどなたかの借入れの保証人になっている場合には、債権者から債務者に対して保証人追加等を要請される等、間接的に影響があります。
また、不動産を共有している場合には、破産管財人があなたの持分を換価しますので、共有者に影響を与えます。
 
◆携帯・スマホが利用し続けられるか◆
携帯電話、スマートフォンでは、本体の購入代金を分割支払していることが多いです。厳密に見れば破産債権でしょう。
しかし、実務上は、通信会社を債権者として扱わないことが原則です(料金滞納があれば別です)。生活必需品ですからね。自己破産をしても利用し続けられるのが原則となります。
注意点があります。
ただし、おさいふケータイなどスマホのクレジット機能の使用は止めていただきます。借金と同様ですので。
また、1台当たり料金が1万前後に抑えていただきたいです。高額な支払いをしている場合には、裁判所から突っ込まれる可能性があります。
なお、通信会社のクレジットカードの利用がある場合など通信会社を債権者として扱うべきケースでも、利用料金のみを支払い続けることにより利用継続できる例が多いです。
 
◆自動車が手放せない◆
ローンのない車であれば、外車や高級車ではない限り、初年度登録から6年以上経ていれば価値がゼロと評価され、手元に残せます。6年未満の場合、自由財産の拡張手続等によって手元に残すことになります。車の価値は査定書かレッドブックの中古車相場で疎明します(レッドブックは当事務所で用意しています)。
ローンがあり、車が所有権留保物件であるケース(クレジット会社のローンの担保になっているケース)では、返却が必要です。稀に価値がないとして放棄されることがあるだけです。ただし、親族などの助けを得て、残債を弁済する、買取りをする等により、車を残す方策もありますので、弁護士と相談してください。銀行のオートローン、マイカーローンのケースでは車が所有権留保物件ではないことが通常です。返還を求められた経験はありません。
相談時や準備の打ち合わせ時には車検証の写しを見せてください。普通自動車の場合は車検証の所有者名義によっては返還してはいけないケースもあり、間違って返却するとそれ自体で管財事件になり得ます。
 
◆2度目の破産◆
2度目の自己破産も、前回の破産免責が確定してから7年を経ていれば可能です。7年以内であると原則不可能と考えてください。免責不許可事由の1つなのですが、容易には裁量免責をもらえません。個人再生を選択すべきことになります(小規模個人再生のみ利用可能です)。
2度目の破産だからといって必ずしも管財事件になるわけではありません。同時廃止になる例も多いです。それなりの準備は必要です。特に前回の破産と今回の破産とでの事情の違いを明確に説明した方がいいでしょう。
なお、2回目の自己破産では、前回の破産開始決定及び免責決定写しの提出が必要です。手元になければ、前回の破産裁判所に謄写申請をします。
 
◆未分割遺産がある◆
未分割遺産の法定相続分は財産です。不動産や一定の遺産があれば管財事件になり、破産管財人が換価に動きます(田舎の換価不能な不動産の相続が未了のケースで同時廃止になったこともあります)。
分割合意はされているが登記がなされていないケースも同様です。
他の相続人が遺産を取得する形の分割手続あるいは登記を急いでやっても問題は解決しません。その行為が否認行為として問題視されます。ケースバイケースの判断でしょうが、価値が相応にある不動産だと裁判所の見方が厳しくなります。取り扱いが非常に難しい問題ですので、弁護士と早めに相談の上、打てる方策があるか検討しましょう。
 
◆個人事業を続けたいというケース◆
自己破産をする以上、個人事業は廃止することが前提です。破産の原因になっていることも多いでしょう。
ただし、専ら特定の先に労務提供をして報酬を得ており実質給与所得者と変わらない事業の場合(いわゆる一人親方)はそもそも事業者として見られません。
また、設備がほとんどなく、売掛金や買掛金もない小規模の事業も、破産手続(資産・負債の清算手続)の影響を受けませんので、理屈上は事業継続も可能です。ただし、事業が借金の原因になっていない、今後もならないことを説明する必要があります。かつ、事業用資産(在庫、設備等)は自由財産拡張手続により残すことは難しいです。

同時廃止事件と管財事件

1.同時廃止事件

同時廃止とは、破産手続開始決定と破産手続廃止決定が同時になされる手続です。破産費用を支弁する財産がないという理由になります。
破産法上は管財事件が原則となっていますが、運用上は、同時廃止事件が多いです(広島本庁では70パーセント前後でしょうか)。
 
◆自己破産(同時廃止)の申立て後の流れ◆
弁護士受任から6~7カ月で免責決定まで進むのが同時廃止事件のスタンダードなスケジュールでしょうか。
同時廃止事件の申立て後の流れは次のようになります。
①補正連絡
申立て後、1~2週間後に、裁判所から追加資料の提出や事情の報告等を求められます(補正連絡)。
②同時廃止決定
裁判所からの補正連絡に対応したタイミングで、3か月前後先の免責審尋期日の調整がなされ、同時廃止決定が出ます。
問題事案ではその前に債務者審尋が開かれます。
同時廃止決定が出ると、破産手続自体は終わりです。免責審尋期日を待つのみです。問題事案などでは、家計収支表の提出など宿題ができることもあります。
③免責決定
免責審尋期日に出席すれば通常その日に免責決定が出ます(出席を要しない裁判所もあります)。弁護士も同席します。
原則として集団免責の形で行われます。広い部屋に破産者が集められ裁判所からの話を聞く手続です。仮に裁判所に債権者が来たときは、個別審尋に切り替わります。
二度目の破産や免責不許可事由の程度が大きい等のケースでは小さい部屋で裁判官から質問などもされる個別免責手続が指定されることがあります。
  
◆同時廃止か管財事件か◆
裁判所が同時廃止と管財事件とを振り分ける基準を用意しています。
広島本庁では原則的に次のようなものが管財事件となり、それ以外は同時廃止です。
・現金・預貯金が50万円を超える場合
・個々の財産項目のいずれかが各20万円を超える場合
・オーバーローンではない不動産がある場合
上述のような財産がない場合であっても、
・過去5年以内に、会社代表者(それに準じる経営者)や個人事業主であった場合
免責不許可事由の程度が大きい場合(このケースを免責調査型管財と呼びます)
・看過できない否認対象行為がある場合
 
◆個人事業者◆
確定申告をしているから必ず個人事業主と扱われるわけではありません。
例えば、設備や仕入れを伴わずに決まった取引先から労務提供に対する対価を得ている場合(所謂、一人親方等)、実質的に給与所得者と異なることがないとして管財事件になりません。
 
◆保険の評価◆
解約返戻金額が評価額となります。契約者貸付を受けている場合には同貸付金を控除した金額になります。解約をしたら現金預金での評価です。
保険を解約しあるいは契約者貸付を受けて、破産費用、必要な生活費等に充てるのはある程度許容されます。そのままだと管財事件になるべきケースが、解約するないし契約者貸付を受けると同時廃止の処理になるケースもあります。
確定拠出年金は本来的自由財産でありカウントされませんが、年金保険は評価の対象です。
 
◆退職金の評価◆
退職が差し迫っている例外的なケースを除き、自己都合退職した場合の支給見込額の8分の1が財産額として評価されます。仮に退職が決まっているが受取前という段階まででしたら、差押え財産との関係で4分の1の評価まで抑えることができます。
これに対し、中小企業退職金共済(中退共)、小規模企業共済は、退職金類似のものですが、法律上差押え禁止財産ですので財産とはみなされません。
 
◆交通事故の被害者◆
財産的損害に基づく損害賠償請求権は、財産として評価されます。休業補償、逸失利益、介護費用、入院雑費は自由財産拡張の対象ですが、物損部分は難しいです。
精神的損害に基づく慰謝料請求権は、慰謝料金額が確定するまでは、行使上の一身専属権として財産とみなされません。金額が確定した場合には、財団に属するとされています。
破産手続開始決定時に損害賠償金が入金されていれば、現金あるいは預貯金として財産評価されます。
自己破産申立てと示談のタイミングも図る必要があります。弁護士とよく相談して段取りすることが必要です。

2.管財事件

管財事件とは、裁判所が破産管財人を選任し、破産管財人が財産調査、換価・配当などを行う手続です。個人破産の場合には、免責調査、免責意見の提出も破産管財人の仕事です。
破産管財人には弁護士が選任されます(予納金が高額になります)。
手続中は、郵便局を通じた郵送物は破産管財人に転送され開封されますますので気を付けてください。
 
◆破産申立て後の流れ(管財事件)◆
①補正連絡・予納金納付
補正連絡に対応しつつ、裁判所から指示された予納金を納めます。
②破産手続開始決定
債務者審尋の日か(破産管財人候補も出席して顔合わせ等をする期日)、同審尋が開かれないケースでは予納金納付日に近い時点で、破産手続開始決定が出ます。
郵送物が破産管財人に転送されるようになります。
③自由財産拡張手続
開始決定後1か月以内を目処に自由財産拡張手続がなされます。破産開始決定日が財産の基準日になりますので、通帳を記帳して弁護士に持っていきます。
④第1回債権者集会
第1回債権者集会は、開始決定日の2~3か月後程度に指定されます。個人破産のケースでは金融機関や業者が債権者集会に出席することはほぼありません。
開始決定後第1回債権者集会までの間は、管財人事務所に赴いての打合せが必要になります。
単純な免責調査型の管財事件であれば、第1回債権者集会の日に破産手続、免責手続が終了することが多いです。
⑤第2回債権者集会~
管財人による資産の処分に時間がかかる、配当がある等の場合には、1年あるいはそれ以上かかることがあります。
ただ、多くの場合は、第1回債権者集会の後は、2~3か月に1回の期日に出席すればいいだけです。弁護士も同席します。
 
なお、法人破産を同時に申し立てた場合には、法人破産のスケジュールに合わせて進んでいきます。
 
◆会社の同時申立てが必要か◆
会社の経営者が、法人破産の費用を捻出できない、あるいは帳簿類が散逸しているなどの理由で、個人の破産だけを申し立てるケースがあります。
会社が休眠状態になってから相応の年数を経ているケース以外では、法人の申立てを裁判所から勧奨されます。
強制力はないのでしょうが、強く求められることも珍しくありません。法人の予納金を形だけでいいから納める、申立書も簡単な物でいいと説得され、やむなく法人の申立てに応じたケースもあります。

破産しても残る財産

1.破産しても残る財産

同時廃止の場合、保有している財産は全て残ります。破産管財人による財産の換価処分は行われません。
 
管財事件の場合でも、自然人の破産ではすべての財産が換価処分されるわけではありません。経済的更生を図る制度であるため、全体で99万円までの財産が手元に残ると思ってください。
現金以外の本来的自由財産と、99万円までの自由財産拡張が認められた現金その他財産が残ります。
 
◆自由財産◆
破産財団に組み入れられることなく破産者が自由に管理処分できる財産を自由財産といいます。自由財産ではなく財団に組み入れられる財産を破産管財人が換価処分します。
自由財産には、本来的自由財産と拡張手続を経たそれ以外の自由財産があります。
 
◆本来的自由財産◆
本来的自由財産は、破産法で定められた自由財産です。
99万円以下の現金及び差押え禁止財産が本来的自由財産だと考えてください。
差押え禁止財産は、民事執行法その他法律にて差押禁止財産だと定められているものです。主なものは次のとおりです。
・生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用品等(通常の家財一式)
・退職金の4分の3(もっとも実際に退職間近でないかぎり支給見込額の8分の1の評価です)
・小規模企業共済
・中小企業退職金共済、建設業退職金共済
・確定拠出年金
 
◆自由財産拡張手続◆ 
自由財産拡張は、自由財産の範囲を本来的自由財産以外の財産まで拡げる手続です。一定の財産(自由財産)を手元に残すための許可を得る手続ですね。
自由財産の拡張は、破産管財人の意見を聴いて、裁判所により決定されます。破産者側の申立ては必ずしも必要ではありませんが、申立人の意向を反映させるために当職は申し立てています。
金額にして99万円の範囲内で行われます。本来的自由財産のうちの現金を含めての99万円の範囲であることにご注意ください。
無条件で99万円まで残せるわけではありません。経済的更生に必要かつ相当と見られる範囲です。現金以外の本来的自由財産の金額の多寡も影響します。
なお、制度上は不可欠と考えられる場合に99万円を超える拡張もあり得るのですが、運用上あまり見かけません。

2.自由財産拡張にあたっての注意点

財産の中には、自由財産拡張の対象にならない財産があります。

経済的更生に必要・相当ではない財産は自由財産拡張の対象となりません。財団に属し換価処分されます。
不動産、株式、債権、投資信託などが典型です。

車については、実用車は対象ですが、趣味のための車は対象外です。
保険は、投資性の強い商品を除き、基本的に認めてくれます。
報告が漏れており破産管財人の調査で見つかった財産は対象とならない傾向です。
 
なお、自由財産拡張範囲を超える財産は必ず換価されるわけではありません。
自由財産拡張対象外の財産は、財団に組み入れられ、破産管財人により換価処分されます。しかし、99万円の価値分を財団に組み入れるのであれば、個々の財産自体は解約、処分しないで済むケースがあります。
例えば、保険をどうしても残したいが財産が99万円を超える場合、手元に残るべき現金から99万円を超える金額を財団に組み入れる形で、保険契約自体は残すことができます。

免責

1.免責と免責不許可事由

債務の支払義務を免れることを免責といいます。個人の破産では、免責許可決定を得ないと意味がありませんね。
破産法では、このような行為があった場合には原則として免責を許可してはいけないという免責不許可事由が定められています。

免責不許可事由がない場合、権利として免責許可を得ることができます(権利免責)。
免責不許可事由があったとしても、裁判所が事情を斟酌した上で裁量により免責許可を与えることができることになっています(裁量免責)。
運用上は、原則と例外が逆転し、仮に免責不許可事由があったとしても、結果的にはほぼ免責決定を得ることができています。
 
ただし、免責不許可事由が悪質・重大な場合には、それだけで管財事件(免責調査型)になる可能性がありますし、中には免責を受けられないケースもあります(裁判所から取下げ勧奨を受けることもあります)。
免責を得られるか不安なケースでは個人再生を選択することもあります(なお、個人再生のケースでも、免責不許可事由が否認対象行為に該当するケースでは清算価値への計上という形で影響します)。

2.免責不許可事由の種類

破産法に定められている免責不許可事由の主なものは次のとおりです。
・不当な財産価値減少行為(財産の隠匿・損壊・廉価売買・無償行為など)
・不当な債務負担行為(高利の借金や換金行為など)
・不当な偏頗行為(不公平な弁済・担保供与など)
・浪費または賭博その他の射幸行為
・詐術による信用取引(財産や収入に関し嘘をついて借り入れるなど)
・裁判所への虚偽説明や管財人への協力義務懈怠
 
免責不許可事由に該当するかの判断は解釈を要する事柄であり、程度問題もあります。弁護士に判断してもらうほかありません(弁護士からも確認します)。
ここでは、何点かコメントするにとどめます。
 
◆浪費、ギャンブル、投資◆
多かれ少なかれ浪費、ギャンブルが借金の原因になっていることは多いです。程度問題です、要は借金の原因になっているかが肝でしょう。破産の原因、借金の原因について、他の理由で説明できるか検討し、説明できなければそれらが主な原因になります。管財事件になるケースもありますが、説明、反省を尽くせば同時廃止で処理してくれ、仮に管財事件となってもほぼ免責を得られます。
FXや仮想通貨等投資損害も浪費、ギャンブルと同じように扱われます。この場合は取引履歴等の資料の提出もいたします。
 
◆ショッピング枠の現金化◆
借金の返済に追い込まれてショッピング枠の現金化に手を出すケースが割と多いですね。ネットで価値のない物を高額のクレジットを利用して買う形式が典型ですが、金券等をクレジットで購入してすぐに換金するケースもその一種です。そのような行為の有無、内容は破産申立書の報告事項であり、かる免責不許可事由として扱われています(犯罪行為にも該当し得ます)。
頻度や金額によって管財事件にはなり得ますが、免責不許可になる例は稀でしょう。反省文の提出により同時廃止で終わるケースも多いです。頻度や金額の程度が重いケースでは、無難に個人再生を選択することもあります。
 
◆スマホ、タブレットの不正購入◆
最近は、悪質金融業者に唆されて、スマホやタブレットをクレジットで購入し、物は業者あるいは債権者に売却するという事例もよく見ます。転売目的、譲渡目的でそれらを購入することは許されていません。
違法であること、免責不許可事由として扱われることは、ショッピング枠の現金化と同じであり、裁判所へ丁寧な説明が必要です。無難に個人再生を選択することもあります。

破産における否認

1.否認権とは

破産管財人には、破産者が行った否認対象行為を否認し(法的効果を覆すこと)、散逸した財産を財団に取り戻す否認権があります。
否認対象行為には、詐害行為(廉価売買など)、過大代物弁済、無償行為(贈与など)、財産散逸行為、偏頗行為(不公平な債務の弁済等)、権利変動の対抗要件具備(登記行為等)ですが、それぞれ破産法に対象となる要件が定められており、解釈上の例外もあります。弁護士でないと具体的な判断が難しいです。経済的危機状態で財産状況を悪化させる行為が該当するとイメージしていただき、ひっかかる行為があれば弁護士に伝えてください。
 
裁判所からは、破産直前の弁済、財産処分、相続、離婚などの行為は必ずチェックされます。否認対象行為があり、その程度が重いケースは管財事件になります。
 
破産管財人は、否認対象行為がある場合、まずは交渉での和解的解決を図るでしょう。交渉で解決できないケースでは、破産裁判所への否認請求あるいは通常裁判所への否認の訴えを提起する流れになります。

2.否認に関する注意点

弁護士には、少なくとも2年程度遡って、大きな財産の売却、贈与、解約あるいは名義変更の事実がないか報告してください。
それらは申立時の報告事項ですし、事前に対処を考える必要があります。
なお、準備の中で否認対象となり得る行為をせざるを得ないケースもあります。必ず弁護士の関与の下で進め、否認のリスクを減らしてください。
 
◆直前の財産処分の注意点◆
処分代金や解約金を、有用の資(破産費用、相当な生活費、医療費、転居費用、学費、公租公課)に費消することは許容されています。
場合によっては不動産や車などどうしても生活に必要な物を親族等が買い取って残すこともあります。
弁護士が関与しない直前の処分は極力避けてください。リスクが高いですし、説明が不十分であるとそれだけで管財事件になります。
弁護士が、処分代金あるいは解約金等を管理した上で、取引の妥当性や使途の妥当性を裁判所に説明する必要があるでしょう。
 
◆相続と自己破産◆
相続放棄は否認の対象ではありません。身分行為で財産行為ではないからです。
これに対し、経済的危機状態でなされた不相当な遺産分割は否認の対象となります。財産処分の一種と見られるからです。否認のリスクがあるので、法律的に合理的な説明を用意しておかなければいけません。
場合によっては、破産直前に遺産分割手続をせざるを得ないケースもあります。リスクが高いので、弁護士と相談の上で進めてください。
 
離婚と自己破産◆
経済的破綻を原因として離婚することは珍しくありませんが、経済的危機状態での財産分与慰謝料の支払いは慎重にしなければいけません。
財産分与は、相当な内容であれば否認されることはない傾向ですが、相当性を法律的に説明しなければなりません。
慰謝料も相当額なら問題ないとも思われますが、偏頗弁済として問題視されることもあります。そのため慰謝料財産分与の形をとる方法も考えられますね。
自己破産を予定される場合には、離婚協議も弁護士と相談の上で進めた方がよろしいでしょう。

非免責債権

1.非免責債権とは

非免責債権は、免責許可決定によっても免責されることのない債権です。
非免責債権の種類の中には、非免責債権に該当するか悩むケースもあります。
非免責債権に該当するかどうかは破産手続では判断されず、別途訴訟が提起されればその中で判断されることになります。

2.非免責債権の種類

次のようなものが非免責債権となります。
◆国税徴収法または国税徴収法の例により徴収することができる債権◆
国税、地方税、国民健康保険、国民年金料などですね。そのため、破産者には、減免申請を役所にしてもらうようにしています。
なお、生活保護法63条に基づく保護費の返還請求権、同法78条の徴収金も、非免責債権になります。

◆悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権◆
故意ではなく積極的な「害意」が必要とされます。詐欺の被害者からの損害賠償請求権などです。不貞行為の慰謝料は通常のケースでは該当しない傾向にあると思われます。

◆故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権◆
悪質な交通違反による交通事故の人身傷害に関する損害賠償義務などです。

婚姻費用養育費
滞納している分ですね。

◆雇用契約に基づく給与や預り金返還請求権◆
個人事業主に対する労働債権ですね。

◆債権者一覧表に記載しなかった債権者の債権◆
過失で漏れていても該当します。債権者の漏れに注意してください。

◆罰金など◆
罰金、科料、過料、追徴金等です。

破産準備の注意点

1.必要書類の注意点

自己破産申立ての必要書類は多岐にわたり、かつケースにより種類や濃淡も異なります。弁護士と事前に十分に協議の上で段取りを組んでください。
必要書類について、いくつか注意点を挙げておきます。
 
◆給与明細◆
直近2カ月分の給与明細が必要書類になりますが、遅くとも準備の打ち合わせ時に弁護士に見てもらうべきでしょう。
控除欄から、勤務先からの借入金や労働組合・共済組合からの借入金が判明することがあります。弁償金、返納金等の名目で勤務先から債務を負っているケースもあります。
また、保険料や会費・積立が天引きされている場合は、保険・共済契約の内容や解約返戻金額の有無・金額が分かる資料が必要となりますし、会費や積立は資産性の有無、あるものについては残高の説明をしないといけません。
 
◆ネット専用口座◆
直近1年間の通帳の写しが提出書類になっております。ネット専用口座も1年間の取引明細と当該預金口座以外の口座がないことがわかる画面を紙ベースで提出します。
受任通知後、ネットバンキングが閉じられて、取引明細書が取れないケースも多いです。受任通知までに予め取引明細をとっておくことをお願いしております。
申立日までの取引明細の提出を裁判所に要求されることもあり、そうなると郵送で銀行に取引明細発行を依頼する、あるいは一時的にアカウントを開放してもらう必要が出てきます。
 
◆退職金◆
勤続5年以上(正社員)の場合には、退職金に関する資料が必要です。
原則は勤務先の退職金見込額証明書あるいは退職金がないことの証明書ですが、なかなか取得が難しいですね。
退職金制度がある場合には、退職金規程、辞令等、退職金見込額が正確に計算できるだけの資料の提出で証明書に代えることができます。ポイント制を採用している会社は説明に苦労することがあります。
退職金制度がない場合には、退職金制度がないことがわかる就業規則を提出すれば事足ります。
なお、中小企業退職金共済、小規模企業共済は、財産として見られないものの、加入状況がかわかる資料は求められます。
 
◆居住証明書◆
自己破産の申立てには、居住証明に関する資料(賃貸借契約書か不動産登記簿謄本)を提出しますが、第三者が賃借している物件あるいは所有している物件にお住いの場合には、当該第三者から居住証明書の取得も必要です。
勿論、同一世帯の親族名義の場合には、居住証明書を要求されません。
社宅の場合は、賃貸借契約書の写しを取れない場合もありますし、会社に居住証明書をもらうのも酷な場合があります。その場合は、社宅利用許可証や給与明細上の天引き社宅料等、社宅に居住していることがわかる資料で説明を尽くせば大丈夫です。
 
◆家計収支表◆
家計収支表は家計簿を月単位でまとめたもので、広島地裁本庁では2か月分の会計収支表の提出が必要です。準備にあたっては、家計収支表の書き方も弁護士と協議してください。
同居の親族全ての収入と支出を合わせて記載することが原則なのですが(原則として家計を一とするとみられるため)、なかなか難しい場合もあります。
破産者とその他親族を分離して親族間のお金のやりとりを明記することでの説明も許容され得ます。当職は、破産者の生活状況、お金の費消状況を的確に説明できる形になるようケースバイケースで書き方を相談して決めています。

◆相続◆
自己破産の申立て時には実方の親が亡くなっている場合には必ず相続の有無を報告します。未分割遺産の報告漏れが多数あったためです。
経済的危機状態での相続、時期の近い相続がある場合には、戸籍、相続関係図、登記簿、固定資産評価証明書、写真、査定書などの提出をしないといけません。どこまで必要かはケースにより異なります。早めに協議をしておかないといけません。

2.その他の注意点

その他の準備に関する注意点をいくつかコメントいたします。
 
◆言い難いことこそ相談を◆
あなたが弁護士に対して言いづらいことにこそ、免責不許可や否認など破産手続上の問題点が隠れていることが多いです。
言い難いことこそ早めに弁護士に伝えて、方針を見極め、善後策を図らなければなりません。
 
◆口座凍結・相殺◆
受任通知の発送により、借入先の銀行口座が凍結され、残高が残っていれば相殺されます。受任通知が銀行に届く前にお金は引き出さないといけません。
また、保証人がいる場合、保証人の当該銀行の口座も凍結され相殺されることにご注意を。
 
◆給与口座・年金受取口座◆
給与口座、年金受取口座、生活保護受給口座のある銀行が債権者であるときは、受任通知を出す前に借入れのない銀行口座に変更してもらいます。銀行に受任通知を送ると預金口座は凍結されるからです。
変更に時間がかかる場合、確認できるまで当該銀行に受任通知を発送するのを待つこともします。
勤務先の方針で給与口座の変更ができないケースもあります。
受任通知後の給与・年金の入金の引き出しは銀行も応じてくれるのが通常ですが(私の経験上は断られたことはありません)、その都度銀行窓口に行かなければならない等の手間がかかります。
 
◆債権者の漏れがないように◆
破産手続中でしたら、漏れがあっても債権者を追加すれば大丈夫です。
手続終了後に判明すると、債権者一覧表の記載を漏らした債権者の債権は非免責債権になります。故意でなくとも過失があったらダメで、やむを得ないケースだったと裁判所で認められるのは簡単ではないです。
ただし、債権者が金融機関であるケースでは、判明した時点で破産開始決定通知及び免責決定通知を送ると免責処理をしてくれるケースも多いでしょう。
 
◆スケジュールを守る◆
弁護士から示されたスケジュールを守ってください。
金融機関は受任通知後少なくとも半年ぐらいは訴訟を提起せずに待ってくれますが(一部の債権者はすぐに訴訟をしてきますが)、徒に申立てが遅くなると訴訟等のアクションを起こす債権者が出てきます。
弁護士も、長期間放置をすると弁護士会の懲戒を受けかねませんので、一定期間経ても準備が進まないケースでは辞任をせざるを得ません。弁護士に辞任されると百害あって一利なしです。

破産にかかる費用

1.破産にかかる費用

自己破産の申立て代理業務を弁護士に依頼する場合の費用には、裁判所にかかる費用、弁護士費用、実費(弁護士費用込みのケースも多いです)があります。
なお、当事務所は債務整理に関する初回相談料(30分程度)は無料です。
また、法テラスの民事法律扶助制度もございます。
 
◆裁判所にかかる費用◆
同時廃止事件では、裁判所に納める予納金と予納郵券を合わせても15,000円あれば賄えます。申立ての際に預かります。
管財事件では、裁判所から具体的に納付金額の指示があります。23万円から33万円を用意してもらっています。
予納金は、原則即時支払う必要があります。分割支払いができませんが、事実上数か月待ってもらえることがあります(期限を区切って予納命令が出されます)。
管財事件の可能性が高いケースでは、申立てのタイミングを含めて予納金の用意について協議をしておいてください。
 
◆弁護士費用◆
弁護士費用は、依頼される弁護士によっても、案件の性質によっても異なります。広島では33万円(消費税込み)前後が多いでしょうか。弁護士費用、その支払方法も弁護士と相談することの大事な1つです。
当事務所では27万5000円(消費税込み)です。勿論、ケースによって、減額することもありますし、相応の規模の個人事業主や財産が多い場合には増額することもあります。比較的安い方だとは思いますが、費用の金額で弁護士を選んでは駄目です。
  
◆法テラスの民事法律扶助制度◆
法テラスの民事法律扶助制度は、一定の資力要件(平均手取り月収額と財産額)の下、弁護士費用を立て替えてもらい、立替金を月5000円からの分割で償還する制度です。
債権者数により異なりますが、自己破産155,000円からと安価な設定になっております。こちらを利用される方も多いです。
同制度を利用する流れは、
①弁護士に相談(無料法律相談も3回まで可能)
②申請書類を、弁護士を通じて法テラスに提出
③承認後に弁護士事務所で契約
というものになります。申請から契約まで10日前後かかるでしょうか。
なお、ケースによっては、法テラスを利用しない方が後の破産手続との関係でトータルの支出が押さえられるケースもあり得ますので、よくご相談ください。
 
◆生活保護を受給されている方◆
生活保護を受給されている方、受給予定の方は、上記民事法律扶助制度を利用します(当事務所にて手続を行います)。
法テラスが予納金まで立て替えてくれます。かつ、立替金償還は猶予され、破産手続終了時にも生活保護を受給されていれば償還免除申請を行って免除されます。
結果、費用負担がない形で自己破産をすることができるのです。

2.費用の準備

費用を一度にご準備いただけないケースでは、弁護士が受任通知を送付して支払いをストップしている間に分割でご準備いただくケースが多いです。
原則として、弁護士費用の支払いが終了した後に破産申立てをします。そのため、分割期間は4から5カ月までにしていただいております。ボーナスで調整される方もいらっしゃいます。

また、財産の処分代金から、あるいは保険等の解約金から、費用をご用意いただくこともあります。財産を換価した現金を破産費用に充てることは許されております。
過払金の回収により費用が捻出できたケースもあります。
 
費用の捻出方法はスケジュールも絡みケースバイケースで考えるべきことです。
弁護士とよくご相談ください。

弁護士に依頼する意味

1.弁護士に依頼する意味

自己破産の申立代理業務を弁護士に依頼する主な意味は、次のとおりでしょうか。
 
◆債権者対応◆
弁護士が受任通知を出して債権者対応をしてもらえるのは大きなメリットです。早めにご相談、ご依頼されて、精神的に疲弊をすることを避けてください。
 
◆効率的な準備◆
自己破産の準備といっても、初めての方はわからないでしょう。かつ、機械的に書類を集めればいいわけでもありません。専門家のサポートを受けて効率よくご準備ください。
 
◆破産は専門的なサポートが必要な手続◆
自己破産も法的手続きです。準備の仕方あるいは申立て方によって、法的に選択される手続や法的に問題視されるかどうかが変わることもあります。法的な見地から準備、申立てを組立ていかなければなりません。
やはり、弁護士に関与してもらう方がよろしいでしょう。弁護士であれば、裁判所での各手続等にも代理人として同席できます。
なお、本人申立ての場合には管財事件になりやすい傾向にありますね。

2.破産弁護士による専門的なサポート

申立代理人弁護士の腕が、ご苦労の程度や手続のスムーズな進行度合いに直結します。準備に不備があると苦労を強いられかねませんし、破産法上問題となる行為が問題視されるリスクも高まります。
破産管財人に就任した案件でも「準備をもう少しきちんとしていただければ苦労されなかったのに。」と感じることがあります。
 
破産には独特のルールや考え方があり、弁護士も職人的な能力が必要とされます。裁判所の傾向・考え方も事件処理の方向に影響しますので、キャッチアップしなければなりません。破産申立てを裏から見る破産管財人の経験も必須です。
かつ自己破産は借金の支払義務を免れるためだけが目的の制度ではありません、経済的更生を図るための制度であり、様々なケースの経験が必要でしょう。
 
様々なケースにおいて、諸々の問題を紐解いてシンプルに整理し、申立てのスキーム、段取りを調整できる専門的な弁護士のサポートを得るべきです。
倒産法制に精通し、申立代理人経験も破産管財人等の経験も豊富で、破産等倒産事件を業務の柱の1つにしている弁護士を、「破産弁護士」「倒産弁護士」と呼んだりします。
 
弁護士に相談される際、いろいろな疑問点や不安な点をぶつけてみてください。破産事件に精通する弁護士であれば、具体的なアドバイスをしてくれます。
疑問を解消してくれ、また問題点を的確に指摘してくれる弁護士を探してください。
 
なお、当事務所は、自己破産、個人再生の申立件数が相対的に最も多い部類に属します。かつ、当職は、破産管財人や個人再生委員の経験も豊富です。裁判所との倒産関係に関する協議会のメンバーにも属しています。
ぜひ、相談してみてください。

まとめ

1.個人の自己破産についての徹底解説

個人自己破産の徹底解説と銘打って、個人破産の概要を説明させていただきました。細かい点まで立ち入ることができなかった問題もございます。他のコラムも参照していただければ幸いです。
個人破産とは免責を得ることを目的とした法的清算手続でした。経済的更生を図ることを目的としています。
自己破産の選択基準、同時廃止と管財事件の別、破産しても残る財産、免責手続、否認権、非免責債権、準備の注意点など、多岐にわたり説明させていただきましたが、細かくて難しいかもしれません。
ケースバイケースで様々なことを考えて、見通しを立て準備をしないといけないことがご理解いただければ十分です。
様々なケースにおいて、諸々の問題を紐解いてシンプルに整理し、申立てのスキーム、段取りを調整できる専門的な弁護士のサポートを得てください。
当事務所にご相談くだされば幸いです。解決策を一緒に考えましょう。

2.破産は経済的更生の手段

借金が嵩むとお金のやりくりばかり考えるようになり、追い詰められ、借金のために生きているかのような感覚に陥るようです。ご依頼者の方からは大変な苦労をお聞きしております。
破産手続などが終わった時には、本当に肩の荷が下りた気持ちになるようです。皆さんの表情からも変わります。
多くの方は、「もっと早く先生にお願いすればよかった。」とおっしゃいます。個人の破産は、経済的更生を図る目的の制度であることを強調させていただきます。
早めに弁護士に相談、依頼され、諸々の課題を紐解きながら最終的にシンプルな形で整理してもらってください。それが早期の経済的更生に繋がります。
できるだけ早いご相談を。

この記事を書いた人

firsttime_lawyer.jpg弁護士仲田誠一(広島弁護士会所属)
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27
アーバンビュー上八丁堀602
TEL:082-223-2900
https://www.nakata-law.com/
https://www.nakata-law.com/smart/
◆経歴
1996年4月~
あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~
東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~
広島大学大学院法務研究科
2008年12月
弁護士登録
2017年~各前期
広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格等
弁護士
公認内部監査人試験合格、経営革新等支援機関

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会社の自己破産の徹底解説

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。当事務所では、破産、民事再生などの倒産事件を業務の柱の1つとしております。

会社、法人破産は、業種、業態、現在の業況あるいは資金繰りなど、個々のケースに応じたオーダーメイド的な対応が必要となります。段取りが大事なのですね。

会社、法人の自己破産をご検討されている方へ、できるだけ共通項を探った解説をさせていただきます。

目次

法人の破産とは
法人の破産は最後の手段か
法人の破産の選択
弁護士に相談するタイミングなど
法人の破産の流れ
破産に必要な費用の目安・費用の捻出
取引先との関係は
従業員との関係は
準備にあたっての留意点
弁護士に依頼する意味(倒産弁護士)
まとめ

法人の自己破産とは

1.自己破産とは

簡単に申し上げると、破産手続は、資産・債務の清算手続です。破産開始決定時の資産を現金化し開始決定時の債権を弁済(配当)していくイメージです。
実際には配当ができずに破産が終了する事件も多いです(「異時廃止事件」と呼ばれます)。
 
自己破産とは、破産手続開始の申立てを自分(法人・個人)が行う場合です。自己が破産の申立てをするから自己破産なのですね。破産というと僅かな例外を除いてほぼ自己破産に当たります。
 
他に、数は少ないですが、取締役、理事、業務執行社員あるいは清算人が申立てる「準自己破産」や、債権者が申し立てる「債権者申立て」の破産もあります。
債権者申立ての破産についても破産管財人として携わったことがありますが、広島本庁でも年数件あるかないかでしょうか。

2.法人と個人の自己破産との違い

法人の自己破産と個人(自然人)の自己破産は次のような違いがあります。

◆法人破産には免責手続がありません◆
法人破産の場合には、手続完了により法人格が消滅します。そのため、破産手続が完了すれば債務を負う状態はなくなります。
これに対し、個人(自然人)の破産の場合には、破産をしても人格は残りますから、破産手続(財産負債の清算手続)を経ても清算後残った債務が残った状態になります。そのため、別途借金支払義務を免れるための「免責」手続が用意されています。
 
◆法人破産では必ず破産管財人が選任されます◆
法人破産では、必ず破産管財人が選任されます。破産管財人が財産の換価、配当等を行っていきます。いわゆる「管財事件」です。予納金が標準100万円と高額になります。破産手続開始決定により会社、法人の財産管理処分権は破産管財人に移行します。
これに対し、個人破産の場合には、破産管財人が選任されない事件(「同時廃止事件」といいます)の方が多いです。広島地方裁判所本庁では、個人破産のうち70パーセント前後が同時廃止事件でしょうか。同裁判所では、免責不許可事由の程度が大きいケース、過去5年以内に経営あるいは事業を行っているケース、明らかにオーバーローンと認められない不動産を所有しているケース、一定額の財産があるケース(預貯金50万円、その他の財産は項目毎に20万円)などに限り破産管財人が選任されます。
なお、法人破産と同時に法人代表者の個人破産を申し立てることが多いですが、代表者は上述の基準によって管財事件になります。
 
◆自由財産の有無◆
法人破産の場合には、法人の財産は原則すべからく換価されて残りません。法人格がなくなりますから。
一方、個人破産の場合には、自由財産拡張手続を経て裁判所の許可を得れば、一定の財産が手元に残すことができます。破産後の生活が保障される形です。

◆事業の整理◆
会社、法人破産の申立て準備は、程度の差こそあれ会社・事業の清算も進めなければならないことが特徴です。必要書類を揃えればいいだけで準備が済むことが多い個人(自然人)のケースと異なります。

法人の自己破産は最後の手段か

1.事業継続の可能性の見極め

会社・法人の営む事業はそれ自体に社会的価値が存在します。かつ、従業員さん、取引先など多様な利害関係者も存在します。その事業をなくしてしまうのは偲びないことですし、社会的な損失です。
そのため、事業継続に悩まれる経営者の方は、まず金融機関のリスケジュール(条件変更)あるいはM&Aでの事業継続の可能性を見極めるべきでしょう。
 
例えば、金融債務の返済をストップすれば資金繰りが回るのであれば、リスケ中に経営改善を図ればいいわけです。
企業再生は、企業の収益力が維持あるいは向上されることが前提になります。再生協議会や銀行主導のリスケを経て破産に至った法人の破産管財人をすることもありますが、コストダウンに重点を置きすぎた安易な資産の切り売り、事業縮小は、多くは企業価値を毀損するだけで傷を深くするだけに終わる可能性が高いので慎重にするべきです。

また、企業価値あるいは事業価値がある事業のM&Aによる承継も考えられます。それだけでは負債の抜本的解決にはならないことが多いのですが事業は残りますね。経済的危機状態のM&Aは法的リスクも大きので慎重におこないます。
 
当職は、銀行で企業再生にも携わりました。事業継続の可能性の見極めからご相談ください。
また、現在は認定経営革新等支援機関でもあります。事業計画策定のお手伝い、リスケジュールのお手伝いもしております。M&Aのサポートも主業務の1つとしております。事業継続、M&Aも含めてご相談ください。

2.法人の自己破産は最後の手段か

会社、法人の自己破産は、上述のような意味では、最終手段といえるかもしれません。しかし、破産はぎりぎりまで引き延ばすべき手段でもありません。余力を全く残さない状態での破産は困難です。
他の選択肢と並行して検討し、早期に決断しなければならない事柄です。その決断も大切な経営判断です。
 
◆破産費用の捻出◆
破産費用(弁護士費用・予納金)を用意できなくなれば破産もできません。
事業継続を引き延ばした結果として費用が用意できずに、会社の破産を断念された経営者さんもいらっしゃいます。
 
◆早期の決断も大事な経営判断◆
早期の決断が結果的に迷惑をかける範囲を拡げません。給与の未払いが残らない形での事業廃止ができるタイミングが望ましいです。
また、破産は利害関係者に対する最後のけじめとも言い得ます(夜逃げや休眠状態で放っておかれるよりは破産手続を望まれるのが通常です)。
 
◆経済的再建◆
経営者様とそのご家族の早期の生活再建も図らなければなりません。
経営者家族の生活を極限まで切り詰め、働き通しで体調を崩すなど苦労を重ねてきた末に弁護士に相談される方も多いです。その責任感には頭の下がる想いですが、「もう少し早くご相談に来ていただければ。」「そこまで思い詰める必要はなかったのではないか。」と思われる事例も多く目にします。

会社、法人の自己破産の選択

1.自己破産を選択するべきケース

金融機関のリスケで対処できるケースであれば自己破産を選択する必要はありません。あるいは、M&Aで事業自体は残す途も検討してよいでしょう。

一次的な資金繰りの悪化を改善するだけで経営が持ち直す余地があるなら、金融機関のリスケジュール(条件変更)により資金繰り手当てができる限りで対応が可能です。金融機関の支援を受ける間に経営改善策の実施により経営が持ち直す見込み、計画が立てられるのであれば、また同様です。利払いのみのリスケをすれば資金繰りがある程度余裕をもって回る、かつリスケ期間中に金融機関への弁済計画が立つまでの経営改善を図る見込みが立ちそうだというケースでは、経営改善策を試すべきでしょう。経営改善計画や資金繰り表などを金融機関に提出し交渉をします。
例えば、設備投資等による債務過多が業績不振の主な原因であり、事業の収益力自体は相応に残っているケースでは、リスケ対応により資金繰りを改善しつつ計画的に債務を削減することで難局を乗り切れるでしょう。

しかしながら、企業の業績不振には多種多様な要因が絡みます。企業努力では如何ともしがたい外在的な要因も大きいです。単純明快かつ解決可能な原因による業績不振で簡単に改善できる、あるいは一時的に資金繰り手当てをすれば簡単に業績が持ち直すと計画が立案できるケースは少ないです。
リスケによる企業再生を図る際には、単なる時間稼ぎになってしまわないのかをよく吟味する必要があります。延命だけでは傷口が深くなる、あるいは拡がることになります。
 
企業再生あるいは事業再生には、事業自体の収益力がある、あるいは収益力が改善する見込みがある、ということが前提となります。慢性的な赤字体質であり事業継続をしても今後の状況を悪化させる、あるいは現在の厳しい状況が続くだけというケースでは、早い自己破産の決断が必要でしょう。金融債務の返済を一時ストップしても資金繰りが余裕をもって回らないケースでは、慢性的な赤字体質といえます。
 
経営者に企業再生への気力・体力が残っているかも重要な要素です。当職に相談に来られる経営者の方は経営努力をされた結果として現在に至っているのであり、疲弊されて余力も残っていないという方が多いです。
その責任感は尊敬されるべきです。結果として自己破産を選択しても非難されるものでは決してありません。

2.民事再生との違い

会社、法人がとる法的債務整理手段としては自己破産のほかに民事再生もあります(なお、大企業向けの会社更生という手続もあります)。
民事再生は、債務を大幅に減額した上で、経営者の交替もなく事業を継続できるという大きなメリットがあります。
しかし、仕入先・外注先の協力が必要なこと(あるいは現金決済に耐えうるスポンサーが必要なこと)、事業用資産の担保権者の協力がいること、債務免除益の課税がなされること、及び申立てに多額の費用がかかること、という条件が揃わないと選択できません(事実上必要となる条件も含んでいます)。実際には、民事再生に適合するケースは少ないです。

弁護士に相談するタイミングなど

1.弁護士に相談、依頼するタイミング

弁護士に相談、依頼するタイミングは早いに越したことはありません。

早めに弁護士に相談をし、金融機関へのリスケ要請、自己破産申立て、民事再生申立てなどの手続選択の方針を決定し、それに応じた準備をしていかなければなりません。
自己破産を選択するにも、費用の捻出の問題を始め、破産を前提として事業廃止に向けた準備を段取りを組んで進めることが理想です。
残された時間や、相談時の状況によって、できる準備や選択肢が異なります。
弁護士への依頼も、早期になされることが肝要です。会社・法人の自己破産では、事業整理に向けた段取りを計画的に組んで進める必要があります。段取りが悪いと混乱をいたしますし、破産法上問題となる行為がなされることがあります。準備段階での出来不出来が、後の手続に響くのです。
できるだけ早くから弁護士の指示を受け、あるいは弁護士のナビゲーションによりご準備をされた方が、効率的ですし、ご負担も小さくなります

◆相談時の注意点◆
弁護士への相談時には、少なくとも直近の決算申告書類一式をお持ちください(勿論、3期分程度を拝見した方が検討はしやすいです)。
資金繰表を作成されているのであればそれもお持ちいただいた方がありがたいです(資金繰り予想ができる入出金のメモ程度でもかまいません)。
連帯保証人の方の資産・負債状況もわかればありがたいです。会社、法人と連帯保証人である経営者を一体としての債務整理の方策を考えるべきです。
 
◆緊急の場合もあります◆
手形・小切手の不渡りが見込まれるなど急を要する場面もございます。
緊急の対応が必要なケースはそれに応じた対応をすることになりますが、1日が惜しいケースもありますのでやはり早めにご相談ください。

2.事業廃止のタイミング

破産手続をスムーズに進めるには事業廃止のタイミングが重要です。事業廃止のタイミングを間違えば、要らぬ混乱を招く、破産手続に移行することができないという事態を招きかねません。弁護士とよく相談の上で決めてください。
 
事業廃止のタイミングは、買掛金等の支払いをストップすればお金が一番残る時点がベストになることが通常です。破産費用の手当てが必要ですし、残る財産は各債権者に平等に配当されるべきともいえます。
勿論、未払給与はできるだけないようにしたいところです。
 
事業廃止のタイミングの決定には、資金繰りのほかに、
銀行取引停止処分の時期
従業員解雇あるいは退職のタイミング(解雇予告手当の問題もあります)
資産整理の状況(弁護士関与の下で資産を処分して破産費用を用意することもあります)
も絡んでくる問題です。
事業形態によっては、新規の仕事を取らずに既存の仕事は時間をかけて順次止めていくほかないケースもあります。

ご事情に応じてベストなタイミングでの事業廃止を図ります。

法人の自己破産の流れ

1.会社、法人の自己破産の流れ(申立準備)

会社、法人の自己破産の相談~申立準備までの一般的な流れは次のようにイメージしてください。

①方針・スケジュールの決定
方針と段取りを話し合い、事業廃止のタイミングをターゲットに定め、準備の段取りやスケジュールを立てていきます。
悩む必要はありません。弁護士の指示やサポートを受けて進めるだけです。

②受任通知の発送
弁護士との契約後、事業廃止のタイミングで受任通知を発送することがスタンダードでしょうか。債権者毎に受任通知発送のタイミングを図ることもあります。
受任通知が債権者に届いてからは、債権者対応はすべて弁護士が窓口になります。
勿論、既に取立てが厳しい、あるいは銀行取引停止処分が予定されているなど急を要する場合は早急に発送します。

③申立ての準備・事業の整理
会社、法人破産の申立て準備は、程度の差こそあれ会社・事業の清算も進めます。事業廃止の前後にわたり、例えば、従業員退職・解雇の手続、賃借物件の明渡し及び交渉、売掛金の入金先口座変更等売掛金の回収手立てをする、管理のための事業廃止時点の売掛金リスト・在庫リストの作成、債権者リスト作成、整理のための在庫や新規仕事の圧縮、財産の逸失を防ぐ資産保全、整理のための資産譲渡、継続的契約関係の解消(水道・電気を除く)、リース物件・所有権留保物件の返還、等々の準備をしていただくことになります。資産のうち簡単に現金化できるものは現金化をします(それにより破産費用を捻出することもあります、資産や在庫の処分、代金の管理等は必ず弁護士の関与の下で行ってください。後の破産手続に問題が生じることがあります)。
個々のケースで必要な準備は異なります。段取り、整理の程度、あるいは整理の方法など、すべて弁護士の指示を受けて負担なくご準備ください。その方が後々問題になりませんので弁護士としても安心です。
 
◆お金の管理◆
事業廃止時の現預金を弁護士に預けていただき、弁護士管理の下でどうしても必要なもののみに支出していくことが多いです。ある程度お手元に管理していただいて出納を記録してもらいながら、そこから事業の整理にかかる費用を支出していただくこともありますね。売掛金や貸付金の回収も弁護士が代理人として進めていきます。資産の処分代金も弁護士が管理します。
破産を見据えて、弁護士がお金を管理し、お金の散逸を防ぎ、適正な管理状況を報告できるようにすることが大事なのです。
 
④申立て
通常は、2か月~3か月程度の準備期間を経て、自己破産申立てを行います。
資産の整理及び売掛金の回収など段取りを組んだ事業の整理が終わるタイミングも待つことも多いです。
申立て先は、原則として、本店所在地を管轄する地方裁判所です。広島地方裁判所本庁ですと、民事第4部になります。

2.会社、法人の自己破産の流れ(申立て後)

申立て後の一般的な流れは次のようにイメージしてください。

①破産開始決定まで
自己破産を申し立てると、裁判所から追加資料の提出や質問事項の回答を求められることがほとんどです。それを補正連絡と呼びます。
補正連絡に対応しつつ、裁判所から指示がある予納金を納めると、破産手続開始決定が出ます。
法人破産には必ず破産管財人が就任いたしますので、破産管財人候補者も同席する債務者審尋の日に破産開始決定が出ることが多いです。申立後1か月前後先がスタンダードでしょうか。
急を要する場合や債務者審尋が開かれない場合(最近増えています)では、予納金を納めるとすぐに破産開始決定が出ます。
 
②破産開始決定後~第1回債権者集会
破産開始決定が出ると、2~3か月に1度のペースで債権者集会などの期日が開かれます。代表者の方には、申立代理人弁護士と共に同期日に出席していただきます。
第1回の債権者集会までの間には、破産管財人弁護士の事務所に赴いて面談をする機会が数度設けられます。第1回の債権者集会の後は、破産管財人に呼ばれることはあまりありませんが、在庫や資産の処分などのため引き続き破産管財人から協力を求められることがあります。

③第2回債権者集会~
配当ができるまでの財産が形成されない場合、手続が異時廃止の形で終了します。配当ができる見込みがあるケースでは、債権調査、配当の手続がありますので、その分手続が長引きます。
第1回債権者集会が終わると、破産管財人からの聞き取り調査等はほとんどなくなります。期日に出頭する負担だけになりますので、それほど負担は大きくありません。

◆破産手続にかかる時間◆ 
一概には申し上げられません。不動産の処分や債権回収その他管財業務にかかる業務量にも依りますし、配当がなされる案件かどうかによっても所要期間が異なります。
資産の処分もない、配当もないケースでは3か月から6か月程度、それらがある場合には1年前後がスタンダードでしょうか。ただ、1年を超えるケースも珍しくはありません。

破産に必要な費用の目安、費用の捻出

1.破産に必要な費用の目安

破産に必要な費用は、弁護士に申立代理を依頼するための弁護士費用、申立時に裁判所へ納める予納金及び予納郵券です。

◆裁判所へ納める予納金◆
裁判所に破産開始決定を出してもらうためには予納金を納めなければいけません。法人破産の場合は原則100万円です。大型管財と呼ばれる大規模な破産の場合にはより多額の予納金を要求されますし、休眠会社や資産の整理が必要のない会社等破産管財人の労力が相対的に少なく見積もられるケースでは交渉次第で減額も可能です。
なお、2社同時に申し立てると単純に倍となるわけではありません。
そのほか、裁判所が債権者等に書類を送る際に使用される予納郵券(債権者数に応じて納付します)がかかりますが、多額ではありません。
 
◆弁護士費用◆
弁護士を申立て代理人とする場合には、弁護士費用の手当が必要です。費用額は弁護士と相対での契約で決まりますので、定価はありません。費用の面の相談も弁護士相談の大きな目的の1つですので、お気軽にご相談ください(費用の面がご相談の大きな部分を占めているのが実情です)。
110万円(税込み)を確保できればありがたいです。一応の目安であり、必須というわけではありません。事情に応じて話し合いで設定しており、手間がかからないような案件ではより少額の金額設定もありますし、資産が相応にあるケースではより高額の金額設定もあります。
着手時に全額揃っている必要はなく、売掛金回収や資産売却などで捻出することもあります。

◆諸費用◆
多額ではないですが数万程度の諸費用もかかります。
 
◆余裕のある準備のためには◆
以上を踏まえて、当職は、法人1社の場合、トータル(弁護士と裁判所にかかる費用)で250万円を「目標」に準備していただくようお願いしています。
250万円用意できればある程度余裕をもって準備ができるという意味の目標であり、必須という意味ではありません。
ご依頼時に全額揃っていなければいけないということではありません。費用の手当の可能性を探る、手当の段取りを組むことも相談内容です。

◆代表者個人破産との関係◆
連帯保証人となっている代表者の自己破産も同時に受任するケースがほとんどです。
個人の破産での裁判所の予納金は30万円前後がスタンダードですが、減額交渉ができるケースもあります。
弁護士費用は法人・個人トータルで調整しております。例えば、個人で多くいただける場合は法人の分を減らす、あるいは法人で多くいただける場合には個人はいただかないというようなこともしております。

2.破産費用の捻出をどうするか

破産費用の捻出はほぼ例外なく頭を悩ませる事項です。依頼時によく吟味をして段取りを組みます。
すべてを説明できるわけではありませんので、概要をお話します。

◆口座のお金◆
まずは、事業廃止時点で会社、法人の口座にあるお金が基本ですね。
支払いをストップして一時的に資金が多く残るタイミング(多くはそれが事業廃止のタイミングともなります)で、残った資金を弁護士に預けていただくことが多いです。
その準備として、借入銀行口座から順次資金を移す、あるいは入金先口座を借り入れのない銀行に変更する必要もあるかもしれません。
破産法は、債権者平等原則が理念となっております。支払いをストップさせてお金を移すことは、債権者の平等を期するための資産保全ですので、何ら問題がありません。
なお、取引先は勿論、租税公課や銀行も資金を確保しようとしますので段取りが大切になります。
 
◆弁護士に依頼した後に資金を捻出するケース◆
弁護士への依頼時に資金が揃っていなければならないわけではありません。売掛金回収、資産売却、金融資産の解約等で用意していただくこともあります。
弁護士関与の下で資産を現金化して破産費用に充てることは許されております。資金を弁護士が管理しつつ、その経過を裁判所にきちんと報告します。弁護士の関与なく資産を現金化して費消することは後に問題を生じさせる恐れがあります。
売掛金は、事業廃止後に、順次、依頼者が引き続きあるいは弁護士が回収し、回収金は弁護士が管理します。売掛金リストを作成していただき管理をしますね。滞納処分により売掛債権が差し押さえられると現金化ができなくなることには注意を要します。
資産を売却・換価することにより、費用の捻出をすることもあります。弁護士との相談時には、早期に換価できる財産がどれくらいあるのかも検討します。

取引先との関係は

1.買掛先への対応

相談者がよく悩まれることですね。仕入先、買掛先も、借入をされている金融機関と同様に、債権者です。弁護士が受任通知を発送した上で対応しますのでご安心ください。
商品引き揚げの要請には応じられないのが基本です。後の破産手続で問題視される可能性もあるためです。在庫の所有権が仕入先にあることが契約書上明確である場合は返還することもあります。
 
買掛先からの取り付け騒ぎの危険もなくはありません。無断で商品等を引き上げることは厳密に言えば犯罪ですが、そのようなことが起きないよう、事業廃止時には事務所・倉庫や車などのセキュリティーにも気を付けていただきます。
場合によっては弁護士名の張り紙をして牽制をすることもあります。
混乱を避けるために弁護士名の受任通知を事業廃止の当日か翌日に届くように手配することも心掛けています。

2.売掛先への対応

販売先、売掛先は債務者の立場になりますので、事業廃止後も売掛金の回収を行わなければいけません。破産開始決定までに回収できなかった売掛金は、破産管財人が回収を図ります。
事業廃止時の売掛金リストを作成していただき回収します(事業廃止したことを知ると支払いを渋る先も見受けられます)。
借入のある金融機関口座は弁護士の受任通知が届くと口座を凍結してしまい、基本的にその後の入金の引き出しには応じません。入金先を借入のない銀行口座あるいは弁護士口座へ振り込むよう依頼しなければなりません。
小口集金形態のご商売の場合には集金を引き続きお願いして回収するケースもあります。
在庫の処分を並行して行うこともありますね。

従業員との関係は

1.従業員の解雇・退職

残念ながら、事業廃止日が決まれば、従業員の方々を解雇する、あるいは従業員の方々に退職してもらうことになります。解雇には解雇予告手当が必要ない30日間の解雇予告手続をとることが多いでしょうが、ケースバイケースです。
破産申立て準備にどうしても必要となる従業員がいらっしゃる場合(多くは経理担当でしょうか)、給料あるいは相応の費用をお支払いすることで引き続き残っていただくこともございます。

退職あるいは事業廃止に伴う社会保険、特別徴収住民税の異動手続、ハローワークの手続、源泉徴収票の発行等の退職に伴う手続は忘れないでください。

◆事業廃止をいつ従業員に伝えるか◆
事業廃止をいつ従業員さんにお伝えするかは悩ましい問題です。
従業員さんの生活等のことを考えると、できるだけ早くお伝えした方がいいとは思います(小規模会社であれば事情の説明により自主的に退職してもらえるケースも多いです)。
一方、あまりにも早く事業廃止を伝えると業務に支障を来すこともございます。
 
 ◆税理士・社会保険労務士
少し話はズレますが、税理士さんの協力が必要な場合もあります。費用との兼ね合いもありますが、事業廃止時点までは数字を作成してもらった方がありがたいです。
また、破産管財人が就任後に税理士に申告を依頼することもあります。
社会保険労務士さんがいらっしゃる場合には、退職手続等でご協力をいただくこともありますね。

2.未払給与等の扱い

賃金の未払いはないようにしたいと思われるのが経営者の常です。労働基準法上罰則も定められています。
未払給与がない形で事業廃止できることが理想形ですが、支払えないケースがあるのも当然です。
 
◆破産手続における労働債権の扱い◆
労働債権は、破産手続開始決定前3か月間の未払給与と退職金の一部が財団債権として一般の債権者より優先して支払えることができます。
ただ、時間がかかりますし、支払えるだけの財産が破産手続の中で残るかどうかわかりません。また、事業廃止後できるだけ早く破産申立てをしなければいけませんね。
 
◆労働福祉事業団立替制度◆
そのため、労働福祉事業団立替制度の利用も考える必要があり、事業廃業時には従業員さんへの同制度の説明をするでしょう。
破産管財人の証明書の発行により未払い給与の8割が立替払いされますが、時間の制約があります。大まかに申し上げると、退職、解雇から6か月以内に破産申立てをしなければ対象になりませんので早期の破産申立てが必要になります(なお、破産手続外の認定制度もあります)。
賃金台帳、タイムカード、就業規則等、未払給与を確認できる資料も破産管財人に引継ぐことになります。
 
◆役員報酬の扱い◆
未払いの役員報酬は(従業員兼務役員のケースでは従業員分給料と認められ得る限りで別ですが)、一般の破産債権となります。経営者家族であっても従業員の立場のケースでは一般の従業員の給与と同じ扱いです。
 
◆中退金がある場合◆
退職金制度が中退共の場合は、請求手続をしていただければ(開始決定後は破産管財人が協力しますが)、従業員さんが受け取ることができます。

準備にあったっての留意点

1.やるべきことの整理をするべき

破産を準備するといっても、経験がある方ではない限り、何にどの順番で手を付けていいかわからず途方にくれるものと思います。
また、破産をするためには事業の清算が必要ですが、どこまで清算すべきか事情により異なります。場当たり的な準備は、疲弊しますし、効率も悪く、中には後で問題となる行為をしてしまうこともあります。弁護士のサポートを受けて整理をしてください。

◆やるべきことの整理◆
準備の仕方や優先順位には勘所があります。様々な問題点や課題を整理してシンプルに段取りを組むのが弁護士の腕の見せ所です。
最低限必要なこと、できればやっておきたいこと、放っておいても仕方がないこと等々、やるべきことの整理をします。そうすれば全体像がつかめますし、優先順位も決めることができ、悩まずに準備ができます。
当職は、優先順位をつけたリストを作成し、それをチェックしながら打ち合わせを重ねています。

◆要望や問題点は早めに弁護士に伝える◆
なお、準備にあたって、様々なご要望もあることと思います。また、説明が難しい、準備が難しい等の問題点もあることが多いです。弁護士へは、早めにそれら要望や問題点を伝えてください。
破産法上問題がない形で、可能な限り、ご要望等を形にするよう心掛けています。問題点への退職も準備しなければいけません。遅くなるとそれだけ手当ができなくなる可能性が高くなります。

2.やってはいけないこともある

破産手続をスムーズに進行させるため、あるいは問題視されないためには、準備にあたってやってはいけないこともあります。
 
◆書類の廃棄は慎重に◆
事業を廃止したからといっても、すべての書類の廃棄をするのは止めてください。破産手続の中で提出しなければならない書類も多々あります。
 
◆否認対象行為◆
否認対象行為を行ってはいけません。否認とは、破産管財人がその行為の効力を否定し財産等を取り戻す制度ですが、破産管財人が否認できる行為、その要件は破産法で定められています。主要なものだけ簡単に説明させていただきます。
 
偏頗弁済は否認の対象です。偏頗弁済とは支払停止状態等の経済的危機状態での不公平な債務の弁済です。問題となるのは、経営者家族、親族に対する弁済が多いです。弁済の相手、時期、債務の内容等によって判断が異なります。
事業廃止のタイミングも含め、支払っていいもの、いけないもの振り分けを弁護士と相談してください。
 
財産の散逸行為も否認の対象です。会社の資産の廉価売買、放棄など、財産を減少させる行為にお気を付けください。中には合理的な説明が可能なものもありますので、実行に移す前に弁護士に判断をしてもらってください。
 
◆法人と個人の財産の混同◆
破産手続は法人格毎の手続です。法人と個人とは明確に区別されます。会社、法人の資産と個人との間の混同を避けてください。特に会社、法人から個人への財産移転は慎重にしなければなりません。
この点で、経営者家族の役員報酬、給与も問題になり得ます。事業廃止までの役員報酬、給与は、支払う原資があるのであれば支払って問題はないでしょうが、その他は弁護士と相談してください。

弁護士に依頼する意味(倒産弁護士)

1.破産申立代理を弁護士に依頼する意味

会社、法人の破産の申立てには、代理人弁護士を依頼することが通常です。会社、法人の破産は複雑であり、弁護士の助けがなければ難しいです。
 
◆地図を作りナビゲーションを行う◆
ご相談者は初めは何をどのようにすればいいかわかりません。弁護士に複雑な状況を法的かつシンプルに整理してもらい(地図を作ってもらい)、弁護士の助言(ナビゲーション)に従って、効率的なご準備をしてください。
暗中模索の中で今後のことを悩まれるのは大変な心労です、「何もわからなかった頃が一番辛かった。依頼してよかった。」とおっしゃる方が多いです。
 
◆債権者対応を弁護士に任せる◆
取引先や金融機関への支払を停止すると、程度の差はあれ混乱が生じます。債権者の対応を弁護士に任せられることは安心です。
 
◆申立後のサポート◆
破産手続が開始されてからは破産管財人が破産手続を主宰しますが、申立代理人弁護士も破産手続の最後までサポートをします。ご安心ください。

2.倒産弁護士

◆申立代理人の腕が手続の帰趨を決める◆
申立代理人弁護士の腕が、破産申立ての準備のご苦労の程度や申立て後の手続のスムーズな進行度合いに直結します。準備に不備があると、申立て後に苦労を強いられかねませんし、行為が問題視されることもあります。
当職が破産管財人に就任した案件でも「準備をもう少しきちんとしていただければ苦労されなかったのに。」と感じることがあります。
 
◆倒産案件の弁護士業務は職人芸◆
破産手続は、破産法に則っています。当然、破産の準備には、破産法の知識・倒産事件の経験が必要です。かつ、破産手続には、独特のルールや考え方があり、それに携わる弁護士も職人的な能力が必要とされます。場数も必要でしょう。
破産申立てを裏から見る破産管財人の経験も必須です。特に法人破産の破産管財人の経験が豊富でなければ手続の勘所がわかりません。その時々の破産裁判所の傾向・考え方も事件処理の方向に影響しますので、それらもキャッチアップしなければなりません。
破産等倒産手続に精通した弁護士のサポートを得てください。
 
◆企業会計の知識◆
会社・法人破産の申立ては、資金繰り、事業廃止・受任通知のタイミング、資産・契約関係の整理など様々な段取りを考えないといけませんね。そのため、企業会計に関する諸知識も必要です。
まずは決算申告書類等の会計書類を拝見して事案の見立てを行い、個々の問題を紐解いていきます。
 
◆倒産弁護士、破産弁護士◆
倒産法制に精通し、申立て代理人経験も破産管財人等の経験も豊富で、破産等倒産事件を業務の柱の1つにしている弁護士を「倒産弁護士」、「破産弁護士」と呼ぶことがあります。「離婚弁護士」なんてドラマもありましたね。
会社、法人の破産の申立てを依頼するのであれば、当然、そのような弁護士に依頼した方がいいでしょう。
弁護士の質を確かめるには、相談する弁護士に細かいことでもたくさん具体的な質問を投げかけてください。あなたの望む弁護士であれば、抽象的な回答にとどまらず、具体的なアドバイスをしてくれるでしょう。
 
なお、当職も、申立て代理は勿論、破産管財人経験も豊富で、破産等の倒産案件を業務の柱の1つとしています。裁判所との破産等に関する協議会のメンバーにもなっております。また、銀行出身であり、企業会計の諸知識も豊富です。安心してご相談いただけるものと自負しております。

まとめ

1.会社、法人の自己破産の決断にあたって

自己破産の説明や自己破産を選択すべきケースなどの説明をさせていただきました。
社会的価値のある事業はできるだけ継続するべきですので、リスケやM&Aにより事業継続を図ることが優先されるでしょう。
しかし、会社、法人の自己破産は最後の手段ではありません。事業継続の可能性を見極め、自己破産の決断を早期に行うことも大事な経営判断です。
弁護士に相談するタイミングの説明もさせていただきました。できるだけ早く弁護士に相談し、事業継続の可能性を見極め、事業継続の可能性に沿った適切な選択をしてください。
費用面も説明させていただいたとおり、弁護士と相談すればいいことです。
経営者に必要なのは、適切な助言を得ることと決断することです。当事務所にぜひご相談ください。

2.会社、法人の自己破産の準備にあたって

自己破産の流れ、取引先や従業員との関係あるいは破産準備の注意点等をお話しいたしました。
会社、法人の自己破産は、様々な課題を抱えており、それを整理して1つ1つ紐解いていかなければいけません。
海図と羅針盤なくして進んではいけません。準備の内容や程度はケースバイケースで異なり、やってはいけないことも存在します。倒産弁護士とともに、事業廃止のタイミングを見極め、やるべきことを整理した上で、ナビゲーションに沿った準備を進めてください。効率的な、かつ適切な準備が後の破産手続のスムーズな進行に直結します。
当事務所にご相談いただければ幸いです。

この記事を書いた人

firsttime_lawyer.jpg弁護士仲田誠一(広島弁護士会所属)
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27
アーバンビュー上八丁堀602
TEL:082-223-2900
https://www.nakata-law.com/
https://www.nakata-law.com/smart/
◆経歴
1996年4月 あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月 東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月 広島大学大学院法務研究科
2008年12月 弁護士登録
2017年~各前期 広島大学大学院客員准教授(税法担当)
◆資格等
弁護士
公認内部監査人試験合格、認定経営革新等支援機関(中小企業庁)

破産と生活保護費の返還債務 [借金問題]

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。
 
今回の借金問題コラムでは、生活保護返還債務と破産の関係のお話です。
 
破産をお手伝いするときに、生活保護費の返還を求められている、あるいは返還請求された金額を少しずつ返還されているという方がいらっしゃいます。
 
働きながら保護費を受給していた方、各種年金・手当を受給しながら保護費を受給していた方に多いでしょうか。
収入認定との兼ね合いで調整が必要なケースですね。
 
生活保護を脱した方、現在も受給中の方、双方ともあり得ます。
 
先日申立てた自己破産案件も保護費の返還債務を負っているケースでした。
 
以前は、返還債務を破産債権に計上しておけば、事足りました。
 
生活保護費の返還請求権も、一般的な金融機関からの借り入れと同様、一般債権の扱いでしたので、破産免責の対象となり、免責決定を受ければ支払い義務を免れることができていたのです。
 
しかし、法律の改正があったのですね。
 
生活保護法63条に基づく返還請求権が、平成30年10月1日施行の改正生活保護法により、国税徴収法の例により徴収することができる債権、すなわち破産法上の財団債権、非免責債権になりました。
 
国税徴収法の例により徴収できるということは、税金と同じ扱いです。
 
改正の際には各弁護士会も反対意見を出していたような気がします。
 
破産をしても税金と同じ優先される債権になり、免責を得ても支払義務から免れられない債権になったのですね。
 
非免責債権ですので、管財事件で財団債権として破産管財人が支払ってくれるケースを除いて(財産がある程度あるケースに限ります)、役所と相談して支払い方法を協議しなければいけません。
 
なお、個人再生事件では、役所との協議結果を裁判所に報告しなければいけません。
 
生活保護法63条に基づく保護費の返還請求のことをお話しました。
 
これに対し、不正が悪質な場合の78条の徴収金は、先立つ平成26年に既に財団債権化、非免責債権化が行われています。
 
債務整理(任意整理、個人再生、自己破産等)のサポートはなかた法律事務所にご用命を。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602
https://www.nakata-law.com/
 
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会社も同時に破産申立てをする必要があるか [借金問題]

広島県広島市の弁護士仲田誠一です。
 
会社代表者あるいは会社代表者をしていた方が自己破産を申し立てるとき、会社も同時に自己破産を申し立てないといけないのかどうか、今回の借金問題コラムはそんなお話です。
 
個人と法人は法律上別人格です。
 
理論上、個人だけ、法人だけ破産を申し立てることは許されるはずです。
 
ところが、会社代表者が自己破産を申し立てる際には、法人の自己破産も申し立てるように裁判所から勧奨されます。
 
なぜなのか裁判所に聞いたことがあります。

法人と個人は財産が混同する危険が高く、破産管財人が個人の財産調査だけするのでは不十分だから、法人も同時に申し立ててもらい会社財産も調査することができるようにするのだと説明されました。
 
他に、代表者個人とほぼ債権者が一致することが多い会社を放置するのは望ましくないとの説明もあるようです。
 
法律上強制的に会社あるいは法人の破産申立てをしないといけないわけではありません(破産法にそんなことは書いていませんから)。
 
しかし、強く会社の申立てを要請する裁判所が多いようです。
 
広島本庁でも、会社あるいは法人の経営者ないし数年前まで経営していた方が自己破産を申し立てると、個人と法人の同時申立てを要請されます。
時期によってその強弱は異なるかなあという実感です。
 
代表者個人しか破産申立てをしない理由は、
1 法人破産は多額の予納金が必要だが用意できない
2 あるいは既に事業廃止しており資料が散逸しており申立て書類が作られない
の2つでしょうか。
 
裁判所に要請された際には、そのことを話すのですが裁判所はなかなか引き下がらない印象です。

1の予納金ですが、法人が動いていない、財産も残っておらず、破産管財人業務の負担がないというケースでは減免してくれます。
 
極端なケースですが、「追加の予納金は要らない。」とまで言われました。
個人で用意した予納金を法人と個人で割り振るのですね。
 
2の書類がないという点も、「調査・書類は不十分であってもかわまないから申立てだけはしてくれ。」、とまで頼まれた経験もあります。

本当に簡単な書類で申し立てたことがあります。
 
基本的には代表者が破産をするときには法人も同時に申し立てしなければならない、ただし予納金の額や申立て準備については相当融通も利く、と考えた方がいいでしょう。
 
勿論、会社の事業廃止から5年超経ているような場合は同時申立てを要請されません。
そもそも同時廃止で処理されることも可能です。

ただし、その場合でも最後の2期分の決算書の提出は求められますね。
                    
債務整理(任意整理、個人再生、自己破産等)のサポートはなかた法律事務所にご用命を。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602
https://www.nakata-law.com/
 
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知られずに自己破産、個人再生ができるか [借金問題]

広島県広島市の弁護士仲田誠一による借金問題コラムです。
 
今回は、自己破産、個人再生といった法的債務整理手続が、家族や職場に内緒でもできるケースがあるといったお話です。
基本的には内緒でできるが、協力を仰ぐ必要があるケースでは難しい場合もある、というお話です。
勿論、家計の建て直しには、ご家族の協力があった方がいいのですが。
 
まず、債務整理であっても、任意整理であれば、原則として、誰にも知られることなく債務整理をすることができます。
弁護士と業者間で交渉するだけですからね。
 
ただし、任意整理でも個人信用情報機関に所謂ブラック情報が登録されて、一定期間金融機関の審査に通らなくなります。
近々に家族が車を買う、家を買うなどで家族の連帯保証人を頼まれるようなことがあれば、説明に困ります。
また、月々返済に必要なお金を確保するためには、家族にそれ相応の説明が必要なケースもあるでしょう。
 
次に、債務整理のうち、法的手続である自己破産、個人再生となると、手続との関係で家族や職場の協力が必要かどうか検討しなければなりません。
 
家族の協力はどうでしょうか。
自己破産や個人再生では、配偶者や同居人が働いている場合には、源泉徴収票や給与明細が提出書類となっています。
その限りで家族の協力が必要なケースがあるのですね。
なお、市県民税課税台帳記載事項証明書の提出も求められますが、これは同一世帯であれば、お一人で全員分のものがとれるはずです。
 
また、家計収支表の提出もしなければなりません。
家計が同一であればその家計全体の収支を記載しなければならず(いろいろな説明の仕方がありますので、弁護士と作成方法をよく相談してください。)、ご自身が家計を把握していない場合には家族の協力が必要ですね。
 
さらに、公共料金等の支払いをしている家計の主口座が家族名義である場合には、その写しの提出も求められます。
 
こうしてみると、家族に内緒で進められる典型的なケースは、奥様の自己破産で、夫の収入資料を保管し、あるいは保管場所を把握していて、家計も管理しているというケースですね。
 
なお、自己破産の場合、管財事件になると、郵便物が破産管財人に転送されてしまいます。郵便物が来ないので、家族におかしいなと思われるでしょう。
 
勿論、家族(特に配偶者)には、事情をお話しできるならした方がいいです。
自己破産や個人再生は経済的な立ち直りのために行うものですね。
多かれ少なかれ、家族の協力が必要なものです。
 
親族の協力はどうでしょうか。
 
親族との関係では、同居していない限り協力を乞う必要はありません(同居している場合には収入資料が必要です)。
勿論、債権者である親族に対しては裁判所から通知がいきます。
 
なお、稀なケースですが、親族名義あるいは親族が借りている居宅に間借りしている場合には、居住証明書の提出を求められます。
 
勤務先の協力はどうでしょうか。
 
勤務先との関係では、仮に借金がある場合には通知が行きますのでわかってしまいます。
そのような場合には、自己破産、個人再生を申し立てるのも躊躇してしまいますね。
別のコラムで書かせていただきましたが、勤務先からの借金をなくすことを検討します。自己負担金等給与から控除されているものも債務ですのでご注意を。
 
また、一定期間以上(広島本庁では5年以上)働いている正社員の場合には、退職金見込額証明書あるいは就業規則や退職金規程等、退職金見込額を説明することができる資料を提出しなければなりません。
 
見込額証明書を貰うケースは稀で、通常は説明できる資料を提出します。
勤務先に伝えるのは躊躇されますからね。
現在自己都合で退職したとしたら退職金がいくら支給されるかの説明です。
退職が決まっている等の事情がない限り、退職金支給見込額の8分の1が財産として評価されます。
 
退職金制度が最近は複雑になっており、毎回、何を提出するか悩みます。
金額が明確に説明できるよう、就職時期、退職金の計算方法、計算の基礎となるポイントや倍率がわかるものなどを提出します。
手元にない方も多く、その場合は、勤務先からそのような資料も貰わなければいけません。
 
さらに、給与明細の控除欄の中に、資産性があるかもしれない積立や保険・共済等がある場合、残高や契約内容を説明する資料の提出を求められます。
手元にない場合がほとんどなのですが、場合によっては勤務先にお願いせざるを得ないケースもあります。
 
最後に、官報公告というものがあります。自己破産あるいは個人再生をすると、官報に名前と住所が公告されます。
普通の方は見たこともないでしょうが、公告により、金融業者などからダイレクトメールが来ることもあります。
 
家族、親類あるいは勤務先が官報を逐一チェックしていることはなく、直接官報から申立ての事実がわかってしまうことはないでしょうが、完全に秘密にはならないということはご承知おきください。
 
債務整理(任意整理、個人再生、自己破産等)のサポートはなかた法律事務所にご用命を。
 
広島の弁護士 仲田 誠一
なかた法律事務所
広島市中区上八丁堀5-27-602
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